J-Winでは、「2017 J-Winダイバーシティ・アワード」の調査データより、参加企業における女性登用の実績と、具体的な取り組みの傾向を分析しました。
あわせて、今回のアワードで企業賞を受賞した４社より寄稿いただいた、各社のダイバーシティ＆インクルージョン（D&I）の優れた取り組みを以下にご紹介します。

【目　次】
■2016年度J-Win会員企業におけるD&I推進状況
■「2017 J-Winダイバーシティ・アワード」受賞企業４社の取り組み紹介
・ 株式会社リクルートホールディングス
・ 損害保険ジャパン日本興亜株式会社
・ 日本航空株式会社
・ 日本たばこ産業株式会社
（＊企業名は受賞当時、執筆者の肩書き等は本原稿執筆当時のものです）

【「2017 J-Winダイバーシティ・アワード」詳細はこちら】
【受賞結果・授賞理由はこちら】

（出典：2017 J-Winダイバーシティ・アワード 全体報告書）

女性登用の実績と推移
管理職一歩手前までのパイプライン形成が進む。社外取締役を中心に女性役員が増加
　応募企業全体の職位別女性比率における2016年実績は、管理職層では課長職が10.7%、部長職が6.0%、役員が5.5%（社外取締役含まず）であった（図1）。職位ごとの女性比率を比較すると、ベースとなる正社員の女性比率27.5%に対し、管理職一歩手前は20.8%であり、管理職候補である管理職一歩手前までの育成が進んでいることがうかがえる。一方、課長職の女性比率は、管理職一歩手前から10.1ポイントも低下しており、最初の管理職への昇進は課題である。

図１. 2016年度職位別女性比率（応募企業の全社平均）※ 役員：社外取締役を含まず

　女性役員の登用は、社外取締役を中心に進んでいる。社外取締役を含む全役員における女性比率は、2016年6.9%であり、社外取締役のみの女性比率は18.7%に達している。女性役員が一人以上いる企業は、2014年調査の51％から10.9ポイント増加し、61.9%となっている。女性役員がいることは普通となりつつあり、今後は女性役員の社内からの抜擢が期待できる。
　応募企業全社の課長職と部長職を合わせた管理職における2016年の女性比率は、9.4 %であり、過去3年（2014-2016年）の管理職の女性比率の年平均伸び率は9.9%であった（図2）。2015年調査（2013-2015年）の年平均伸び率9.4%とほぼ同程度である。新たな管理職候補の人材の発掘と育成に時間を要していることが示唆される。
　将来予測においては、過去3年の平均伸び率9.9%で推移した場合、2020年における管理職の女性比率は13.7%であり、政府の初期目標である2020年30%に届かず、さらなる加速が必要である。

図2. 管理職（課長職・部長職）の女性比率推移と将来予測

女性採用と定着の実績と推移
過去3年、女性採用は強化。平均勤続年数の男女差異は改善傾向
　応募企業全社における女性採用は、全社平均で38.1%（新卒およびキャリア採用含む）であった。在籍社員の女性比率27.5%を10.6ポイント上回り、女性採用が強化されており、この傾向は過去3年続いている。一方、定着の指標である平均勤続年数の男女差異指数（女性の平均勤続年数÷男性の平均勤続年数）は、全社平均0.77で、2014年調査の0.74からやや改善している。今後の鍵は、こうした女性採用強化と定着の改善を基に、管理職一歩手前まで進みつつあるパイプライン形成をさらに進めて、管理職登用へと結びつけることであるといえる。

女性活躍推進のための取り組みの傾向
D&I推進を目的とした管理職対象の取り組みが増加
　応募企業のうち90.5%の企業が女性管理職の数値目標を設定している（図3）。女性活躍推進の取り組みは、これまで女性社員へ働きかける施策が中心だったが、女性の育成を担う管理職に対する研修が増加傾向である。D&I推進の全管理職への研修は、2014年調査の40.7%から24.4ポイントアップの65.1%まで伸長している。先進企業では女性社員と直属上長が同時に参加する研修を行っている。
　女性の意識改革については、メンタリング制度の導入企業が増加し、2014年調査の55.9%から、13.9ポイントアップの69.8%に伸長した。女性ネットワークの設定やロールモデルの提示は高い実施率を維持しており、経営トップや役員がより積極的に女性の育成に関与する傾向がうかがえる。
　また、フレックス勤務制度は一定の実施率を維持し、在宅勤務制度は2014年調査57.7%から、16.9ポイントアップの74.6%まで実施率が上昇している。参考までに、サテライト/リモートオフィスを全社員対象に展開している企業は、2015年調査の約2割から5割となり、場所と時間の制約から解放される柔軟な働き方の施策の一つとして導入が拡大している。

