J-Winでは、「2018 J-Winダイバーシティ・アワード」の調査データより、参加企業における女性登用の実績と、具体的な取組の傾向を分析しました。
あわせて、今回のアワードで企業賞を受賞した4社より寄稿いただいた、各社のダイバーシティ＆インクルージョン（D&I）の優れた取組を以下にご紹介します。

【目　次】
■2017年度J-Win会員企業におけるD&I推進状況
■「2018 J-Win ダイバーシティ・アワード」受賞企業4社の取組紹介
・アフラック
・サントリーホールディングス株式会社
・全日本空輸株式会社
・新日本有限責任監査法人
（＊企業名は受賞当時、執筆者の肩書き等は本原稿執筆当時のものです）

【「2018 J-Winダイバーシティ・アワード」詳細はこちら】
【受賞結果・授賞理由はこちら】

（出典：2018 J-Winダイバーシティ・アワード 全体報告書

女性登用の実績と推移
管理職一歩手前までのパイプライン形成が進む。依然、管理職登用に課題あり
応募企業全体の職位別女性比率における2017年実績は、管理職層では課長職が10.5%、部長職が5.3%、役員が4.2%（社外取締役含まず）であった（図1）。職位ごとの女性比率を比較すると、ベースとなる正社員における女性比率27.5%に対し、管理職一歩手前は21.7%と管理職候補の育成は進みつつある。しかし、課長職の女性比率は10.5%と管理職一歩手前から11.2ポイント低下しており、非管理職である管理職一歩手前から管理職（課長職）への転換点に落差がある。さらに、部長職の女性比率は5.3%と課長職の10.5%と比べると半分程度に低下する。管理職一歩手前までは、女性リーダー輩出のパイプライン形成が進みつつあるが、ここで人材が溜まった状態となっている。管理職一歩手前から課長職、部長職へと続くパイプラインの形成・拡充が課題である。

図１. 2017年度職位別の女性比率（応募企業の全社平均）※ 役員：社外取締役を含まず

応募企業全社の課長職と部長職を合わせた管理職における2017年の女性比率は、8.9 %であり、過去3年（2015-2017年）の管理職の女性比率の年平均成長率は9.7%であった（図2）。2017アワードにおける過去3年（2014-2016年）の年平均成長率9.9%とほぼ同程度である。新たな管理職候補の人材の発掘と育成に時間が要していることが示唆される。
　将来予測においては、過去3年（2015-2017年）の年平均成長率9.7%で推移した場合、2020年の管理職女性比率は11.8%であり、政府の初期目標である2020年30%にするためには年平均成長率49.8%とさらなる加速が必要である。

図2. 管理職（課長職・部長職）の女性比率推移と将来予測

女性採用と定着の実績と推移
過去3年、女性採用は強化。平均勤続年数の男女差異は改善傾向
　応募企業全社における女性採用は、全社平均で37.5%（新卒およびキャリア採用含む）であった。在籍社員の女性比率27.5%を約10ポイント上回り、女性採用が強化されており、この傾向は過去3年続いている。一方、定着の指標である平均勤続年数の男女差異指数（女性の平均勤続年数÷男性の平均勤続年数）は、全社平均0.82で、2017アワードにおける平均勤続年数の男女差異指数の0.77からやや改善している。今後の鍵は、こうした女性採用強化と定着の改善傾向を基に、管理職一歩手前まで進みつつあるパイプライン形成をさらに進めて、管理職登用へと結びつけることであるといえる。

女性活躍推進のための取組の傾向
D&I推進を目的とした管理職対象の取組が増加
応募企業のうち98.2%の企業が女性管理職の数値目標を設定している（図3）。KPIの設定、意識調査、管理職の女性候補者のリストアップについても、ほとんどの企業で行うようになってきた。しかし、女性活躍推進が業務目標としては位置付けられていない企業が4分の1は存在する。
女性の意識改革の施策については、メンタリング制度やロールモデルの提示が効果的であるが、十分な実施率とは言えない。柔軟な働き方改革に関しては、在宅勤務の実施は十分ではない。ほとんどの企業が女性の育児休暇が100%に近い値であるが、男性の育児休暇は20%程度にとどまっている。

図3. 取組に関する経年変化

J-Winとしては、女性活躍推進のためには、「経営トップのコミットメント」「D&I推進実行体制」とともに、「管理職のアカウンタビリティ」「女性の意識改革」「働き方の変革」は重要な取組領域であると考えており、さらに男性の意識改革を含めて今後の積極的な取組が期待される。



