チェンジエージェントに訊く
2026年09月07日
チェンジエージェント、
男性ネットワーク 分科会
チーム「全員野球」の皆さんに訊く

D&Iに腹落ちしきれなかった9人が、
「100人との対話」でたどり着いた答え
―― チーム「全員野球」が、チェンジエージェントになるまで
男性ネットワークに集まった、その9人は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に強い関心を持っていた人ばかりではありませんでした。むしろ「意味ある?」と、どこか腹落ちしない思いを抱えていた男性管理職でした。
彼らが向き合ったのは、データではなく、一人ひとりの声。若手からベテランまで、男女約100人と対話する中で見えてきたのは、自分たちの思い込みでした。
「女性はこう考えているはず」「この世代はきっとこう感じている」。そう思って配慮していたことが、実は異なる価値観の前では当てはまらないことに気づかされたのです。
人は、説明されるだけでは変わりません。でも、対話で相手を知り、考えを言葉にすることで、新たな気づきが生まれます。小さな気づきの積み重ねが、人を、チームを、組織を少しずつ動かしていくのではないか。
チーム「全員野球」のメンバーが、多様な声に耳を傾け、ともに考え、行動するチェンジエージェントへと成長していく――これは、その1年間の挑戦と学びの物語です。
●チェンジエージェントに訊く
2025年度 男性ネットワーク 分科会10 「全員野球」 の皆さん
座談会に参加の皆さん(写真左から)
- 第一生命保険株式会社 上田 隆介 氏
- 大日本印刷株式会社 牛垣 智大 氏
- 株式会社三菱UFJ銀行 田中 仁 氏
- アルプスアルパイン株式会社 影山 廣彰 氏
- 大日本印刷株式会社 小野 雅之 氏
「何するんだろう」「実務に活かせれば」「意識高い系かも?」
モヤモヤを抱えた9人9様のスタートライン
J-Win沼尾(以下、沼尾): 2025年度の男性ネットワーク(男性NW)に参加し、分科会10として1年間活動したチーム「全員野球」から、5名の方に、会場のアルプスアルパイン株式会社様 研修センター会議室へお集まりいただきました。
まず、1年前を思い起こして、男性NW参加のきっかけ、D&Iへの思いを、今だから言える本音も含めて聞かせてください。チーム名の「全員野球」らしく、打席順にお願いできますか?
上田 隆介 氏(第一生命保険株式会社/以下、上田): では1番センター、上田から。
社内でD&Iの推進は積極的に行われているものの、私は日々、自分自身が強く意識して業務に取り組んでいるということでもなく、D&Iにおける知識なども特段ない状態からのスタート。会社から推薦された時も、「男性NWって何をするんだろう」というのが正直なところでした。
一方で、人には興味があって、人生経験も会社も違う人たちと話せる。そこに期待があり、仕事や人生の糧になればと思い参加しました。
牛垣 智大 氏(大日本印刷株式会社/以下、牛垣): 続いて、2番セカンド、牛垣です。
私は社内のD&I推進活動は知っていました。研修も施策も行われている。でも自分たちの組織で、何かできているかと問われるとうまく答えられない。 また、部長として女性社員との面談の機会も多く、キャリアや働き方に関する相談に対して「どう向き合うのが本人にとっても組織にとっても良いのだろうか?」と考える場面が増えていたのも事実です。
そんな時に上司から、「君の組織は女性社員が多いからこそしっかり学んできてほしい」と言われ、1年間頑張ってみようと決意しました。
小野 雅之 氏(大日本印刷株式会社/以下、小野): 4番ファースト、小野です。
前年、部下の女性がJ-WinのHigh Potentialネットワーク(管理職・管理職一歩手前の女性たちのプログラム)に参加していて、分科会発表会に出席し、恥ずかしながらそこで初めてJ-Winを知りました。
翌年男性NWへの参加打診を受け、J-winの活動や他社の取り組みを知る良い機会と思い、参加を決意しました。
