トップインタビュー
2025年12月16日
人と社会をつなぎ、認め合い、前へ進む
アズビルが実践するダイバーシティ経営
アズビル株式会社 取締役 代表執行役社長 山本 清博 様

インタビュー動画
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目次
- 揺るぎない企業理念と技術革新、社会課題への対応
- 理系学生の採用拡大と女性管理職の育成、役員クラスの登用
- 「人を中心としたオートメーション」のグループ理念に基づいたアズビル・ダイバーシティ・ネットワーク(ADN)
- 自分の働き方を見直したことからの提案 プチインターンシップ
- ダイバーシティ&インクルージョン、そしてエクイティを体現することが企業の持続的成長に直結する
揺るぎない企業理念と技術革新、社会課題への対応
横尾
第7回のJ-Winのトップインタビューは、アズビル株式会社 取締役 代表執行役社長の山本清博様にご登場いただきます。
まずはazbilグループのご紹介からお願いできますか。
山本
azbilグループは1906年創業で、来年で120周年という歴史のある企業です。
創業者の山口武彦が、当時日本では生産できなかった工作機械などを輸入する商社からスタートしました。現在の事業内容は、「計測と制御によるオートメーション事業」です。わかりやすく言うと、「あるべき姿を実現するために、測って制御する」ということになります。
市場としては、湾岸系にあるプラントや、内陸系の自動車や半導体といった工場、商業ビル、オフィス、病院、データセンター、大学、ショッピングセンターを対象とし、さらには家庭でも使われている水道メーターやガスメーターや、戸建て住宅向けの全館空調などの事業を手掛けています。日本国内でアズビルの製品に接していない方はほぼいないくらい幅広く事業を展開しています。
売上は国内が8割で海外が2割。これからは海外をさらに伸ばしていきたい、と考えています。
横尾
「人を中心としたオートメーション」という企業理念を大切にされていると伺いました。計測や制御の技術を幅広く活用するというのは、揺るぎない企業理念に基づくものです。
一方で、デジタル技術の進化や、価値観の多様性など、アズビルを取り巻く事業環境の変化にはどのように対応されているのでしょうか。
山本 オートメーション・機械化・自動化と言うと、人がやっていた仕事を、機械にやらせるというイメージを持たれがちですが、最終的には人がユーザーですし、オートメーションの周りでは、人が必ず働いています。その意味で「人を中心としたオートメーション」という理念は非常に本質的なものであると思っています。
事業環境という点では、大きく変わってきています。一つは技術革新、生成AIや半導体の進化です。また、社会課題として人口減少による人手不足への対応、温暖化に関連して環境負荷低減などが求められるようになってきています。
「今日できること」と「一週間後にできること」が変わるのが生成AIの時代です。「習熟」の必要性が相対的に低くなる傾向にありますが、逆に、新たに登場する技術を積極的に活用して「これはすごいな」と思い続ける、体験し続けることがすごく重要になると思っています。
さらに、未知の領域に踏み込んでもらう、専門外の人と触れることなども大切で、多様な経験をしてもらうことを推奨しています。

