Executiveネットワーク

開催日:2022年01月12日

「J-Win Executiveネットワーク1月度定例会」を開催しました

「J-Win Executiveネットワーク1月度定例会」を開催しました。
今回の定例会はオンラインでの開催。Executiveネットワークメンバー52名が参加しました。
定例会第二部では、講師に東京ガス株式会社 執行役員 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長 矢加部 久孝氏をお招きしました。COP21以降、世界的な脱炭素化の流れが加速し、欧州を中心に世界中でカーボンニュートラルの目標が掲げられています。日本でも、一昨年10月、菅前首相が2050年カーボンニュートラルの実現を宣言し、METIも2兆円もの基金を準備して14の重点分野を設定。国を挙げての脱炭素化技術のサポート体制を整え、水素社会実現に向けての取り組みが加速化し始めました。
国内外の脱炭素化の取り組み、その中でも水素社会の実現に向けた政策と技術的な動向をご紹介いただきました。脱炭素に向けた潮流から日本の状況並びに企業としての取り組みまで一連の流れを学ぶ非常に貴重な機会となりました。

定例会 第一部

定例会第一部では、Executiveネットワークの活動報告から。先ずは、メンバー拡大において目標の10名達成が報告され、新メンバーの紹介がありました。引き続き、価値拡大委員会より提言の総論 『【JEN価値拡大活動】価値伝播プログラム』 の作成について報告されました。後進育成委員からは1/28実施予定のNext Stageネットワークメンバーとのラウンドテーブルについて、グローバルネットワーク委員会からは、12/6に実施した駐日女性大使メンタリング中間報告会について報告がありました。

定例会 第二部

第二部では、東京ガス株式会社 執行役員 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長 矢加部 久孝氏をお招きしてご講演いただきました。

(*肩書き等は講演当時のものです。)

講演 「国内外の水素・脱炭素化の潮流」
東京ガス株式会社 執行役員
水素・カーボンマネジメント技術戦略部長 矢加部久孝氏

気候変動の現状

IPCC第6次評価報告書(2021年8月)からも、人間の影響が大気、海洋、陸域を温暖化させてきたことに疑う余地はなく、また前例のなかったものである。気温上昇抑制の目標が2040年までに、早ければ2030年代半ばまでに突破され、海面水位が今世紀末までに2メートル上昇する可能性もある。向こう数十年の間に二酸化炭素とその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に地球温暖化は摂氏1.5℃の上昇、さらには2℃を超える。温暖化を抑えるには二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする必要がある。

 

国内外の脱炭素化の潮流

COP21にて「パリ協定」が採択され、2016年11月4日に発行。歴史上はじめて、全ての国が参加する公平な合意がなされた。世界共通の長期目標として温暖化を2℃以内、1.5℃に抑える努力を追求すること等、5項目が盛り込まれた。日本は、当時の安倍総理が首脳会合に出席し、約束草案の内容を2030年に、2013年度比CO2排出量を▲26.0%(2005年度比で▲25.4%)と伝えた。
2021年には、COP26が開催され、グラスゴー気候協定(Glasgow Climate Pact)、パリ協定6条での実施指針の採択、COP26 Beyond Oil and Gas Alliance(BOGA)の立ち上げなどがあり、またIEAのWEO(World Energy Outlook)2021(最新版)も発表された。現在の公約では、1.5℃上昇目標を達成するための排出削減目標量との差に大きなギャップがあり、そのギャップを埋めるためにはクリーンエネルギー、徹底した省エネ、人々の行動変容、イノベーションが必要であり、目標達成のために従来見通しの3倍の投資額が必要とされている。

各国、そして国内の脱炭素化の取り組み

EU・日本・韓国・米国が2050年にカーボンニュートラル、CO2実質ゼロ等を表明した。中国は2060年までにCO2実質ゼロにすると掲げている。世界の二酸化炭素排出量比較(総量:約335億トン)では、中国28.4%、米国14.7%、インド6.9%、ロシア4.7%、日本3.2%となっている。
国内では、2020年10月菅前首相が所信表明演説において、「2050年までに温室効果ガス排出をネットゼロにする」と宣言した。2050年カーボンニュートラル実現シナリオは、まず、電力のグリーン化を推進し、非電力分野をグリーン化された電力に移行、どうしても残る化石燃料分は植林、DACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)などでオフセットする。グリーンイノベーション成長戦略は、「燃料アンモニアと水素を統合」「次世代熱エネルギー産業」が新設されて、新たに14の成長分野が設定されている。熱エネルギーについては、電気による供給は難しく、ガスを利用した脱炭素化が重要となる。
また、脱炭素化へ向けての水素の活用が挙げられている。水素は、再エネ電力から水電解により製造可能であり、可搬性貯蔵性に優れ、再エネ貯蔵用・調整用のエネルギーとして、また、ガス体エネルギーとしても期待されており、カーボンニュートラル実現のためには重要である。

