J-Winダイバーシティ・アワード調査からみる、女性リーダー輩出パイプラインとダイバーシティ推進施策の実施状況をまとめたデータです。

【　2010 　J-Winアワード調査レポート（サマリー版）　】

【　調査結果の要旨　】

1. 女性リーダー輩出状況（各層の女性比率）について

   2009年度における、総合職、新卒採用、管理職の一歩手前レベル、課長レベル、部長レベル、役員レベル、の各層における女性比率を算出し、いわゆる「女性リーダー輩出パイプライン」の形成状況を調べた。

   1. 業種別にみると、管理職の女性比率が高いのは、「サービス・流通・その他」で、課長13.1％、部長3.5％、役員4.4％である。
      「金融・保険」がそれに肉迫し、課長10.0％、部長4.1％、役員2.4％、と部長では「サービス・流通・その他」を抜いている。
      三番手は、「情報・通信」で、課長6.3％、部長3.0％、役員1.5％となっている。最も低いのは「製造」で、課長4.3％、部長3.1％、役員3.9％である。
      課長の比率でみると、「製造」は4.3％であり、「サービス・流通・その他」の1/3、「金融・保険」の1/2となっている。
      
      昨年度と比較すると、全体では、課長は6.1％→7.6％、部長2.5％→3.4％、役員1.7％→3.2％と伸びている。　各業種とも伸ばしているが、特に、「金融・保険」は、課長6.6％→10.0％、部長2.3％→4.1％、役員0.9％→3.9％と、大幅な伸びを示している。
   
   
   2. パイプラインの形成状況を業種別にみると、次のような特徴がある。
      「情報・通信」が一番パイプラインが太く、総合職女性比率は19.9％と「製造」ついで低いが、一歩手前の女性比率は15％とその7割以上、課長比率は6.3％とその4割強、部長は3.0％とその半分となっている。
      
      管理職の女性比率が一番高い「金融・保険」は、総合職女性比率が42.7％であり、一歩手前の女性比率は、その6割の25.8％、課長比率はその4割、部長はさらにその4割であり、パイプライン形成度合いは、「情報・通信」の後塵を拝している。
      
      女性比率が最も低い「製造」は、そもそも総合職女性比率が17.9％と低いが、 一歩手前の女性比率は10.1％とその半分強、課長比率はその半分以下の4.3％、部長は3.9％とその7割であり、細いパイプラインは形成されつつある。
      
      「サービス・流通・その他」は、総合職女性比率は21.4％であり、一歩手前の女性比率は25％と1.2倍、課長の女性比率は13.1％とその半分、部長の女性比率は3.5％とその3割以下となっている。課長までは4業種の中で一番太いパイプラインだが、課長から部長の壁が大きいことが推測される。
   
   
   3. 企業規模別に見ると、総合職の女性比率はそれほど大差はないが、管理職の女性比率は、企業規模が大きくなるにつれて、やや低くなる傾向がみられる。
      特に、従業員数3万人以上の超大企業では、「一歩前」比率はかなり高い（24.2％）のに、課長4.4％、部長1.0％、役員0.0％、と激減する。
      超大企業で、シニアマネジメントレベルに女性が登用されるのには、大変大きな壁があるようだ。
   
   
2. ダイバーシティ施策の領域別の進捗状況について
   
   

   ダイバーシティ施策を、次の6つの領域について、企業カテゴリー別にその進捗状況を調べた。

   1. 経営トップのコミットメント
      ①トップの発信　　②役員･管理職への期待、役員研修　　③経営計画への組込み
   
   
   2. ダイバーシティ推進実行体制
      ①組織体制　②目標設定（KPI、レビュー）　③社員調査　④社内外のコミュニケーション
   
   
   3. 管理職のアカウンタビリティ
      ①管理職への情報発信　②ダイバーシティ推進の重要性認識の取組み
      ②管理職評価　④シニアレベルの女性候補者
   
   
   4. 女性のキャリア開発･育成･登用
      ①女性のネットワーキング　　②女性の育成プログラム　　③メンター制度 ④女性登用の仕組み ⑤女性対象の取組み
   
   
   5. 多様な働き方の促進
      ①キャリアのフレキシビリティ　　②働き方のフレキシビリティ
   
   
   6. 業務･評価プロセスの「見える」化
      ①業務プロセス･判断の見える化の取組み　　②昇進･昇格の基準の明示
      ③社内人材・必要能力要件・キャリアパスの明示
   