新たな価値の創造を目指して～アフラックのダイバーシティ推進～
アフラック生命保険株式会社　ダイバーシティ推進部長　橋本 ゆかり　氏

当社は1974年に日本初の「がん保険」を、1985年に世界初の「痴ほう介護保険」を発売するなど、「新たな価値の創造」を企業理念に掲げています。また、この理念のベースとなるのが「活力ある企業風土の醸成」であると考え、社員の多様性を尊重しその能力を最大限発揮できる環境を作るためにダイバーシティを強力に推し進めてきました。特に、社員の約半数を占める女性の活躍推進を最優先課題とし、2014年10月に「女性の活躍推進プログラム」を策定しました。また、重要推進6領域と取り組みステップを定め、KPIとして「指導的立場（※1）に占める女性社員の比率を2020年末までに30%以上」「ライン長ポスト（※2）に占める女性割合を2025年末までに30%以上（マイルストンとして2020年に20％）」という数値目標を設定しています。プログラム開始から約4年が経過し、管理職候補者である課長代理の女性社員が順調に増加していることから、次なるステップとして女性の管理職への昇格とライン長登用に向けた取り組みを強化しています。
（※1）課長代理以上　（※2）部下ありの管理職

女性のライン長登用に向けた取り組み
女性の管理職昇格を強化する三つの取り組みを展開しています。

1.　課長代理の「スキル・経験不足」の克服
管理職一歩手前である課長代理が滞留することなく管理職に昇格するためには、不足しているスキルや経験を早期に取得する必要があります。そこで当社は、課長代理の社員を対象とした「女性管理職昇格プログラム」を実施しています。本プログラムでは、役員と上司を巻き込み、女性社員の個別育成計画を策定しています。更に集合研修やメンタリング、ネットワーク交流などを通じて、OJTとoff―JTの両側面から課長代理の女性社員を徹底的に鍛える施策を実施しています。

2.　営業部門の女性パイプラインの強化
当社では、全社のライン長ポストの約3割が営業部門に配属されています。しかし、ダイバーシティ推進に取り組み始めた2014年、営業部門における女性のライン長は非常に少数でした。多くの女性が在籍する営業部門で、女性が昇格し、ライン長として活躍するためには、営業部門で活躍する女性を安定的に輩出することが必要でした。そこで、営業経験のある女性管理職がロールモデル部隊を結成し、全国の営業支社へ出向き、女性社員のメンター役を担いました。また、転勤制約によるキャリアの閉塞感を打破する対策として、転勤なしの社員が期間限定で採用地以外へ転勤しキャリアアップを目指す「一時転勤制度」や勤務地限定の営業支社の女性社員がテレワークを活用することで転勤をせずに本社業務に従事する取り組みなどを推進することにより、経験の拡充、人脈の構築をバックアップしています。そして、意欲と能力が備わった女性社員を、積極的に営業の管理職ポストに配置することを営業部門の統括役員がコミットしています。

3.　働き方の変革
管理職志向が高い女性社員であっても、「管理職になったら仕事と家庭が両立できないのではないか」という不安を多く抱えていました。「ワークとライフを両立できる管理職像」を示すためには、管理職が働き方の変革を自分事化する必要があると考え、部門別の所定外労働時間削減率、有給休暇取得率、在宅勤務実績を管理職の評価に組み込みました。また、それを下支えする取り組みとして、柔軟な勤務制度やテレワーク環境の整備を行いました。これらの取り組みにより、2014年以降、毎年15%以上の所定労働時間の削減を実現しています。また有給休暇取得率、在宅勤務利用率も大幅にアップしています。一人ひとりが業務特性やライフイベントに応じて、最も適した働き方を選択することが可能となっています。



取り組みにおける成果
管理職昇格試験の合格者に占める女性の割合は11.6%（2015年）から29.4%（2017年）に上昇するなど、女性管理職の輩出は着実に進んでいます。そして、2014年は1.5％であった営業部門における女性ライン長の比率は2018年1月に6.9％に上昇し、営業部門で活躍する女性のライン長も増加しています。一連の推進活動を通じて、「いずれは管理職（課長・部長など）になり、全社に影響力を発揮できる職位に就きたい」 と考えている女性社員の割合が19.4％（2014年）から35.4％（2017年）に上昇するなど、女性社員の管理職志向も高まり、女性のパイプラインは着実に太くなっています。また、「私の上司は、私の将来の方向性・キャリアについて相談に乗っている」という意識調査のスコアが大幅に上昇するなど、女性社員育成に向けた管理職の行動変容も進んでいます。この結果、様々な場面でリーダーシップを発揮して活躍する女性社員の姿が見られています。ダイバーシティはイノベーションの源泉であり、今後も当社が掲げる「新たな価値の創造」に向けてダイバーシティを推進していきます。



