チェンジエージェントに訊く

2026年01月14日

「チェンジエージェント」 原田 晋次郎 氏に訊く

OBNのど真ん中にいた私が、掲げた変革の旗
J-Win男性ネットワークOB・原田晋次郎さんがたどり着いた
「自己開示」と「相互理解」で現場を巻き込むDE&I推進

「自分は女性活躍に理解がある」――そう思い込んでいた原田晋次郎さんは、J-Win男性ネットワークに参加して衝撃的な事実に向き合いました。

「自分自身も “オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)” の一員だったかもしれない…」。

この気づきが、原田さんだけではなく、サッポロビール全体の意識改革を推進し始めています。

人事部への異動により、人財戦略策定並びにDE&I推進担当としてDE&Iや女性活躍推進を牽引(けんいん)。その過程で得た「人は正論だけでは動かない」という実感から、 “自己開示” と “相互理解” を軸に、対話のための場づくりにも積極的に取り組むようになりました。

今回のインタビューでは、OBNにいたことを知った男性管理職が、どのように意識と行動を変え、組織変革へと繋げようとしているかを探っていきます。

「男性ネットワークへの参加が、“違いそのものが価値である” ことを腹落ちする転機だった」と語る原田さん。その後、営業統括として現場に戻っても、対話を積み重ね、着実に変化の輪を広げていく姿勢は、組織を動かす真のチェンジエージェントとは何かを私たちに問いかけます。

●チェンジエージェントに訊く
サッポロビール株式会社
原田 晋次郎氏

営業一筋から「まさか」のDE&I責任者へ

J-Win沼尾(以下、沼尾): J-Win男性ネットワーク活動の目的は、ダイバーシティ&インクルージョンの本質的な価値に気づき、なぜ取り組むかを自分の言葉で語り、行動を起こすこと。そして、企業変革に貢献するチェンジエージェントとしての意識を醸成すること、としています。

今回の「チェンジエージェントに訊く」では、サッポロビール株式会社の原田晋次郎さんにご登場いただき、女性活躍やDE&I推進にかける想い、社内での活動などについてお聞きします。
では始めに、2022年にJ-Win男性ネットワークに参加することになったきっかけからお伺いできますか。

サッポロビール 原田氏(以下、原田): 2022年に人事部DE&I担当として異動しました。入社以来、営業職が長かったこともあり、新たな職場で何から始めればよいのかわからない状況でした。DE&I担当でありながらDE&Iのことを詳しく知らないわけにはいかず、上司からの勧めもあったNPO法人J-Winの活動に参加することになりました。
J-Winでは、働く環境や制度の整備を学んでいく「D&I推進者会議」に推進責任者として、さらには男性管理職が企業変革のチェンジエージェントを目指していく「男性ネットワーク」にも登録しました。

沼尾: D&I推進者会議と男性ネットワーク、同時期に両方の活動に参加するというのはかなり珍しいケースですが、同時に参加したからこそ見えてきたものや気づきなどはありましたか?

原田: 2つの活動には驚くほどの違いがありました。たとえば女性活躍について話すとき、D&I推進者会議の参加者の多くは女性メンバーであり、人事部やダイバーシティ推進部の所属。知識が豊富でメンバー間での議論も活発です。
一方、男性ネットワークはメンバーが男性管理職で会社での所属もバラバラ。「女性活躍を理解はするけれど、自分のやるべきことじゃない」という受動的な姿勢の人もいて、そこでの議論が停滞することもありました。知識も意識も違うと、同じテーマで議論を始めてもまったく違った方向に転がっていきます。

同時参加だからこそ知ることができた「意識の違い」とは、どちらかが正論でどちらかが間違っているというものではなく、多様な価値観を持つ人たちがいて、互いが理解し尊重すること、それぞれの意見の違いをしっかりと受け止めることの大切さです。違いを認めるというのは、のちにDE&Iに関する社内研修を行う際や人財戦略策定におけるテーマ設定において、ここでの気づきがベースになっています。

男性ネットワークで突きつけられた「オールド・ボーイズ」の正体

沼尾: 同時参加による最初の「気づき」は、意識の違いや多様な価値観に触れることが出来たことによるものですね。それでは原田さんが興味を持って参加された男性ネットワーク活動について、特に印象に残っている出来事などはありましたか。

原田: 振り返ると少し恥ずかしいのですが、当時の私は、DE&Iや女性活躍について「自分は理解している方だ」と思い込んでいました。人の話には意識的に耳を傾けているつもりでしたし、管理職としてチームの心理的安全性を保つことにも配慮しているつもりでした。

