Next Stageネットワーク

開催日:2021年10月12日

「J-Win Next Stageネットワーク第4回定例会」を行いました。

J-Win Next Stageネットワーク第4回定例会」を開催しました。
今回のオンライン開催にはNext Stageネットワークメンバー166名が参加しました。

多様性を推進するにあたって大切なことは何か、多様性に対応できる組織や仕組みはどうあるべきか、一人ひとりのマインド変革をどう実現していけばいいか、多様性の変遷をアメリカの憲法・歴史の観点から学び、「ダイバーシティインクリュージョン」とは何かを理解し体現するための"考えるヒント"をいただいた貴重な機会となりました。

アメリカの多様性

以下に講演の様子をダイジェストでご紹介します。
(*肩書き等は講演当時のものです。)

講演 「アメリカ合衆国憲法と多様性」
ーアメリカ人は多様性をどう考えてきたかー」
慶應義塾大学 名誉教授
阿川 尚之氏

多様性に関する2つの見方

与えられた命題が真であることを無批判に信じるのではなく、「考え直す」ことが重要である。そこで「多様性は本当にアメリカの長所、強みなのか?」と自らに問いかけてみた。多様性は長所、強みであると同時に、アメリカの欠点、弱みでもあるのではないか。多様性を肯定し維持するには、コストと手間がかかるし、かえって新たな対立や緊張を生むことも多い。国家の統一性の維持とも、しばしば衝突する。なかなか難しい。

アメリカ人は現在に至るまで長年「多様性の強み」を信じながら、同時に「多様性維持の難しさ」に直面してきた。日本では90年代まで、「多様性はむしろアメリカの弱み」であり、日本はホモジーニアス(同質)だから強いのだという考え方が優勢であった。その日本で、これほど多様性が重視されるようになったのは、日本人もより深く考えるようになったからなのだろう。しかし多様性を実現して日本の強みにするのは、たやすいことではない。
他の動物と同様、人間は元来、自分と異なる者を警戒する傾向がある。集団で固まって異質な集団に対抗し、必要なら戦って排除する。その結果、しばしば多数を占める集団が少数者の集団を圧迫し、彼らの異質性と自由を許さない。

したがって、多様な集団が平和のうちに共存するには、それぞれの集団が異質であることを互いに理解し、異質である自由を許容し合わねばならない。また異質であるもの同士の平等が欠かせない。しかし多様性の自由と、多様性の平等は、しばしば対立する。自由が過ぎれば、社会はバラバラになるし、平等を強制すれば自由が失われる。その上、平等には「機会の平等」と「結果の平等」があり、両者の間には、思想的また憲法解釈上の深い対立がある。

アメリカにおける多様性の歴史

アメリカにおける多様性の歴史は、植民地時代にまで遡る。マサチューセッツなど北西部の植民地の多くは、国教会の教義を否定するが故に英本国で迫害を受け、信教の自由を求めて新大陸へ渡った清教徒の人々が築いたものであった。それ以外にも様々な背景を有する13の植民地が、本国からの画一的な締めつけを嫌って、それぞれの独自性を保持するために独立する。彼らが一つにまとまって現在のアメリカ合衆国になっても、州の多様性は維持された。こうした歴史を背景にアメリカの多様性が誕生し、その後幾多の困難を乗り越えて、政治的・宗教的信条、地域、性別、人種、民族などの多様性に発展してきた。

こうして建国当初から「多数から一つへ」(多様性の中の統一)という標語を国是として掲げ実践してきたにもかかわらず、異質な存在に対する行き過ぎた非寛容、対立は今でも存在し、理想からは程遠い。しかし見方を変えれば、これだけ多様な価値観と信条、民族的人種的特徴を持った人々がなんとか国家としてまとまり機能しているアメリカは、依然として多様性の先進国である。
合衆国憲法にも、多様性の考え方が盛りこまれている。憲法制定反対派は、新しい中央政府が圧政に走り、州の独自性と人々の自由を奪うのではないかと恐れた。これに対して制定支持派は、むしろ州のような小さな集団の方こそ、特定の派閥が多数を占め、少数の自由を奪う危険性が高い。13の州が一つにまとまれば、より多様な利益が生まれ、特定の集団が常に多数を占め権力を独占する可能性が低くなる。人々の自由はよりよく保障されると説いた。現在のアメリカは確かに国内に様々な対立を抱えているが、異なる勢力間の対立が自由を守るという発想は今も生きている。アメリカは簡単に「ひとつに纏まらない」ほど多様であるからこそ、独裁に走る危険性が少ない。これまたアメリカの一つの強さなのかもしれない。

~全体の感想 参加者アンケートより~

・「ダイバーシティ&インクリュージョン」と当たり前のように言われている中でも、課題が多く多様性を推進するにあたっても、対策を立て進める必要があると感じた。
・多様性を解決するヒントとして、「ステレオタイプ」の見方は良くないこと、異なる意見を緩和するものとして、ユーモアの役目が大きいと感じたことなど、今後の行動に役立つ示唆に富んだ講義と質疑応答だった。
・有色人種が4割を占め、多様性が高いと言われる米国においても、想像以上に多様性のために軋轢などがあることを改めて感じました。発見と改めて捉え方を考えさせられるとともに、多様性の為に自らできることを考える良いきっかけとなる講演でした。
・日本では、Diversityと声高らかにうたわれるが、まだ芯がないように感じる。多様性と統一性の共存、多様だが対立、多様だが多様性は否定、禁止というように、諸外国においてもDiversityの捉えが異なる状況があることを理解した。機会の平等と結果の平等が興味深かった
・阿川先生が冒頭「FACTは何か。ISSUEは何か。与えられたFACTを信じるな」と教育されたことがその後に大きな気付きをもたらしたという点に共感し、自分にも取り入れる必要があると思えたこと、またアメリカの多様性社会の歴史を改めて学べたことで「真の多様性」への理解を深める意味で非常に役立つ学びであった。大変有意義であった。
・目指すべき多様性をより深く理解でき、大変だけど自分の組織で推し進めていくべきと認識し、まずは自分のチームの構成を変えようと決意しました。
・多様性は、今まで見ていない・見ようとしなかった他者を認識し存在を容認することになると考えている。あくまで個人主義の欧米では「容認」ではなく「無視しない」でも多様性になるのではないかと考えていたが気づきを得られたと思う。

【阿川 尚之氏のPROFILE】

慶應義塾大学 名誉教授
1951年生まれ。東京都出身。
慶應義塾大学法学部政治学科在学中に、米国ジョージタウン大学に留学。
慶應大学を中退後、ジョージタウン大学スクール・オブ・フォーリン・サーヴィス、
ならびにロースクール卒業。
ソニー、米国法律事務所を経て
1999年 慶應義塾大学総合政策学部教授
2002年-2005年 在アメリカ合衆国日本国大使館公使(広報文化担当)
2007年 慶應義塾大学総合政策学部長就任
2009年 慶應義塾常任理事就任
2016年 慶應義塾大学名誉教授、同年から2021年まで同志社大学特別客員教授。
他に西村総合法律事務所顧問、ヴァージニア大学ロースクール客員教授、 ジョージタウン大学ロースクール客員教授などを歴任