   
   1. 昨年度と比較して、各設問のハードルを上げているので、全体的に、得点率は低くなっている。
      ファイナリスト11社の平均をみると、どの領域も進捗が進んでいて、領域間の差も大きくはないが、ファイナリストと、それ以外の企業の得点率を比較すると、一番ギャップが大きいのは、「管理職のアカウンタビリティ」（43％差）である。
      次に、「経営トップのコミットメント」（38％差）、「女性の開発・育成・登用」（37％差）、「ダイバーシティ実行体制」（32％差）が続く。
      それに比べると、「多様な働き方の促進」（23％差）、「プロセスの見える化」（25％差）は、比較的ギャップが小さい。
   
   
   2. 業種別にみると、
      「金融・保険」が、すべての領域において、得点率が一番高い。特に、「経営トップのコミットメント」（83％）、「管理職のアカウンタビリティ」（45％）、「女性の開発・育成・登用」（58％）、は他の3業種よりも高い。
      今、一番、業界として女性活躍に力を入れはじめているのが金融業界であり、それがここにも顕著に表れている。
      
      「製造」は、他業種に比べると得点率が低い領域が多く、特に「経営トップのコミットメント」は50％と、「金融・保険」に比べて33％も低い。
      ただし、「多様な働き方の促進」（56％）、「プロセスの見える化」（65％）は、「金融・保険」と並んでトップである。
      これは、女性活躍とは別の文脈（業務改革プロジェクトなど）で導入されている施策が多いと思われる。
      
      「情報・通信」は、「金融・保険」に次ぐ得点率であり、「ダイバーシティ実行体制」は「金融・保険」と同じ得点率だが、それ以外の領域は、「金融・保険」に比べて約10％下回っていて、10％低いレベルで同じ傾向を示している。
      
      「サービス・流通・その他」は、全ての領域において低い得点率となっている。
      ここにはさまざまな業種・レベルの企業が入っていることが影響しているのかもしれないが、「多様な働き方」「プロセスの見える化」が他の業種に比べて低く、働く環境面でも課題があることが伺える。
   
   
   3. 企業規模（正社員数）でみると、概して、企業規模が大きくなるほど、各領域とも得点率が高くなっている。
      但し、1,001～5,000人規模の企業は、どの領域についても、得点率が低いが、特に「経営トップのコミットメント」（42％）、「ダイバーシティ実行体制」（40％）、「管理職のアカウンタビリティ」（17％）は、他の規模の企業に比べて、極端に低い。
   
   
   4. 女性社員（正社員）比率でみると、
      女性比率が40％以上の企業（「金融・保険」業界が多い）が、各領域とも得点率が高いが、特に「経営トップのコミットメント」（83％）、「ダイバーシティ実行体制」（77％）、「女性の開発・育成・登用」（53％）、は他の企業よりも高い。
      このゾーンには、「金融・保険」業界が多く、業界として女性活躍促進に力を入れていることが反映されている面もあるが、女性比率が40％以上と男性とほぼ互角の比率になると、企業として女性活躍促進は当然のこととなってきていることも推察される。
   
   
3. 上位企業とその他企業を分ける施策領域　（業種別）
   
   

   業種別に、一次審査得点の上位企業（3社）と、それ以外の企業とについて、施策領域の進捗度の違いを調べた。
   これによって、業種別に上位企業との差を特徴づける施策領域を探った。
   

   ＜　製造業　＞

   1. 上位とその他企業で一番差があるのは、「経営トップのコミットメント」（42％差）であり、「女性の開発・育成・登用」（38％差）、「ダイバーシティ実行体制」（29％差）がそれに次ぐ。
      企業規模が大きい企業が多く、且つ女性比率が低いという製造業においては、まず、経営トップの強いリーダーシップと推進体制、女性社員に直接働きかける施策が重要であることが伺える。
      しかし、上位企業においても「管理職のアカウンタビリティ」の施策状況は、他の領域に比べて低く、業界全体の課題である。
   2. 逆に、「プロセスの見える化」については、ほとんど差がない（6％差）。
      これは、ダイバーシティ推進とは別の取組（業務プロセス改善活動など）として、製造業界全体として取り組んでいるからであると思われる。

   
   

   ＜　金融･保険　＞

   1. 上位とその他で一番差があるのは、「管理職のアカウンタビリティ」（30％差）であり、次いで「ダイバーシティ実行体制」（26％差）、「女性の開発・育成・登用」（22％差）となっている。
      ただし、他の業種よりも、上位とその他企業の差がそれほど大きくないのが「金融・保険」の特徴である。
      業界全体として、ダイバーシティ推進に注力していることが伺える。

   
   

   ＜　情報･通信　＞

   1. 「情報・通信」は、上位とその他企業との差が大きい。一番差があるのは、「女性の開発・育成・登用」（42％差）であり、「プロセスの見える化」（40％差）、「ダイバーシティ実行体制」（38％差）、「経営トップのコミットメント」（37％差）と続く。
      製造業においては「プロセスの見える化」の差がほとんどなかったが、「情報・通信」業界は、個々の会社ごとの取組みにばらつきがあるようである。