しかし、男性ネットワークの活動の中で、「オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)」というものが企業文化として根づいていることを学び、他社の事例やJ-Win会員企業の女性メンバーと意見交換をするうちに、はたと気づいたのです。自分もOBNの一員だったのではないか、と。

D&I推進者会議でも、「うちの会社の男性管理職はOBN的な行動が目立ち困っている」という実例が紹介されました。後日、それを男性ネットワークのメンバーに共有したところ、やはり返ってきた答えはこうでした。「うちの会社でも同じだよ。これまでもそうだったし、それが “当たり前” じゃないかな」 というものです。
その瞬間、私はハッとしたことを覚えています。それは、まさに以前の私が、口にしていた言葉そのものだったからです。周囲との認識のギャップに気づいていなかったことへの大きな反省とともに、初めて本当の意味でOBNを自分ごととして捉えられた瞬間でした。

沼尾: 過去の原田さんは、どんな「OBN的な行動」をしていたのでしょうか。

原田: ひとつは “時間” に関する配慮です。
当社は酒類メーカーであり夜の会合も多いのですが、私は良かれと思い、ご家庭や子供がいる女性社員に対しては、「夜遅くなる会食には来なくても大丈夫だよ」と伝えることがありました。
一見、思いやりのある言葉のようにも聞こえますが、本人はもしかしたら参加して、その場で意見を言いたかったかもしれない。相手とのコミュニケーションをはかりたかったかもしれない。しかし、それを言えない、言い出しにくい環境をつくっていたのは私たち管理職の責任です。事前に声をかけ、本人の意向を確認することを怠っていたのです。
男性ネットワークの場でも、時短勤務の方が参加できないような早朝や所定勤務時間後に会議設定をしてしまい、そもそもその時間に設定していること自体の問題に気づけなかったことなどが話題になっていました。この‟時間”に関する配慮不足は、J-WinでEquity(公平性)の視点を学ぶまで、あまり意識できていない観点でした。

また、自分はOBNとは無縁だと思っていたことも、OBN的な行動をしていた要因の一つとなっています。私はタバコを吸わないし、ゴルフもほとんどしません。特定のグループだけで飲みに行くこともほとんどありません。そんな理由で “自分はOBNの外側” の人間だと勝手に思っていました。むしろそのせいで、自分の知らないところで色々なことが話し合われている、決められていると感じたことすらありましたので、OBNに関してはすっかり他人事になっていました。

しかし男性ネットワークでの議論を重ねる中で、思いもよらぬ視点に出会いました。先ほどもお話しした「外側にいると思っていた私は、実は “OBNの中にいる側の人間”だった」ということです。
分科会活動で、各社で実施したOBNに関するアンケート結果をもとに、メンバー間で意見交換を行う場が増えてくると、会話の内容も少しずつ変わり始めました。「それ、OBNなのかな?」「それって俺たちがやってきたことじゃない?」。
ここでの会話は、まさに “気づきのプロセス” そのものだったと思います。

全社員研修で「アンコン(無意識の思い込み)」を共通言語に

沼尾: 「オールド・ボーイズ・ネットワーク」という言葉自体、男性が悪者にされているようで拒否反応を起こす人もいるようですが、サッポロビール社内では、OBNのような概念を研修するときに、違う言葉を入り口にされているそうですね。

原田: 私が人事部に異動したときに「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」を勉強する機会があり、部内ではOBNよりも「アンコン」のほうが共通認識を得やすいこともあって、全社員研修を打診されたときには、「アンコン」という言葉を使いながら説明することにしました。

沼尾: どのような研修でしょうか。

原田: 2023年に「アンコンシャスバイアス研修」として、サッポロビールで全社員に向けた研修を行いました。その後も関連事業会社で実施し、かなり多くの社員に向けて話していると思います。全社員が1回は「アンコン」という言葉に触れ、無意識の思い込みについて、それぞれが考えられるようになっています。

アンコンシャスバイアス研修資料より

沼尾: この研修の中で、一番伝えたいことはなんでしょうか。

原田: 最後は決めるにしても、最初から「決めつけない」で欲しいということです。結論を導き出すまで、決めつけをしない、しっかりと周りの意見を聞いてください、という話を強調して伝えています。
そもそもDE&Iの話を聞いてもらうために、アンコンを入口にしました。「なぜDE&Iに取り組まなければいけないのか」の前段階として、「思い込みがDE&Iの阻害要因になるからこそ、思い込まないで」という話をする。「印象やこれまでの経験だけで判断すると、思い込みから抜け出せなくなる」「思い込みは誰もがもっていることだからこそ、いつも意識して」というメッセージを、言い方を変えて繰り返し伝えています。

