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「M&Aの今、これから」
岡&カンパニー 岡 俊子 氏
日本でM&Aの統計がとられ始めたのは、1985年までさかのぼります。日本経済がバブル期を迎えていた頃、日本企業が海外の企業を華々しく買うなど、M&Aの案件も少しずつ増えていきました。その後、バブル崩壊後の"失われた90年代"を経て、ITバブル、そして再生の時代への向かう中でM&Aは急増しました。リーマンショック、東日本大震災等による一時的な低迷はありましたが、アベノミクスの時代に入り経済が上向きになり、M&Aに取り組む企業は右肩上がりに増えています。日本には創業から200年を超える企業が3000社もあり、これは世界一です。さらに、創業100年以上の企業になると2万社にも及びます。企業はゴーイングコンサーンですが、事業には寿命があります。これは事業環境が変化するためで、事業のライフサイクルは一般に30~40年と言われています。企業の平均寿命は約35年という統計がありますから、1つの事業だけで廃業になる会社が多いことがわかります。ゴーイングコンサーンである企業が生き残るためには、既存事業をできるだけ太らせて延命させると同時に、新しい事業を企業内に入れることが必要です。新しい事業については、新規事業を育てるか、M&Aを行うしかありませんが、新規事業を一から育て成功させることは簡単なことではありません。こうした背景から、生き残るための手段としてM&Aを選択する企業が増えているのです。
M&Aを成功に導くためには、3つの点に注意することが必要です。1つ目は、何を目的に買うのかが、買い手の「戦略」と整合していること。2つ目は、いくらで買うべきかという「経済合理性」です。高値掴みをしないように注意し、実現できるシナジー効果しか入れないことが大切です。そして、3つめは想定した「シナジー効果」は必ず実現させることです。戦略を実現するためにどのような経営体制で臨み、買収後の子会社にどのように向き合い、シナジーを実現していくのか。こうした点に注意を払うことで、M&Aを有効な戦略として活用できるはずです。M&Aは、それを行うこと自体が目的ではなく、何かの戦略を達成するための経営のツールでしかありません。初めてM&Aを行う場合は、ノウハウを持ったプロを集めて一緒に走ってもらう方が良いかと思います。そして、何度か挑戦することで、より効果的に進めることができるようになるでしょう。日本のM&Aは、まだまだ発展途上で、海外と比べると件数も少なく、規模もそれほど大きくありません。目まぐるしく進化する世界経済の中で、日本の企業にもM&Aをぜひ有効に活用していただきたいと願っています。~講演の感想~
【岡 俊子 氏のPROFILE】
岡&カンパニー代表取締役。日立金属株式会社、三菱商事株式会社、ソニー株式会社、株式会社ハピネットの社外取締役も務める。一橋大学卒業後、等松トウシュロスコンサルティング(現アビームコンサルティング)入社。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールでMBAを取得。トーマツコンサルティング等で新規事業のビジネスプラン策定や外資系企業の日本市場参入支援などのコンサルティング業務に携わる。2005年、アビームM&Aコンサルティング(のちに、マーバルパートナーズ)代表取締役社長に就任。ネットイヤーグループ取締役、アステラス製薬社外監査役などを歴任。大学院の講師や政府の審議会委員など、多方面で活躍。