ですが、正直なところD&Iの活動に積極的に関わっているわけでもなく、特別な問題意識があったわけでもない。だから、「意識の高い人たちの中でやっていけるかな」という不安がありました。
影山 廣彰 氏(アルプスアルパイン株式会社/以下、影山): 5番ショート、影山です。
私の場合は、社内募集に手挙げし立候補で参加しました。
きっかけは、前任者から「面白いよ」と言われていたから。ちょうど仕事が落ち着いたタイミングだったので、「じゃあ新しいことにチャレンジしよう」と考えました。 プロジェクトマネジメントをやっていると、いろいろな人と仕事をするので、ダイバーシティ、多様性というテーマは気になっていました。他社はどうやっているんだろう、同じような立場の人はどう考えているんだろう。そこへの興味があって参加しました。
田中 仁 氏(株式会社三菱UFJ銀行/以下、田中): 9番ピッチャー、田中です。
正直に言うと、私はここにいる中で一番、問題意識が低かったと思います。 今振り返ると、自分は典型的な「企業の男性管理職」であり、成果を出して、昇進して、組織に貢献すること、仕事は結果が全てだと思っていました。D&Iや女性活躍について深く考えたこともありません。
そんな私が、女性比率の高い組織をマネジメントすることになった。でも知識がない、経験もない。これはまずいなと思ったんです。本当に実務的な理由で参加しました。
沼尾: スタート当時は、参加理由も温度感も違いますね。
牛垣: でも共通点はありました。皆、「何かモヤモヤ」していたんです。
小野: D&Iが大事なのは分かる。会社も取り組んでいる。でもなぜか完全には腹落ちしていない。
影山: そこに何か理由があるんじゃないか。それを知りたい人たちの集まりでした。
田中: D&Iの知識を学びに来たというより、「このモヤモヤの正体は何なんだろう」を探しに来ていたのかもしれません。
「なぜ、毎年やっているのに、何も起きていないように見えるのか」
モヤモヤの正体を探し始めた
沼尾: その後の男性NWのアンケートで、取り組みたいテーマが「要因分析」だった9人がチームとなり、分科会10がスタートします。この時点で皆さんがすでに持っていたという「モヤモヤ」とは改めて何だったのでしょうか。
上田: 社内のD&I推進をはたから見ていて、「毎年やっているのに何も起きていないように見える」という感覚を持っていました。会社は真剣にやっている、でも現場から見ると、社内でセミナーが開催されたり、社内の様々な制度や仕組みも整ってはいるが認知度や活用状況も浸透しているのかよく分からず。そして、誰かが毎年J-Winに派遣されて1年が経ちといった感じで…その繰り返し。
沼尾: 当事者でない人からは、そう見えていたということですね。
上田: はい。だから今回自分が参加することになって、批評するなら自分で調べようと。
当事者になって、テーマを深掘りして、目詰まりしているところに気づければ、会社に何か返せるんじゃないかと思いました。
小野: 私も似ています。D&Iとか女性活躍という言葉を聞く機会は増えていました。でも本当の意味では浸透していないな、というのが実感レベルでありました。
影山: 私も、社内のD&I研修は「誰かがやっていること」という感覚があって、自分事になっていませんでした。研修は毎年行われているのに、周囲を見回しても浸透してない…。
田中: 私のモヤモヤはそこに加えて、引っかかっていたのは、たとえば「女性活躍」という言葉そのものです。まるで女性全員が同じ対策で課題を乗り越えられるように聞こえるんです。でも現実は全然違う。
女性が多い部署を担当する中で、2人の女性に似た質問をしたんです。すると答えが全然違った。一人は「女性ならではの課題にもっと支援があるとうれしい」と言う。もう一人は、「ちゃんと仕事しているんですから、そんな特別扱いとかゲタをはかせるような配慮はいりません」と言う。どちらも本気でそう思っている。
