Executiveネットワーク

開催日:2022年07月13日

「Executive ネットワーク7月度定例会」を開催しました

JEN2022年7月定例会

7月13日、2022年度の第3回となるJ-Win Executive ネットワーク定例会を会場(グランドヒル市ヶ谷)とオンラインによるハイブリッド形式で開催しました。

研究会活動状況の報告に続き、東京大学経済学研究科教授 経済産業研究所 上席研究員(特任)の北尾早霧氏をお迎えし、「格差動向と制度改定が及ぼす影響~ミクロの動きがどうマクロに反映されるか~」をテーマにご講演いただきました。

講演 「格差動向と制度改定が及ぼす影響~ミクロの動きがどうマクロに反映されるか~」
東京大学経済学研究科教授 経済産業研究所 上席研究員(特任)
北尾 早霧氏

経済格差のトレンドとコロナ危機

コロナ危機以前の格差トレンド

北尾早霧氏現在、世界各国で格差が拡大し、労働市場の二極化・分断が政治問題化しています。
特に米国ではその傾向が顕著で、家計資産の分布をみてもそれは明らかです。
日本では人口構造の変化が格差に大きく影響しており、年齢別資産金額は60代がピークで高齢者が高く、年齢層間の格差が大きい傾向にあります。しかし同年代間でも徐々に格差は広がってきており、2000年以降は非正規雇用の割合が増加したことで、労働所得の格差も広がっています。

コロナ危機による変化と今後の格差への影響

コロナの影響ですが、GDP、失業率、賃金などのマクロな指標においては、大きな変化は見られません。ミクロな、個人に与える影響は不均質であり、マクロな数字ではあまり見えてきません。通常の経済危機においては、製造業、建設業、不動産業に携わる男性労働者への影響が大きいのですが、コロナ危機においては、対人性が高い産業で、決まった場所で働く職業の人により大きな影響が出ています。これらはコロナ危機以前から収入が低い層であり、格差が拡大しています。
コロナ後に格差はどうなっていくのかは、不確実な部分が大きいです。反動需要には限界がありますし、労働節約のための投資が行われて需要と供給の構造が変化しており、女性参加も頭打ちで牽引役もないため、二極化がより進むのではないかと懸念しています。

財政・社会保障制度改革の方向性

少子高齢化により、労働力不足と社会保障費増大はますます進んでいきますが、女性の労働参加がその問題を解決するでしょうか?
現状、女性の労働参加率は男性と同等になりつつあります。しかし、女性は非正規雇用が多く、正規雇用であっても男性より低賃金です。
配偶者控除、社会保険料3号、遺族年金制度の3つの制度が、女性の労働参加を阻んでいます。3つの制度をなくすと、女性の就業率、正規雇用率は上昇し、年収の上昇も見込めます。ジェンダーギャップが解消され、労働力が増加することにより、マクロ経済にも良い影響を与えると考えられます。そのため、今後の方向性としては、昭和の家族像から作られたこの3制度を廃止し、労働市場の流動化を強め、女性向けの政策を整えていく、ということになります。

欧州諸国では最近、出生率と女性の労働参加率はトレードオフではなくなっており、女性の労働参加と出生率低下。子育てとキャリア、どちらか選択を迫られる状況から脱却するには、働き方の多様性、労働市場の流動性を高めることが必要だと考えています。

質疑応答

講話後、JENメンバーの質問に北尾氏が一つひとつ丁寧に答えてくださいました。
その質疑応答の内容から一部をご紹介します。

  • Q:解雇は難しいと思うが、解雇規制を緩和する救済策としてはどのようなものが考えられるか?ベーシックインカム制度なのか?
  • A:ベーシックインカムは世界で実験されているが、財政的に難しく継続されていない。セーフティネットとしては、家族親族の助けを前提とした今の生活保護制度から、個人ベースに移すのがよいのではないか。

  • Q:配偶者控除などの税制の壁を取り払う動きは進んでいるのか?
  • A:政府はこれを解決すべき課題だと掲げてはいるが、政治的な動きは鈍い。現場でも、非正規労働者に頼らざるを得ない仕事があるのが実情だが、そのような仕事を残していることが、労働生産性の向上や技術革新を妨げている面もあるかもしれない。

  • Q:一括雇用が若者の安定就業を支えているといわれるが、労働市場の流動性を高めるとどうなるか?
  • A:女性のキャリアのためには労働の流動性を高めることが重要だが、企業にもそのメリットはある。一括雇用は最初の雇用コストが高くなることや、高齢の労働者も雇い続けなければならないという弊害もある。流動性を高めることで、企業と労働者がお互いに選べる状況になるのが望ましい。

データをふんだんに引用しながら、格差の動向、この動向の裏にある女性の働き方の実態、また、コロナ禍が格差に与える影響などについて、わかりやすく解説していただいた今回の北尾氏による講話。
ドリルダウンするにしたがって見える世界が大きく変わることを、Executive ネットワークメンバー全員が改めて意識し、表面的な情報に踊らされることなく本質を考えていくことの大切さを学ぶことができました。

JEN7月定例会参加メンバー