チェンジエージェントに訊く

2026年05月14日

「チェンジエージェント」 小松原 康平 氏に訊く

「女性活躍は他人事だった小松原康平さんが、当事者になるまで」
― “普通の男性”がチェンジエージェントに変わっていった理由 ―

「正直に言います。かつての私は、女性活躍を推進しているのは 『強くて、キラキラと輝いている女性リーダー』 を目指す女性たちであり、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を、どこか他人事のように感じていたオジサンでした」。

そう語るのは、日本IBMで女性活躍の推進組織であるJWC(ジャパン・ウイメンズ・カウンシル)で、男性初のコ・リーダー(Co-leader)を務める、小松原康平さんです。

1999年の入社以来、ITとコンサルティングビジネスの最前線を走り続けてきた彼が、20年の時を経て、なぜ「他人事」から「当事者」へと変貌を遂げることができたのでしょうか。

その軌跡は、日本の多くの男性が抱える「無関心」という名の壁を打ち破る物語でした。
「普通のビジネスパーソン」が、企業文化の変革を進めるチェンジエージェントへと変わるまでの道筋をひも解きます。

●チェンジエージェントに訊く
日本アイ・ビー・エム株式会社
小松原 康平氏

「強い女性」への誤解と、無関心だった20年間

J-Win沼尾(以下、沼尾):  小松原さんは1999年新卒入社とのことですが、IBMではルイス・ガースナー氏が会長兼最高経営責任者の時代で、ダイバーシティをグローバル規模で強力に推進し始めた時期です。当時の印象はいかがでしたか?

日本アイ・ビー・エム 小松原氏(以下、小松原):  正直に言うと、当時は「グローバル」にも「女性活躍」にも、全く興味がありませんでした。ただ、直属のマネージャーを始め周囲には「日本IBMには強い女性リーダー」がたくさんいて、「企業を引っ張っていくのは、こうした特別な女性たち」という、今思えば大きな誤解を抱いていました。

沼尾:  「特別な誰か」の問題であって、男性である自分には関係ない、と。

小松原: まさにそうです。社内で行われたアンコンシャス・バイアスのセッションなどにも参加し、議論もしていましたが、当時は「わかったふり」をしていただけ。会議室を出ればすぐに忘れてしまう。
社内のダイバーシティ組織を、「強い女性の会」とか「女性による女性のための女性の課題解決のグループ」という、それくらいの見方をしていたのが本音だったと思います。

沼尾: J-Winで男性管理職を対象とした「男性ネットワーク」のメンバーに、ダイバーシティの取り組みについて尋ねると、「納得はしないが理解はしている」、「でも自分には近づかないでほしい」といった答えが返ってくることがあります。小松原さんもそんな感じだったのでしょうか。

小松原: そうですね……悪気なく、多くの男性社員が抱きがちな、冷ややかな視点を持っていました。思い返すと、本当に理解不足で"ごめんなさい"、という気持ちです。

「外から目線の人」が突きつけられた、いびつな現実

沼尾: そんな小松原さんが、なぜJWC(Japan Women’s Council:日本IBM社内の女性活躍推進のグループ)に参画することになったのでしょうか。

小松原: 5年前に、当時のマネージャーである女性役員から打診されて“安請け合い”しました。ビジネスの延長線上で「自分なら、うまくこなせるだろう」という、浅はかな自信がありましたね。「長年、女性マネージャーとも仕事してきたし、きっと大丈夫。はいはい、僕、やれますよ」と。

沼尾: かなりの「外から目線」だったのですね。

小松原: はい、まったくの他人事からのスタートでした。男性同僚からも「あの小松原さんが女性活躍に関わるの?」「JWCでなにができるの?」との声も実際に聞きました。あの時のマネージャーも「小松原さん、わかってないから、少し勉強してきて」という想いで指名したのかもしれません。

沼尾: 20年間抱いていた「JWCは強い女性の組織」というイメージは変わりましたか?

