J-Winでは、「2019 J-Winダイバーシティ・アワード」の調査データより、応募企業における女性登用の実績と、具体的な取り組みの傾向を分析しました。
あわせて、今回のアワードで企業賞を受賞した4社より寄稿いただいた、各社のダイバーシティ＆インクルージョン（D&I）の優れた取り組みを以下にご紹介します。

【目　次】
■2018年度J-Win会員企業におけるD&I推進状況
■「2019 J-Win ダイバーシティ・アワード」受賞企業4社の取り組み紹介
・全日本空輸株式会社
・日本航空株式会社
・デロイト トーマツ グループ
・SGホールディングス株式会社
（※企業名は受賞当時、執筆者の肩書き等は本原稿執筆当時のものです）

【「2019 J-Winダイバーシティ・アワード」詳細はこちら】
【受賞結果・授賞理由はこちら】

（出典：2019 J-Winダイバーシティ・アワード 全体報告書）

女性登用の実績と推移
意思決定層である部長職、役員という上級役職層への女性の輩出はD&I推進の喫緊の課題
職位別の女性比率を全社平均でみると、管理職一歩手前24.0%、課長職11.6%、部長職5.4%、役員4.5%（社外取締役除く）であり、管理職一歩手前と課長職の女性比率に12.4ポイント、課長職と部長職の女性比率に6.2ポイントの差がある。また、全社平均における正社員の女性比率は28.1%であり、管理職一歩手前までのパイプライン形成は着実に進みつつあるが、管理職一歩手前に人材が滞留している様子がうかがえる。非管理職から管理職への転換点での段差解消とともに、課長職から部長職、役員へとつながる女性リーダー輩出のパイプラインの形成・拡充が望まれる。過去3年間このような傾向は変わっておらず、管理職、特に意思決定層である部長職、役員という上級役職層への女性の輩出はD&I推進の喫緊の課題である。

図１. 2018年度職位別の女性比率（応募企業の全社平均）※ 役員：社外取締役を含まず

応募企業全社の課長職と部長職を合わせた管理職における女性比率は、今回（2019アワード）10.0%で、前回（2018アワード）の8.9%から1.1ポイント増加しているものの、過去3年の年平均成長率（CAGR）は6.4であり、その状況で今後の予想比率を出すと2022年においても12.8%にしかならない。政府の初期目標である2020年度30%とのギャップは大きい。

図2. 管理職（課長職・部長職）の女性比率推移と将来予測

一方、女性役員は社外取締役を中心に登用が進んでおり、女性役員（社外取締役を含む）が1人以上いる企業は全社の約4分の3（75.6%）で、その約半数にあたる企業が2人以上の役員を輩出している。しかしながら、全社平均における全役員の女性比率は6.2%、社外取締役を除くと4.5%であり、全役員の10%にも満たない状況である。

図3 役員の女性比率推移と将来予測

女性採用と定着の実績と推移
過去3年、女性採用は強化。平均勤続年数の男女差異の改善は鈍化
採用（新卒、キャリア含む）における女性比率は38.3%と、正社員の女性比率28.1%を10ポイント上回り、さらに過去3年とも採用の女性比率が正社員の女性比率を上回っており、継続的に女性の採用が強化されている。一方、平均勤続年数の男女格差指数（女性の平均勤続年数÷男性の平均勤続年数）は0.82で、前回（2018アワード）の0.82から変わっておらず、男女差の解消の歩みは鈍い。

女性活躍推進のための取り組みの傾向
D&I推進を目的とした管理職対象の取組が増加
女性活躍の業務目標への位置づけ、KPIの設定、意識調査の実施などD&I推進体制に関する取り組みの実施率は高い。そして、女性の意識改革に関わる女性ネットワークの設定やロールモデルの提示は高い実施率を維持している。一方、女性の意識改革及び育成に有効なメンタリング制度の実施率は昨年より低下しており、十分な実施とはいえない。在宅勤務や業務効率化に対する対応など柔軟な働き方に対する施策は実施されている。
今回の取り組みの特徴は、男性の意識改革への取り組みである。男性管理職に対しては、女性社員への研修だけでなく、その上司である管理職向け研修が、各社で進んでいる。また、男性社員に関しては、無意識のバイアスやイクメンセミナーなどが半数以上の企業で実施されるようになってきている。男性の育休取得率は伸長した。

図4. 取り組みに関する昨年との比較

J-Winは女性活躍推進のための具体的な取り組み施策を整理・分類し、重要な8つの取組領域として定め、その領域ごとの活動状況を把握している。その状況を見ると、「経営トップのコミットメント」「管理職のアカウンタビリティ」「女性の意識改革」領域における取り組みの実施率は、他の領域より低い。この3領域は特に今後意思決定層への女性リーダー輩出に重要な領域であり、注力が必要である。

