『本物のリーダーシップ』
株式会社people first 代表取締役
八木 洋介氏
「本物のリーダーシップ」とは「Authentic Reader」を訳したもの。「Authentic」を辞書で調べると、本物、オリジナルなどの意味が記載されている。「本物、オリジナル」とは自分らしいということだと考えている。自分らしいリーダーシップを身につけるのが本物のリーダーである。
労働生産性ややる気のある人の割合も低く、ジェンダーギャップもイスラム圏を除き世界最低であり、人を活用しないから成長がストップするのだと考えている。成功モデルは経路依存性のもとになっている。エコシステムになってしまうとなかなか変わらない。時代は変わっており、過去を守っていても勝てないのは当たり前である。正解が無い状況下でPDCAのやり方では勝てない。コンセンサスでは変革はできない。付加価値こそ重要なのである。阿吽の呼吸や背中を見て育つやり方は通用しない。伝えたいことは言わないとわからないものである。
日本は自己抑制を、他国は自己主張をするように言われて育つ文化がある。これでは主導権は日本人以外が握ることになる。良い人なら勝てる時代ではなく、強さと良さを備えた本物、自分らしいリーダーシップが必要なのである。
リーダーは誰をリードするのだろうか。人や組織をリードしたかったらまず自分をリードしなければならない。判断しなければならない事象をどう理解しどう判断、行動するかが軸というものである。目的や思いは、人生の目的・誇り・駆り立ててくれるエンジンである。思いと軸を持っていると使命感が生まれ、行動に移せるし結果も出せる。そして、まわりを巻き込んで結果を出すのがリーダーというものである。方向性を示し、それを実現する戦略、納得させるコミュニケーション、先頭に立つ実践力を持ち、変化を常に学ぶ存在である。
「経営」という立場の反対側に位置するのは「運営」であり、与えられた仕事を効率よく達成すること。今は「経営」の時代。リーダーは企業価値を高めるために、知らないことについてでも意思決定をしなければならない。目指すのは「経営」の世界である。社長をライバルと思うことで「経営」の視点を持つ事ができるようになる。
環境が変わって、役に立たなくなったものがあれば、リーダーは捨てる判断も必要である。モチベーションは自分で持てるが、エンゲージメントは相手が必要である。本人のモチベーションと会社の方向性を合わせるのがエンゲージメントである。
PVMVC=Purpose, Vision, Mission, Value, Culture。Purposeはそう簡単には変わらないもの、Visionは、自分がその組織をリードする期間に達成するイメージがわく姿、MissionはVisionの実現のためにその年に達成しようとするゴール、Valueは行動の判断指針、これらを徹底的に回すとCultureが作られる。このCultureを作るのがリーダーの役割。多様性は、ともすれば方向がバラバラになるリスクがある。リーダーは、それを一つにまとめなくてはならない。そのためには、方向性がないとブレる。自身の人生観・経営観・プロとしてのものの見方など、必ず言語化しておく必要がある。そうでないと瞬時の判断ができない。「あいまい」ほど部下に迷惑なものはない。部下に考えを伝え、自由にやらせ、迷ったときにいつでも相談に乗るのがリーダーである。
また、グローバルとはダイバーシティ。バラバラになるリスクがあるが、共通ゴールを持つ事によってまとまることができる。方向性を与えるのがリーダーの役割。意見を聞くのは大事だが最後は決めて従わせるくらいの力が必要なのである。
知の進化の先にも、知の深化の先にもイノベーションがあるはずだと考えている。イノベーションには失敗がつきもの。失敗を許容しないとイノベーションは起こらない。それを可能にするのが、思いと目利きのリーダーシップ。アイデア、活力、イノベーションはダイバーシティから生まれる。アメリカでは消費を決めるのは女性(83%)。女性を活用することで、差別化できる可能性大。また、違う意見に耳を傾けることは健全な経営に必要な要素だ。新入社員はダイバーシティのある会社に魅力を感じる。実力主義とダイバーシティは迷う必要のない経営課題となっている。ダイバーシティは戦略であり、反対する人は経営にとって害なのだ。100点を目指さなくてよい。変革は民主主義ではおこらない。経営は反対を押し切ることでもある。反対を押し切っても、人を巻き込めるのは、志が高く、常日頃から信頼されている実績あるリーダー。質のいいリーダーが正しいことを徹底的に考えると前に進む。
「思い」と「軸」と「知恵」を持ち、挑戦し、ポジションをつかみ、修羅場を体験し、価値観を体現した人がリーダーになれる。本物を磨くことが大切である。自分とは何かを振り返り、自分らしさを言語化する。未来に向けて足りないものを身に付けていく。「未来に向けて履歴書を書く」イメージだ。リーダーにとって大切な特性の上位は不変。Honest, Competent, Inspiring, Forward-Looking。正直であれ、実力を持て、元気を与えよう、未来志向、さらには元気であれ。文句を言うばかりのリーダーはダメだ。学ぶこと。リテラシー、メガトレンド、シナリオ分析、経験、知識、価値観、教養。