   
   

   ＜　サービス･流通･その他　＞

   1. 「サービス・流通・その他」は、上位とその他の企業の差が一番大きいが、ここにはさまざまな業種・レベルの企業が入っているので、当然かもしれない。
      中でも、「管理職のアカウンタビリティ」は上位とその他企業の差が、62％と極端な開きがある。
      また「プロセスの見える化」（47％）、「女性の開発・育成・登用」（43％）、「ダイバーシティ実行体制」（42％）と差が大きい。
   2. 唯一、上位とその他の企業の差が小さい領域は「多様な働き方の促進」である。　これは、業種全体として一番低い領域であり、業種特有の課題であることが伺える。

   
   
4. 女性リーダー輩出、ダイバーシティ施策の進捗と関係する要因の分析
   
   1. センサスデータ中の「役員女性比率」、「総合職女性比率」は、次の施策と正の相関がある。
      「役員女性比率」は、「管理職のアカウンタビリティ」領域の中の「シニアマネジメント女性の育成」（.377）、「女性の開発・育成・登用」領域の「女性の登用促進」（.418）、「多様な働き方の促進」領域の「働き方のフレキシビリティ」（.306）と有意な相関をもつ
      「シニアマネジメント女性の育成」「女性の登用促進」施策が、功を奏している、あるいは、役員女性の存在が、さらにシニアレベルに女性を引き上げる施策の後押しをしているのかもしれない。
      また、「総合職女性比率」は、「トップの発信」（.310)、「PDCAのシステム」（.320）、そして「女性の開発・育成・登用」領域の「女性活躍の取組」（.288)との相関がある。　これは、総合職の女性の活躍が経営に直結する、というトップの意識に関係しているかもしれない。
      
   
   
   2. また、6つの施策領域相互は、大変強い相関関係がある。
      つまり、これらの施策領域は、単独で実施されるのではなく、それぞれが関連をもちながら、全体としての推進がなされる。
      特に、他の施策領域に大きな影響を与えているのは、「経営トップのコミットメント」領域で、「推進実行体制」領域（.690)、「管理職のアカウン ビリティ」領域（.687)、「女性の開発・育成・登用」領域（.634)　と、軒並み　.60　以上の相関係数である。
      また、「推進実行体制」があることが、「女性の開発・育成・登用」領域（.757)、「管理職のアカウンタビリティ」領域（.687)に強く影響を与えている。
      そして、「管理職のアカウンタビリティ」領域の実施は、「女性の開発・育成・登用」領域（.684)や　「プロセスの見える化」領域（.667）と強い関係がある。
      
   
   
5. 昨年度との施策実施率の比較
   （第2回（2009アワード調査）と第３回（２０１０アワード調査）の比較）
   
   

   昨年度　第2回と共通の設問について、今年度　第３回の実施率がどのように変化したかを調べた。
   
   

   1. 「経営トップのコミットメント」領域は、かなり実施が行きわたっているせいもあり、それほど顕著な動きはない。
      「四半期に１度以上発信する」がややアップしており、発信の頻度はあがっているが、自社の事業活動におけるメリットの伝達や、役員・管理職に対する期待の伝達がやや減少傾向にあるのが懸念される。トップは「発信する」だけでなく、その内容をさらにビジネスとリンクさせて、現場に「腹落ち」させていってほしい。
      
   
   
   2. 「実行体制」領域は、総じてアップし、特にKPI（具体的な中間指標）の設定は伸びている。
      ただし、PDCAのうちの、CAつまりレビュー（振り返り）の体制が弱くなっているところがある。活動のスパイラルアップは、このレビュー（振り返り）の繰り返しによるわけであるので、そこにさらに注力していくことが必要であろう。
      
   
   
   3. 「管理職のアカウンタビリティ」領域は、明確に施策実施率が増加している
      特に、「管理職評価にダイバーシティ推進の項目を入れる」企業が１０％も増加していることは、企業の本気度を反映しているといえよう。
      
   
   
   4. 「女性の開発・育成・登用」領域をみると、女性ネットワーキングでは、全社規模ネットワーキングは頭打ちなのに比べ、部門内のネットワーキングが増加している。活動が、より現場寄りになっているのであろうか。
      また、女性向けのキャリアセミナー、リーダーシップ研修が伸びていないのに対し、女性対象のイベントはほとんどの企業が実施するようになっている。
      「イベント」も意識づけのきっかけとしては大切だが、地道に研修などでスキルアップしていく努力もさらに求められよう。

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