「やってみなはれ」の精神で、ダイバーシティ経営を推進
サントリーホールディングス株式会社 ヒューマンリソース本部　人事部　ダイバーシティ推進室
室長　　弥富　洋子　氏

経営戦略としてのダイバーシティ推進
サントリーグループでは、経営トップが「多様性がイノベーションの源である」と明確に宣言し、
ONE SUNTORY一体となってダイバーシティ＆インクルージョンを推進してきました。ダイバーシティ推進を支える仕組みとして、柔軟な働き方を推進し、利用者の拡大につなげてきた中で、「働き方改革」を更に強化すべく、意識改革だけでは達成できない生産性向上を成し遂げました。また、女性活躍においては「女性が働きやすい、かつ成果をあげている会社」をめざし、両立支援、意識改革など様々な取り組みを行ってきました。

柔軟な働き方の推進から働き方改革へ
2010年から全社員にテレワークを適用、現在では全社員の約7割がテレワークを利用するようになるなど、柔軟な働き方の推進を進めるうえで、2016年より「働き方改革」を全社で進めてきました。その活動の中心は、①IT活用として、高性能TV会議利用による遠距離コミュニケーション・テレワークの利用促進、②働き方改革推進リーダー制度を導入し、各部署ごとに選出されたリーダーが主体となって改革をスピードアップ、③社内の好事例を素早く横展開するための働き方改革ナレッジサイト「変えてみなはれ」の構築です。これらの取り組みを通して、所定労働時間の削減としては、2年間で約70時間の大幅な削減を達成することが出来ました。

女性が働きやすい、かつ成果をあげている会社を目指し
両立支援施策としては、10分単位で設定可能なテレワーク、コアタイムなしのフレックスタイムといった柔軟な働き方を性別問わず可能にしたうえで、育児中社員の期中復職・早期フルモード化の支援策を中心に、産休前・休職中・復職後のサポート体制を整備してきました。男性の意識改革も同時に推し進め、職場・上司も巻き込んだ「子を持つ父親」向けの「ちちおやガイダンス」や、ダイバーシティ通信「いろどり」での育休取得紹介など考動革新につなげてきました。
また、両立支援から「女性の真の活躍推進」を確立する取り組みも展開してきました。女性マネジャーを対象にした「女性リーダーフォーラム」というバーチャルな組織をつくり、自己研鑽・ネットワーキングを図り、女性の更なる活躍とともに、サントリーグループの成長につながるような活動を主体的に企画・運営することにより、女性リーダーの継続的な輩出につなげていきたいと考えています。女性マネジャー有志による全社向けイベントや、営業メンバーが主体的に企画したライフとキャリアを考えるイベントなど、現場発信のサントリーらしいユニークな取り組みも推し進めています。

今後も全ての従業員がイキイキと自分らしく働くことができる企業を目指し、ダイバーシティ経営を進めていきます。

ダイバーシティ経営　目指す姿と重点課題

両立支援施策の考え方

Moving Forward Together！
～ANAグループのダイバーシティ＆インクルージョン推進～
全日本空輸株式会社　人財戦略室人事部 ダイバーシティ&インクルージョン推進室
室長　　宇佐美 香苗　氏

経営トップのコミットメント「ダイバーシティ＆インクルージョン宣言」と「ANA's Way」
2015年4月、ANAグループCEOが「ANAグループダイバーシティ&インクルージョン宣言」を社内外に向けて宣言し、改めてD&Iを重要な経営戦略と位置づけました。この宣言を起点とし、あらゆる社員がD&Iの意義を理解し積極的に関わることで、「組織や集団が持つ多様性を大切にし、人それぞれの違いを活かして新しい価値（イノベーション）を生み出すことができるANAグループ」を目指しています。
また、D＆I推進の考え方のベースにあるのは、ANAグループ行動指針「ANA's Way」です。
「ANA's Way」とは経営理念や経営ビジョン達成に向け、社員が持つべき心構えやとるべき行動をまとめたもので、社員の想いを結集し、主にボトムアップで創ったものです。そこで掲げている「チームスピリット」には社員の多様性（D＆I）を重んじ、意見や価値観の違いを企業の強みとして新しい価値を生み出していこうとする姿勢が、「努力と挑戦」には新しい価値を目指し、枠を超えて挑戦する姿勢が盛り込まれており、この「ANA's Way」とともにD＆Iを推進しています。