講師のメソッドを紹介しよう。例えば、新聞はトレンドをつかむために見るだけで、詳細に読む訳ではない。週に一度同じ本屋に通い新刊をチェックし、自身の専門分野の本とそれ以外の本を半々に購入して専門分野深め、教養を広める。専門バカにならない。あえて、違和感を持つような書物にも触れ、その背後にある自分の考えを炙り出す。常に、新しい考えを身に付けようとすることである。
講師の"My Journey" について言及すると、16歳まで良い子だったが親に反発し、高卒後にヨーロッパへ渡った。ノルウェーの田舎町にさえ日本のプラモデルを売っている現状を目の当たりにして、自分自身が逃げていたことを実感。最初の「軸」である「逃げるな、負けるな」を得た。
その後、大学進学、NKKに就職した。社長の年頭あいさつに疑問を持ち、社長批判論文を300人に配布したことがある。副社長に私心のない行動だったことを認められ、クビにもならず部下も持たされた。しかし、「批判では何も起こらない、自分ができることをちゃんとやるべき」という「軸」を持った。軸を持つことで、ブレずに納得できる仕事をし続けることができるようになった。その後は安定して仕事に打ち込めている。
一皮むけるのではない、一皮むくのだ。経験によって単純に何かに気づくのではない。気付こうとする努力によって気づきは生まれる。経験からの学びを言葉にしていって、軸が今30個ある。学び、考え、実践してきた経営観は20個ある。しっかり言語化してあれば、日々の決断に迷うことは少なくなる。
コロナは命の危機。経済より命が大事なのか、と疑問に思う。生きるのが先で、その下に儲けるがあるはずだ。ブラジルとアメリカは儲けることが優先されていて、強烈に違和感を覚える。フレキシブルと官僚的、バーチャルとリアル、AIと人、 両方に意味がある。過去にデータが無いものは、AIにはわからないので、人がストーリーを語らなければならない。ロジックで通用しないときはハートを優先させる。
リモートワークで見えてきたことの一つに、意思決定の遅さがある。これは「軸」と「思い」のなさ、またはルールでがんじがらめだからだろう。ルールが多いのはコンフリクトを嫌うせいだ。経営者の決断で決められることも多い。ほかにもオンラインツールは使えることも分かったし、役立たずのマネジメントもあぶりだされた。マネジメント変革が必要なのだ。リーダーの役割は変わらずない。強化されただけである。
コロナは仕事と生活、個人と組織、存在価値を考えるきっかけになった。自立していく人と依存する人の格差が開く。方向性を示し組織運営する、自立した個をつないでいくことはコロナ前後であっても変わらない。コロナで女性リーダーが目立ってきたのは、動じない冷静さに、向き合う決断や傾聴もあるが、人の為、社会のため、命を守るため、未来に向かって取り組んだからではないか。
さて、ダイバーシティで世界最下位の日本はどうするべきか。
~講演の感想~
―リーダーの本質はどんな状況でも変わらないということにハットさせられました。コロナ禍だから、異常時だから、こうしなければならないと空回りすることが多かったのですが、この言葉にハッとさせられました。
―特に印象に残ったことは、「皆さんは自分の29秒を知っているか?」との八木様の問いかけでした。チーターは心臓より筋力が上回るため29秒しか走れず、それ以上走ると死ぬということからの例えでした。これがまさにこの数年間、特に自問自答していたことでもありました。過重労働が社会問題として取り上げられるようになってから、働く自分の限界はどこにあるのか、と考えることがありました。今回の「限界」の定義は、「これ以上働くと生産性が落ちる=サスティナブルではない」という意味ですが、自分の過去を振り返ると、限界を超えていたことがありました。しかし一方で、鍛錬すればその限界を少しでも引き伸ばせるのでは、と考えることもあります。今回「自分の29秒」という、「限界」という言葉よりも、具体性をもって理解することのできる言葉に出会い、とても腹落ちいたしました。「自分らしいリーダーシップ」を身につけるために、「自分の29秒」を意識しながら一歩ずつ変革してまいります。
―私はこれまで、軸は1つと漠然と思っていたので、過去経験から価値を引っ張り出された八木様の30の軸に驚かされました。自分らしいリーダーシップを見つけるために、自分を駆り立てる"思い"にもっと向き合い、言語化していく必要性と、その具体的な方法を示していただき、今後多くのJ-Winメンバーがこれを実行に移せると思います。
【八木 洋介氏のPROFILE】
株式会社people first 代表取締役
2002年 日本ゼネラル・エレクトリック株式会社取締役
2012年 株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事・総務担当
2017年 株式会社people firstを設立して、代表取締役(現任)
2017年 株式会社ICMG取締役 及び 株式会社 IWNC 会長(現任)
2020年 TBSホールディングス社外取締役(現任)
経済同友会幹事 人財活用委員会(2013年度)、新しい働き方委員会(2014年度)、雇用・労働市場委員会(2015、2016年度)、新産業革命と規制・法制改革委員会(2017年度)において副委員長を歴任