このインタビューは2020年9月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです。
全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子 裕志氏
平子 私は、コロナ禍がこの男性社会を変えていくのではないかと考えています。というのも、テレワークで会社に行かなくなり、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」を形成していたタバコ部屋やアフター5の飲み屋での会話がなくなったからです。オンラインでの仕事は賛否両論ありますが、「報・連・相」のうち、報告と連絡は問題なくできる。でも相談と雑談、合わせて「雑相」は対面のほうがいいと思っています。新しいアイデアやひらめきは「雑相」の中から生まれますから。この「雑相」の場に、女性もどんどん入っていけるようになると、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」も変わっていくでしょう。
内永 日本でもやっとテレワークが浸透してきましたが、テレワークと対面を組み合わせた効率的なやり方を見つけていけばよいと思います。コロナ禍ではマイナスなことも多いですが、こういったプラスの面もありますね。
平子 そうですね。私は、4月以降、週1~2回のペースで自由参加のバーチャルタウンホールミーティングを開催し、部署の垣根を超えた自由な意見交換をしています。社長の私から「何を話してもいいよ」と呼びかけているのですが、オンラインでは、同調圧力を感じることもなく意見を出しやすいようです。いろいろな意見を聞く環境ができ、社内の風通しが良くなったことを感じます。こうした動きが日本の社会を変えていくのではないでしょうか。
内永 コロナ禍で環境は激変していますが、男性の意識を変えるには何が必要だと思いますか。
平子 私が社員にD&Iを語るときに例に挙げるのが、カマスの話です。水槽にカマスと小魚を入れると、カマスは小魚を食べるのですが、間に透明の間仕切りを入れると、カマスは小魚に近づけなくなり、やがて食べようともしなくなる。その後間仕切りを外してもカマスは小魚を食べようとしない。そこにもう一匹カマスを水槽に入れると、後から来たカマスは小魚を食べるので、元からいたカマスもそれに気づいて、再び小魚を食べるようになる、というのです。
内永 なるほど、カマスの話、絶妙ですね。思い込みがあると行動できないということがよく分かります。
平子 思い込みや固定観念がある社員に、常識は常識ではないということを伝えると、反論も出ます。でもそこから議論が生まれることに意味があると考えています。
内永 成功体験につながった思い込みは、よっぽどのことがない限り変わりません。男性中心の予定調和の組織に女性が入ることが、発想を変えるきっかけになります。女性は後から来たカマスですね。
平子 女性に限らず、その道のプロではない人を集団に放つことで新しい価値観が受け入れられる。一人ひとりが、自分の価値を高めていく新しいチャレンジ、行動をとるように進化し、組織が活性化します。D&Iは生産性を高めますね。
内永 ANAさんにお願いしたいのは、社員の半分以上が女性ですから、役員も半分以上が女性であってほしいということです。D&Iは女性だけではなく、最終的には全ての個人を活用しなければなりませんが、まずは女性活用を成功させなければ、始まりません。世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」のランキングで、日本は153カ国中121位。さらに頑 張らなければと思っています。
平子 女性活用は、D&Iの象徴として進めていくべきです。そのためにもD&Iを阻害している"当たり前"に気づき、変えていかなければなりません。企業の文化や慣習を良きものと捉えているとD&Iは進みません。一方で、残すべき文化や慣習もあります。「真のD&Iとは何か?」は、非常に難しい問いで、絶対的な解はありません。て゛も、考え続けていくことに意味があると思っています。