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2025年10月09日

DEIとワークライフ・マネジメント リコーが築く、“はたらく”に歓びを
株式会社リコー 代表取締役 社長執行役員・CEO 大山晃様

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目次
  • DEIとワークライフ・マネジメントの両輪で進める企業変革
  • グローバルに多様なメンバーが集結するDEIカウンシルの設立
  • 企業横断型のクロスメンタリングなど社内外の教育プログラムの充実と活用で女性管理職比率を増加
  • 育休後のキャリア回復とステップアップを支援するリコー式ジョブ型人事制度
  • 誰もが120%の力を発揮して生まれる“はたらく歓び”の好循環

DEIとワークライフ・マネジメントの両輪で進める企業変革

横尾 本日は、リコーグループが推進するダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)についてお伺いしたいと考えております。まず、多様な価値観を持つ人材が活躍できる環境が求められるようになった背景についてお話しいただけますでしょうか。特に、事業環境の変化がどのように影響しているかについてもご教示いただければと思います。

大山 当社は創業以来、働くお客様に寄り添い、価値を提供してきました。しかし、コロナ禍を機に、お客様の働き方が大きく変化しました。そうした影響もあり、複合機などからのプリント出力は減少傾向にあります。一方で、リモートワークやハイブリッドワークの普及に伴い、新たなサービスのニーズが増加しています。この変化に対応し、お客様のニーズにお応えするためには、企業変革が不可欠です。

企業変革を推し進めるうえで、旧来型の組織では限界があると考えています。同質的な組織は効率よく業務をこなすことには優れていますが、価値観や発想が似通っているため、新しい視点を取り入れにくく、自らを変革することは困難です。したがって、異なるバックグラウンドを持つ多様な人材が意見を交わし、新しいアイデアを生み出す環境を整えることが重要です。

現在、当社はデジタルサービスの会社への変革を進めています。デジタル技術は世界中で急速に進化しており、グローバル経営を行うためには、多様な知識を活かすことが求められます。多様性を経営に取り入れることが、今後の当社の大きな課題であり、戦略的な鍵となっています。

横尾 まさに、多様な人材がそれぞれのポテンシャルを最大限に発揮できる企業文化を育むことが、基盤となると私も強く感じています。それを実現するための経営戦略として、リコーグループでは 「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン」と「ワークライフ・マネジメント」の2つの柱を掲げています。それに対する御社の現状と課題についてお話しいただけますでしょうか。

大山 当社は、多様な社員がやりがいを持って働ける環境づくりを通じて、イノベーションを生み出し、持続的に社会に貢献できる企業を目指しています。 「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン」と「ワークライフ・マネジメント」はその重要な施策です。

「ワークライフ・マネジメント」は、効率的な働き方により、仕事と生活の双方を充実させ、よりよいアウトプットを目指すというものです。たとえばリモートワーク環境が整っていれば、育児や介護をしながらでも、仕事と生活の両立が可能となります。生活を充実させることでインプットを増やし、さらに仕事の生産性やレベルを高めるといった好循環を実現できます。
個々の価値観や事情を尊重しながら、誰もが最大限の力を発揮するために、この2つの施策を一致させることが重要です。

課題は、個々人の意識と会社の風土を変えることです。特に、全社員が「DEI」を自分ごととして捉え、実際に行動に移すことが求められます。この意識を全社員が持たなければ、会社全体のムーブメントには繋がりません。

横尾 御社ではワークライフ・マネジメントをテーマとした社員への意識調査を実施されていると伺いました。調査を通して得られた気づきや、新たに明らかになった事実があれば教えていただけますでしょうか。

大山 調査を通して気づいた点は、社員一人ひとりの考え方や状況が一様ではないということです。特に、ジェンダーや世代間で認識にギャップが見られます。30〜50代の中間管理職層を含む社員では、仕事と生活のバランスが十分にとれていないと感じている社員が多いという傾向も見られます。中間管理職層のワークライフバランスが改善され、エンゲージメントが高まらない限り、全体のエンゲージメント向上は難しいことが明らかになりました。この層に対する働きかけを、現在進めているところです。

グローバルに多様なメンバーが集結するDEIカウンシルの設立 

横尾 御社の業務はかなりグローバルに展開されていると思います。DEIへの取り組みをグローバルに推進するにあたって、どのような体制や仕組みを整えていらっしゃるのでしょうか?

大山 体制としては、2023年3月に「グローバルDEIカウンシル」を設立しました。このカウンシルは、各地域から集まった12名のグローバルメンバーで構成されており、私もその一員です。
ここで、グローバル戦略の策定や、メッセージ発信の方法について検討しています。当社には創業者・市村清が提唱した「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という三愛精神があります。これはすべての社員を尊重するという基本理念です。この理念が、まさにDEIに繋がるものであり、社員に向けて強くメッセージとして発信しています。

具体的には、毎年3月の国際女性デーに合わせて、DEIについて考えるためのグローバル・ライブイベントを実施したり、社内ポータルやSNSを通じて取り組みを発信したりしています。

横尾 DEIカウンシルでの経験から見えてきたことはありますか?

大山 DEIカウンシルには、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集まっています。興味深いのは、そうした多様な人材が、それぞれの常識や環境の違いを感じながら議論が進むところです。こうした違いから毎回新たな発見があり、とても新鮮ですね。

企業横断型のクロスメンタリングなど社内外の教育プログラムの充実と活用で女性管理職比率を増加

横尾 多様な人材の活躍推進のためには、特に女性の活躍推進が大きな柱の一つになると思います。この取り組みについてもお聞かせいただけますか?

