トップインタビュー

2026年05月25日

デロイト トーマツ グループ CEO 兼 CGO
合同会社デロイト トーマツ 代表執行役 木村 研一 様

インタビュー動画

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「DEIは価値創造のエンジン」
デロイト トーマツ グループが挑む
プロフェッショナル集団の多様性と改革

目次
  • 多様性は競争力の源泉であり、存在意義そのもの
  • 学びを取り組みにつなげ、柔軟性をもって進めるDEI
  • 多様な登壇者構成により、様々な変化をもたらす「パネルプロミス」
  • 女性リーダー比率「3割」は通過点。現在地から見据える次の一手
  • ジェンダーの問題意識を持つ男性を増やすことが、大きな変化へとつながる
  • ファーム自体の多様性を、価値創造へつなげていくために
  • 海外から学んだ4年間。次は日本から発信し、変えていく

横尾理事長(以下、横尾)  J-Winトップインタビューでは、CEO会議にご参加いただいている経営者の皆様に、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)推進のお考えや取り組み、そして経営トップとしてのご決意などについてお伺いしています。
まずは木村CEOのご経歴からお聞かせください。

木村CEO(以下、木村)  会計士として1991年に監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)に入社し、会計監査業務などを担当しました。6年ほど在籍した後に一度退職し、先輩が独立して設立した個人事務所で経験を積みました。その後2000年にトーマツへ戻り、2022年にCEOに就任しました。

横尾  続いて、デロイト トーマツ グループの歴史や事業内容についてご紹介いただけますか。

木村  私が生まれた1968年に、全国規模の監査法人として創業しました。

当時、海軍経理学校出身のメンバーが集まり、日本企業をグローバルに羽ばたかせるため、会計制度や監査制度、内部統制などを国際水準に高めていこうという思いで設立されたファームです。

そのため創業当初から、グローバルに活躍する日本企業をいかに支えるかという視点で、幅広いサービスを手がけてきたことが、デロイト トーマツ グループの出発点であり特長だと思います。

横尾 総合プロフェッショナルファームとしての強みはどこにあるとお考えでしょうか。

木村 新しいことにチャレンジできる点だと思います。

CEO就任前、私はリスクアドバイザリー領域のビジネスを担当していました。海外ではリスクマネジメントやコーポレートガバナンスが大きなビジネスとして成長していましたが、日本ではまだ成熟していませんでした。J-SOX(内部統制報告制度)はありましたが、文書中心の対応にとどまり、ガバナンスを高度化する取り組みは十分に根付いていなかったのです。

そこで、リスクアドバイザリーに関する専門集団を立ち上げたところ、3年で約3,000人規模へと大きく成長しました(2009年設立、デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社)。

また、同じように立ち上げたサイバーセキュリティの会社は現在約600人規模(2019年設立、デロイト トーマツ サイバー合同会社)、さらにスタートアップ支援を行うデロイト トーマツ ベンチャーサポート(1997年設立)も、時には就職人気ランキングで取り上げていただけるような組織へと成長しています。

このように特色ある組織が次々と生まれ、新しい領域に挑戦し続けていることが、デロイト トーマツ グループの強みだと考えています。

多様性は競争力の源泉であり、存在意義そのもの

横尾 それでは「経営戦略としてのDEIの推進」という観点でお伺いします。
木村CEOはDEIを「価値創造のエンジンであり、経営戦略」と位置づけていらっしゃいますが、その背景にある問題意識をお聞かせください。

木村 私がDEIを価値創造のエンジン、そして経営戦略と考えるのは、私たちがプロフェッショナルファームだからです。

プロフェッショナルがお客様のもとに出向き、アイデアやサービスを提供し、そこに価値を見出していただくことで初めてビジネスが成立します。したがって、多様な意見や個性を持つメンバーが力を合わせなければ、良いサービスは提供できません。

例えば、日本人だけ、男性だけ、あるいは特定の年代だけの組織では、多様な発想が生まれにくくなります。その結果、クライアントの期待を超える提案ができなくなってしまいます。

「多様性」こそが、私たちにとって競争力の源泉であり、存在意義そのものだと考えています。

学びを取り組みにつなげ、柔軟性をもって進めるDEI

横尾 木村CEOはJ-WinのCEO会議にも参加されていますが、そこでの活動はどのように役立っていますか。

木村 J-WinのCEO会議には2022年から参加し、今年で5年目を迎えます。多くの経営者の方々や、先進的な企業で活躍されている女性リーダーのお話を伺い、多面的にDEIについて学ぶ機会をいただいています。

J-Winで知った推進事例を参考に、すぐに取り入れた施策も数多くあります。「まずはやってみよう」「ロールモデルをつくろう」「コミュニケーションを豊かにしよう」などの取り組みです。

