「J-Win Next Stageネットワーク 2017年度第1回定例会」が、2017年7月19日(水)に機械振興会館、大阪大学中之島センターで開催され、東京会場と大阪会場、合わせて90名のメンバーが参加しました。
Next Stageネットワークの定例会は、「ビジネスパーソンとしての高い視座を身に付ける」ことを目的としています。各界トップエグゼクティブからのインプットを通して、メンバーはビジネス・政治・グローバルなどの仕組みを理解し、変化する社会へ目を向け、研究会などの活動や自身の行動につなげていきます。
今回は、消費者庁顧問でJ-Win理事でもいらっしゃる板東 久美子氏を迎え、「消費者・社会を志向する企業経営」をテーマに講演を実施。企業内の自浄作用を働かせる仕組みや、企業側だけでなく消費者側も社会的責任を自覚し、企業と消費者が協働して良い社会づくりを目指していくことが必要であるという「消費者志向経営」の考え方についてお話しいただきました。加えて、次世代のリーダーをめざすべきNext Stageメンバーに対し、「ビジョンを明確にもつこと」「多様な視点をもつこと」「2段階上の立場で判断・行動する訓練を」など、ご自身の経験に基づいた数々のアドバイスを贈っていただきました。
変化する社会情勢・ビジネスやそのなかで必要となる経営視点について新しい気づきを、そして女性リーダーの先輩である板東氏のお姿やメッセージから、見習うべき多くのヒントを得る会となりました。
以下に講演の様子をダイジェストでご紹介します。
(*肩書き等は講演当時のものです)
「消費者・社会を志向する企業経営」
消費者庁顧問 板東 久美子 氏
●消費者トラブルの状況と消費者政策の概要
2016年度の消費生活相談件数は年間88.7万件あり、最近の傾向では、ネットやデジタルコンテンツなど通信サービスに関わるもの、また、高齢者をターゲットにした悪質詐欺も増えています。ネットの世界では、国境を越えたサービスがトラブルに発展するケースもあり、情報化、グローバル化などの世の中の変化が消費者トラブルの内容にも現れてきています。こうした背景を受けて、消費者庁では規制的な手法や取り締まりが中心の消費者行政だけでなく、もっと積極的に必要な情報の提供や消費者教育などに取り組んでいこうとしています。現在の消費者行政は、「消費者の自立」をひとつのキーワードとし、消費者の"保護"から"自立支援"へとパラダイム転換を図っているのです。消費者は自分の利益のために良い選択ができるというだけでなく、他の消費者のため、社会のために、自らの消費行動がどのような影響を与えていくかを考え、責任を自覚していく、そんな「消費者市民社会」をつくることが大切です。また、企業には、消費者志向経営や社会的責任が求められ、企業と消費者、行政の連携・協働がますます必要とされているのです。
●消費者志向経営の推進
事業者と消費者を取り巻く環境も変わってきています。消費者によるSNSなどを通じた情報発信に消費行動が影響されるなど、事業者と消費者のコミュニケーションが複線化し、また、商品やサービスの多様化に伴いその販売方法、支払方法等も複雑化しています。データ偽造や表示偽装、社会的弱者を狙った悪質商法など、消費者の信頼を損なうような事業者の不祥事や、一部消費者の問題行為の発生といった課題も出てきています。こうした環境下で、「事業者の成長発展とリスクの軽減」「消費者にとっての安全・安心な暮らしの確保と満足度の向上」「日本経済全体における健全でフェアな市場の形成と経済の好循環の実現」のためには、消費者と事業者が一層コミュニケーションを深化させ信頼関係を構築することが重要です。持続可能性の高い社会の実現において企業の責任を重視するといった、世界的な流れも踏まえる必要があります。国連が2016年1月に発効した「持続可能な開発目標(SDGs)」のなかでは、企業の「つくる責任」と消費者の「つかう責任」、双方が責任を持ち商品を生産・消費することが目標として掲げられており、企業にとっても取り組みの方向性を示すものと認識されています。
「消費者志向経営の取組促進に関する検討会」報告では、事業者に必要な3つのポイントが示されています。「消費者全体の視点に立って考える」「健全な市場の担い手である」「社会的責任の自覚を持つこと」です。さらに、事業者には、これらを推進していくための組織体制の整備・充実が求められます。経営トップが重要性を認識してコミットし、消費者対応部門と関連する各部門がしっかり連携する仕組みづくりが重要です。また、消費者に対しての情報提供の充実や双方向の情報交換、消費者、社会の要望をふまえた商品・サービスの改善・開発などの行動につなげていくことが求められます。これらのことは、消費者庁だけでなく、日本経済団体連合会の「企業行動憲章」や、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」、金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」などにも組み込まれています。2016年10月に立ち上がった「消費者志向経営推進組織」は、事業者の「消費者志向自主宣言」を推進し、フォローアップ活動をしていくことを活動の柱にしており、2017年5月時点で48社が自主宣言をしました。自主宣言の中には消費者に対する対応や組織体制の整備・充実に関して具体的な目標も盛り込まれ、これらを社会へ広く発信することで、消費者志向経営の普及を図っています。
●消費者・行政との協働
事業者は消費者の権利・利益を尊重し、企業の社会的責任を重視した消費者志向経営を推進すること。消費者は権利を正しく行使するために必要な知識と判断力を身に付けるとともに、その責任を自覚し、社会を良くする行動力を持つこと。そしてこの両者が方向性を合わせて連携協働していくことが、安全・安心で豊かな消費生活の実現と、公正で持続可能な社会を形成していくことにつながっていきます。ひとつの例としては、フェアトレードやエコプロダクトなど、消費行動を通して、人や環境、社会、地域に配慮した消費行動をとっていく「倫理的消費(エシカル消費)」の促進があります。また、"事業者と消費者のベクトルを合わせる"例として挙げたいのが食品ロス削減の問題です。事業者からと一般家庭からの食品ロスはほぼ同じ。双方が削減に取り組み連動していく必要があります。さらに、高齢者の問題なども、事業者が関わることで重要な広がりを持ちつつあります。
消費者庁は、今年「消費者行政新未来創造オフィス」を徳島に設置しました。多様なプレーヤーが連携し、未来を見据えたさまざまなモデルプロジェクトに取り組み、消費者行政の発展・創造を目指していきたいと考えています。
<講演の感想 ~アンケートコメントより~>
- 消費者志向経営という考えや、それに関わる社会全体の動向に意識を向けたことがなかったため知識が広がった。
- 日常の企業からの視点とは1段階高い視点に改めて気づくことになりました。
- 社会状況という大局的な視点から求められる経営についての説明とともに、マネジメントに求められる具体的な行動についても言及していただいた点が良かった。
- 内部通報の大切さについて、マネジメントとして意識、重視していく必要があると感じました。
【板東 久美子氏のPROFILE】
1977年、東京大学法学部を卒業し、文部省に入省。1998年、秋田県副知事に就任。内閣府男女共同参画局長、文部科学省生涯学習政策局長、高等教育局長、文部科学審議官を経て、2014年、消費者庁長官に就任。2016年、退官後、消費者庁顧問に就任、2017年8月から参与。宮内庁御用掛も兼任。
その他の社会的活動として、NPO法人 J-Win理事、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン理事、一般財団法人浩志会理事長など。