High Potentialネットワーク
開催日:2022年08月03日
「High Potentialネットワーク8月度定例会」を開催しました
8月3日(水)、「J-Win第12期High Potentialネットワーク8月度定例会」を会場(日本青年館ホテル:新宿区)とオンラインによるハイブリッド形式で開催しました。 会場45名、オンライン168名のメンバーが参加しました。
今回の定例会は、第30代日本銀行総裁で、青山学院大学特別招聘教授、J-Win理事の白川 方明氏をお迎えし、「日本銀行時代を振り返って皆さんに伝えたいこと―経済観と仕事の哲学」についてご講演いただきました。
講演「日本銀行時代を振り返って皆さんに伝えたいこと ―経済観と仕事の哲学」
第30代日本銀行総裁 青山学院大学特別招聘教授
白川 方明氏
本日の講演では、経済に関心を持つことの重要性と、自分の仕事の哲学について、私の日本銀行での仕事の実体験を踏まえてお伝えしたいと思います。
総裁時代の5年間を振り返って
私が日銀の総裁を勤めた5年間は、激動の5年間でした。リーマンショック、ユーロ危機、東日本大震災と次々と危機が襲い、国内政治も不安定で、2回の与野党政権交代がありました。
私の総裁時代、日本銀行の金融政策は様々な批判に晒されました。これはある程度避けがたいことです。世論や市場はどうしても短期的な動きに左右され勝ちですが、日本銀行の真価が問われるのは5年後、10年後にどのような帰結をもたらすのかということです。
私はそうした金融政策を決定する責任の大きさを常に感じながら仕事をしていました。
日本銀行が受けた批判は、(1)1990年代以降の日本の低成長の原因は物価の継続的な下落(デフレ)にある、(2)デフレは「貨幣的現象」である、(3)したがって、日本銀行は通貨量(マネタリーベース)を大幅に増やさねばならない、というものでした。
しかし私の理解では、日本の低成長の原因はデフレではなく、バブル崩壊、生産年齢人口の減少、グローバル化・情報通信革命への日本の経済・社会の対応の遅れにあります。
私が大事にしている経済観
自分なりの「経済観」を持つことは非常に重要です。
政策運営や企業経営において、短期的に正確な予測をすることもさることながら、経済や社会の大きなトレンドや変動について間違った判断をしないことの方がはるかに大事です。
そのためには自分なりの「経済観」を持っておかねばなりません。「正確に間違うよりも漠然と正しくありたい」というケインズの言葉に共感します。
私が大事にしている経済観を幾つか述べます。
インフレやバブル、金融危機は繰り返し起きていますが、それらの経済変動が生じる前には、多くの場合、楽観論が支配しています。1980年代後半の日本のバブルの際、多くのマスコミやエコノミストが金融引き締めに反対していたのはその一例です。また、過去の日本経済の大きな変動のほとんどは、円高に対する過剰な恐怖感から生じている、というのも私の経済観の一つです。
中央銀行の仕事
中央銀行の役割は、通貨価値を安定させることにより、経済の発展や基盤を支えることです。物価や金融システムを安定させるために、広い意味でのインフラを作るというイメージです。
短期的な利益と中長期的な利益は一致しません。人間は短期的な利益に目が行きがちだからこそ、中長期的な観点から通貨をコントロールする組織が必要になり、独立した中央銀行に金融政策を委ねるという考え方が生まれました。
私の仕事の哲学
日本銀行総裁としての仕事には大きな責任が伴いますが、私はプロフェッショナルとして、「内なる声」に正直にありたいという思いで仕事をしていました。謙虚さを失わず、あらゆる知恵を総動員し、理論、歴史、現場情報の収集により少しでも「正解」に接近する努力をすること大事だと思っていました。
学ぶための方法には「理論」、「現実観察」、「歴史」があります。
どれかひとつに偏重するのではなく、この3つからバランスよく学ぶことが大事だと私は考えています。
皆さんへのアドバイス
実践的なアドバイスとして皆さんにお伝えしたいのは、次のことです。
- 常に好奇心を持つ。読書と友人の重要性。
- 相手の話をよく聞く。
- 書くことは極めて重要。
- 「べき論」に飛ぶ前に、まず自らを主体的な立場に置いて考えてみる。
- 知的作業におけるインプットとアウトプットのバランスを意識する。
- 外国語の学習は絶対的に必要。
業種や企業によって必要な経済観は異なりますが、自分なりの経済観を持つことが重要です。そのために、日本経済新聞を毎日読むことも重要ですし、市況情報や経済統計を定期的にチェックする習慣も大事ですが、一番大事なことは大きな流れをしっかり認識することです。
日銀総裁時のご経験を踏まえたご自身の経済観、仕事に対する想い、自分なりの経済観を持つことの大切さなどをお伝えいただき、High Potential ネットワークメンバーはたくさんの気づきと学びを得ることができました。
質疑応答では、日本経済に関する熱い想いがこもった質問に、白川氏から丁寧にご回答いただきました。
定例会の最後に行われたグループワークでは、講演内容を自分自身や仕事においてどのように活かしていくかを共有することができました。
白川氏のお話を契機に、参加したメンバー全員が経済情勢を知ることの重要性を理解し、 視座を高くすること、知見を広げることの大切さに改めて気づくことができた、有意義な定例会となりました。
実行委員コメントより(抜粋)
「正確に間違うよりも漠然と正しくありたい」というケインズの言葉は知っていましたが、なぜ正しくありたいのかという、白川氏のご経験に基づいた言葉の重みに圧倒されました。 また、謙虚であること、文章に書きおこすこと(英語でも同様)など、すぐ実践できるアドバイスをお伝えいただいたので、意識して取り組んでいきたいと思います。