理系学生の採用拡大と女性管理職の育成、役員クラスの登用
横尾 ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)を経営戦略にすえて、人的資本への投資を積極的に進めていると伺いました。アズビルの人材特性と、女性活躍推進の現状について教えていただけますか。
山本 新卒採用の9割ぐらいが理系です。理系の女子大学生の割合が全国平均で22%ですので、その中からの採用となるわけですが、女性は新卒採用全体の2割に届いていないというのが現状です。
一方、女性役職者の比率はリーダー層で17.3%、課長職では6.8%、取締役/執行役員/理事(役員クラス)では6.7%です。メーカーの中では低くない水準ですが、全産業の平均と比較すれば高いとは言えません。
育成にも力を入れておりまして、直近5年間の推移では、リーダー層の女性比率が15.2%から17.3%で2.1ポイントの上昇。管理職では5.0%から6.8%で1.8ポイントの上昇となっています。役員クラスの女性比率は2.7%から6.7%で倍以上の増加になっていますので、取り組みの成果が少しずつ出てきていると感じています。
「人を中心としたオートメーション」のグループ理念に基づいたアズビル・ダイバーシティ・ネットワーク(ADN)
横尾 グループ理念の「人を中心としたオートメーション」に基づいて、アズビル独自のダイバーシティ・ネットワークをおつくりになったそうですね。どのような活動なのか具体的に教えていただけますでしょうか。
山本 2017年度よりDEI推進タスク(アズビル・ダイバーシティ・ネットワーク(略称:ADN))を発足し、「風土や意識の変革」「多様な人材の活躍」「多様な働き方の推進」の3つの視点からアプローチすることをスタートしています。
当初は、女性活躍推進が中心でしたが、現在は男性や多様な方々にも対象を広げて取り組みを進めており、まさにダイバーシティを体現する広がりのある活動となっています。女性と男性が混合したチームで活動することで、より多様な発想が広がるようです。本人たちの意識が変わると同時に、周りの意識づけも重要になってきており、上司の皆さんが積極的に参加するケースが増えています。
横尾
風土・意識改革の「ADNフォーラム」に加えて、多様な人材の活躍を推進・促進する「ADNビジネスカレッジ」、さらに多様な働き方を支援する「ADN交流会」などがあるようですね。
これらを機能させていくために、実際にどのような取り組みから始められたのでしょうか。
山本
ADNの「フォーラム」「ビジネスカレッジ」「交流会」ではメンバーがダイバーシティ推進をはじめ、社内をよりよくするための提案を行い、実践につなげることを重視してきました。
その中で生まれた1つの事例が、「iishare(アイアイシェア)」という、社内ブログや部署・自己紹介の仕組みです。
このブログには仕事だけではなく、趣味や家族のことも書き込めるため、他部署と連携するときのコミュニケーションなどに効果を発揮しています。
次に実施したのが「社長のおごり自販機」です。知らない社員同士で自動販売機の前まで行って同時にタッチすると、無料でドリンクがもらえる。なるべく知らない人を誘って、その場で会話が生まれるという発想の施策です。
若手社員がアプリを開発し、ニックネームで呼びかけ合って集まるなど、コミュニケーションが活性化しています。私自身も参加したところ、相手が私だと分かった瞬間、相当驚かれました(笑)。
どちらも社内ではとても好評ですのでこれからも推進・実践していくつもりです。
自分の働き方を見直したことからの提案 プチインターンシップ
横尾 さらに「プチインターンシップ」という取り組みもあるそうですね。
山本 これもADN活動からの提案です。コロナ禍のリモートワークがきっかけで、働き方を見直すといった提案がありました。 出社して勤務することが出来なくなった環境の中で「今のままでの働き方でいいのだろうか」、「リモートだからこそ今までと違うサポートができて、自分は他部署でも活躍できるのではないか」と感じた社員がいたようです。
異動になるとハードルも高いし、周りの説得も大変だけど、他部署を経験してみたいという気持ちはある。そこで学生のインターンシップをモデルに、現役社員が短期間、他部署で働くという仕組みが提案され、導入となりました。
非常に短い期間なので、プチインターンシップと呼んでいます。
通常のインターンシップだと、受け入れ先と受け入れ元には情報の差があって負担や手間がかかります。しかし、すでにスキルを持った社員がプチインターンシップに来ることで、受け入れ先も教える負担が少なくお互いにメリットがあります。すっと行って、すっとサポートできることや、自身の新しい可能性を発見していけるのではないか、と考えています。
これからは「社内副業」のような仕組みとして検討していこうかと考えています。オンラインなら、さらにやりやすいことがあるはずです。会社でやるべきことを広げる意味でも、とても可能性があり、これからは活用する人がもっと増えてくればいいと思っています。
横尾 数年前から取り組まれ、参加者がだいぶ増えているようですが、皆さんからの評価はいかがですか。
山本
同じ部署ですと「やって当たり前」のことが、他の部署だとすごく感謝されることがあります。また自分のスキルが役に立つことがダイレクトに分かるというのは、自身の可能性にも気づきが与えられ、多くの社員から「プチインターンシップに行ってよかったです」という感想を聞くことが出来るようになりました。
互いがマッチしないなど難しいケースも出てきますが、そこは「プチ」なので、すぐ戻って、また違うところに行ったりするなど、柔軟に対応できるのもいい点です。多くの人の経験値が広がっていけば、受け入れ先も対応しやすくなりますし、多様なコミュニケーションが生まれ、社内の活性化に貢献するのではと思っています。

ダイバーシティ&インクルージョン、そしてエクイティを体現することが
企業の持続的成長に直結する
横尾
多様な取り組みを通じてダイバーシティ&インクルージョンを実践されていることがよくわかりました。
最後に山本社長がお考えになる女性活躍、とりわけ意思決定層での女性登用についてお聞かせいただけますか。
山本
意思決定プロセスで言うと、人類の構成は男性と女性がほぼ50対50です。もし意思決定プロセスに男性しかいないとすると、半分の可能性を捨てていることになります。
多様性という観点からも、J-Winが男性ネットワークの中で議論されているオールド・ボーイズ・ネットワークやアンコンシャスバイアスを回避するうえでも、意思決定層での女性登用は極めて重要です。
一方で、ダイバーシティを男性・女性だけで捉えるのも違うと思っています。これをきちんと語るには、イーブンな比率の中で意思決定を行うという経験も必要でしょう。
当社の社外取締役9名のうち3名が女性です。私が気づかない視点を多く指摘してくださり非常に貴重な存在です。多様な意見を取り入れることが、変化の激しい時代における持続的成長の鍵だと考えています。
横尾 最後に、ダイバーシティ&インクルージョンに対する、山本社長の「覚悟」と「想い」をお教えいただけますか。
山本 インクルージョンという観点では、残念ながら、世の中が逆の方向に行っているようにも感じます。「私は私」「私たちは私たち」で、私たち以外は「違う人」という風潮です。
一方で、オートメーションとは「プロセスとプロセスの間を繋ぐ」こと。「計測と制御」と説明しましたが、「繋ぐ」からこそ、測ることができ制御できるということです。
ものをつくるプロセスを辿っていくと、「プロセスとプロセスの間を繋ぐ」という役割が必要になります。同じように、企業としても「社会の繋ぎ役」という役割を果たすことが大切だと思っています。
社会が「分断」という方向に向かっていくとしても、アズビルは「繋ぐ」という役割をしっかり行える企業でありたいと考えています。
そのためにも、多様な意見を尊重し合うことで、お互いが仲間として認め合い、より強固な組織として同じ方向に向かうことを体現していきたいと考えています。だからこそダイバーシティ&インクルージョンもエクイティを体現することが、アズビルの持続的な成長に直結すると確信しています。
「アズビルは言葉だけではなく、実際に社内外の活動で実践しているね」と言われる企業に。
そして、社員やお客様から「商品やサービスにもその精神が息づいている」と共感してもらえる企業を目指していきます。
横尾 まさに多様な人材が力を発揮することでこそ、企業は持続的に成長できるということですね。それを社長はしっかりと認識されていますので、今後とも推進していっていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。
山本 ありがとうございました。
インタビュアー : J-Win理事長 横尾敬介