小松原: はい。実際に飛び込んでみて衝撃を受けたのは、ボランティアで活動するメンバーたちの利他的な行動です。彼女たちは、自分の給料や待遇を上げるためではなく、「あとに続く仲間のため」「誰もが働きやすい環境のため」にと、現業が忙しい中で、それでも何とか調整をしながら活動していたんです。

沼尾: 「自分のため」ではなく「みんなのため、後進のため」だったのですね。

小松原: はい。それに対して自分はどうかと。意識の低さを反省しました。
さらに決定的だったのは、あるアンコンシャス・バイアスについてのセッションでの出来事です。参加した男性はたった3名。一方で女性は100名という惨状でした。

男性が引き起こしている課題を、女性たちが必死に解こうとしている。でも当事者でもある男性は見向きもしていない。
そのいびつな構造を目の当たりにして、申し訳なさと同時に、強烈な憤りを感じました。
「これは、マジョリティである男性が動かなければ解決しない」と、初めて当事者意識が芽生えた瞬間でした。

沼尾: そこでJWCの活動に本腰が入るわけですね。ところで「JWC」とはどんな組織なのでしょうか。

小松原: JWCの発足は1998年です。当時、日本IBMの役員には女性が1人しかいないことに問題意識を持ったリーダー達が始めた、社内で女性活躍を推進するためのカウンシルです。

人事部門の主催でもなく、組織としてやっているものでもなく、完全なボランティアです。各部署からノミネートされたメンバーが議論を交わして、会社に対する提言をまとめたり、いろいろな啓蒙活動をしていくコミュニティになっています。

私は5年前に第9期メンバーとして入ったあと、第10期からは男性初のコ・リーダーとなりました。今春スタートの第11期でも引き続きコ・リーダーを務めています。「意思決定の場にD&Iを」という目標を掲げて、脈々とコミュニティ活動を続けています。

沼尾: ボランタリーと伺って10名くらいかな?と想像していましたが、50名にも及ぶ、かなり大きなコミュニティなんですね。

小松原: はい、現業の部署も多岐にわたりますし、年齢も全世代の幅広い男女が、仕事の合間を縫ってともに活動しています。

“普通の男性”が発信することに、今は意味があると思っている

沼尾: 今までのJWCの活動で印象的なものを教えていただけますか。

小松原: イベントで、アンコンシャス・バイアスのテストをしてみたことがあります。
日本IBMの社長は男性なのですが、彼のスピーチをボイスチェンジャーで女性の声に変換したものをつくりました。イベントでは、まず男女両方の声でのスピーチを聞いてもらいました。

その後、アンケートを取ってみたら「男性の方が論理的に感じる、女性の方は軽い」「男性の声の方がより信頼できた」という結果になっていました。

「実はどちらも同じ社長の山口さんのスピーチでした。ボイスチェンジャーでトーンを変えただけです」とネタをあかしたところ、皆、驚いていました。「自分もアンコンシャス・バイアスを抱いていたんだ、気づいてなかった」という反響が大きく、このイベントはとくに印象に残っています。

沼尾: 「自分にはアンコンシャス・バイアスなんてない!」と、これまである意味、他人事として見ていた方ほど衝撃を受けたでしょうね。

小松原: そうですね。
さらに、私のような”普通の男性”が言うことに意味があったのかなとも感じています。
「小松原さんなんかに何ができるの?」と見られていた、お世辞にも意識が高かったとはいえない男性だからこそ、同じ目線の男性にも届いて、素直な気づきになったのではないでしょうか。

先ほどのテストのように、声のトーンが女性風なだけで、「論理が軽い」と受け取り方が変わってしまう人がまだまだ多い現在には、それを逆手にとって「マジョリティ側の普通のオジサン」を武器にするのもありなのかな、と今は考えています。

