典型的な男性支配の企業にあって、FFPを受講し、やがてCEOの立場を得た
本日、私がみなさんの前でお話する機会を得られましたのは、私がFFPの受講者の一人だからです。FFPの受講により私のキャリアも発展し、開発されていきました。そのことについて語るために、ノルウェーからやって参りました。
私は、ノルウェーの中規模の企業のCEOです。これは25年前に設立された民間企業で、創立以来、着実に成長を続けています。電話システムやセキュリティーシステム、ITシステム、それからビデオコンファレンス、その他の色々なオーディオ機器を扱う企業で、製品やサービスを売るということだけでなく、"能力"を売っている企業と言うことができます。
最近の経済危機の間に、もちろん私たちも数々の試練を受けました。販売も落ち込み、またたくさんの競合相手と戦わなくてならなくなりました。しかし、その一方でこれはひとつの可能性でもありました。と言いますのも、優秀な人材であっても、解雇の憂き目にあっている人たちがたくさんいましたから、そういう人たちをわが社に迎えることができたからです。つまり私たちは、財産を得ることができたと考えています。
さて、業種から想像がつくと思いますが、当社は典型的な男性支配の会社でした。しかし、男性オーナーたちは、ひとつの箱の中で凝り固まった考え方をするのではなく、もう少し違った人間、つまり女性である私を迎え入れる決断をしてくれました。
ただし、私がCEOの地位につくことができたのは、私に経験や背景や教育があったからです。これは重要なことで、女性だから得られた地位である、ということではありません。私たちのマネージメントグループは7人によって構成されていますが、そのうち女性は2人で、男性は5人です。典型的な組織構成ですから、今後は変えていかなければいけません。
私は、ボルグ・スヴァークストロム社に入る前は、ボレガードという会社で働いていました。ノルウェーでは大企業とされている、精製化学薬品、つまりファインケミカルを扱う会社ですが、ここもまた男性支配の会社でした。ただ、私はすでに、そのような環境には慣れていました。
私は、ボレガードに勤めているとき、人事部に呼ばれて、「ボレガードを代表してFFPを受講しないか?」と言われたのですが、最初、私は思わず「それは一体何なんですか?」と聞きました。というのも、それまでに研修プログラムは何度も受けてきたのですが、「フィーメール」(女性)という言葉の響きに、それは良いものなのか、悪いものなのかと懐疑的になったからです。
私たち女性は、男性と違っていて、その違いはいいことなのに、男性支配的な場に身を置いていると、いつもそのように反応してしまうのです。もちろん内容を分かってからは、受講したいと思いました。そもそも、人事部から選ばれたわけですから、単純にうれしかったということもあります。そう、このことは、人事部の方がいらっしゃれば、是非覚えておいてください。誰かを選ぶときには、その人に期待をかけること。そうすれば「きっとある期間に昇進するだろう」と本人は期待を持って取り組みますから、これは大きな成果になるはずです。
「男性に比べて、自己主張を控え、自分が求められていることを感じ取ろうとするのは、ノルウェーの女性も日本の女性も同じです」とマリアン・カールセン氏。
FFPの講義で行われたリーダーとなるために必要なイメージングのトレーニングを披露してくださったマリアン氏。「あなたが思うリーダーの資質をあげてみましょう!」
リーダーはストレスを多く受けるもの。その対策トレーニングは、興味深い講座だった
そしてFFPは、じつに期待通りのものでした。本当にすばらしかった。まず大学の単位が得られるということ。もちろん普段の生活に必要なものではありませんが、公的機関によって、きちんと形作られたものにより評価されるということは、自分にも周囲に対しても説得力があるのです。それから、自己開発。様々なプログラムを受講してきましたが、あらゆる状況の中でリーダーとしての自分の身の処し方を学ぶことができたことは大きな収穫でした。
その中で、心理学的なテストも大変興味深いものでした。これは、1人の人間としてストレスを受ける情況において、どのような態度に出るのかを知るためのもので、「自分はこういう行動をするのだな」と気付きました。リーダーというのは、ストレスを多く受けるものです。ですから、こういう情報を前もって知っておくのは、必ず役立つことと言えるでしょう。
さらにFFPでは、ネットワーキングをとても重要視しています。男性は、一度作ったネットワークをその後も上手に活用していきます。女性もこのネットワークを積極的に活用すべきということに焦点を当てていて、とても意味あることだと思いました。