カーボンニュートラルに向けた東京ガスの取り組み

東京ガスは2021年11月にCompass Actionを公表した。1.「CO2ネット・ゼロ」への移行をリード、2.「価値共創」のエコシステム構築、3.LNGバリューチェーンの変革の3つの柱で構成。
2030年までをトランジション期、2030年以降2050年を脱炭素化期ととらえて、2030年に削減貢献1,700万トンを目標として各取組を進める。CO2ネット・ゼロに向けた具体的取組事例も多数ある。
日本ガス協会は2030年にガスのカーボンニュートラル化率5%以上、2050年にガスのカーボンニュートラル化の達成(CNメタン導管注入90%)を目標に設定した。

将来に向けて

地球温暖化による環境変化は著しく、地球規模での2050年カーボンニュートラルは日本を含む全世界の目標であり、温暖化抑制のためには必須である。東京ガスは2050年カーボンニュートラルを目指し、足下のトランジッション期にはエネルギーの高度利用、CNLやCCUSの活用、再エネの積極導入を進めながら、併せて将来に向けての技術開発を推進し、本格的な脱炭素化期に、水素、カーボンニュートラルメタンを活用して抜本的な脱炭素化を図る。脱炭素化は、個社で実現できるレベルではなく、すべてのステークホルダーの皆様と連携し、また、産官挙げての取組みを進めて、初めて実現するものと考えている。

~講演後の質疑応答より、メンバー質問の抜粋~

Q:ZEBの太陽光蓄電技術についてのお考えを教えていただきたい。
Q:テナントビルのZEB化がなかなか進まないというお話を聞いてそうだろうなと思いながら感じたのは、技術を深化させていくことと同時に、社会制度、税制面での優遇などのインセンティブがなければ、なかなか2030年、2050年の動きが作れないのではないか。
Q:海外におけるZEBの普及状況についても教えていただきたい。

~講演の感想 参加者アンケートより~

―世界の命題である温暖化防止対策を日本として明確な意思をもって進んでいくべきとあらためて感じました。今後も日本の動向、世界の動向を注視し、自分でできることは何かを常に考えて行動したいと思います。
―地球温暖化は地球に住む全人類の問題であり、他人事ではないことを同僚とも真面目に話し合いたい。社会課題を解決し、新たな価値を提供することを標榜しているので脱炭素に向けてどのようなことに取り組んでいる事例をしっかりと理解したい。
―日本は震災以降、火力発電に頼り、CO2削減が停滞していると思っていたが、時系列や国別比較をデータで見ると先進国の中では低く抑え、削減も実行できているのだとわかった。また、漠然と、設備投資して水素を活用すべきだと考えていましたが、ファイナンスが付いても、リターンが何時になるのか、安価なエネルギーとするには更なるアイデアが必要なのだと理解した。技術的な難しいお話もあり、消化不良ぎみだったが、事実を知ることが大切だと実感しました。
―カーボンニュートラルの考え方や手段の多様性やその背景で起こっているエネルギー会社の努力や技術革新を少し理解することができたので、今後のサステナビリティ経営の中に選択を持つことができた。

【矢加部 久孝 氏のPROFILE】

東京ガス株式会社 執行役員 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長 
1988年 東京大学物理工学科卒業 同年 東京ガス(株)入社
1991年 超電導工学研究所出向
1995年 東京ガス内研究所
1996年 筑波大にて博士(工学)取得
1997年~2009年 燃料電池の研究開発に従事
2010年~2019年 東京ガス内各研究所所長、燃料電池事業推進部燃料電池開発 Gマネージャー
2020年 基盤技術部長
2021年 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長 国内外委員等
・IGU(国際ガス連盟)のR&D&Innovation委員会 委員長、水素エネルギー協会 副会長、エネルギー資源学会 理事
・東京湾岸ゼロエミッション協議会 幹事、NEDO及び科学技術振興協会の評価委員