図5. 取組8領域の実施状況

"Inclusion" It's for everyone！　
～ANAグループのダイバーシティ＆インクルージョン推進～

全日本空輸株式会社　人財戦略室 人事部 ダイバーシティ&インクルージョン推進室
室長　　宇佐美 香苗 氏

経営トップのコミットメント「ダイバーシティ＆インクルージョン宣言」
ANAグループのダイバーシティ＆インクルージョン（以下、D&I）は、 「組織や集団が持つ多様性を大切にし、人それぞれの違いを活かし、 新しい価値（イノベーション）を生み出すための行動」と位置付け、2015年にANAグループ経営トップが社内外に宣言し、改めてD&Iが重要な経営戦略であると位置づけました。この宣言を起点とし、従来以上に、性別・人種・国籍・年齢・障がいの有無、所属・役割・価値観の違いを超えてオープンに議論し、お互いに関心を持ち、アサーションし合うことでD&Iをグループ全体の力に変えていくことを実感しながら推進しています。

ANAグループ全体でのD&I推進体制
グループD&I推進担当役員およびグループ女性活躍推進担当役員との連携体制を強化し、関連テーマについて役員会で議論やワークショップを実施しています。また、一日をかけてD&Iをテーマに考えるフォーラムでは200名のマネジメント層社員に加え、社長をはじめ役員の半数以上が参加するなど、経営層やマネジメント層の巻き込みを強化しています。
また、ANAグループ各社（36社）に女性活躍推進担当者を選任し、年2回拡大会議を開催。女性活躍推進を初めとしたD&Iに関わる問題提起、課題解決、ベストプラクティス事例の共有を図るなど、経営層から管理職、現場の社員に至るまでD＆Iの価値を共有する推進体制を継続しています。

ANAグループ女性活躍推進担当者会議

キャリア意識向上施策
「ポジティブ・アクション宣言」として、2020年までに女性役員数および女性管理比率の数値目標を掲げています。　特に、上位職（部長職）へのパイプライン強化および管理職一歩手前層へのキャリア意識向上施策として、社内外研修機会増加、選抜研修の強化、個別フォローアップ、Surveyによるキャリア意識分析を実施しています。
特に、女性管理職ネットワーキング（ANA WINDS）では、自身の視座を高め、チャレンジ意欲を啓発するコンテンツを増やし、部長、課長、マネジャークラスが管理職一歩手前層と一緒に参加する体制とし、様々な層の社員が一緒にキャリアを考える機会としています。
また、そうした場に経営トップが参加し、女性社員へ直接メッセージを発信する機会を増やしています。

ANAポジティブ・アクション数値目標

男性の意識変革
マネジメント層（部長層）の意識変革と働き方を考えるイクボスセミナーを継続的に開催し、経営トップおよび部長層のイクボス宣言を社内サイトに掲載しています。
また、男性の育児休暇促進策として、会社独自の制度である「パパママ出産育児休暇」の100％取得を目指し、子供が生まれた男性社員に対して上司から「Hello！ Baby　Card」　にメッセージを記載して送る仕組みを構築しました。「Hello！ Baby　Card」をきっかけに上司と出産育児休暇取得について話し、より男性社員が育児に参加しやすい風土改革を進めています。

ANA 「Hello！　Baby Card」

多様な人財が生き生きと活躍することで、新たな価値創造を実現

日本航空株式会社　人財戦略部　部長 福家 智 氏

JALグループは、企業理念に「全社員の物心両面の幸福を追求」することを掲げています。この実現に向けた取組みの中で、多様な人財が一人ひとりの個性を発揮して活躍することで、新たな価値を創造し、「世界で一番愛され選ばれる航空会社」になるというビジョンを描いています。人財戦略を重要な経営課題の一つとして捉え、ダイバーシティ＆インクルージョン（以降、D&I）の推進と、その基盤となるワークスタイル変革に取り組んでいます。

日本航空のD&I推進のビジョン、目的、戦略

トップダウンとボトムアップの両輪でD&Iを推進
D&I推進の方針は、2011年以降、社長から全グループ社員へ宛てたメッセージとして継続して発信しています。2014年には、女性をはじめとする多様な人財の活躍推進に向け、「2023年度末までにJALグループの女性管理職比率を20％とする」という数値目標を設定、2015年にはワークスタイル変革、2016年には、障がいのある社員やLGBTなどを含むあらゆる個性を活かす真のダイバーシティを目指すというメッセージを発信しています。
また、ボトムアップの取り組みとしては、2015年11月にグループ横断ネットワーク「JALなでしこラボ」を立ち上げ、グループ一体となってD&Iに関する研究や提言を行っています。立ち上げ当初は東京地区のみの活動でしたが、2017年には大阪地区、2018年には九州・沖縄地区へも活動を拡大しています。