うまくいったものもあれば、見直したものもありますが、まず実践してみることができた点は非常に重要だったと感じています。

横尾 そこで得たもの、残ったものはどのようなものでしょうか。

木村 数年の取り組みの中で分かってきたのは、キャリア形成において、「管理職とはこういう人」という個々人の中でこれまで構築されてきた定義を踏まえて、「自分には向いていない」と決めつけてしまう人が一定数いるということです。

一方で、社会的な状況の変化も感じています。例えば、小さな子どもを育てている社職員は多いのですが、男性含めほぼ全員が育休を取得するようになったなどの変化に伴い、家事や育児の分担に柔軟なメンバーが増えている傾向もあるように感じています。

仕事の分量を一時的に調整したり、家庭内の役割分担を工夫したりと、周囲の実例に学びながら、より良い働き方を模索しています。

そのため、トップダウンで一気に変革を進めるだけでなく、柔軟性のある工夫を取り入れていくことで、良いムードを組織の中にも自然に生み出せるのではないかと感じています。

多様な登壇者構成により、様々な変化をもたらす「パネルプロミス」

横尾 女性が持続的に活躍できる職場づくりという構造的課題に対し、デロイト トーマツ グループではどのような制度設計を行ってこられましたか。

木村 制度は多角的に取り組んでおり、その中でも現在特に工夫しているのがメッセージの出し方です。例えば「パネルプロミス」という取り組みがあります。

各種イベント、フォーラム、カンファレンス等におけるパネルセッション登壇時のメンバー構成は、「男性40%・女性40%・多様性推進の調整枠20%」を基準としています。調整枠には、海外ルーツがあるメンバーやクライアント、異なるバックグラウンドを持つ方などが含まれます。

この取り組みは、経済社会における女性リーダーの活躍を後押しし、その存在感を高めることを目的としています。女性や多様なメンバーのプレゼンスを可視化することで「リーダー/プロフェッショナル像」の多様性を示し、既存の無意識のバイアスの影響を軽減します。さらに、多様性がもたらす新たな価値や、これまで見過ごされてきたような新たな観点から、イノベーティブで質の高い対話や議論を促すものです。

画像提供:デロイト トーマツ グループ

女性リーダー比率「3割」は通過点。現在地から見据える次の一手

横尾 デロイト トーマツ グループにおける女性リーダーの比率はどのくらいでしょうか。

木村 まず、パートナーやマネージング・ディレクター(経営層とされる役職)の女性比率は12.1%です。さらに増やしていきたいと考えています。

次に、その下の層で現場のエンゲージメントを率いるシニアマネジャーやマネジャーの女性比率は22.6%です。こちらも引き続き強化したいと考えています。

一方、いわゆる株式会社の取締役会に相当するボードの女性比率は33.3%で、3分の1となっています。

横尾 ボードの女性比率はかなり高いですね。
先ほどの「パネルプロミス」の取り組みにも通じますが、会議体において女性比率が3割を超えると、議論の存在感が高まり、意思決定の質も変わってきます。特に意思決定の場では重要だと思います。御社はその水準にかなり近づいていますね。

木村 だいぶ進んできましたが、マネジャー層における女性比率をさらに高めたいと考えています。デロイトの海外ファームでは5割、6割というところも多く、非常に刺激されます。

横尾 J-Winがダイバーシティの取り組みを始めた当時も、多くの経営者と議論しましたが、「3割を超える」というのは一つの目標でした。数値だけがすべてではありませんが、目標として3割を意識することで、取り組みが加速する面はあります。

木村 そのとおりだと思います。当社では専門性を持ったプロフェッショナルが、意思決定に向けて女性も男性も自信を持って発言しています。発言機会という意味での男女差は、かなり小さくなってきていると感じています。

国際女性デーイベントでの閉会あいさつ/参加者の皆様との記念撮影(ともに画像提供:デロイト トーマツ グループ)

ジェンダーの問題意識を持つ男性を増やすことが、大きな変化へとつながる

横尾 ジェンダー課題の解消に向け、「男性として何ができるか」について、木村CEOご自身はどのようにお考えでしょうか。

木村 男性職員が自分の、特に配偶者・パートナーがいる場合、家庭やキャリアについてしっかり向き合い、共に考えることが重要だと感じています。そして、そのための時間を確保することです。

配偶者・パートナーの方がキャリアを継続し、自身の能力を発揮できる環境が広がれば、日本の経済社会全体の競争力向上にもつながると考えています。

そのために男性に必要なのは、問題意識を持ち、自分が果たすべき役割を理解することです。課題を認識し、自分の行動を設計し、適切なタイミングで言葉をかける。こうした行動は知識や理解がなければ実践できません。

ファームとしてこれらを言語化・可視化し、男性を育成していくことが重要だと考えています。社内の有志組織であるDEI推進ネットワークは、その入り口として機能しています。メンバーが成功例や失敗例を共有し、小さな気づきが積み重なることで、組織全体の変化につながっています。

この課題は、意識するだけでは変わりません。実際の行動に落とし込み、言葉にしていくことが重要です。そうした実践を積み重ね、継続していくことで、組織も社会も変わっていくのだと思います。

