このインタビューは2016年1月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。
イオン株式会社 取締役 兼 代表執行役社長 グループCEO 岡田 元也 氏
内永 岡田社長ご自身は、女性活躍推進やダイバーシティについて、どのようなお考えを持っていますか。
岡田 私がダイバーシティを考えるきっかけとなったのは、1970年代後半の米国留学です。当時は、女性やマイノリティーに対してイコールオポチュニティー(機会均等)をどう浸透させるのかということが問われた時代でした。若い頃そういうことに間近で触れていたので、ある意味ダイバーシティは当然だと受け止めています。 ダイバーシティは、正義感の問題というよりも経済の問題と考えるべきだと思うのです。多様性が確保されていれば、異なる立場の人たちの知見を活かし、過去の成功モデルにとらわれることなくお客さまのニーズの変化に柔軟に対応することができます。お客さまの多くが女性である小売業であればなおさらで、多くの女性が活躍するほど収益性が上がっていくのは明白。管理職の少なくとも半分を女性にするのは小売業にとって「勝利の方程式」だと言っても過言ではないでしょう。しかしながら、なかなかできていないのは悔しいことです。
内永 ダイバーシティは何も女性のためにやるのではない。違った発想、違った価値観が必要だから推進するということですね。特に今のように変化が激しい時代は、ビジネスモデルが常に変わっていくと、画一的な過去の成功体験は、逆に危険なトラップになりかねません。
岡田 イオンはグループの中期経営計画のなかで、大きな環境変化を成長機会とするためのグループ戦略として、「アジアシフト」「都市シフト」「シニアシフト」「デジタルシフト」の4つのシフトを掲げています。この実現は、経営を大転換させる原動力になると思います。こういうことを過去の成功体験のない人々にぜひリードしていってほしいと思うのです。
内永 シフトという概念がいいですよね。じわじわ変えるのではなくガラッと総転換する。そういう意味で、変化に柔軟に対応することのできる多様な人材の活用は、企業経営の大転換を実現する原動力になるでしょう。そして、多様性を受け入れていく一つの指標となるのが女性の活躍なのです。
内永 イオンの取り組みで私が感心したのは、グループ内の各社が自分たちのやり方で、女性が頑張って働ける環境をつくり、それぞれの企業の特性に合わせて、各社がチャレンジしていることです。各社がみな「自分の問題」としてとらえていますね。 また企業が女性活躍を推進し、さまざまなサポートをしていくことは素晴らしいことですが、ともすると女性の要求ばかりが先に立つケースも見受けられます。制度や仕組み改革などを進めるだけでなく、やはりイオンのように個々人の意識が変わっていくことも大切だと思います。
岡田 女性活躍推進の受け止め方は、当の女性によってもさまざまですよね。ものすごく期待している女性もいれば、早く制度を何とかしてほしいという切実な状況の人もいる。かと思うと、「キャリア、キャリアと言われるのは辛い、私なりにやっていきたい」という人もいる。考え方は人によってさまざまではあるけれども、少なくとも会社は、機会均等をきちんと約束していくことが大切だと考えています。男性従業員と比べ、出産や育児といったイベントが女性のハンディキャップになることは絶対になくしていく。そこは会社を信じてほしい。その上で一人ひとりの価値観や状況に合わせた働き方を実現してほしいと思っています。
内永 女性活用における問題点は、ロールモデルがいないとか、働き方をどうするとか、ほとんどが世界共通なのですが、日本特有の問題があります。それは女性の意識。どう見ても優秀で、もっと頑張ってもらったほうが周囲も本人もハッピーになるだろうと思う人が、「私は結構です」と遠慮してしまう。 J-Winに入ったばかりの女性にアンケートを取ると、「トップになりたい」という人は35%くらいしかいません。それが2年経つと96%が肯定的にとらえるようになります。
岡田 イオンにおいても、それはあると思う。しかし、今問題視されていない会社があるとすれば、その会社が女性に対して管理職になるよう伝えきれていないのかもしれない。そういう意味では、明確に伝えていくことが必要であり、やはり、男女問わず経験を積ませることが大事。そうすれば自ずと姿勢も変わるものです。イオンは、「イオンDNA伝承大学」という次世代経営人材育成機関を設け、経営者としての視点を徹底的に考えさせる機会を提供しています。最初は遠慮がちな人も、次第にそういう視点を身につけていく。成長の機会があるかどうか、そして経営者として女性も対象なのだと改めて明示し、発信していくことが重要だと思います。
内永 家事で絶対的に必要なワークロードは、過去と比べて圧倒的に減ってきています。例えば、イオンのスーパーに行けば、料理に時間をかけずとも、おいしい惣菜を買うことができるわけです。家事の負担が減ってきているわけですから、優秀な人は外に出て、成長の機会をつかんで活躍してもらわなければ困ります。
岡田 そうですね。そうしないと会社としてもったいないし、競争に勝つこともできません。