トップインタビュー

2022年07月20日

「内永ゆか子のTOP INTERVIEW」第40回を掲載しました。

内永ゆか子のTOP INTERVIEW 第40回

ダイバーシティは経営戦略
株式会社日立ハイテク 代表取締役 取締役社長 飯泉孝氏

女性社員比率と女性管理職比率は同等に

内永 このたびは、J-Winダイバーシティ・アワード、ベーシックアチーブメント大賞の受賞、おめでとうございます。
さまざまな施策に取り組まれていますが、評価のポイントとしては総合職女性社員比率10%に対し、女性管理職比率の目標値を10%に設定されている点です。極めて自然で、当たり前のようにも聞こえますが、多くの企業では女性社員比率に比べ女性管理職比率の目標値が低くなっています。
私が日本IBMでダイバーシティに取り組んでいたとき、当初は女性比率15%に対して女性管理職比率が1.5%でした。それを15%にするのは無理だという声もありましたが、5年で達成することができました。社員比率と管理職比率の目標値を同じにする。できないことはありません。

飯泉 おっしゃる通り、女性社員比率と女性管理職比率を同じにしていくことが自然であると考え、当社のめざす姿としています。

内永 ある方が、ダイバーシティのあるべき姿は、女性だけで、現状の会社組織と相似形になる組織ができるようになることとおっしゃっていました。ただし、職域によってやりやすいところとそうでないところがありますね。

飯泉 当社には、営業・設計・製造・サービスまで、さまざまな部門・職域があります。一つ一つの部門ごとの女性活躍推進状況や課題を、きめ細かく見ていく必要がありますね。

飯泉社長と内永理事長

VUCAの時代に多様性は不可欠!

内永 飯泉社長は、なぜダイバーシティが必要だとお考えですか。

飯泉 当社はグローバルビジネスを展開しています。私自身も若い頃から海外で仕事をすることがよくありました。世界中の方とコミュニケーションしていると、ミーティングの場で忖度はありません。自由に議論し、その場で決まったことに対し全員が団結して取り組み「やらされ感」などはまったくありません。こういうやり方って本当に素晴らしいなと感じていました。まさに多様性を重んじているからだと思います。
VUCAの時代で先を見通せない複雑な状況では、たった一人の考えで経営をリードするのは危険です。多様な意見を聞いて方向性を定めれば、強いチームになるということを体感しました。女性や外国籍の方、多様な経歴を持つ方などさまざまな価値観を持った方の意見に耳を傾ける。ダイバーシティを経営戦略の中核に位置付けています。

内永 まさにそれこそが、ダイバーシティ推進の本質だと思います。
よく女性活躍推進は、人権を守るためだとか、労働人口を維持するためだとか言われています。それも間違ってはいませんが、もっと大切なことは、変化の激しい時代に、多様な意見を尊重して見える化し共有していかないと、良い方向には進めないということです。飯泉社長のお話は、我が意を得たりです。

限定的な成功体験はもう通用しない

内永 もう一つお伺いしたいのが、日本では物事をはっきり言わない、曖昧なままで物事が進んでいくことも多くありましたが、そうしたカルチャーは変わってきたと思われますか。

飯泉 当社のリーダーたちは、グローバルビジネスの経験があるのではっきり言いますよ。これは私たちの強みかもしれませんね。
結論が出ない議論をするのは時間の無駄だという意識があって、会議をはじめとして、IT・DXなどを活用した意思決定の効率化やスピードアップに取り組んできました。

内永 オールド・ボーイズ・ネットワーク(以下OBN)については、どうお考えですか。
過去の成功体験を共有し、あうんの呼吸で物事が進むコミュニティです。誤解されている方も多いのですが、OBNは日本だけのものではありません。ただ、日本が一番色濃い。「男のやり方が悪いのか」と言われる方もいますが、「Japan as No.1」のベースにあるのはOBNです。でも、もうそんな時代は終わっているので、過去の栄光にすがるOBNは女性活躍にとっても障壁です。

飯泉 成功体験がある人は、その体験で今の時代を切り抜けようと思っているかもしれませんが、それは極めて限定的な成功体験です。多様性の対極ですね。過去の体験にこだわらずチャレンジし、仕事のやり方そのものを見直すことを伝えています。

内永 OBNの方には、成功体験にさらに新しい発想を組み合わせれば、もっと会社が発展することを理解していただくようにしています。そうやって変えていくしかありませんね。
社内でダイバーシティを進めていく中での課題はありますか。