ファーム自体の多様性を、価値創造へつなげていくために

横尾 DEIの取り組みによって、社会に対してどのようなインパクトを生み出したいとお考えですか。

木村 プロフェッショナルファームとして、まずクライアントの期待に応えることが最も重要です。さらに、その期待を超える価値を提供したいと考えています。

そのためには、私たちの中にある多様な知見を統合することが必要です。たとえば、海外の知見、障がいのあるメンバーの視点、世代ごとの経験など、様々な違いを融合することで新たな価値が生まれます。

ただし、こうした統合は、組織に固定的な前提や思い込みがあると実現できません。多様性を受け入れる柔軟性が土台として必要です。組織自体にインクルーシブな風土がなければ、新しい視点を取り込むことは難しくなります。

ファーム全体がダイバーシティを体現する存在であることが、競争力の維持につながると考えています。

東京プライドでパレードに参加する木村CEO(ともに画像提供:デロイト トーマツ グループ)

海外から学んだ4年間。次は日本から発信し、変えていく

横尾 すでに発表もありましたが、2026年6月から次のCEOに交代されると伺っています。任期4年間を振り返って、木村CEOから見えていた風景をお聞かせください。

木村 私はもともと会計士を志しており、経営者になりたいと思ったことはありませんでした。だからこそ、この役割を引き受ける以上は、徹底的に挑戦しようと考えていました。

デロイト トーマツ グループは、2025年12月に複数の法人を統合し、クライアント軸でサービスを再設計しました。多様な人材の知見を共有し、総合プロフェッショナルファームとしての価値を高める取り組みは、一定の成果を出せたのではないかと思います。
DEIの推進も、挑戦の一つでした。

横尾 人材の総合力という観点で、DEIに取り組んできた意味をどのように捉えていらっしゃいますか。

木村 強く感じたのは、DEIは決して簡単な取り組みではないということです。日本社会には成功体験に基づく文化や、長く根付いた価値観があります。それを一企業で変えていくことの難しさは率直に感じました。

一方で、取り組みを進める中で、多くの先進事例やノウハウを持つ方々がいることも分かりました。それらを積極的に取り入れることで、取り組みが連鎖し、変化が一気に進む瞬間があると感じています。その転換点が、もうすぐ訪れるのではないかと期待しています。

横尾 グループCEOとしてDEIに向き合う中で、ご自身の変化はありましたか。

木村 当初は、数値目標を設定し、制度を整え、評価に組み込めば変革は進むと考えていました。多くのテーマではそれが有効ですが、DEIは個人の価値観や生活、組織文化に深く関わるため、同じ方法では十分ではないと気づきました。

まずは意識を変えることが必要ですが、意識だけでは変わりません。それを言葉にし、行動に移し、経験として積み重ねていく。そのプロセスを繰り返すことで、次の世代に大きな変化が生まれていきます。そうした変化を目の当たりにできたことは、私自身にとって大きな学びでした。

横尾 今後の社会に対して、どのような変化を期待されていますか。

木村 私たちはデロイトの海外ファームから、多くの学びを得てきました。今後は、それらを自分たちの文化として定着させ、日本発の取り組みとして発信していきたいと考えています。

また、競合企業も含め、日本の多くの企業とDEIの実践事例を共有し、「このような取り組みで成果が出た」という経験をデロイトの外にも広げていきたいと思います。

横尾 インタビューの最後に、プロフェッショナルとして、そして経営トップとして、DEIにかける想いをお聞かせください。

木村 私たちのファームを選んで入社してくれた方々が、ジェンダーなどを理由に悩むことはなくしたいと考えています。能力を十分に発揮し、仕事での成功とともに、人生や家庭においても充実した選択ができる環境を実現したい。その実現を支えるのがDEIだと思います。

一人ひとりが自分らしく働き、持てる力を最大限に発揮できる組織こそが、これからの時代に求められる企業の姿です。そして、その積み重ねが組織の成長につながり、社会の変化にもつながっていくと信じています。

DEIは理念ではなく、競争力そのものです。だからこそ私たちは、これからも多様性を受け入れ、挑戦し続ける組織でありたい。そして、その取り組みが企業の枠を超え、日本社会全体の前進につながっていくことを期待しています。

横尾 多様性は理念ではなく、企業価値向上の源泉である。デロイト トーマツ グループの挑戦は、DEIを経営戦略から社会変革のドライバーへと進化させる取り組みだと理解しました。

特に、異なる専門性を結合して価値を創出するMulti-Disciplinary Model(複数専門分野の統合モデル)を採用するデロイト トーマツ グループにおいて、DEIを成長戦略の中核に位置づけている点は、多くの経営者にとって示唆に富むものです。

本日は、デロイト トーマツ グループ CEO 木村研一様にJ-Winトップインタビューにご登場いただきました。

インタビュアー : J-Win理事長 横尾敬介