女性の採用、定着とキャリア継続
JALグループは女性社員が多く、これまでも多くの女性が活躍してきました。一方で、ライフイベントを理由とした離職や、女性の採用人数が少ない部門や職種があり、まだ活躍の場に偏りがありました。あらゆる職場での活躍を視野に、育児や介護などを理由に一度仕事から離れた女性の再就職を支援するワークアゲインの取組みや、過去にJALでの就労経験がある方に向けた経験者採用を導入しました。また、ライフイベントによる休職でキャリアを中断する女性へは早期復職支援として、ネットワーキングの場や両立支援制度の詳細な説明を行っています。家庭とキャリアの両立に対する不安を取り除くことで、前向きに仕事に取り組む社員が増えており、日本航空の地上職における育児休職の平均取得期間は2018年度には1年未満にまで短くなっています。

時間と場所にとらわれない働き方の推進
多様な人財が働くことを支援するためには、意識や風土の醸成に加えて、時間と場所にとらわれない柔軟な働き方の浸透が欠かせないことから、ワークスタイル変革にも積極的に取り組んでいます。テレワークは、自宅以外での実施を解禁し、週当たりの実施回数を2回に拡大、さらに1日のうちの分割取得を可能にするなど、社員のニーズに合わせて制度を見直しています。2014年に「在宅勤務」としてトライアルを開始して以降、利用件数が毎年倍増しています。また、休暇中に一時的にテレワークを認める「ワーケーション」の推進、フレックス制度のコアタイム廃止、時間単位年次有給休暇の導入、RPA（Robotic Process Automation）化による定型作業の自動化に代表される業務プロセス改革など、多様な働き方を支える施策を実施しています。加えて、2018年度には、人事評価制度についても見直しを行い、「長時間労働をして頑張っているから」といった印象評価を排除し、働き方に影響されることのない、公平な評価がされる仕組みを構築しました。

JALグループは、今後も女性をはじめとした多様な人財が生き生きと活躍できる会社を目指して、グループ一体となって様々なダイバーシティ推進の取り組みを進めてまいります。




誰もが認めるInclusiveな職場環境の実現を目指して

デロイト トーマツ合同会社　人事・タレント　ダイバーシティ　パートナー　林　敬子　氏

D&I推進を重要経営戦略の一つとして位置づけ
デロイト トーマツ グループでは、D&Iの取り組みは重要経営戦略の一つであり、プロフェッショナルファームとして成長し続けるための重要な取り組みであると考えています。
長期的に誰もが認めるD&I推進企業になることを目指し、2020年、2023年、2025年におけるグループのKPI・数値目標を設定し、様々な施策を推進しています。また、課題の特定や施策の効果を測るために、徹底したモニタリングの仕組みを構築し、Data Driven Approachをとっています。公表している中長期的なKPIだけではなく、それに紐づくサブKPIを定義し、四半期ごとにモニタリングレポートを作成しています。
　
強力な推進体制でInclusiveな職場環境を整備

① 経営トップのコミットメントと強力な推進体制
D&Iの重要性をメンバー全員に理解してもらい、多様性を受け入れる文化を浸透させるため、経営トップ層自らが積極的に関与し、推進する体制を構築しています。グループCEO、及び主要6法人のCEOをメンバーに含むD&Iコミッティを2016年10月から設置し、隔月1回（コミッティ組成当初は各月に1回）、D&Iに関連する課題や施策に関してトップマネジメントが参画して協議を行っています。
また、約1万人の全社員・職員を対象としたInclusion研修を実施。研修ビデオには各法人のCEOが出演し、Inclusiveな職場環境の実現を積極的に推進する姿勢を示しました。

デロイト トーマツ グループのD&I推進体制

② 働き方の柔軟性・多様性（組織風土の課題への対応）
一人一人の働き方が仕事と生活に繋がり、それがグループの未来の在り方にも繋がるという考えのもと、その源であるメンバーの"健康"に立ち返り"心身の健康力"向上＝"働き甲斐（心）"と"働きやすさ（身）"に繋がる取組みを推進しています。全役員による「働き方改革宣言」の社内向け動画配信、長時間労働撲滅・休暇取得促進のモニタリングの実施、テレワークの拡大など、多くの取り組みを行っています。

