このインタビューは2016年1月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。
イオン株式会社 取締役 兼 代表執行役社長 グループCEO 岡田 元也 氏
内永 昨年のダイバーシティ・アワードで、ベーシック部門の大賞受賞おめでとうございます。2回目の応募での受賞です。ダイバーシティ推進室をはじめ皆さんの頑張りによるものです。 さて、岡田社長にまずお聞きしたいのが、2013年の株主総会で掲げた「女性管理職比率を2020年までに50%達成を目指す」というコミットメントについて。全体での女性社員の割合がまだ30%というなかで、かなりチャレンジングな目標です。なぜそのような大胆な宣言をされたのでしょうか。
岡田 一言で言えば、「そうなっているべき」という思いがあったからです。イオンの基本的な考え方が全て貫徹されていれば、今頃は管理職の半分が女性になっていてもおかしくなかった。 イオンが大卒の女性の新卒時における定期採用を始めたのは1970年。日本の小売業では最も早かったと思います。1990年代には大卒の新入社員は男性よりも女性のほうが多くなっていました。ところが、結婚や出産のタイミングで辞める女性が増えてしまい、現在の状況になってしまった。内心忸怩たる思いもあって、「もう一回やり直そう」という不退転の決意を込めて、あの宣言をしたのです。
内永 なるほど、原点に戻るということですね。岡田社長のおっしゃる基本的な考え方とはどのようなことですか。
岡田 一つは、社員に対しての機会均等です。イオンでは、40年以上も前から性別、国籍、学歴などによる区別をしないことを明記した人事理念を掲げてきました。 これは、イオンという会社が合併を重ねながら成長してきたことが大きいと思います。さまざまな背景を持つ人それぞれが活躍できる環境がなければ、会社を持続的に成長させることはできません。ですので、自然と多様な価値観を認めるという風土はそこで培われてきたと言えます。 合併により新しくイオンで働くことになった人たちの原則や価値観は、イオンのそれとは異なっています。イオンの理念や価値観を共有してもらうためには何よりもイオンの基本的な考え方が普遍的なものでなければならないと思います。多様性を尊重する風土を育むには、考え方や経験の異なる人も包含するような普遍的な考え方が必要です。
内永 おっしゃるとおりですね。イオンの理念なり基本的な価値観は、常にお客さまの変化やライバルとの競争といった時代のチャレンジを受けながら、長年にわたり受け継がれてきた。そして、そうした価値観は、新たに統合した企業の価値観によっていっそう磨かれていったわけですね。海外でも企業のM&Aを進められていますが、海外の企業を買収した時、彼らの価値観を受け入れることに抵抗はあったのでしょうか?
岡田 かつて、米国の会社を買収した時のことです。経営陣は当初、現名誉会長を除いて統合に不安を覚えていました。そんななか、ある役員がふとこうつぶやいたんです。「関西の会社だった我々が、東北の人たちと一緒に仕事をした時よりも、距離感は近いんじゃないか。ローカルからリージョナルへ、リージョナルからナショナルへと成長してきた我々にとって、インターナショナルを目指すのは、従来の取り組みの延長戦上にあるチャレンジではないのか」。この発言に、みんなが妙に納得して統合が進んだことを、私もよく憶えています。 要は、相手の価値観を全く同じと思ってもいけないし、相容れないほど違うと思ってもいけない。違いを違いとしてありのままに受け入れることが大切なんでしょうね。
岡田 元也 氏(おかだ もとや)
イオン株式会社
取締役 兼 代表執行役社長 グループCEO
1951年生まれ。1979年ジャスコ株式会社(現イオン株式会社)入社。1990年に同社取締役就任後、1992年から常務取締役、1995年から専務取締役を歴任。1997年には同社代表取締役社長に就任。2003年同社取締役兼代表執行役社長、2012年から同社取締役兼代表執行役社長 グループCEO(現任)。
内永ゆか子(うちなが ゆかこ)
NPO法人J-Win 理事長
1946年香川県生まれ。東京大学卒業後、71年日本IBM入社。95年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。04年取締役専務執行役員。07年4月NPO法人J-Winを立ち上げ、理事長に。08年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並びにベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、13年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。