J-Win Next Stage第5回定例会が、2016年11月16日(水)にTKP市ヶ谷カンファレンスセンターおよびTKPガーデンシティ大阪梅田で開催されました。今回は、元東京海上ホールディングス株式会社 代表取締役副社長の雨宮寛(あめみやひろし)氏を講師にお招きしました。
「『よりよいもの』を目指して闘っている皆さまへ ~古典に学ぶリーダーのあり方~」と題し、普遍的価値を持つ"古典"を素材に物事の本質に対する思索を重ね、確たる自分自身の軸を持ち、高い視座に立って判断ができる人間力について、ご講演いただきました。
本講演をダイジェストでご紹介します。
『よりよいもの』を目指して闘っている皆さまへ ~古典に学ぶリーダーのあり方~
元東京海上ホールディングス(株) 代表取締役副社長 雨宮 寛 氏
*肩書きは講演当時のものです。
古典はなぜ、今なお読まれ続けているのでしょうか? そこには古くから磨き抜かれた時を経ても色褪せない叡智があるから、ではないでしょうか。読むたびに理解が深まり、その豊かさに気付かされます。企業や組織でリーダーとなる人は、自分の中にぶれない考え方を持つ一方で、多面的に物事を見る力も必要です。古典の叡智は、リーダーに多くのヒントを与えてくれます。
●リーダーの使命は何か
私は、リーダーの使命は大きく3つある、と考えています。
第1の使命は、組織目的の実現、です。
会社は何のためにあるのか、という目的の中で、
・お客様の幸せ(豊かな暮らし、安心の日常、便利さなど)に役立つ
・株主に対しては、将来にわたって健全に成長し続ける
・従業員が誇りとやりがいを持って働ける環境を作る
・関係先とは、お互いを理解、尊重し、協働する中で共に成長する
・確固たる経営理念を実行し、社会に広く貢献する
これらを実現するのがリーダーの使命といえるでしょう。
第2の使命は、環境変化に対応する変革、です。
組織の目的やあり方は、世の中の変化とともに変わる必要があります。リーダーの役割は、率先して「創造・変革」を進めること。この変化への対応が問われるところが、マネジャーとの違いです。
第3の使命は、人材育成、です。
部下は上司の背中を見て育ちます。「この人について行きたい」「この人の真似をしたい」、そんなリーダーになることが大事です。
●リーダーに期待したいこと
これからリーダーを目指す立場にある皆様に期待したいことが、いくつかあります。
まず、志を高く持つこと。理念や理想、夢、将来のビジョンを持ち、現状を少しでもより良い方向に導く責任負い屋であってほしい。そのためには責任から逃げないこと、すなわち腹をくくることです。スピード感を持って決断し、リスクテイクするのがリーダーです。その軸となる部分を、古典がサポートしてくれると思っています。
またリーダーはたいてい忙しく、何か問題を持ちかけられれば「なぜこの忙しい時に」と思いたくなります。が、むしろそこで傾聴し、部下が改善のきっかけを作ったことを褒めましょう。私は、コミュニケーションこそが皆さんの主たる業務だと考えます。風通しの良い職場を作り、縦(=レポートライン)・横(=他部署)・斜め(=異なる部署、立場)のコミュニケーションがスムーズになれば、変化対応力のある組織づくりにつながるでしょう。難しい部分ですが、リーダーシップが最も期待されるところです。
企業活動は変革の連続です。しかし現実は、変えたくない、変わりたくないという思考が蔓延します。リーダーは、組織では「何も変えないことが最も悪いこと」と心得て、変革のインキュベーターの任を担ってほしいのです。見えないものを見てリーダーシップを発揮するためには、人間力を豊かにすることも大切です。リベラルアーツに触れたり、古典などの本を読んだりすることが、こうした部分で生きてきます。
●リーダーとしての人間力の源泉
私がリーダーに必要と考えるのは、以下の資質です。
・謙虚であること
・自己省察できること
・自己満足・思考停止に陥らないこと
・考え続けること
・軸がぶれないこと
これらは、実は全部つながっています。パスカルの「パンセ」には、「私たちの尊厳の根拠はすべて考えることのうちにある。だからよく考えることに努めよう。ここに道徳の原理がある。」と書かれています。リーダーに期待されることとは、謙虚であり、考え続けること、考え続けることに耐え得ることで、その姿を部下は見ています。
●私にとって古典とは
最後に、私にとって古典とは、自分を相対化してくれる見方を示唆するものであり、その前に立てば自分が謙虚になれる題材でもあるのです。
【雨宮 寛 氏のPROFILE】
元東京海上ホールディングス(株) 代表取締役副社長
1973年 一橋大学法学部卒業、東京海上日動火災保険株式会社常務取締役、東京海上ホールディングス株式会社代表取締役副社長、損害保険料率算出機構専務理事を経て、現在は日本アスペン研究所セミナーでモデレータを務める。