沼尾: 9人がモヤモヤや違和感をまずぶつけ合ったということですね。
田中: 自分なりに「ここが腹落ちできてない、どう思いますか」と伝えました。そうしたら皆さん、結構ポジティブなフィードバックをくれたので、そこから議論を膨らませていきました。
小野: 私は「世代」とか、「今、置かれている階層」で捉え方が違うのが気になっていました。
D&Iに関して、経営層世代と、現場の若手世代の感じ方に、当然ですが、大きなギャップがある。さらに世代ごとの「損得感情」にもヒントがありそうだなと思っていました。
牛垣: 研修は受ける、資料も見る。でも誰かと本音で話すことはない。だから理解した気になって終わる。結果として何も変わらない。
影山: それなら直接聞きに行けばいい。せっかく9人のメンバーがいるんだから、皆それぞれが聞きに行こう、と。
沼尾: それが次のステップ、我々運営スタッフも驚いた「100人(弱)インタビュー」に進むわけですね。

「本当はどう思っているんですか?」 100人との対話から見えたもの
沼尾: 皆さんがこの活動の中で最も時間をかけたのがインタビューでした。
100人近い方々に話を聞くことになったそうですが、なぜそこまで対話にこだわったのでしょうか。
影山: 本音を聞き取れるよう、少人数でもいいからface to face(対面)にしようと、誰となく言い出したんですよね。
牛垣: D&Iや女性活躍について、みんな言葉は知っている。でも、なぜ腹落ちしないのか、浸透した感覚がないのか。その理由を本当に知りたいなら、一人ひとりと向き合うインタビュー形式しかないんじゃないか、と。時間はかかるけれど本音に近づける、と意見が一致しました。
上田: そこで、インタビューは1人30分~1時間、徹底的に聞いて、しかも2回やることで本音を聞き出そう、となりました。
沼尾: なかなかのロングインタビューですね。お相手の選び方は、おもしろい区分けで決めていましたよね。
影山: インタビューの対象者は、テレビの視聴率調査で行っている性別・年齢区分を参考にしました。本当はもっと細かいらしいんですが、この6つの分類を参考にさせてもらいました。
・M1層:男性 20~34歳
・M2層:男性 35~49歳
・M3層:男性 50歳以上
・F1層:女性 20~34歳
・F2層:女性 35~49歳
・F3層:女性 50歳以上
小野: 「世代間ギャップ」もモヤモヤの一つだったので、インタビュー相手は、6層を網羅するように、みんなの社内から選んで、それぞれお願いしました。1人10人前後にインタビューを行い、9人で合計100名弱になります。
沼尾: 実際にインタビューをした時、相手の皆さんはどんな反応でしたか。
牛垣: 一言目は「私でいいんですか」「なんで私に」という半信半疑で始まるのですが、1時間後には「今日はすごく楽しかったです」って晴れ晴れとした表情になるんですよね。
上田: 私は、部署の部下や上司など、部署での経験が長い人や、日頃よく話す人にお願いしました。普段接点が多い人でも、D&Iについては話したことがなかったので、リアクションが新鮮でした。
皆さんの「価値観や考え方」が改めて分かって、今後仕事する上でもこうした「人それぞれの価値観」を踏まえてコミュニケーションをとることができるので、すごく良かったなと思いました。
影山: 私はあえて他部署の人にお願いしたので、「なんかの尋問ですか?」くらいの不信感で、かなり身構えられましたね(笑)。
でもきちんと説明したら、直接の上司・部下ではないのも幸いして、D&Iについてフラットに話せたと思います。
背景説明にかなりの時間を割いたのですが、その方が質問の趣旨を理解してもらえて、結果、本音に近いこと、心の奥底で思っていることをいろいろ教えてもらえたという発見もありました。
田中: 私は10人にインタビューしました。「うまく引き出すことができたかも」と感じていたら、相手からも「私ってこんなふうに考えていたんですね」「自分の頭の中が、これで整理できました」と言ってもらえたシーンが何度かあって、とても印象に残っています。
