High Potentialネットワーク
開催日:2021年08月20日
「J-Win 第11期High Potentialネットワーク8月度定例会」を行いました
「J-Win 第11期High Potentialネットワーク8月度定例会」をオンラインにて開催し、219名のメンバーが参加しました。
今回の定例会では、第30代日本銀行総裁、青山学院大学特別招聘教授 白川 方明 様にご講演いただき、世の中の経済情勢を知る必要性を再確認し、現在より高い視座から企業発展のために必要なことについて考える機会となりました。
【ご講演内容/テーマ】
第30代日本銀行総裁、青山学院大学特別招聘教授 白川 方明 様によるご講演
視座を高め、知見を広げる / 世の中の情勢・動き
【本日のゴール】
世の中の経済情勢を理解し、企業発展のために何が必要かを、考えるきっかけにする。
【ゴールに関して】
本定例会で、世の中の経済情勢を知る必要性を再確認し、現在より高い視座から企業発展のために必要なことを考える契機とする。「目指す姿を明確に描き、主体的に活動することで、企業・社会に貢献できるリーダーに成長する」という活動方針の実践に繋げる。
以下に講演の様子をダイジェストでご紹介します。
(*肩書き等は講演当時のものです。)
講演「私の仕事の哲学」
第30代日本銀行総裁、青山学院大学特別招聘教授 白川方明氏
中央銀行の仕事
日本銀行での職業人生活を振り返ってみると、『偶然』と『意志による選択』の2つの要素が働いていたと感じる。
中央銀行は通貨の安定、すなわち物価の安定と金融システムの安定を実現することを目的としている。
通貨の安定が損なわれると社会、経済に大きな影響を与える。「狂乱インフレ」「80年代後半のバブル」「90年代のバブル崩壊後の金融危機」「欧米のバブルとその後のグローバル金融危機」など、通貨の安定が脅かされる事態を何度も経験した。
総裁時代はリーマンブラザーズの破綻、ユーロ危機、東日本大震災、2回の与野党の政権交代、頻繁な大臣の交代など、「激動の5年間」だった。金融危機や東日本大震災の時は金融機能の維持が最大の課題だった。デフレの問題をめぐっては激しい論争が展開された。エコノミストや与野党の多くの政治家は、デフレは「貨幣的現象」との表現を使い、日本銀行がお金の供給を増やせば簡単に解決すると主張したが、同意できなかった。日本経済の最大の問題は急速な高齢化を背景とする労働人口減少による潜在成長率の低下であり、生産性上昇率を引き上げることが不可欠の課題であった。物価が上昇しても、こうした根源的な問題は解決しない。
金融政策で潜在成長率を引き上げることは出来ない。出来ることは景気の平準化である。物価についても金利がゼロの状態で日本銀行がいくらお金の供給を増やしても上がらない。残念なことであるが、そうした分かりきったことを学ぶのに日本は随分と長い時間を要した。
総裁時代に大事にしていた事
良きにつけ悪しきにつけ、政策の帰結が本当に分かるには長い時間がかかる。それだけに短期的な評価を気にすると判断を誤る。総裁時代は、最終的に責任をとるのは自分だと覚悟して仕事をしていた。もちろん、中央銀行の能力には限りがあり、謙虚さを失ってはいけない。大事なことは多くの人の知恵を集めて、プロフェッショナルとして適切な判断が出来るように努めること。果断な決断と謙虚な姿勢のバランスをとりながら仕事をしないといけないと自分に言い聞かせていた。
仕事のモチベーション
私が日銀に就職した頃は、転職は一般的でなく、同期入行生もほとんどが30年前後勤めた。末端管理職になる前の入行後10年間は、知識も経験も乏しく、学ぶ時期。世の中はこう動いているのかと新たなことを知る喜びを感じていた。次の10年は初めて管理職に就いて、アイデアを考えて実践する、手触り感のある仕事が出来る時期だった。金融機関間の決済をリスクの大きい「時点決済」という方式からリスクの小さい「即時グロス決済」という方式に変えることを目的として、仲間と共に働きかけを行ったが、その時は実現しなくても、その後10数年ですべて実現した。課長になる前、そういう仕事の面白さがあった。初めての課長の時はバブル崩壊後の金融機関の不良債権問題に取り組んだ。当時世の中は危機意識が薄かったが、今から振り返っても実にやりがいのある仕事だった。
