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発行日:2021年12月02日

「内永ゆか子のTOP INTERVIEW」第39回を掲載しました。

議論を尽くしてダイバーシティを推進

株式会社リコー 代表取締役 社長執行役員・CEO 山下良則氏

このインタビューは2021年9月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。

海外で気づいた多様性が当たり前の社会

内永 このたびは、J -Winダイバーシティ・アワード、ベーシック部門準大賞の受賞、本当におめでとうございます。今回、製造業での初受賞となり、非常にうれしく思っています。
山下社長のご経歴を拝見して勝手に納得しているのは、海外でのご経験が長いということです。そのことが多様性や女性活用への理解につながっているのではないでしょうか。

山下 初めての海外駐在は36歳のとき、ロンドンから車で3時間ほどの街にある従業員数約900人の製造拠点でした。社長は日本人駐在員で、私以外の経営チームはイギリス人のメンバーが5人いたのですが、その内2人が女性でした。この2人は人事とITを担当していたのですが、非常に優秀なことと、女性が会社の中枢にいて経営に携わっていること自体がとても新鮮でした。
7年間を過ごし、一度帰国し、今度はカリフォルニアの約1400人の従業員がいる製造拠点の社長として赴任しました。
ここでびっくりしたのは、従業員が26か国のルーツを持つ人で構成されていたことです。
赴任当初は英語すら通用しないことに困惑していましたが、アメリカ市場における自分たちの存在意義を共有するために一生懸命コミュニケーションしていくうちに、同じ目的を持って働く上において出身は関係ないと肌で感じることができ、多様性が当たり前のことになりました。
駐在期間は合わせて10年ほどですが、その前から中国やフランスの生産拠点の立ち上げを担当していたので、外国人との考え方の違いを理解することに苦労していました。こうした経験から、身をもって多様性の重要性を理解できたのだと思います。

イノベーションは多様性から生まれる

山下 帰国後に初めて本社勤務となったのですが、本社の従業員がスーツ姿の男性ばかりで、良い悪いではなく、素直に違和感を覚えました。
さらに忘れられないのは、『ワーク・シフト』の著者であるリンダ・グラットンさんの来日講演に行ったときのことです。「イノベーションを起こすポイントは?」と質問したところ、「日本は不思議な国。今日の聴講者は、日本人ばかりでみんなネクタイをしている。これではイノベーションは生まれない」と言われました。
私もこのままでは何も変わらないのではないかと思い、それ以来、内永理事長にご指導を頂きながら、ダイバーシティ推進を頑張っています。

内永 過去の成功体験ばかりを追い続けたIBMを立て直したルイス・ガースナー氏も「IBMを立ち直らせるには、カルチャーを変えるしかない。そのための多様性が必要だ」と言っていました。まさに、山下社長がおっしゃっていることとつながっています。帰国された2010年頃、御社では女性活躍推進の取り組みは始まっていましたか。

山下 WING(Women's Initiatives for Networking & Growth)という女性管理職のネットワーキング活動が行われていました。ラウンドテーブルに参加する機会があり、女性社員の悩みを全く理解していなかったことに気づきました。非常に優秀な人であっても遠慮があり、仕事を進める上においてプレッシャーを感じていました。それでもロールモデルになろうという意欲を持って頑張っていたのが印象的でした。
その後、社長になってから再びWINGのラウンドテーブルに参加したら、顔ぶれも大きく変わっていましたが、女性社員の発言や考え方に自信が感じられるようになっていました。女性活躍推進に取り組み、キャリアアップに向けた意識改革が進み始めたことを実感できました。