影山: 私も、インタビューのはずがお悩み相談会になることもありました(笑)。
でも、むしろその方が意味あることかもしれません。
D&Iについて前向きな人もいれば、「男性とか女性とか分けること自体が好きじゃない」という人もいました。本当にいろいろな価値観があって、その多様さに触れられたことこそが大事な発見だったと思います。
上田: 私も、率直な対話そのものが、組織や個人に変化をもたらす重要な「原動力」であると感じました。
インタビューをきっかけに、インタビューを受けた人たちを中心に、職場の空気が少し変わりました。社員同士がお互いを理解しようとする対話が増え、心理的な距離が縮まったように感じます。それは、普段の仕事でのコミュニケーションでは生まれにくい変化でした。
牛垣: 私もそう思います。1時間の対話で、D&Iへの考え方が変わる人を何人も見ました。
例えば、とある後輩は「社内の研修、そういう意義があったんですね。これからは違った見方で受けられると思います」と言ってくれたんです。
そうした反応を目の当たりにして感じたのは「変わったのは相手だけではない。自分自身もだ」ということ。そして「この活動には、人の見方や行動を変える力があるんだ」という手応えでした。
たぶん、メンバー全員が同じような感覚だったと思います。
小野: 私も今後に役立つものの見方を、このインタビューを通じて教わった気がします。

思い込んでいた…仮説が崩れた瞬間
沼尾: 100人近いインタビューを終え、皆さんは分析フェーズに入りました。
スタート時点は、「世代間ギャップや損得感情が入り交じり、D&Iのモヤモヤを生んでいるのではないか」という仮説を持っていましたよね。分析する中で、予想と違ったことはありましたか。
影山: ありました。一番印象的だったのはF3層、50代以上の女性です。
「この世代の女性たちが一番苦労してきた世代だから、損していると思っている」と予測していたんです。
今より福利厚生の制度も少なかった。働き方もハードだった。若い頃の上司はほとんど男性だった。だから当然、「私たち世代は損ばかりしていた」という回答が多いと思っていました。
ところが全然違って、「実はプラスでもマイナスでもない。得もしたし、損もした、結果フラット」という結果でした。

2026年3月男性ネットワーク定例会「最終報告会」 チーム全員野球 資料より抜粋
上田: 私がインタビューした50代女性も「世代間の損得は、何とも思わない」とか、「女性であることで不遇な扱いも受けたけど、逆にその時があったから今は得と感じる自分もいる」と。
どちらも知っているから、結果フラットな回答になった人が多かったんだろうと結論付けました。そこは想定とは大きく異なりました。
影山: 何も思わないからフラットではなくて、良いことも悪いこともあったから真ん中、という。
牛垣: 同じ経験について話していても、ポジティブに語る方もいれば、ネガティブに語る方もいる。
それがこの世代の中に共存していたんです。
小野: 考えてみれば当たり前なんですが、私たちは無意識に「この世代はこう考えている」「女性はこう感じている」と整理できると思っていた。でも実際に100人近くと話してみると、そんな単純な話じゃない。もっと複雑なんですよね。
沼尾: 逆に予想どおりだった結果はありましたか。
上田: 若手世代ですね。20~34歳の男女、M1層とF1層。
本人たちも恵まれていると自覚しているし、上の世代からもそう見られている。これは予想どおりでした。
田中: ただ若手も、恵まれているゆえの悩みを持っていました。
制度は整っている。環境も比較的良い。でも、「過剰に気を遣われ、甘やかされている」「仕事も家事も求められ大変」というマイナス面も感じている。
影山: 結局どの世代も何かしら抱えているものがあるんですよね。

2026年3月男性ネットワーク定例会「最終報告会」 チーム全員野球 資料より抜粋
「だから対話が必要なんだ」