その後、国際的な会議に出席する機会が増えた。グローバル化すると重要なことはこういう場で決まることを実感し、こういうグローバルな場で活躍できる人間にならなければならないと思うようになった。 人間は「仕事人間」であってはならないが、仕事に従事する時間は長い以上、仕事はその人の幸福感を大きく左右する。仕事のモティベーション。金銭的報酬もあるが、決定的な要素ではない。自分の仕事は世の中に役に立っているという満足感、仕事を通じて自分が成長しているという感覚も大きなモティベーション。仕事が面白ければ「仕事」をしなくてすむ。他者から評価。組織の中での昇進はモティベーションに影響するが、昇進は実力だけでなく運にも左右される。パフォーマンスの評価。これは自分のコントロール外の影響を受ける面もある。そして、人間は他人から受ける温かい言葉によってモティベートされる。日本銀行を辞めた後、公園の売店の店員さんが「白川総裁、5年間お疲れ様でした。」とソフトクリームをご馳走してくれることがあったが、大変嬉しかった。
いかに学ぶか
好奇心がすべての出発点。好奇心を持って、問題意識を持つ事が重要。自分が問題意識を持っていないと情報は右から左に流れていく。「もし自分が政治家(経営者)であったら、どう考えるだろう」と、自らを主体的な立場に置いて考える習慣を付けることを勧める。情報は無数ある中で、何が起きていて何が本質なのかを考えることを心掛けていた。一旦は相手の立場に立って考えてみる。本を読んだり人と会うことは貴重なインプット。しかしインプットに偏ることは良くない。アウトプットが必要。これを意識することで、インプットの仕方も変わる。このバランスが大事である。人との会話に当たっては相手の話を遮らない。遮ると自分の学ぶ機会を失う。理論はどの理論を選ぶかが大事。歴史から学ぶことも大事。読んだものを単純に信じ込まないで、自分の頭で考えることが最も大事である。
ワークショップ
講演終了後は白川氏との質疑応答に続き、ワークショップを実施。
聴講した11期生には「ご講演を拝聴して、気づき、学んだことは何ですか?」「経済・社会情勢について得た情報を、今後の業務に活かせそうなことは何ですか?」などのテーマが与えられました。個人ワーク後におこなわれたグループワークでの意見交換では、お互いの気付きを共有するとともに自らの仕事に活かしていくための考えを深めていくことができました。
講演の感想 ~参加者アンケートより~
- 世の中のこと、企業発展のため、といったお題目がつくと難しく感じてしまうが、白川様のご講演を聞いて、「相手の立場やより広い視野で物事を考えること」が理解や思考のきっかけであると感じることができ、その一歩は踏み出せたと思う。
- 自社のみならず他社も含めた業界の動向や、日本・海外の経済情勢を把握する事は、企業発展を考えるうえで非常に重要であると感じた。世の中の動きの変化を捉え、柔軟に対応出来る広い視野をもてるよう頑張りたい。
- 当事者意識を持つことや相手の立場になって考える、アウトプットとインプットのバランス、ヒトの話を聞くという、どんな仕事にも共通する内容で、かつトップになっても人を大切にして謙虚な姿勢を持つことの重要性を学びました。
- 「好奇心がすべての出発点」というお言葉が特に印象的でした。今は好奇心のタネをたくさん蒔く時期なのではないか、J-Winでの分科会活動もそれにあたるのではないかと感じました。
【白川 方明 氏のPROFILE】
1949年 福岡県生まれ
1972年 東京大学経済学部卒
1972年 日本銀行入行
1975年-1977年 シカゴ大学留学(経済学MA)
2002年 日本銀行理事
2006年 京都大学公共政策大学院教授
2008年3月 日本銀行副総裁
2008年4月 日本銀行総裁就任
2011年1月-2013年3月 国際決済銀行(BIS)理事会副議長
2013年3月 日本銀行総裁退任
2013年9月 青山学院大学国際政治経済学部特任教授
2018年9月 青山学院大学特別招聘教授
現在 青山学院大学特別招聘教授 Group of Thirtyメンバー