沼尾: 小松原さんは社内にとどまらず、社外でも講演などの活動を行っていらっしゃいます。
2026年1月、J-Winの男性ネットワークで行った講演 「意思決定の場にDiversity & Inclusion(D&I)を」では、管理職クラスの男性陣から共感のコメントが相次ぎました。ここでも「自分以上に多忙な男性が、女性活躍について熱意をもって話してくれて説得力があった」という感想がありました。

小松原: あのときは、「平等」と「公平」を表す有名なイラストをもとに、私なりに解釈し直した話に、皆さんのリアクションが良かったですね。
最初から背が高くて踏み台がいらない人を「マジョリティ側の男性」と捉えた一方で、「それは背が高いのではなく、仕事において“下駄”を履いている状態なのではないか」と考えました。

では、その下駄の“2本の歯”は何でできているのか —— そこを分解して言語化し、自分でイラストに落とし込んでいきました。腑に落ちる形にしたくて、「これなら伝わるかな」と何度も描き直しています。

結果として、男性自身が無意識にあずかっている恩恵があることは、ある程度表現できたと思います。
一方で、描いていくうちに、同じ男性であってもその恩恵が得られない人や、別の不利益を抱える人もいる、ということにも気づかされました。このイラストが正しいかは正直わかりません。ただ、少なくとも男性である私自身が、自分の頭で考え続けることが大事だと改めて感じています。

小松原氏 講演資料 「意思決定の場にDiversity & Inclusion(D&I)を」 から

沼尾: 社外活動では、他社との情報交換も積極的に行っているそうですね。

小松原: ここ数年、他社さんでこういう活動を社内で立ち上げられていることも多く、いろいろ教えてほしいという要請をいただいて、情報交換会をしています。
そこで感じるのは、政府の「女性版・骨太の方針」も背景にして、日本の企業では本気になって取り組みが進んできているということ。特に数値化や仕組み化などは、正直、日本IBMより進んでいるのではないでしょうか。「どうやったらそんなに仕組み化できるのですか」と、こちらから質問することもよくあります。
私たちもまだできていないことがたくさんあるので、情報交換と言いつつ、他社さんからいろいろ教えていただいています。日本の企業の皆さんも、本当にさまざまな施策をされているので、勉強になっています。

沼尾: 他社との情報交換を通じて気づいた「日本IBMならではの特長」はありますか。

小松原: 他社の方からよく言われるのは、「日本IBMさんは、現場レベルから組織が動けているのがうらやましいです。どうしたらそうなるんですか」です。
そこには経営トップからのメッセージが効いています。

D&I、女性活躍、LGBTQ+、PwDA+等、すべてを含めた考え方として、大事なことは「全員が楽に働くため」ではなく、「仕事で真剣勝負ができる環境に全ての人があるため」に活動を推進している、と社長の山口さん自らが、メッセージを発信してくれています。それを受け止めたメンバーが、ボランタリーでいろいろなコミュニティ活動している。

だからこそ、JWCもそうですが、「Give Back活動」(ボランティア活動やスキルの無償提供を通じて、仲間や組織、地域や団体に恩返し・還元をする取り組みの総称)は、会社からも評価されますし、社員からも尊敬されます。そういう文化が根底にあるのは、「日本IBMならでは」かもしれません。

ですので、他社さんからよく聞かれる「なぜ自主的な活動がうまく回っているの?」「評価はどうなっているの」「なぜそんなに頑張れるの?」に対しては、日本IBMの文化が答え、ということになります。これこそが日本IBMの強さであり、いいところだな、と感じています。

ちなみに年齢・役職問わず、全員「さん」呼びなのも日本IBMカルチャーですね。当然、社長も「山口さん」となります。入社式で当時の社長から「私は現在社長のロールにあるだけで、お互い対等です、それもあってうちは全員さんづけです」というスピーチがあって、今もよく覚えています。

D&Iは、Excelと同じ「ビジネススキル」である

沼尾: この活動を通じて、ご自身についての変化や発見はありましたでしょうか?

