女性の就業率は世界トップクラス。同時に、出生率もヨーロッパ内トップクラスであるノルウェー
みなさま、まずマリアンと私を日本にお招きいただいたことに感謝いたします。
「フィーメール・フューチャー・プログラム」(編者注:以下FFP)のお話に入る前に、まずはノルウェーという国と、私が属しております組織「ノルウェー経営者連盟(NHO)」について簡単にご紹介させていただきます。
ご存知のこととは思いますが、ノルウェーはスカンジナビア半島の西側に位置しており面積は38万平方キロメートル、人口はおよそ480万人です。実はとても人口密度の低い国で、1平方キロメートルに対して12.3人という密度です(編者注:日本は337人)。
次にNHOについてのお話しに移りましょう。これはいくつかの組織によって成り立っていますが、中心的組織はオスロ、私とマリアンも住んでいる首都にあります。そして16の地域オフィス、その他に21の分野別連盟があり、60のビジネスセクターを代表しています。
2万の企業が会員になっており、これらの企業により、ノルウェーのGDP(国内総生産)の40%が占められています。製造業、サービス産業、工芸といった分野の企業も、会員に入っています。NHOは、こういった会員企業に対して、ビジネスコミュニティーのスポークスマンの役目を負ったり、ビジネス上の政策課題の設定を行ったり、また、団体交渉、つまり労働組合との賃上げなどの交渉についても関わっているのです。
さて、わが国ノルウェーの女性の就業率は、世界のトップクラスにあります。じつに女性の70%以上は労働に参加しています。同時に、出生率についてもヨーロッパ内のトップクラスであり、合計特殊出生率が1.9という高さです。一方、日本の女性の就業率は60パーセント、出生率は1.34と聞いております。
そうは言いましても、ノルウェーでも労働市場はジェンダーによって大きく分かれています。大半の女性は公的部門で働いていますし、仕事のなかでもいわゆる"女性の仕事"に就労している人が多いことは否めません。それは、教師、看護師、ホテルやレストラン産業です。
指導的な地位にある女性は、産業界において非常に限られていて、たとえリーダーになっていたとしても、人事や情報、マーケティングの担当、そのほかのサポート機能などの面の責任担当者になっています。女性がCEOとしてエグゼクティブになっている、あるいは企業の部長になっているケースは産業界ではまだ少数です。公的部門では状況はもう少し良いですが、女性が最も多く働く公共セクターにおいても、指導的地位は男性が多く占めているというのが現実です。
ノルウェーは広範囲にわたる社会福祉制度を有していることでも知られていますが、労働者への保障も充実しています。すべての国民が、病気欠勤の初日から疾病手当てをうけることができ、16日間まで雇用主により手当てをカバーし、それ以後は国が保障します。ここから特徴的なシステムのお話になるのですが、妊娠している女性は過去10カ月中6カ月間就業していれば、1年間にわたる有給の育児休暇をとることができます。そのうちの12週間は子供が生まれる前にとることができます。
父親に関しても子供が生まれてから6週間以降に10週間の育児休暇をとることが義務付けられています。両親が3年間で、併せて1年にわたる育児休暇をとればいいという形になっているのです。
こういったノルウェーの状況を外から見れば、男女平等ということでは、ずいぶん進んでいる印象ではないでしょうか。たしかに1970年代、80年代の女性運動は力強く、1981
年には初の女性首相が誕生し(第一次ブルントラント内閣)、80年代の半ばからは、少なくとも閣僚の40%は女性という成果をおさめてきました。
「私どものアイデアがつまったFFPを、みなさんに知っていただける機会が得られ、光栄に思っています」と、カーリ・ミンゲ氏
自分自身のライフプラン、キャリアプランと重ねながら熱心に聞き入る皆さんで会場は満席となりました
「組織の意思決定機関において一方の性が40%を下ってはいけない」──
クオータ制の導入からFFP創設へ
このような政府の変化は、企業や社会全体に波及するものですが、その明らかな例が、ノルウェーのいわゆる「クオータ制」だと私は考えています。最初は、「公的委員会・審議会は一方の性が全体の40%を下ってはいけない」というものでした。これは1988年に決定されたもので、さらに2004年には政府系企業、2006年には規模の大きな一般の株式企業においても、取締役会のクオータ制が義務付けられました。この決定は、当時、大変多くの人を驚かせました。これからは女性の代表、例えば色々なボードが女性代表によって40%を占めていなくてならない、と脅威に感じる男性もおりました。実は私たちNHOも反対をしましたし、今も賛成しているわけではありません。