③ ワークライフマネジメント（サポート制度の課題への対応）
休職や時短勤務、短日勤務など様々な勤務形態が選択できるワーキングプログラムや2018年4月に開園した4大監査法人系プロフェッショナルファームとしては初となる企業内保育園など、ライフイベントで一時的に働き方に多様性が必要となるメンバーが、自分に合った働き方を選び、働き続けることができるよう、制度を充実させています。

④ 若い世代に対する意識醸成
女性を対象としたリクルーティングセミナーを実施し、デロイト トーマツ グループで活躍する女性職員によるパネルディスカッションや交流会を通じてキャリアイメージやワークライフバランスについての生の声を届けています。また、女性の活躍に特化したサイトの開設や、グループ内の女性メンバーを紹介する動画の展開などを通じ、女性が自分らしく、いきいきとパフォーマンスを発揮できる環境であることを外部向けに発信して、デロイト トーマツ グループのブランド強化にも繋げています。

デロイト トーマツ グループで活躍する女性メンバーのメッセージビデオ　-The Way I am-

女性の力で企業成長へ
～わくわくウィメンズプロジェクトによるD&I推進～

SGホールディングス株式会社　人材開発部・シニアマネジャー　小林　香織　氏

グループ収益30％を女性が担う体制の確立へ
当社グループは佐川急便株式会社を中核とした総合物流企業です。経営トップによるD&I推進の方針として「グループ収益30％を女性が担う体制の確立」を掲げ、2011年より「わくわくウィメンズプロジェクト」に取り組んでおります。また、業界のトップランナーとして「女性が活躍することで企業文化の変革、ひいては業界の地位向上に繋げる」こともゴールの１つです。

「わくわくウィメンズプロジェクト」は国内事業会社横断のプロジェクトです。各社毎に責任者、事務局、推進者、アドバイザーを配置しております。各社の責任者は社長が務め、各社ごとに設置する事務局または専任部署には、管理系および営業系の男女メンバーが参画しております。また、事業会社の規模に応じD&I推進者を全国に配置し、管理職や役員がアドバイザーを務め、D&I推進が可能な体制を構築しています。
国内事業会社と連携の上、これまで「労働環境整備」、「職域拡大」や「管理職登用」等に取り組んできました。また、「女性参画のビジネス展開」を推進するため、2013年度からは女性発案のビジネス創出や改善等の取組みを表彰する「わくわくアワード」（※2019年度からはダイバーシティアワードに変更）を開催しています。

2016年度からは女性従業員比率や女性管理職比率等の2020年度までのKPIを各社毎に定めた5ヵ年計画を始動。D&Iの推進に向けて、「男性の意識改革」、「働き方の変革」、「管理職への女性の登用」に対するターゲットを設定し、2016年度から現在に至るまで重点的な活動を推進しております。

D&I推進の方針・わくわくウィメンズプロジェクト推進体制

男性や管理職の意識改革
男性の育児休業取得促進に向け、これまで女性従業員に向けた育児支援ガイドを改編し、配偶者が出産した男性従業員向けの支援情報を追加。また、男性従業員の育児休業取得事例をイントラネットに積極的に掲載し、取得を促しております。
経営層や管理職を対象に、毎年「ダイバーシティフォーラム」を開催。D&I推進の意義を考え、D&Iの最新動向を学ぶ機会を提供しております。2018年度にはVRを活用し、LGBTや障がいのある方の疑似体験を通して、「立場や視点の違い（アンコンシャスバイアス）」により発生するマネジメント課題の解決手法の学習を目的に開催しました。


働き方の変革
当社および国内事業の社長等が「イクボス宣言」を表明し、経営トップが働き方の変革にコミットしております。また、事業会社や職種に応じてテレワークや在宅勤務制度の導入またはトライアル実施を行っています。その他、週休3日制の一部導入や、RPAやAIの積極活用による業務の効率化や2017年から事業所保育園「SGH Kids Garden」を東京都江東区に開設する等、柔軟な働き方への支援を行っております。


管理職への女性の登用
当社グループは女性従業員比率や女性管理職比率等の2020年度までのKPIを定めております。プロジェクト開始当初（2011年度）には20.6％であった女性従業員比率は32.4％（2018年度）まで上昇し、女性が活躍できる企業グループへと変わってきました。また、女性管理職比率は1.0％（2011年度）から7.6％（2018年度）まで上昇しておりますが、意思決定のできるポジションへの登用に向け、候補者への選抜研修等を推進しております。今後もD&Iの方針の実現に向けて、更なる活動の展開に取り組んで参ります。

SGホールディングスグループの2020年度までのKPI