このインタビューは2020年9月におこなわれました。肩書等は実施当時のものです
全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子 裕志氏
内永 ANAさんは、2019年、2020年と2年連続で「J-Winダイバーシティ・アワード」大賞を受賞されましたが、連続で挑戦していただいたことに大変感銘を受けました。実はそのような企業は多くありません。なぜ挑戦しようと思われたのでしょうか。
平子 D&Iの取り組みに終わりはありませんし、大賞を一つのステップとしてさらに上を目指すべきだと考えたからです。
内永 確かにその通りです。大賞受賞企業は、素晴らしい成果を出していますが、グローバルの水準で見ればまだまだです。今回、審査委員会が評価した点の一つが、IATA(International Air Transport Association)のイニシアチブである「25by2025」への参画という新たなゴールを設定されたことでした。詳しく教えていただけますか。
平子 「25by2025」は、航空業界におけるジェンダーバランスの向上を目的としたイニシアチブであり、ANAは参画する上で女性のシニアマネジメントとパイロットや整備士を2025年までに現在よりも25%増やすことを目標に掲げました。航空業界も、年々男女の境界線がなくなってきていますし、今後目標にすべきはこれしかない、と思いました。IATAは世界各国のエアラインが加盟しているグローバルな組織ですが、こうした目標をクリアに設定することに長けていて、日本企業はもっと学ぶべきですね。
内永 人材の取り組みに数値目標を立てることに意味がないという意見がよく出ますが、私はそうは思いません。明確な目標がなければ、達成したかどうか分かりませんから。
平子 当社では、今年4月に人事部の直下にあったD&I推進室をD&I推進部として独立させました。性別、国籍、障がいの有無、年齢、雇用延長などさまざまなバックグラウンドを持つ部員で構成する「ミニD&I組織」になっています。それぞれ価値観が違うので、議論をするとさまざまな意見が出て化学変化が起きます。そして出た結論は、叩いても簡単には折れない骨太のものに なる。これはまさにANAが創業以来大切にしている「和協」の精神です。「和協」とは「和して同ぜず」の気概を持ち、良い結論が出るまで、徹底的に議論を重ねお互いを高め合うというもの。ちなみにこのD&I推進部では、主語が曖昧な日本人のコミュニケーションは成立しません。英語に訳せる日本語で話そう!という機運が生まれています。
内永 多様性のある組織では、誰にでも分かるコミュニケーションが基本中の基本ですね。男性社会のあうんの呼吸は、女性にはよく分からないことがあります。 女性の意識が変わったところで、男性社会の予定調和に縛られた マインドをブレイクスルーしないと、D&Iの推進は難しいですね。
平子 私も予定調和の議論はやめようと常に言っています。組織が活性化しないし、いわゆる「茹でガエル」状態になってしまいます。
内永 日本の企業が予定調和になりがちなのは、終身雇用で会社に教育され、単一性が強いからではないでしょうか。
平子 日本企業は、終身雇用・年功序列・企業内組合を三種の神器として安定的に成長してきました。しかし、外部環境が変化しているにもかかわらず、これらを使い続けているので競争力がなくなっています。発想を変えていか なければなりません。
平子 裕志 氏 (ひらこ ゆうじ)
全日本空輸株式会社 代表取締役社長
1981年東京大学経済学部卒業後、全日本空輸株式会社に入社。ANA国際線事業の急速な拡大期のネットワーク戦略に約14年携わり、要職を歴任。2011年6月に執行役員営業推進本部副本部長。翌年から米州室長兼ニューヨーク支店長として米国駐在。2015年よりANAホールディングス株式会社上席執行役員、全日本空輸株式会社取締役執行役員。2017年より全日本空輸株式会社代表取締役社長、ANAホールディングス株式会社取締役。
内永ゆか子(うちなが ゆかこ)
NPO法人 J-Win 理事長
1971年東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。1995年取締役就任。2000年常務取締役ソフトウェア開発研究所長。2004年4月取締役専務執行役員。2007年4月NPO法人J-Winを設立し、理事長に就任。2008年4月ベネッセホールディングス取締役副社長、並ひ゛にベルリッツコーポレーション会長兼社長兼CEOを経て、2013年6月ベルリッツコーポレーション名誉会長を退任。