誰もが力を発揮するために働き方の選択肢を増やす

内永 2017年に社長に就任されてからは、どのようなダイバーシティ推進活動をされていますか。

山下 社長になって4つの全社プロジェクトを立ち上げました。その一つが多様な働き方の推進です。働き方の選択肢を増やし、全従業員が力を発揮できる環境を作っています。
アメリカに駐在していた頃、出張時の空港の待ち時間に、ビジネスマンがPCでゲームをしていたかと思えば、急に仕事をし始めたりする様子を見て、オンとオフの垣根が低いことにびっくりしました。アメリカ人のゼネラルマネージャーにそのことを言うと、「オフィスにいることが仕事だと思っている?」と言われてハッとさせられました。
その発想から、いつでも、どこでも仕事ができる環境を作りたいと考えました。2019年の段階で東京オリンピック開催に合わせ本社オフィスを2週間クローズすることを決め、デスクトップからノートパソコンに変え、リモートワークに対応するセキュリティ環境を準備しました。
結果的には、オリンピックではなく、新型コロナウイルス対策となり、昨年の新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言のときには一気にリモートワークに切り替えることができました。社員がどこで働いていようと、成果を出すことができればいいのです。リモートワークの導入をはじめ、全社で働き方変革を進めた結果、仕事が「見える化」されました。それぞれの仕事の意味を問い直す機会になりました。
また、誰がどの仕事をしているかも明確になりました。人材の見える化もできました。

内永 リモートワークは評価が難しいと言われていますが、どのようにお考えですか。

山下 2022年4月にリコー独自のジョブ型人事制度を導入予定です。導入目的は「実力主義の徹底」と「適所の高度専門性人材化」です。個人の成長に挑み、リコーグループに貢献しようとする社員にとってより良い制度にするよう検討を重ねてきました。来年度導入に向け、これから時間をかけて丁寧に説明していきます。

ディシジョンメイキングの場に多様な人材を

内永 女性活用は働き方や女性の意識の問題だと言われていますが、一番問題なのはオールド・ボーイズ・ネットワーク(以下OBN)だと思っています。男性の皆さんは「じゃあどうすればいいの? 女性に意地悪しているわけでもないし」とおっしゃいますが、要はOBNにある、仲間内だけで通用するの呼吸を明示化すれば、誰も排除されることがありません。女性活躍推進は、仕事の「見える化」が肝だと思います。

山下 仕事が見えるようになれば、男性にしかできないと思い込んでいた仕事がそうではないことに気づきますよね。

内永 御社では女性管理職比率をESG目標として設定され、2020年度の国内での実績は5・8%です。女性の管理職は増えていますが、もう少し比率を高めてはいかがでしょうか。

山下 そうですね。先ずは2023年3月末に7%を必達目標とし、ESG目標の達成状況を役員の評価項目に追加するなど、全社で取り組んでいます。また、部長職層に女性が少ないことも課題と思っています。

内永 ディシジョンメイキングできるところに多様な人材がいないと変革は難しいと思います。

山下 新入社員の女性比率は約35%に上がっていますが、それだけでは時間がかかるのでキャリア採用も積極的に行いたいと考えています。

内永 キャリアを積んできた女性はその数が少ないので、人材が流動化したとしてもパイは少ないままです。新卒からの育成と両軸で取り組んでいかれたらいいと思います。山下社長がこれから取り組んでいかれたいことはありますか。

山下 D&I全体に関してですが、私自身は不平等問題に取り組むイニシアチブである「Business for Inclusive Growth(B4IG)」のメンバーとしてデジタルディバイドについての問い掛けをしていますし、社員もJ -Winなど社外の活動に出ていき、事例を持ち帰って常時議論できる会社にしたいと考えています。制度だけを作っても限界はあります。議論が必要だと考えています。

内永 確かにその通りですね。実は日本の女性活躍支援のための制度は世界の中でもトップ10に入っています。しかし結果として表れてきません。多様性の中で、まず女性活躍を推進し、国籍やLGBTなどに横展開していきましょう。

PROFILE

山下良則 氏(やましたよしのり)
株式会社リコー 代表取締役 社長執行役員・CEO

1980年広島大学工学部卒業後、株式会社リコーに入社。 1995年RICOH UK PRODUCTS LTD. 管理部長、 2008年RICOH ELECTRONICS, INC. 社長、 2010年株式会社リコー グループ執行役員、 2011年 常務執行役員、総合経営企画室長、 2014年ビジネスソリューションズ事業本部長などを経て、 2017年より現職。 2021年6月より経済同友会副代表幹事に就任。

 

内永ゆか子(うちながゆかこ)
NPO法人 J-Win 理事長

1971年東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。 1995年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。2004年4月取締役専務執行役員。2007年4月NPO法人J-Winを設立し、理事長に就任。2008年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、2013年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。