沼尾: ということは、社内でも「アンコン」で通じるということでしょうか。

原田: はい、研修を通じて、社内でアンコンを知らない人がいなくなったので、気になる場面で「それアンコンじゃない?」と指摘し合えるようになってきました。「アンコンかもね、もっといろいろ考えてみようよ」のように、議論を広げる、切り口を変えるための提案として使われています。

沼尾: 指摘し合える企業文化が育まれていることがよくわかりました。

正論では人は動かないから、大事にするのは「自己開示」と「相互理解」

沼尾: アンコンという言葉を広めて認識しやすくした、というのはチェンジエージェントとしての成功例の一つですね。次に考えているのはどんなことでしょうか。

原田: 多様性、女性活躍、DE&I…多くの方が意識している言葉ですし、推進に異議を唱える方もいないと思っています。だからこそ、正しく理解できていない人に理解を深めていただき、しっかりと腹落ちしてもらうことが、次のステップと考えています。
一方で、正論だけをぶつけて説明することはナンセンスだとも感じているのも事実です。人事部時代に「DE&Iについて言っていることもわかるし、やらなきゃいけないことも理解しているけれど、私たちの現場の現実を理解していますか?、それだけでは動かないことをご存知ですか?」と言われたことがあります。正論を押し付けるのではなく、まずは相手との信頼関係、そのベースをつくることの重要さを実感しました。

沼尾: 信頼関係の構築のために、なにか気をつけていることなどありますか?

原田: 「自己開示をし、相互理解につなげること。そしてそれを続けること」をモットーにしています。
具体的には、まず相手に興味関心があることを示し、価値観や置かれている状況や事実にしっかりと耳を傾けること。次に、私の考えや価値観をしっかりと伝えて、相手にも自身を知ってもらうこと。
信頼関係のベースができあがった結果、相互尊重、相互理解をはかることができれば、こちらの話も聞いてもらえるのかなと考えています。

沼尾: すべての仕事に通じる考え方でもありますね。

原田: 女性活躍、DE&Iについて、同じ社内でもそれぞれ異なる環境の部署にも受け入れてもらうためには、「相互理解」と「自己開示」を大事にする段階にきているなと、今は思っています。

ゴールのない問いに向き合い続ける~「ちがい」を組織の強さに変えるチェンジエージェントとして

沼尾: 最後にお聞きします。原田さんにとって、D&Iや女性活躍推進の「ゴール」はなんでしょう。

原田: 「ゴールはない」です。「正解もない」と思っています。
「自己開示」と「相互理解」を続けていくうちに、少しずつ前に進んでいくもの、ではないでしょうか。

沼尾: よくなった先にどんな未来をイメージしていますか?

原田: サッポログループの人財戦略は「ちがいを活かして変化に挑む越境集団となる」です。
J-Winの活動を通して、私は「ちがいが価値」を実感できるようになったので、これを広めていきたい。
「それぞれの “ちがい” を活かし合い、変化、進化、深化を継続できるチーム。 “ちがい” を強さにできるチーム」――そんなチームでありたいと常日頃考えています。
これを実現することができれば、一人ひとり、みんなが活躍していると思えるようになり、モチベーションも上がる。「ちがいが生む価値」を好循環させたいと思っています。

沼尾: J-Win男性ネットワークでの活動が血肉になっているのですね。

原田: はい、間違いないと思います。同じテーマで真剣に議論を重ねていくと、たとえ短い期間であっても考え方が変わっていくと思えるようになったのは、男性ネットワークに参加した成果の一つです。

あんなに真剣に、女性活躍とかDE&Iについて自分自身の中で振り返ることって、なかなかない経験です。結果、「ちがいがあるのが当たり前で、わかり合えないのが当たり前」という考え方が身につきました。
このきっかけはすごくよかったと思っているので、「とにかく考え続けた男性ネットワークの時間は、大切な時間だった」ということを男性ネットワークで現在、活動されている方にも、未経験の方にも伝えたいですね。

(インタビュアーはJ-Win企業支援部 沼尾 直美)

原田 晋次郎氏 PROFILE サッポロビール株式会社 フードビジネスサポート統括部統括部長。
入社以降、経理部門、営業部門、マーケティング部門を経て、人事部門へ。その後、2023年より現職。現在のフードビジネスサポート部門では、外食企業向けに、業態開発、メニュー開発、販促企画、人財育成、事業承継などの支援に従事している。
また営業系の部署に移った今も、人事部時代に培った知識や人脈を乞われて、全社員向けに「アンコンシャスバイアス研修」を行うなど、DE&Iの活動も引き続き行っている。