飯泉 当社では、全社ダイバーシティ推進ワーキンググループの活動の一つとして現場社員からなる女性活躍推進プロジェクトを立ち上げ、ビジネスの現場でさらに女性が活躍していくための議論を行っています。男性社員・女性社員のダイバーシティやキャリアへの意識をアンケートで調査し、職種や年代ごとの傾向を見るなど、ライフステージに応じた施策の議論を行っています。
私は、すべての社員がライフとワークを充実させ、いきいきと人生を楽しんでほしい。そのために、会社というステージを存分に活用してもらいたいと思っています。その中で、管理職をめざしたいと思う女性社員がもっと増えてくれると嬉しいですね。

トップをめざして、人生を楽しむ

内永 なぜ女性活用が進まないのか、そこには3つの理由があることが分かりました。
今、お話しいただきましたワークライフバランスの問題、そしてOBNと女性の意識です。
J-Winでは毎年250人くらいのHigh Potentialネットワークメンバーを会員企業からお預かりしています。「Women to the TOP!」に賛同するかどうかアンケートをとると最初は50%を下回るのですが、1年後には90%を超えるようになります。つまり、仕組みでも環境でもなく、本人の意識改革の問題が大きいんです。キャリアアップするのは良いことだと思ってもらうことが重要です。
飯泉社長は、社長になって良かったと思いますよね。

飯泉 はい。社長になると、会社を良くするために課題だと思っていたことを変えられますから。ビジネスや組織など、さまざまな変革を進めているところです。

内永 男性はポジションが上がると「大変だ」とおっしゃいますが、大変さの数倍は充実感があるはずです。それを案外女性は分かっていません。キャリアアップによってもたらされる価値を語っていただきたいです。
日本IBMにいたとき、小さいお子さんがいる女性役員に「大変でしょう?」と聞いたら、「内永さん、物は考えようよ。母親としても、妻としても、ビジネスウーマンとしても、充実した人生を楽しんでいるのよ」とケロッと言われて、目から鱗が落ちました。
「大変でしょう?」と聞かれたら、実際大変だから「大変よ」と答えますよね。「人生を楽しめて良いわね?」と言えば「そうよ、楽しいわよ」という答えが返ってくると思います。

飯泉 私の家庭もずっと共働きを続けてきましたので、私も自転車で二人の子どもを保育園へ送っていましたが、大変というより楽しかったですね!

内永 J-Winでは、男性の意識を変えるために男性ネットワークという活動も行っています。男性の意識についてはどうお考えで すか。

飯泉 当社は男性育休100%をめざしています。徐々に取得率が向上し、期間を長く伸ばすフェーズに入ってきました。
男性社員の意識は徐々に変化していますが、さらに意識改革を進めなくてはならない。アンコンシャスバイアスやパターナリズムへの取り組みを加速していきます。

内永 海外の女性たちと話していると、育児や家事が大変という話は出てきません。サービスを利用するか、夫がやってくれるからだそうです。以前、優秀な男性の部下から、ニューヨークから西海岸に職場を移してほしいと頼まれたのですが、奥さんが西海岸にある銀行の副頭取になったから支えたいという理由でした。

飯泉 当社でも、家庭と仕事の両立を通じて、パートナーのキャリアアップをサポートしたいと宣言する男性社員も出てきました。

内永 女性たちが元気に、挑戦しようと思うためには、社長のリーダーシップが欠かせません。ぜひ今日のお話を社員の皆様に伝えていただければと思います。

飯泉 今後も、当社のダイバーシティ推進・女性活躍推進について見守っていただき、ご助言をよろしくお願いします。

株式会社日立ハイテクの皆様

PROFILE

日立ハイテク 飯泉氏飯泉 孝(いいずみたかし)氏  株式会社日立ハイテク 代表取締役 取締役社長
1985年日立製作所入社。日立ハイテクノロジーズ(現 日立ハイテク)の半導体計測システムの設計部長、科学・医用システムの事業戦略本部長を経て、2016年日立ハイテクソリューションズ代表取締役取締役社長。2017年日立ハイテクノロジーズ執行役、2019年執行役常務 CDO(Chief Digital Officer)兼DXプロジェクト本部長、2020年日立ハイテク執行役専務を経て、2021年より現職。

 

内永理事長内永ゆか子(うちながゆかこ) NPO法人 J-Win 理事長
1971年東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。 1995年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。2004年4月取締役専務執行役員。2007年4月NPO法人J-Winを設立し、理事長に就任。2008年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、2013年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。

※このインタビューは2022年4月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。