図3. 取り組みに関する経年変化

J-Winとしては、女性活躍推進のためには、「経営トップのコミットメント」「D&I推進実行体制」とともに、「管理職のアカウンタビリティ」「女性の意識改革」「働き方の変革」は重要な取組領域であると考えており、さらに男性の意識改革を含めて今後の積極的な取り組みが期待される。




リクルートグループのダイバーシティ推進の進化
株式会社リクルートホールディングス　サステナビリティ推進室　室長　伊藤 綾 氏

経営理念の実現に向けたダイバーシティ推進
当社では、経営理念である「個の尊重」の実現のため、ダイバーシティ推進に取り組んでいます。 まずは男女の性差なく従業員一人ひとりが能力を発揮できることが重要であるとし、2006年以降、女性活躍推進から着手いたしました。これまで、女性従業員の活躍・家庭と仕事の両立支援を中心に取り組んできた結果、女性課長比率は2006年度の10％から2016年度では27％まで上昇するなど、女性活躍の体制作りが進んできました。現在は①女性の意識改革・スキル面からの活躍支援、②管理職の理解促進、③働き方の変革の三点を重点テーマとしている他、多様な人材の活用に向けて、男性の家事・育児と仕事の両立、介護、LGBTなどのテーマにも取り組んでいます。その背景には、経営トップの強いコミットメントと、グループ各社が連携しシナジーを生み出す組織体制があります。

経営トップの強いコミットメントのもと、３つの観点から女性活躍を推進
① 女性の意識改革・スキル面からの活躍支援では、経営幹部候補の女性を対象に「自身の成し遂げたいこと」を言語化し、その実現手段としてリーダーを志すことを促すリーダーシップ研修「Women's Leadership Program」や、課長任用候補の女性従業員を対象に、経営トップ・外部講師による自社のケーススタディを通じたスキル・マインドセット研修などを実施しています。
② 管理職の理解促進については、女性従業員の上長を主な対象に、女性の成長を加速させるために現場で実践できるマネジメント方法を学ぶ研修に加え、昨年度より「育児をしながら働く」体験をきっかけとしたダイバーシティ＆インクルージョンの推進を目的として、管理職が実際に育児中の家庭で育児インターンを体験する「育ボスブートキャンプ」を実施しています(中核会社・リクルートマーケティングパートナーズ)。
③ 働き方の変革においても、サテライトオフィスを東京近郊35カ所（2017年6月現在）に設置し、一部にはキッズスペースを併設するなどの設備面と、グループ全体で（一部除く）5社約4,000人のリモートワークの導入を進めるなどの制度面の両面から育児と両立する従業員の不安や負担を軽減し、子育て世代のより柔軟な働き方を支援し、働き方変革の目的であるイノベーションの創出を実現出来るよう取り組んでいます。

すべてのステークホルダーに向けたダイバーシティ推進の展開
リクルートグループでは、ダイバーシティ推進の取り組みを社内に限定せず、すべてのステークホルダーを対象に行っています。2015年よりスタートした「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る」社会を目指す「iction!」プロジェクトでは、育児との両立支援のナレッジ公開や、育児しながらでも働きやすい時短ジョブの創出、限られた時間で成果を出す新しい働き方（ZIP WORK）の提示などを行っています。
今後も社内・社外のステークホルダーとともに、女性活躍に留まらない多様な人材の活用に向けてダイバーシティ推進に取り組むとともに、経営理念の実現に向けて、事業を通して社会からの期待に応えることができる企業グループを目指して参ります。

管理職が実際に育児中の部下の家庭で育児インターンを体験する 「育ボスブートキャンプ」

女性活躍推進に留まらない、多様な人材の活用をめざした 「Be a DIVER!」プロジェクト

「Diversity for Growth」多様性を企業の力に
損害保険ジャパン日本興亜株式会社　人事部 ダイバーシティ推進グループ　業務課長　上西 優子 氏

経営戦略としてのダイバーシティ＆インクルージョン
　損保ジャパン日本興亜では、「Diversity for Growth」をスローガンにダイバーシティ＆インクルージョンを当社の成長に欠かせない重要な経営戦略と位置づけています。
経営トップ自らが強いリーダーシップを発揮し、女性活躍推進に積極的に取り組んでおり、社員の6割を占める女性の活躍なしに当社の業績向上はありえないと考えています。

