「J-Win Next Stageネットワーク 第2回定例会」を、2018年8月29日（水）に機械振興会館、J-Win淀屋橋（大阪中継会場）で開催し、東京会場と大阪会場、合わせて112名のメンバーが参加しました。


■テクノロジーがお金のあり方を変える

私たちの生活と切り離せないお金。お金は現在のような価値を持つまでにどのような歴史をたどってきたのでしょうか。そもそも、お金がお金として機能するのはなぜなのでしょうか。テクノロジーの進化によって、未来の金融システムはどう変化するのでしょうか。
デジタルマネーや仮想通貨の登場によってお金のあり方は大きく変わり、人々の意識も変わりつつあります。今回の定例会では、これからの世界を賢く生きるために必ず知っておきたい、奥深いお金の世界について、株式会社シーエムディーラボ　代表取締役社長の尹 煕元 氏より講演いただきました。注目のブロックチェーンについてもわかりやすく解説していただき、変動し、複雑化する金融の世界を知りお金との関わり方を見つめ直すきっかけとなりました。


以下に講演の様子をダイジェストでご紹介します。
(＊肩書き等は講演当時のものです。)


●フィンテックの背景

2015年9月、政府は金融行政に関して重大な方針転換を表明しました。「守る金融」から、新しいことを打ち出して「攻める金融」にならなければならないという方針転換がされたのです。銀行は他の産業もしくはサービスを始めてもよいことにするとともに、IT 企業も銀行業を含めた金融業に参入してよいということが方針に盛り込まれました。フィンテックは世界的な流れですが、なぜ今なのでしょうか。1つには、技術と金融は非常に密接に絡み合っているためです。技術革新が金融、特にお金の流れを変え始めています。テクノロジーは過去30年間で大きく変わり、私たちがそれを民生技術として当たり前に使うようになりました。この延長線上に何があるかはまだ誰にもわかりません。変化がさらに進む中で、最も影響を受けているのが金融なのです。

●中央銀行の存在意義が揺らいでいる

1970年にアイルランドで銀行がストライキを起こしました。お金を銀行に預けることも引き出すこともできなくなりましたが、このときアイルランドの経済は若干成長したのです。銀行は本当に必要かということをこの事件は問うています。 クレジットすなわち信用とはいったい何でしょうか。1つの考え方としては、信用とマネーは同種のものです。マネーとは、それが将来使えるであろうことを信用（クレジット）することです。信用の特殊な形態であり、貨幣とモノの交換というのは信用取引の精算に他なりません。通貨とは、信用関係を基礎にして流通する代替物だとケインズやフリードマンは言っています。信用の特殊な形態、信用取引の精算、流通する代替物。果たしてお金は紙切れである必要はあるのでしょうか。インターネット上のデータで十分ではないでしょうか。今私たちは中央銀行がお金を発行することを当然だと思っていますが、1900年の時点では18か国しか中央銀行制度を使っていませんでした。20世紀の半ばにようやく50か国に増えましたが、一般の人が中央銀行を認識したのはたかだか100年に過ぎません。

●サトシ・ナカモト論文が金融の世界を変えた

2008年、サトシ・ナカモト論文がインターネットに投稿されました。サトシ・ナカモト論文は「通貨は誰が管理すべきか」というテーゼを投げかけています。法律という、解釈も含めて人が作ったルールに基づいて物事を管理するのが現在の法治国家です。しかし通貨に関して、コンピューターアルゴリズムで管理を行ったらどうなるでしょうか。そうなれば人の介在がなくなります。法治国家がルールによってマネージするというのであれば、もしかしたらアルゴリズムによる管理のほうが優れているのではないか。今それが問われており、権威を通さずに財の交換をする実証実験として始まったのがビットコインです。
歴史を踏まえると、実は通貨そのものが仮想なのです。モノを担保にしたり誰かが保証したりするのではなく、今持っている自分の財産は将来交換ができるということ。つまりお金とは、人類が将来に向けて信託するという状態をずっと続けているということに他なりません。そして今、それが金属片や紙切れではなくインターネット上の情報に変わってきたのです。

●仮想通貨は壮大な実証実験

ブロックチェーンを成り立たせるものの1つが仮想通貨です。仮想通貨の本質は、誰しもが参加できるという通貨の民主化です。中央政府を介さずに価値の交換をするのはとても難しいことですが、ビットコインは過去10年間非常にうまく機能しています。何が仮想通貨を信頼に足るものとしているのかはわかりません。私たちがお金と信じるのは、昨日もおとといも去年も使えたからです。ビットコインは新しい形態なので、本当に信じてよいかどうかは誰にもわからないのです。1つ言えるのは、ビットコインが今インターネットの世界でどんどん広がっているということです。ビットコインが世界共通通貨になるという人も一定数いますが、私は、ローカル通貨はなくならないと考えています。地域には地域なりの経済があり、地域経済における金利は成長率によって決まるはずです。各国で金利が異なる、つまり経済が異なるのであれば、共通通貨という同じ尺度で測ってよいのかという問題があります。
今テクノロジーによって、これまでとは異なるお金のあり方が模索されています。中央銀行に対して私たちは全幅の信頼を寄せていますが、財政ファイナンスによって財政を賄っている状態が本当によいのか、それでも中央銀行を信じるのか考えてみなければなりません。いろいろな矛盾を抱えながら世の中が動いている中で、これからはどうすればよいのかを私たちが自分自身の視点で考えていかなければ、次の時代に乗り遅れてしまいます。民衆によるお金の承認、つまり通貨の民主化はもう始まっているのです。


- 漠然と不安定さやセキュリティの脆弱さを感じていた仮想通貨やブロックチェーンに対する認識が変わった
- 金融機関がこれから担う役割、他業への進出の見極め等、攻めに転じないと取り残されるという危機感を大いに得ることができた
- 金融を取り巻く環境や、私たちの人生の基軸たる「お金」そのものの概念が、ものすごいスピードで変わっていることのダイナミズムを体感させていただいた講演だった
- 仮想通貨が当たり前になる時代が来るのかもしれない。その時にどのようなビジネスが成り立つのか。どこにビジネスチャンスがあるのか、どこに着眼すべきなのか。その本質を教えていただいたと感じた