J-Win Next Stage第3回定例会が、2016年9月21日(水)にTKP市ヶ谷カンファレンスセンター、TKPガーデンシティ大阪梅田で行われました。今回は、経済産業省の今里和之氏を講師に招き、「『新産業構造ビジョン』~第4次産業革命をリードする日本の戦略~」というテーマで、ITソリューションの将来動向を見据え、日本の企業がめざすべき方向や官民協働のあるべき姿などについての講演が行われました。
ここでは、講演をダイジェストでご紹介します。
『新産業構造ビジョン』~第4次産業革命をリードする日本の戦略~
経済産業省
経済産業政策局 産業再生課
今里和之氏
(* 肩書きは講演当時のものです。)
IoT、ビッグデータ、AI(人工知能)などの技術革新は従来にないスピードで進行しています。これに対応する的確な投資や、ルールの整備・変更を迅速に行うために、産業構造審議会に「新産業構造部会」を立ち上げ、関係省庁と一体になり「新産業構造ビジョン」の策定に向けた検討を進めてきました。今年4月に行った中間整理の状況をお話いたします。
●今、何が起こっているのか
現状日本ではどのような変化が起きているのでしょうか。大事なのは、IoTやビッグデータ、AIは、それぞれが連動して大きな変化が起こるため、一体としてとらえることが大切だということです。IoT でさまざまなものから大量のデータが取得できるようになり、ビッグデータとして蓄積され解析できる形になります。それを解析するツールとして人工知能が生かされるのです。こうしたものが一体となって発展することで、今までにはない便利な世界が現実になります。これはITの限られた技術革新の話ではなく、世の中のあらゆる産業に使われることで社会が大きく変わる、まさに「第4次産業革命」です。自動車の自動運転や、医療診断のサポート、レベルを判断して習熟度別に問題を出す学習システムなど、世の中を変え始めています。
●第4次産業革命による社会の変革と産業構造の転換
ビジネスにおいては、顧客のニーズを把握することが大事ということがマーケティングの基本ですが、個人ごとに何を望んでいるのかつかみにくいのが現状でした。IoTは、ひとりひとりがセンサーを持ち、どのように行動するのかがわかり、顧客がほしいもの、解決してほしいこと、大きな社会的な課題があるところなどをあぶりだすことができます。こうしたところに大きなマーケットが生まれる可能性があるのです。安全に移動したい、欲しいものを欲しい時に欲しいなど、顧客のニーズを中心に多様な変化が起こると予測されます。産業の変化は、業界を超え、さまざまな分野で起きていくでしょう。
●第4次産業革命による就業構造転換
AI技術の発展によって、なくなる仕事、生まれる仕事が注目されますが、産業構造が変わることで、人の働き方も変わってきます。大きく分けて4つの層に分かれ、1つ目の層はAIやロボットなどのアルゴリズムを創り出してビジネスをリードしていく人たちです。2つ目がAI、ロボットを使いながら、ともに仕事をしていく層。3つ目は、AIには代えられない、人ならではの価値を発揮する仕事が残ると考えられます。そして4つ目は、AIやロボットに代替される仕事です。製造ラインなど、機械の導入が安価になると低賃金化する可能性もあり、できるだけ上の層に人がシフトするよう、就業構造を変えていく必要性があると考えています。
●我が国の基本戦略
今後は、リアルデータの活用に注目しています。ネットの中だけではなく、病院で検診を受けたデータ、自動車が街を走って得たデータなど、実生活の中で行動して発生するデータをどう活用するかが次の勝負のポイントだと考えています。日本は、ロボットやデータに関する技術は高いですが、分析が苦手という傾向があります。弱みを克服しながら強みを発揮する戦略が必要です。そのために、データをうまく活用するための人材教育などの環境整備、研究開発の促進、中小企業を巻き込んだ産業構造・就業構造の転換などの環境整備が必要です。子どもの教育改革や、優秀な外国人の永住権取得のスピード化など、霞が関でも組織を横断した改革をワンストップで、迅速に行っていきます。
●今後の検討の進め方
「新産業構造ビジョン」中間整理の段階では、全体をつかむ、世の中の動きを整理することが主でしたが、今後は具体的な戦略へと入っていきます。日本はどの分野で勝負すれば勝てるのか。絞り込んだところに政策資源を投入し、そこで政府として何を進めていくのかを検討していきます。働き方改革も重要な課題です。人材育成や雇用の部分にどう踏み込んでいくかが後半戦の大きなポイントになっていくと思います。具体的な制度改革を実現し、第4次産業革命に対応する新たな社会を実現していきたいと思います。
【今里和之氏のPROFILE】
2003年、東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻修了。同年、経済産業省に入省し、経済産業政策局 産業構造課に所属。以降、製造産業局 参事官室、内閣官房 教育再生会議事務局(出向)、原子力安全保安院 原子力発電検査課、原子力規制庁 安全規制管理官付、製造産業局 産業機械課を経て、2015年より経済産業政策局 産業再生課 課長補佐。米国カーネギーメロン大学への留学経験あり。