D＆Iの推進体制
D＆I推進に関わる価値共有と率先垂範に向けて、経営層やマネジメント層が、議論やワークショップを継続的に実施。また、ANAグループ各社（36社）に女性活躍推進担当者を選任し、女性活躍推進を初めとしたD＆Iに関わる課題解決、ベストプラクティス事例の共有を実施するなど、経営層から管理職、現場の社員に至るまでD＆Iの価値を共有する推進体制を強化しています。
また、進捗状況は、グループD＆I推進担当役員およびグループ女性活躍推進担当役員と日常的に共有し、スピード感を持ってD&Iを推進しています。

男性の意識改革
社内外のD＆Iを学ぶD＆Iフォーラムを毎年開催し、役員、マネジメント層を中心に参加。
また、イクボスセミナーや女性管理職ネットワーキング「ANAーWINDS」に男性管理職が参加し、男性の意識改革を強化。具体的アクションとして、役員、マネジメント層が自らの言葉でイクボス宣言を発信、社内共有しています。

働き方改革
フロントラインの社員比率が約8割と高く、部門や業務特性に応じた働き方改革の展開を実施。 フロントラインは、2012年の全客室乗務員へのiPad配布から始め、運航乗務員、整備士、空港係員へ水平展開しました。デスクワーク社員の働き方については、2013年から仮想デスクトップの導入に取り組み、2015年には部門ごとにKPIを設定、2017年にはテレワークを制度化し、「いつでも」「どこでも」「どの端末でも」「誰とでも」をキーワードに自律的な働き方を目指しています。
働き方改革で生み出した時間を活用し、「ライフの充実」、「新たな発想でのワークの変革」を期待し、合わせて社内の提案制度の拡充や実現に向けた専任部署も新設しました。
今後は、変わりゆく未来社会(Society5.0)に向けて、イノベーションに拘り、「超スマート社会のリーディングエアライングループ」を目指したいと考えています。

ANAポジティブアクション2020年までの数値目標と進捗

ANAグループ女性管理職ネットワーキング　「ANA－WINDS」

「増える」「続ける」「伸びる」の３ステップで女性活躍を推進
EY新日本有限責任監査法人　人材開発本部　本部長補佐　安藤　勇　氏

経営戦略としてのD&I
EY新日本有限責任監査法人（以下「EY新日本」）は、会計監査を主たる業務とし、企業の財務諸表の信頼性を担保するという社会的使命を負っています。EY新日本のプロフェッショナルは、クライアントの経営課題や社会が直面する様々な問題の解決を支援することを通じて、EYの理念「より良い社会の構築（Building a better working world）」を実践することを目指しています。EY新日本は、経済環境の複雑化、クライアントニーズの多様化が進む厳しい環境の中で、持続的な成長を目指し、さらなる高いサービス品質を生み出すために、D&Iを重要な経営戦略の一つとして掲げ、ジェンダー（性差）、マルチカルチャー、世代、LGBT、障がい等すべての「違い」を重要視しています。

「増える」「続ける」「伸びる」の女性活躍推進施策
EY新日本は、特にジェンダーに関する女性活躍推進についてこのD&Iの取組みの最重要課題とし、「増える」、「続ける」、「伸びる」という3つの課題に基づき施策を整理し展開しています。「増える」では、女性公認会計士の裾野拡大のために、中学・高校・大学それぞれのステージにおいて、積極的なキャリア教育活動を実施しています。「続ける」では、働き続けられる環境整備のために、各種育児支援制度の充実に取り組むとともに、女性社内ネットワークWindSを立ち上げ女性同士がより働きやすい環境で生き生きと活躍できる場を提供すべく活動しています。さらにイクメン・イクボスを増やす施策として、経営トップが子供の生まれた男性社員に手書きのお祝いメッセージを送り、配偶者出産休暇や育児休業などの制度を周知するなど男性の意識改革に取り組んでいます。「伸びる」では、選抜研修や海外出向におけるライン系女性社員の管理職の育成機会をモニタリングし、部長相当職の女性（パートナー）を増やすべく、より高いレベルの成長支援を行っています。毎年開催しているD&I Weekではセミナーやイベントを全社で展開、女性自身の意識の醸成に一躍を担っています。

働き方の変革
EY新日本は、提携先の世界的なアカウンティングファームEY（Ernst & Young）と連携し、最先端の技術ＲＰＡ（ロボティック・プロセス・オートメーション）を積極的に活用しています。これにより、単純作業を自動化し、総労働時間の大幅な削減が実現しています。こうした最新技術の活用により、削減した時間を監査品質の向上に役立てるほか、労働集約型の働き方からの解放が期待でき、女性の活躍を後押しすると考えます。
EY新日本は、引き続き経営戦略としてD&Iを推進し、D&Iの価値をクライアントや広く社会に還元して参ります。

EY新日本の女性活躍推進策

「続ける」仕組みの一つ女性ネットワークWindSの活動