このネットワーキングにより、会社の外の人たちと知り合い、彼らの視点や観点を学び自分のものにしていけたこと。企業はちがっても、実はみんな同じような問題に悩んでいると知ったこと。そしてそれらについて内容の濃いディスカッションができたことも、すばらしい経験でした。
このプログラムには守秘義務があるので、仲間を信頼して自分のことを話せたことも大きかったと思います。フォーマルなトピックがあり、目標をもってディスカッションできる、ただのおしゃべりではないことが、とても良かったのです。
ワークライフバランスについても話し合いました。働く女性は、特に責任ある立場にあれば、家庭でも職場でもその存在を求められ、いつも時間が足りません。ですから、何に的を絞り、その絞り方も正しく判断し、賢く働かなくてはいけない。これは、自分の人生を後悔しないために必要なことではないでしょうか。こういったことにみんなが関心を持ち、お互いにアイデアを共有し合いました。FFPでこそ得られた機会です。ノルウェーでは、男性も育児休暇を取得しなくてはなりません。ですから、男性のワークライフバランスも考えていかなくてはなりませんね。
また、ネットワーキングの場で、自分の企業のことを話すのは、一種の営業活動、マーケティング活動にもなります。さらに、優秀な他企業の社員から、無料のコンサルタントを受けることにもなります。私は、今も常にFFPの仲間に電話して相談しています。同じ会社内の人間には話せないこともありますから、これは大変心強いことです。
CEOや経営陣自身が、良いバランスを持って幸福であれば、企業の成果も高まるということがあります。ある統計によれば、社員とリーダーの関係が良好であると、病欠が少なくなるというのです。リーダーが安定すれば、社員ひとりひとりの能力も高まります。逆に、リーダーがストレスで疲れていれば、逆のことが起こるでしょう。
つまり、FFPにより私自身のバランスをとれたことは、企業の発展にも役立っていると言えるわけです。人事部のみなさんには、適切な人材をFFPのようなプログラムに送り込むことを、是非お勧めしたいと思います。このようにすれば、優秀な人材が、さらに優秀な人材を作っていくことになります。そして、優秀な人たちに「この企業にいれば、自分を成長させる経験ができる」と思わせ、結果的に彼らの転職を防ぐことにもなるでしょう。これは、ソフトバリューについての話ですが、必ず企業のハードバリュー、売り上げの向上にもつながっていくのです。
男女共に育児休暇をとることは、その後の人生、企業人としての有り方にも良い影響を与える
確かに、男性と女性は違いますが、類似性もあると思います。男性の方が、直接的で攻撃的ですが、正直ではあります。女性のほうはディテールにまで心を配ります。このお互いの違いを学び合えたら理想的です。そして、このバランスが取れている企業は、外部への交渉時も、バランスよく進めていけることでしょう。
世代の変化にも注目すべきで、女性の大学進学率は高まり、男性はもっと家庭を大切にしたいと望む人が増えています。平等だという意識が高まっているのではないでしょうか。実際に、私が10年前に第一子を出産した際に、夫が「自分が主夫をする」と言ったとき、彼の上司はとても驚いたそうですが、今では、育児休暇をとらない男性が、「なぜ?」という奇異の目で見られています。
また、私が産後に復帰した職場は出張が多かったので、私がフルタイム、夫がパートタイムで働くということになりました。このように男性がパートタイムというのは珍しいのですが、そのおかげで私は、早いうちに社会に復帰できたので孤独に陥ることもなく、また2人の子供たちは一緒に過ごす時間が長い夫のことが大好きで、とても良い関係を築いています。
さらに言いますと、私は産休の間に、ずっとしたいと思っていた勉強をし、自分の仕事との接点を自分で作っていました。職場とのメールのやりとりも続けていましたし、何か問題が発生すれば、出社することもありました。もちろん、基本的には家で過ごしていたわけですが、この期間に仕事上の新しいアイデアを得ましたし、まさしく充電期間となりました。ですから産休はより有意義なものになったのです。
繰り返しになりますが、こういった個人の経験も、企業や組織にとって必ずいい影響を与えるということになると思います。そして、人口の半分である女性を活用することによって、企業や組織だけでなくよりよい社会へと発展していく、そう確信しています。
ノルウェー経営者連盟(NHO) シニア・エグゼクティブ カーリ・ミンゲ氏
写真は翌16日に行われたJ-Win定例会での講演のものを使用しています。