大山 女性活躍推進に関して、当社ではさまざまな取り組みを行ってきました。たとえば、2011年2月に国連の「ウィメンズ・エンパワーメント・プリンシプル(WEPs)」に署名し、2016年2月には内閣府が支援する「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」の行動宣言にも賛同しています。

さらに、2020年度からは女性管理職比率をESG目標の一つとして設定し、達成に向けてさまざまな取り組みを進めています。

横尾 具体的な目標値などがあれば教えていただけますか?

大山 グローバルでの女性管理職比率の目標は20%、日本国内のリコーグループでは10%以上、リコー単体でも10%以上を目指しています。過去5年で4.8%から8.7%に拡大はしましたが、まだ目標に到達していない状況です。

横尾 わずか5年で4.8%から8.7%にほぼ倍増したというのは、素晴らしい成果だと思います。一方で、目標の10%に到達するために、大山社長ご自身が課題だと感じている点があれば、お話しいただけますか?

大山 管理職全体では8.7%ですが、さらに上級管理職に進むとその比率は5.1%にとどまっています。つまり、上に行くほど目標から遠ざかっているというのが現状です。

その一因としてよく言われているのが、ロールモデルが不足していることです。つまり、上級管理職に就くために何をしなければならないのかが明確でなく、未知の世界に挑戦するような感覚になるため、二の足を踏んでしまうことがあります。これは、ロールモデルが多い男性とは大きな違いです。

そういう意味では、少し強引にでも成長の機会を提供するとともに、仕事と生活の両立を支援する制度の充実が必要だと考えています。

そこで、現在さまざまな施策を進めています。たとえば、若手女性社員向けのキャリアフォーラムを開催するなど、幹部候補を育てるために長期的かつ計画的な取り組みを行っています。また、実践的なトレーニングを通じて、管理職候補を早期に育成するステップアッププログラムや、ロールモデルが近くにいないという声に対応するためのネットワーク構築を目的とした勉強会や交流会も実施しています。

さらに、企業横断型のクロスメンタリングプログラムを導入し、異なる企業のメンターとメンティが交流する機会を提供しています。この取り組みにより、他社の視点から新たな考え方や価値観を学ぶことができ、社内では言いにくい意見も心理的安全性の高い環境で自由に共有されやすくなります。

横尾 私も新聞でその取り組みを拝見し、大変感銘を受けました。非常に意欲的な挑戦であり、素晴らしい活動だと感じています。

大山 おかげ様で、メンターからもメンティからも、非常に勉強になるという声が届いております。

育休後のキャリア回復とステップアップを支援するリコー式ジョブ型人事制度

横尾 企業内で男性には成長機会が多く、女性には少なかったことは認めざるを得ませんが、ここ数年でそのギャップを埋める取り組みが進んでおり、まさにエクイティの考え方が反映されていると感じています。
両立支援や働き方の見直しについて、具体的にどのように進めていらっしゃいますか?

大山 両立支援に関しては、当社はライフスタイルに合わせたさまざまな働き方を提供しています。たとえば、短時間勤務や短日数勤務、在宅勤務(リモートワーク)などの制度を充実させています。
また、2003年からは「キャリアリカバリー策」を導入しており、産休前の人事評価を尊重し、復帰後の人事評価に不利益が生じないように配慮しています。育休については、男女とも取得率はほぼ100%、育休取得後の復職率も同様にほぼ100%です。
加えて、育休後に働く時間が短くなり、経験が積めなくなることが次のステップに進む障壁になるといった課題があります。解決策の一つとして、当社は2022年に「リコー式ジョブ型人事制度」を導入しました。この制度では、ポジションごとにジョブディスクリプションを明確にし、「このポジションでは何をすべきか」「どのような成果を上げれば次のステップに進めるのか」を可視化しています。仮に一時的に職場を離れることがあっても、スキルや経験を維持し、そのポジションを再び目指せる環境が整えば、キャリアアップに向けて自律的にチャレンジしようという意欲が高まります。

誰もが120%の力を発揮して生まれる“はたらく歓び”の好循環

横尾 最後に改めて、御社の掲げる 「“はたらく”に歓びを」 を実現するために、大山社長自らどのようにコミットしていくかについてお聞かせいただけますか。

大山  「“はたらく”に歓びを」 とは、人は、もっと「創造的な仕事」ができれば、働きがいが高まるはず、そのための環境をすべての働く人に届けていく、という弊社のミッション&ビジョンです。

私は海外で買収した会社で働いた経験があり、特にヨーロッパやアメリカの企業で多くの時間を過ごしました。そこで、多様性の重要性を肌で感じることができました。さまざまなバックグラウンドを持った人々が集まり、活発な議論を行いながらも、最終的には選択肢を絞り込み、定性的・定量的に比較して意思決定を行うというプロセスが非常に印象的でした。このような多様性が経営戦略において重要であり、可能性そのものだと実感しています。

“はたらく歓び”とDEIは密接に関連しています。特にエクイティ(公平性)の部分が重要で、さまざまな環境にいる人々が全力で働けるようにすることが大切です。全員が120%の力を出せる環境を整え、インクルージョンによって一つの成果を生み出せば、個人の成長、会社の成長、そしてエンゲージメントの向上につながり、結果として“はたらく歓び”が増していく良いサイクルが生まれます。
経営陣として強いコミットメントを持って取り組んでいきたいと考えています。

横尾 そのご決意をお聞かせいただき非常に心強く感じています。これからも社員の皆さんが社長の一挙手一投足を見守っていると思いますので、ぜひDEIの推進を力強く進めていっていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

インタビュアー : J-Win理事長 横尾敬介