2016年10月18日(火)、TKP市ヶ谷カンファレンスセンターにおいて第4回定例会が行われました。グローバル化が急速に進む中、国際社会で競争力を持って戦うには、リーダーとしてどのような心構えが必要なのでしょうか。SAPジャパン株式会社 代表取締役会長 内田士郎氏に、コンサルタントとしてアメリカで活躍された体験談などを交えてお話いただきました。
ここでは、講演会の様子をダイジェストでご紹介します。
「グローバルビジネスにおけるリーダーシップとは」
SAPジャパン株式会社 代表取締役会長
内田士郎 氏
(* 肩書きは講演当時のものです。)
●世界で勝負する日本企業の架け橋となる公認会計士に
子供の頃から海外に強い憧れがあり、大学時代は商社などグローバルに活躍できる企業への就職を希望していました。そんなある日、たまたま出席した会計学の講義で、「米国の公認会計士は、単に数字を数えるだけでなく、ビジネスアドバイザーの役割も果たしている」という話を聞いたことが公認会計士に関心を持ったきっかけです。大学卒業後に2年間猛勉強して公認会計士試験に合格し、海外での活躍を夢見て、当時"ビッグ8"と呼ばれた外資系会計事務所の一つであるピート・マーウィック東京事務所に就職しました。最初は東京事務所勤務でしたが、グローバルな仕事に触れる中で「海外進出する日本企業の架け橋になりたい」という思いが次第に強くなっていきました。
31才のときに念願のアメリカ勤務が決定。赴任先はシリコンバレーの中心地であるサンノゼ事務所でしたが、赴任当初は困難の連続でした。日本で働いていたころ英語力にはむしろ自信のある方でしたが、いざアメリカで米国人と対等にビジネスをするのは、語学力ではない様々な壁に阻まれることも多く、容易なことではありませんでした。苦悩する毎日の中で、「海外進出する日本企業の架け橋に」という原点を思い出し、アメリカに進出する日本企業の立ち上げに伴う支援を無我夢中で行い、会計士としての業務にとどまらないよろず相談にも応じました。目指したのは、一度会ったら忘れられない会計士になること。そうして全力でサポートした企業が次々と業績を伸ばすなど結果の積み重ねが、顧客の信頼を獲得し、また自分自身の価値をも高めていくことができたのです。
●ビジネスの基本となる"Do the right things"
真の信頼関係を築くためには相手がお客様であっても「ただ言われたことをやる」のではなく、「やるべき正しいことを勇気と信念を持って進言し、やり遂げる」ことが大切です。英語で言うと、"Do things right"ではなくて、"Do the right things"。国際社会では、こうした強い心で仕事をする人が信頼されます。私もアメリカで "Do the right things"を貫いているうちに、同僚や上司、お客様から信頼を寄せていただけるようになりました。また、"Do the right things"は、相手が欲しいといったものを単に提供するのではなく、心の奥にある「本当のニーズ」を引き出し、それにふさわしいものを提案することの大切さも意味しています。常にプロフェッショナルとして、全力で相手の記憶に残る仕事をすることが大事です。顧客の期待を超える成果を出す、相手に感動を与えることが自分の評価につながり、次の更に大きな仕事につながっていくのです。
●全体を俯瞰しつつ、「思い」を共有することが良い仕事に
ただ言われたことを正しくやろうとすると細部に入り込みすぎてしまい、本来重要なことが見えなくなりがちです。仕事で結果を出すためには、本筋を押さえ大局を見て時には合理的に進めることも必要です。全体を見渡す「鳥の目」、地を這うように詳細を見極めていく「虫の目」、物事の流れとなる潮目を読む「魚の目」の3つのバランスを持ち、その時に必要なやるべきことを上司や顧客に勇気をもって進言してください。
また、仕事は一人ではできません。一緒に同じ目的のために動ける仲間、を持つためには「思いを共有する」ことがとても大切です。ヤン・カールソンの「真実の瞬間」という本に出てくる石工の話があります。ある職人は、「生活のためにやっているよ」と、つらそうに石を削っていました。そして別の職人は、「世界一美しい教会を作るための石を削っている」と、目を輝かせながら作業を進めていました。石を削るという作業は一緒ですが、目的もわからずにただ削り続ける職人と、美しい教会の一部になることに誇りを持って取り組んでいる職人では、仕事に対する思いが全く違います。上に立つリーダーが、仕事の意味合いや目的などを、大局観を持って共に働く仲間:部下へ共有することが、良い仕事へとつながっていくのです。
●率先して変化を生み出し「やるべきこと」へのアクションを
これから日本企業が国際競争力を高め続けていくためには、戦略的に変化していくことが求められます。日本に戻りビジネスをするなかで、変化への対応の違いに気づきました。変化への対応には3段階あり、1つ目は、実際の変化にできるだけ早く対応するということ(リアクティブ)。2つ目は、変化を予測して準備すること(プロアクティブ)。そして最も必要なのは、未来の仮説を基に、自ら率先して変化を生み出していくこと(クリエイティブ)です。日本企業は過去の検証は得意だと言われますが、それは今後も過去と同じことが続くという前提なら有効です。しかしこの変化の激しい時代において我々がすべきは、未来から今を見て仮説を立てやるべきことを考え、アクションを起こすことです。
また変化を生み出し、やるべきことを最後まであきらめずにやりとげるには、「思い」が必要です。強い思いがあれば、チャンスに気づいたり、仲間が共感しくれたり、実現できる可能性が広がります。これからのリーダーとなる皆さんには、常に湧き出る思いを大切にし、グローバルに活躍していただきたいと願います。
【内田士郎氏のPROFILE】
SAPジャパン株式会社代表取締役会長。公認会計士(日本および米国)。
1955年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ピート・マーウィック・ミッチェル会計士事務所、プライス・ウォーターハウス・クーパースなど、13年間に渡り米国で活躍後帰国。Pw?コンサルティング株式会社取締役、ベリングポイント株式会社代表取締役社長、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社代表取締役社長、同社代表取締役会長を経て、2015年より現職。米国での豊富な経験をもとにした、グローバル視点に立ったコンサルティングの見識が高く評価されている。