沼尾: 100人近いインタビューを行い、分析結果を通じて見えてきたものは何だったのでしょう。
影山: 分析結果を見て、自分の中で一つ腑に落ちたことがありました。
D&Iが浸透しない理由です。
話していないから、相手を想像する。想像するから、思い込みが生まれる。思い込みがあるから、決めつけてしまう。
沼尾: 悪循環ですね。
影山: だったら我々、現場の管理職ができるのは、制度の説明より、まずは対話なんじゃないかと。
小野: 私たちの関心が「分析結果」から「どうやって話す場を作るか」へ変わっていきました。
田中: 分析結果もうまくまとめられたけど、それを発表するだけでは何か足りない。むしろここからがスタート。そんな空気になっていきました。
「発表して終わりでは意味がない」 WBC誕生までの舞台裏
沼尾: 分析結果がまとまり、「世代間ギャップ」や「思い込み」がD&Iの浸透を妨げているかもしれないということが見えてきました。ただ、男性NWの活動は分析して終わりではありません。
皆さんも、当時から「このままでは終われない」という思いがあったということですね。
田中: インタビューをやりきった時点で、一つの達成感はありました。
100人近くの声を集めて、分析して、自分たちなりの仮説も見えてきた。
そこでも十分な成果だったと思います。でも、どこかで引っかかっていたんです。
沼尾: 何が引っかかっていたのでしょう。
田中: 私たち自身が、インタビューを通じて「対話の価値」を体感してしまったんですよね。
人って資料を読んでも変わらないけれど、人と話すと変わる。実際、インタビューを受けてくれた人たちの反応を見ていても、それは明らかでした。
上田: せっかく見つけた答えが「もっと話した方がいい」だったのに、自分たちが話す場を作らないで終わるのはもったいない。そんな感覚がありました。
沼尾: 皆さんは分析後、もう一度インタビュー対象者に会いに行っていますよね。
影山: はい。結果を持ってフィードバックしに行きました。
「こんな結果になりました」「結果についてどう思いますか」を全員に返しに行きました。
沼尾: 反応はいかがでしたか。
影山: すごく良かったですね。皆さん自分事として見てくれました。
「確かにそうかもしれない」という人もいれば、「いや、自分は少し違うと思う」という人もいた。 でもどちらにしても、そこから議論が始まるんです。
田中: あの時に確信したんですよね。結果そのものより、結果を使った会話に価値があるんだと。
「世代間キャッチボール」が生まれた
沼尾: そして生まれたのが「世代間キャッチボール」という考え方ですね。
影山: 私たちの分析で見えたのは、世代ごとに損得の感じ方が違うということでした。
でも、それは必ずしも悪いことではない。違うなら違うで、お互いに話せばいいじゃないかと思ったんです。
アンケートはボールを投げっぱなしなんです。返ってこない。
でもインタビューは違った。投げる。返ってくる。また返す。そこで理解が生まれる。
しかも違う世代と行う。だから「世代間キャッチボール」なんです。
「WBC」という名前に込めた思い
沼尾: そしてもう一つのキーワードが「WBC」です。
影山: はい、WBCとは、「ワイガヤ・ブッチャケ・コミッティ」。大勢で集まって、D&Iについて本音で話そうよ、という意味です。
ちょうど野球のWBC(ワールド ベースボール クラシック)が盛り上がっていた時期だったのであやかりました(笑)。
世代間キャッチボールを実際に行うにあたり、せっかくなら楽しく語れる場があったほうがいいと思って2月の「分科会発表」で、コンセプトを提案したんです。

2026年2月男性ネットワーク定例会「分科会発表」 チーム全員野球 資料より抜粋
牛垣: 2月の「分科会発表」は、資料上でコンセプトを発表しただけ。もし開催するなら3月の「最終報告会」に合わせる必要があり、できるか不安がありました。
準備期間も短い。年度末で皆忙しい。参加者が集まる保証もない。考えるほど難しいけど、それでもやろうと思いました。
