J-Win Next Stage第6回定例会が、2016年12月20日(火)にTKP市ヶ谷カンファレンスセンター、TKPガーデンシティ大阪梅田で行われました。今回は、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授の伊藤友則氏を講師に招き、「CSV(クリエーティング・シェアード・バリュー)、新たな共通価値の創造」というテーマで、企業が本業の中で利益を創出しながら社会貢献を実現していく取り組みについて、身近なサービスや商品などの事例を交えてお話いただきました。
ここでは、講演をダイジェストでご紹介します。
「CSV(クリエーティング・シェアード・バリュー)、新たな共通価値の創造」
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授
伊藤友則氏
(* 肩書きは講演当時のものです。)
●企業の成功と社会への貢献を両立させるCSV
CSV (Creating Shared Value:共通価値の創造)とは、企業利益の追求と同時に、社会への貢献を両立させようという考え方です。2011年にハーバードビジネススクールの教授であるマイケル・E・ポーター氏が、企業が短期的な利益ばかりを追求することで社会全体が不安定になることを危惧して論文で提唱しました。企業はCSRに代わる新しい概念として、利益を追求して経済価値を創造するのと同時に、本業で社会に貢献して社会価値も創造する、共通価値の創造を目指した活動をすべきとだと訴えています。日本でも、明治時代に渋沢栄一が"商人は金儲けするだけでなく、社会貢献をしなければいけない"と「論語と算盤」で説いたように、昔からある考え方です。日本では、近年CSRに取り組んでいる企業も多いと思いますが、CSRは予算がないとできないため小さなものになり、企業の業績が悪化すると、その予算も削られてしまいます。CSVは本業の中で利益を生み出しながら行うので規模が大きく、社会に対するインパクトも期待できるのです。
●CSVの鍵は、イノベーション
CSVにおいてはイノベーションをおこすことが、非常に重要です。共通価値を創造するには、3つの手法が考えられます。1つ目は、社会のニーズに注目して、製品と市場を見直すこと。例えば、ノンアルコールビール。車でゴルフに行った際などに、"アルコールは飲めないけど、本当はビールが飲みたい"という大きなニーズを満たし、交通事故を低減するという社会貢献にもつなげました。2つ目は、バリューチェーンの生産性を再定義することです。ある清涼飲料メーカーでは、原料としても必要なきれいな水を守るため、水資源の確保に注力すると同時に、できる限り使用する水の量も節約するような製造工程を作りあげてます。このように企業活動の過程を見直すことでも社会貢献ができるのです。3つ目は、企業が拠点を置く地域を支援する、産業クラスターを作ることです。シリコンバレーが産業クラスターの例かと思います。
●企業理念の実現により、社会貢献も実現する
CSVを上手に実践している企業として、人気のテーマパークを運営する企業があります。「人に夢や幸せを与えたい」という理念のもと、テーマパークを訪れた人を楽しませ、お客さんがリピーターになるような工夫が散りばめられています。さらに、そこでは、ハンバーガーもお土産も高いけれど、楽しい思い出を持ち帰りたいからつい買ってしまうという人も多いのではないでしょうか。企業理念の実現で「人々を幸せにする」という社会貢献をしながら、どんどん利益を上げ、株価も毎年アップしています。これは、偶然にできていることではありません。企業理念をサービス提供の現場に浸透させることにより、社会価値と経済価値を高めているのです。また、世界的なコーヒーブランドもCSVに積極的に取り組んで成功している企業です。おいしいコーヒーを調達するために、中南米やアフリカのまずしい地域の生産農家に対し、さまざまな支援を行っています。収穫量を上げるための栽培方法の指導や、苗木、農薬、肥料の確保、お金を借りられるように銀行保証なども。中間業者を通さずに直接買い上げの仕組みを作り、地域と一緒に道路の整備も実施。その結果、収穫量が増えて、質も上がり、ひとつの農家だけではなく、地域全体を豊かにしています。それがクラスターという概念です。企業としては、品質の高いコーヒーを安定的に調達して提供することにつながり、競争力も生まれます。農家を豊かにして貧困問題、環境問題を解決しながら利益も創出、株価も順調に伸びています。社会貢献と経済活動を同時に実現している成功例と言えるでしょう。
●柔軟な発想でCSVの実現を
CSVは現在の社会で競争力を創り出す新しい手段です。社会のニーズに着目するので、自然に顧客のニーズが出てきます。日本の企業はCSRにとどまっているケースが多いのですが、本業でやらないと大きなスケールになりません。そこには、新しいビジネスのやり方を工夫するイノベーションが必要です。顧客のニーズを読み、新しい消費シーンを創出したり、新しい販売方法を生み出すことが成功につながります。そういった新しいやり方を考え出すことが重要なのです。現代では、企業が本業で社会貢献をすると、顧客も従業員も社会全体も共感してくれ、それが売上や利益増につながりやすい時代になっています。従って、CSVの概念は今後の企業の成功と発展に非常に重要な要素になってきているのです。みなさんの会社でも、どのようにCSVを実現するか、ぜひ考えてみてください。
【伊藤友則氏のPROFILE】
1979年、東京大学経済学部卒業、東京銀行入行。1984年、ハーバード大学経営管理大学院でMBA取得。1995年、スイスユニオン銀行(現UBS)東京支店入行。1998年、UBS証券投資銀行本部長就任。2011年、一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授、2012年10月より現職