女性リーダーの育成・登用に向けた取組み
女性管理職比率をはじめとした明確なＫＰＩ（重要業績評価指標）を設定、女性経営塾、プレ女性経営塾、キャリアアップ研修などといった階層別の研修を充実させ、また、役員自らがメンターとして、新任の女性リーダーの育成を担っています。
特に、当社は全国に営業網をもっており、また、国連の「女性のエンパワーメント原則」（WEPs）署名企業として、地方自治体や地元企業とも連携し女性活躍推進に注力しています。地域ごとに自発的に女性活躍推進の取り組みを進めており、女性の異業種交流、ネットワーク構築に力をいれています。すでに全国２０か所以上で展開しています。
こうした取り組みを重ねた結果、平成24年度に3.9%だった女性管理職比率は、平成27年度末には12.3%に増加。平成32年末には30%達成を目指しています。

ワークスタイルイノベーション
男性が多数を占めるマネジメント層が意識を変え、長時間労働で成果を上げる従来の方法ではなく、時間当たり生産性を高めなければならない意味や時代背景を伝え、テレワークやシフトワークを活用しながら生産性を高める働き方を推進しています。管理職向けの任意の研修として、テレビ会議などを通じた「イクボスセミナー」を開催してきました。イクボスは①部下のライフワークバランスやキャリア支援②組織業績向上③自身のライフワークバランスの３つを果たす必要があり、特にこれからの時代は部下に時間制約社員が多くなってくるので、それらのメンバーでどのように組織運営していくのか、また、マネジメント自身が生産性向上で生み出した時間をどのようにインプットに役立てるか、ということを伝えています。

当社の取組もまだ道半ば。今回の受賞は、今後の取組への更なる期待と受け止め、「Diversity for Growth」の実現に向けてスピード感をもってチャレンジしてまいります。

損保ジャパン日本興亜の研修体系

新たな価値を創造するためグループ全体でダイバーシティを推進
日本航空株式会社　人財戦略部　部長　福家 智 氏

JALグループは、世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社になることを目標に、新たな価値を創造するため、社員一人ひとりの「能力」「経験」「感性」「価値観」を活かし、多様な人財が活躍できる会社を目指しています。
　このため、ダイバーシティ推進を経営戦略に位置付け、「JALフィロソフィ」という社員の基盤となる考え方をベースに意識改革や制度の整備、ワークスタイル変革などに取り組んでいます。

トップダウンとボトムアップの両輪で推進
ダイバーシティ推進の方針は、社長から全グループ社員に対し2011年以降継続的にメッセージを発信しています。2014年には、女性を始めとする多様な人財の活躍推進は経営戦略であるというダイバーシティ宣言を行い、「2023年度末までにJALグループの女性管理職比率を20%とする」という数値目標を設定しました。
また、2015年11月に社長直轄の組織横断的組織「JALなでしこラボ」が発足。グループ会社のダイバーシティ推進担当者が集まり、施策の進捗状況や課題について意見交換する「グループプロジェクト」とグループからメンバーが集まりダイバーシティに関する研究、提言などを行う「なでしこラボプロジェクト」の２つの活動を通じ、グループ一体となった草の根レベルでの取り組みを行っています。

女性活躍推進施策の質の転換　～「働く」を支援に～
2014年度から2017年度までを就労継続推進期と位置付け、それまでの「休む」を応援するケア施策から「働く」を支援するフェア施策に質を転換し、「意識改革」と「環境の整備」を重点的に取り組んできました。
「意識改革」の取り組みとして、育児休職者座談会や休職前・復職前後の面談、役員と30代女性社員によるグループメンタリングなどを実施するとともに、30代手前の女性社員を対象とするキャリア研修、海外勤務など鍛えられる仕事へ積極的に職域・配置先を拡大してきました。
また、女性活躍推進には男性上司の意識改革が不可欠です。管理職が経営戦略としてのダイバーシティの意義を理解し行動できるよう、管理職を対象とする研修やフォーラム、社内報などで意義を繰り返し共有するとともに、35歳以下の女性を部下に持つ管理職と人事部門が面談し、育成計画の擦り合わせを行ってきました。
この結果、2015年度のES調査では2年前に比べ「上司はメンバー１人ひとりの成長を考えた仕事の割り当てをしているか」「上司はメンバーの仕事ぶりを事実に基づいて公平に評価しているか」「自分の将来にビジョンを明確に描けるか」という項目で、30～39歳の女性の評価が大幅に改善しました。