私たちは、「対話が大事だ」と人に伝えている。だったら自分たちがやらなければ、と。
小野: 面白かったのは、その後。普通なら「時間がない」「難しい」から、「開催はやめよう」というネガティブな声が上がりがちですよね。でもこのチームは、誰も「やめよう」と言わなかった。
最初は皆、「本当にやるの?」と言いながら、すぐに「どうやったらできる?」に議論が変わっていきました。
影山: 私は、あの時が「全員野球」を感じた瞬間でした。
誰か一人が引っ張るのではなくて、一人が言い出して、別の誰かが賛成して、また別の誰かが具体化する。そんな感じでした。
田中: 最初の一歩を踏み出す人がいて、次に支える人がいる。その繰り返し。
小野: これってまさに「チェンジエージェント」だなって思いました。 変化を起こす人は1人目だけじゃない。 2人目、3人目の仲間が必要なんだと。
想像以上の反応だった「世代間キャッチボール」と「WBC」
沼尾: そして実際に会場を借り、インタビュー対象者に再び声をかけて、WBCをリアルとオンラインとで、2回にわたり開催。トータル27名が参加しました。当日の様子はいかがでしたか。
影山: 正直、不安でした。9人それぞれの知り合いが集まったわけですから、全員が初対面。もっと静かな会になると思っていたんです。
ところが始まった瞬間から全然違った、盛り上がった。
牛垣: 皆がすっと打ち解けて、本題に入ってくれて、僕らのファシリテートが不要なくらいでした。
上田: 皆、本当に話したかったんだと思います。

2026年3月男性ネットワーク定例会「最終報告会」 チーム全員野球 資料より抜粋
「話す場がなかっただけだった」
田中: 私はあの日、1年前の自分たちを見ているような気がしたんです。
皆、それぞれ思うことはあるんです。でも話す場がない。言ってはいけない気もしている。だから黙っている。
私たちも1年前は同じでした。モヤモヤはある。でも言葉にしていなかった。
だからWBCで皆が話し始めた瞬間、「これがやりたかったことなんだな」と思いました。
上田: 分析結果と同じくらい、いや、あの場にはそれ以上の価値があったと思います。
小野: 私も、あの日、1年間やってきたことが形になったし、「これがチェンジエージェントなのでは!」と改めて感じました。
「変わったのは、自分たちだった」 全員野球が見つけた答え
沼尾: 1年間の活動を終えて、皆さんは多くの人と対話し、多くの気づきを得ました。
改めて振り返ると、この活動を通じて、ご自身が一番変わったと思うことは何でしょうか。
影山: 僕は、これまで「仕事だけやっていればいい」「自社の利益だけ考えてればいい」って思っていたんですね。自己研鑽も、D&Iの推進も、あくまで会社の業績のためにあるものだと。
でもインタビューや分析を通じて、もう少し広い視点とか、社会全体を良くするとか、みんなで幸せになるためにどうしたらいいんだろうって考えられるようになったのはすごく大きいかなと思います。

上田: 私は、社内の近い人たちに、D&Iの価値観や趣味をじっくり聞かせてもらいました。これ、実務にも思いがけない効果があったんです。
例えば仕事を頼む時、人によって頼み方を変えることができ、相手の受け止め方が断然スムーズになりました。しかもお互いが気持ちよく働ける。
こういうちょっとしたことで仕事がスムーズに進むことにより、組織が強くなって、生産性も高まっていくと思います。こうしたことが積み重なっていくことで、中長期的には、トップラインに貢献することにもつながると思いました。
最初は自分の知識や業務でのマネジメントに活かせると思って参加しましたが、本質的なD&Iの理解はこういうことに役立つのか、と実感しています。
小野: 私は、いろいろな視点が身についた、ということですね。
一連のインタビューで、今まで自分の立ち位置でしか見えてなかったところが、違う性別や年代の見方が分かってきて「あの人から見たらどうかな」みたいな、複眼的な考え方をするようになってきたと思います。