小松原: 「勝手に印象を決めつけずに、相手の話をしっかり聞く」ということができるようになりました。
多くの男性・女性の話を聞いたり、議論する中で、アンコンシャス・バイアスにとらわれたり、レッテル貼りをしながら、他人の話を聞いている自分に気づかされたんです。
この活動では、仕事とは違う基準でメンバーからフィードバックをもらえるので、そこもとても勉強になっています。
つねに相手を尊重しながら話を聞けるようになった点は、変われたな、とすごく感じています。ただ意識しないとすぐ戻っちゃうのも事実です。

沼尾: 意識し続けるのは難しいですよね、「もとに戻らない」ために工夫していることはありますか?

小松原: これらのD&I的な意識やふるまいを「ビジネスのスキル」と捉えています。Excelの使い方を覚えるのと同じレベルの話だと思っています。
例えば女性のメンバーに、「お子さんがいるから出張は無理だよね」と勝手に決めつけず、まずは対話をする。お子さんを預けてでも出張行きたいかもしれないし、さらに言うと男性の部下だって出張行けない理由があるかもしれない。

これは相手を尊重し、成果を最大化するための「プロのスキル」…そう考えることで”戻らない”ようにしています。

沼尾: ビジネススキルと捉えると、心理的なハードルが下がります。

小松原: 「他者への尊重」と「アンコンシャス・バイアスの払拭」は普遍的なスキルと捉え、淡々と実行すると、同僚や後輩など、あらゆるメンバーとの仕事の質が変わります。これは誰にでも習得可能な、そしてすべてのビジネスパーソンが持つべきスキルだと思っています。

マジョリティ側から組織を動かす「チェンジエージェント」へのアドバイス

沼尾: 最後に、これから自社で変革に向けた行動を起こそうとしている男性たちへメッセージをお願いします。

小松原: 繰り返しになりますが、まずは「話を聞く」というシンプルなことから始めてみてください。決めつけを捨てて対話を重ねる。それは決して女性だけのためではなく、あなた自身の仕事の幅を広げ、チームの力を引き出すことに直結します。

実際、私がメンバー一人ひとりを尊重し、しっかり話を聞くことを心がけたら、チームの仕事ぶりが変わり始めました。これも立派なチェンジエージェント行動の一歩だと思います。

沼尾: 小松原さんの変化そのものが、多くの男性にとっての道しるべになりますね。

小松原: 「普通のオジサンの小松原でも変われたんだから」と思ってもらえれば本望です(笑)。
女性が言えないこと、女性が言っても聞いてもらえないことを男性が伝える。マジョリティである男性が動けば、組織は必ず変わります。その楽しさを、ぜひ多くの人に味わってほしいですね。

(インタビュアーはJ-Win企業支援部 沼尾 直美)

小松原 康平氏 PROFILE 日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 金融コンサルティング事業部担当 パートナー。
1999年入社後、社内IT部門でエンジニアを経験後、戦略コンサルティング部門にてIT戦略・IT組織構造改革を担当。その後、アプリケーションマネジメントのアウトソーシング部門に異動し、2026年より現職。

日本IBM社内で女性活躍を推進するために1998年に設立されたカウンシル「Japan Women’s Council (JWC)」に、2021年から参画。2023年からは初の男性リーダーとして、第10期、第11期のCo-leaderを務めている。社内外で講演活動も行っている。

J-Winでは2026年1月、男性ネットワーク定例会にて「意思決定の場にDiversity & Inclusion(D&I)」をテーマに講演。 J-Win実行リーダーの会メンバーとしても活動している。

文中に出てきた参考記事はこちら
●トップインタビュー
日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長執行役員 山口 明夫氏

●小松原様が男性ネットワークにて講演したときの様子
2025年度第9回男性ネットワーク定例会を開催しました