しかし、一般株式企業へのクオータ制導入という政府の意図がゆるぎないものであるとわかった時、それに対応していかなくてはならないと考え、2003年にNHOは革新的なプロジェクトとしてFFP(女性エグゼクティブ育成プログラム)を創設しました。どうすればトップマネジメントの地位に女性をもっと多く登用することができるのか、企業のボードルームに登用することができるのか、これらを実現するための努力の一環がFFPなのです。
より多くの女性が指導的な立場になれるよう働きかけることは、NHOの論理と矛盾するものではありません。なぜなら、男性も女性も同じように才能を秘めていると考えているからです。社会が人口の50%を占める男性にのみ指導的立場を与えるということであれば、その社会は残り半分の人口の才能を無駄にしている、人間の持てる潜在能力を活用していないことになります。それは、ビジネスコミュニティーにとって、競争力を失っていくということです。才能のある人は、それに適した立場についていくべきです。
持っている背景や視点が異なる人―― つまり多様な人が、企業に加わっていくことは、企業にとっても大変良いことだと思っています。女性が指導的立場に加われば、企業内の雇用状況や職場の雰囲気も良くなり、同時に未来指向型の企業であるというイメージアップにもつながっていきます。
FFPの具体的な目的は広く定義されていて、最初に「民間セクターをより女性に魅力的に見せなくてはいけない」、「企業の意思決定の場により多くの女性を立たせる」、「現在働いている管理職に対して、長期的視点に立って目標設定をし、多くの女性を指導的立場に立たせるよう触発する」ということです。そしてワークライフバランスにも焦点をあてています。なぜ女性が職場で責任のある立場になれないのか、それを阻んでいるのは何なのか、その要因を特定することになるからです。
FFPの受講修了者の36%は昇進し、34%は取締役のポストを提示されている
具体的にFFPを説明しますと、これは企業向けに設計されたプログラムですが、官民問わず、業態業種に関係なく参加企業を求めています。企業が契約をおこない、女性を管理職に就かせるために努力すると誓います。そして、社内で指導的立場にふさわsしい女性社員を3名ほど受講者として指名するのです。
彼女たちは、FFPのプログラムを1年間受けたあとは、FFPネットワークの強力なメンバーとして活動します。プログラムでは、まず、リーダーシップを身に付けるべく訓練を受けます。イメージ作り、経営マネジメント、取締役としての能力、話し方、ディスカッションの進め方、またネットワーク作りといった項目も含まれています。ネットワーク作りのために女性だけで開く会合の場も用意していますし、中にはメンバーが企業の代表と交流を持つ場もあります。
日程ですが、リーダーシップは8日間、ネットワーキングは2日間、さらに2日間にわたり、立ち振る舞いや表現法を身に付けていきます。実践的なツールを使い、メンバー同士の経験を分かち合う企画もあります。全国各地でこのようなセミナー、ワークショップを開催、また全国会議を年に1回行っており、これはメンバー全員参加の大きな行事です。
コーチングの指導を受けながら、若い指導者に対して自分がコーチングをするというトレーニングや、取締役になるための機能訓練、取締役としての能力を測るテストもあります。これらの中にはビジネススクールに実際に通って受ける講義もあるのですが、その場合はビジネススクールでの単位として認められています。
プログラム全体はほぼ1年間にわたります。そのうち実際にトレーニングやセミナー、ワークショップへ足を運んでもらうのは、わずか11~15日間だけです。8月にスタートして、翌年の6月にはプログラムが修了します。
現在は12の地方でのプログラムが進められています。地方プログラムは20~25人のクラスに分かれる小グループ制をとっていますが、さらに小さなグループに分かれ、彼女たちはその中でネットワークを育み、お互いの経験をシェアします。ですから、地方プログラムは、ネットワーク作りにおいて大きな役割を果たすものと言えます。
最近2年の間に700人の女性がFFPに参加しています。全体的な結果をお話ししますと、前年度のプログラム参加者の93%は、「プログラムに参加してよかった」という回答をしており、36%は昇進し、34%は取締役のポストを提示されました。これはプロジェクトに参加してから2年以内の成果です。また、企業からもイメージアップにつながったという回答が返ってきています。
私たちは、"可視化"と"データベース化"を重要視しています。FFP参加者の成果をデータベース化しており、そこで企業は、優秀な女性を探すことができるのです。まだその利用は、当初に考えていたほど多くはありませんが、将来的には大いに活用されていくと思っています。
ただ、最後に付け加え、強調しておきたいのは「明日の勝利者は、チームのなかで才能のある人である」ということです。ジェンダーやその人が持つ背景ではありません。才能ある人が努力により花開いていく、ということです。ご清聴ありがとうございました。
ボルグ・スヴァークストロム社 CEO マリアン・カールセン氏
写真は翌16日に行われたJ-Win定例会での講演のものを使用しています。