ワークスタイル変革による「環境の整備」
時間当たりの生産性を向上させ、生み出した時間で社員自身が成長するとともに付加価値の高い仕事の成果で会社も成長する、という考えに基づきワークスタイル変革に取り組んできました。
ペーパーレス化やワークショップの開催、「会議は17時半まで、電話メールは18時半まで、20時までに退社」という業務ルールの徹底、勤務実績の見える化といった意識改革とともに、携帯電話などのITツールや在宅勤務制度の導入など時間や場所に捕らわれず勤務可能なインフラ整備に取り組みました。この結果、活動開始後約半年で間接部門の残業が削減できました。 これらのインフラ整備に加え、今後はテレワークの更なる推進や業務プロセスの棚卸し・効率化などの活動を通して、年間総実労働時間1,850時間の達成を目指しています。
JALグループは、今後も女性を始めとする多様な人財が活躍する会社を目指して、グループ一体となって様々なダイバーシティ推進の取り組みを進めてまいります。

日本航空のダイバーシティの考え方

「JALなでしこラボ」を担当する大川代表取締役専務執行役員（J-Win 0期メンバー）と 第2期研究活動メンバー

JTグループの持続的成長を支えるための多様化推進
日本たばこ産業株式会社　多様化推進室 室長　和中 悠子 氏（2017年6月時点）

違いに価値を見出す
　JTでは、性別、性自認、性的指向や年齢、国籍だけではなく、経験、専門性など、異なる背景や価値観を尊重し、違いに価値を見出すことが、会社の持続的な成長に繋がると考えています。多様化（ダイバーシティ）の推進は、経営計画の課題のひとつとして位置づけられており、2013年に多様化推進室を発足させ、多様化の推進に取り組んできました。
「多様な人財が継続的に活躍可能な環境づくりを行うことで、将来にわたる事業競争力の強化／持続的成長に資すること」を多様化推進の目指す姿として掲げ、〝さまざまな能力を持った人財が、プライベート等の事情によりキャリアを諦めたり、活躍の場を限られたりすることがないよう会社の仕組みや風土を整えていくこと″や〝異なる知識や経験のバックボーンを持つ者が集い、彼ら自身が持つ知を掛け合わせていくことでイノベーションを生み出しやすくしていくこと″などJTグループの持続的成長の支えには、多様化の推進が不可欠であると考えています。

３領域を中心とした多様化を推進
　具体的には、「キャリア支援」「風土醸成」「環境整備」という３領域を中心とした取り組みを行っています。
「キャリア支援」では、階層に応じた女性社員の成長支援として各種研修・セミナーを実施するとともに、個別CDP管理として、管理職候補の女性社員を全部門で選定、個別の育成計画を作成、それに基いた個別面談、アセスメント、配置・異動などを実施しています。また、各人のキャリアに関する働きかけとして社内交流会やイントラネットを通じたロールモデルの提示なども行っています。
「風土醸成」では、経営トップ自らの継続的なメッセージ発信を始め、管理職の意識・行動変化を促進するための各種研修・Eラーニングなどを実施するとともに、多様化推進の重要性をメッセージとして発信し社員全体への意識醸成を図っています。
「環境整備」では、仕事と家庭の両立を支援するため、育児・介護等の制約を抱える社員向けに国内でも最高水準の制度（図表1）を設けています。また、多様な働き方の実現に向けた取り組みとして制約の有無を問わず活用できるフレックスタイム・弾力勤務・テレワークを制度化し、幅広く活用されています。

さらに、マイルストーンとして女性管理職の比率を2018年までに5%、2023年までに10%と設定しています。上記を始めとした取り組みの成果として、2017年6月には5.0%と2018年の目標を1年前倒しで達成するに至りました。
今回の受賞を契機に、今後もJTグループの持続的成長に向け、多様な人財の更なる活躍を推進してまいります。

仕事と家庭の両立支援制度
	休暇・休職制度	補助制度	柔軟な働き方
育児	産前産後休暇、妻産休暇、育児休職、早期復職支援休暇	保育料補助、延長保育利用料補助、ベビーシッター利用料補助	短時間勤務の措置、所定労働時間外労働の免除、深夜勤務の免除
介護	積立休暇、介護休職	介護費用補助

多様化推進ロゴマーク