牛垣: 私は、皆さんと少し違う角度から。
男性NWの中で、J-Win Executiveネットワーク(執行役員以上のプログラム)の女性たちの話を聞く回がありました。
その時、「あなたたち世代の男性が、自分の手で、一人の女性を管理職にしてあげてください」って言われたのがガツンときました。
管理職一歩手前の部下はもちろん、さらに若い世代にも管理職を目指したいと思ってもらえるように、一人ひとりに向き合ってコミュニケーションしていこう、と考え方が変わりました。
田中: 前は、仕事は結果さえ出せばいい、という割り切りがあったんです。
でも今回、一人ひとりと話してみたら、皆さん多様な価値観を持ち、いろんなことを考え、いろんなことができる人たちなんだな、というのが見えるようになってきて。
それを広げて考えると、そういう人たちが会社だけでなくて、世の中にはたくさんいて、思うように力を発揮できない状態っていうのは、すごくもったいないなと思うようになったんです。
だから、もちろん自分一人にできることには限りがありますけど、モヤモヤを感じている人が活躍できる場を作るとか、上を目指したいという人の気持ちを引き出してあげるとか。 そういう取り組みってとっても大事だし、自分一人で結果を出す以上のものが作り出せるんじゃないかなと考えるようになりました。
沼尾: ありがとうございました。今後もWBCを続けると伺っています。オリジナルのメンバーだけではなく、手を挙げてくれる人がいればどんどん増やして、より大きな活動になればいいなと願っています。
今日、男性NW卒業以来、久々に皆さんとお会いしたわけですが、お話聞いていてとても嬉しかったです。今日来られなかった4名の方も含め、全員野球の皆さん、ありがとうございました。
(会場協力:アルプスアルパイン株式会社様/インタビュアー: J-Win企業支援部 沼尾 直美)

1番センター ■ 上田 隆介 氏 PROFILE 第一生命保険株式会社 東日本マーケット統括部・フェロー(2026年8月時点)。2002年入社以降、支社・本社リテール部門を経て、2024年より現職。現在は東日本マーケット管下の支社向けに、経営品質・コンプライアンス推進などの支援に従事している。
2番セカンド ■ 牛垣 智大 氏 PROFILE 大日本印刷株式会社 ファインデバイス事業部 第1営業本部 部長(2025年9月時点)。入社以来、半導体事業に従事し、国内外の半導体メーカー向け営業・マーケティング業務を経験。海外駐在では現地顧客との関係構築や営業活動に携わり、現在は海外市場における事業拡大を中心に取り組んでいる。
4番ファースト ■ 小野 雅之 氏 PROFILE 大日本印刷株式会社 出版イノベーション事業部 グローバル事業推進部 部長。入社以降、出版営業として国内出版印刷事業に従事、2023年より現職。出版を起点とした日本コンテンツを広く海外に広めるべく、海外市場開発を推進。現在はインド市場の開拓に注力している。
5番ショート ■ 影山 廣彰 氏 PROFILE アルプスアルパイン株式会社 生産システム開発部 部長。入社時はカーナビのソフトウェア設計に従事。その後2018年に生産部門へ異動し、2023年より現職。工場に関連する共通システムの開発/展開を担当。
PMP(Project Management Professional)取得後、ダイバーシティや多様性について考え始める。
9番ピッチャー ■ 田中 仁 氏 PROFILE 株式会社三菱UFJ銀行 決済事業部企画グループ 次長。入社以降、支店での営業、トランザクションバンキング部、英国駐在等を経て2020年より現職。決済事業部では戦略立案・リスク管理・人材育成・業界活動等幅広い業務に従事。
現在も行内の男性ネットワークメンバーやダイバーシティ室と協働してWBC継続等D&I活動推進中。
*注記のない肩書は2026年9月現在
* シリーズ「チェンジエージェントに訊く」過去の記事はこちらよりご覧いただけます