2016年7月20日(水)TKP市ヶ谷カンファレンスセンターに於いて、Next Stage第1回定例会が開催されました。当日の講師はアフラック日本社創業メンバーのひとりで第5代社長を務め、現在はゴールドリボン・ネットワークという、小児がんの子供たちやその研究を支援する、認定NPO法人の理事長として活躍されている松井秀文氏です。柔らかな語り口ですが、使命感をもってリーダーとして組織を動かしていく、その極意を貴重な体験とともにお話いただきました。
「組織をリードしていくうえで必要なこと」
元アフラック社長・会長
認定NPO法人 ゴールドリボン・ネットワーク理事長
松井秀文氏
(* 肩書きは講演当時のものです。)
● 企業の創業というチャレンジには「使命感」が必要だった
私はまず、「組織はリーダーによって決まる」と考えています。そのくらいリーダーの影響力は大きいですし、責任は重いものです。ですからリーダーとなるには、まず「使命感」と「覚悟」が必要です。
私がアフラック日本社の立ち上げに誘われたのは1973年のこと。大学を出て川崎製鉄に入り、4年でやめて別の会社で働いていた20代のとき、私の前の社長だった大竹氏に誘われました。しかし保険業界のことを知らないし、アメリカのアフラックの規模も当時はそれほど大きくなく、行くかどうか正直迷いました。そんなときに小児がんの子供を持つ父親の手記を読んだのです。それがきっかけでがんと闘っている方々とも会い、「がんとの闘いは、病気との闘いだけでなく、経済力との闘いでもある」と知ったのです。そのおかげで、「がん保険」は世の中に絶対に必要なものだという確信をもつことができ、がんになった人たちのため、社会のために、何としても成功させなければならないという「使命感」と「覚悟」ができました。
しかし当時は、がん保険はまったく新しい分野の保険で、絶対に売れないと言われていました。がんと聞くだけで死=暗いイメージがつきまとっていたからです。ところが創業当初、5年間で新契約50万口という計画に対して、初年度でそれ以上の新契約の獲得を達成できたのです。成功要因はいろいろとありますが、ひと口でいえば「差別化」。オンリーワン商品で、しかも潜在ニーズは非常に高かったということでしょう。組織をリードするうえで、この「差別化」は非常に大事なことです。がん保険を死んだ時の保険ではなく、「生きるための保険」と位置付け、それをコアバリューとし、日本初、業界初のさまざまな「新しい価値」を提供できるよう努力したことが成功の要因だと思います。
● 常に「不易流行」と「相利共生」を心に
企業は長期にわたって成長し続けなければなりません。それには「不易流行」、どのような時代でも変わらず持ち続ける経営理念と、一方では「変化適応」、時代やお客様の要望に合わせて常に変化していく部分とを持ち合わせていなくてはなりません。「生きるための保険」という理念は変えずに、でも常に新しい価値を生み出す努力をしていないと、いつの間にか企業は衰退へと向かってしまうのです。
そして、私がもう1つ大切に思っていることは、「相利共生」です。近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」つまり「三方よし」という言葉がありますが、この言葉は商売の真実をついていると私は思います。企業や経営者だけの一人勝ちはありえない。お客様第一主義はもちろんのことですが、社員にとっても、販売代理店にとっても、株主にとっても、世間にとっても良しという状態が、結局のところ企業が信頼され、長期にわたっての好業績へとつながるのです。こうした理念から、例えばですが、給付金の支払いはどこよりも早く行う。しかもがん特有の問題として、創業時は患者本人に病名が告知されていないケースが多くありました。このときには本人に分からないように給付するなどのサービスを充実させました。また、ローコストマネジメントを徹底し、一方で販売代理店に対しては、経営を安定化できる水準の販売手数料を支払う努力も続けてきました。
今私が活動しているゴールドリボン・ネットワークをはじめ、さまざまながんに対する支援や小児がんの総合支援センターとしての「アフラックペアレンツハウス」を作るなどの社会との共生活動は、アフラックの社員として働くことの希望と喜び、誇りを与えていると思います。
また、「組織をリードするうえで必要なこと」ですが、それは社員を「やる気」にさせること、そのうえで創造性を発揮してもらうことです。常に新しい価値を創造するためにも、もっとも大事なことは「創造性」だと考えています。そのためには、リーダーは、「Vision」を示す必要があります。例えば私が社長になったとき、「5年間で№1になろう!」というビジョンを掲げました。そのためにはまず「自分が№1と思われるものを創れ」と社員に呼びかけ、それによって社員は自分の強みを発揮し、モチベーションアップ、行動力もアップしました。おかげで、目標より1年早く生命保険業界で個人保険の保有契約件数№1に、そして総収入1兆円規模の企業になれたのです。目標に到達することができたという成果は大きな自信になり、喜びになり、一人ひとりのパワーをより大きく成長させてくれます。そして、リーダーは社員の信頼を得ることができます。
● 危機のときこそ、素早い決断と社員を動かすパワー
アフラック日本社も創業して40年を超えました。長い年月の中では、さまざまな危機も襲ってきます。例えば、1997年という年は、日産生命、山一証券等が破たんし、さらに消費税が3%から5%へアップした年ですが、そうした余波を受けて、その年の新契約は前年比約2割減という現実に直面しました。そのようなときこそ、リーダーにはスピーディーな決断と対応が求められます。そのためには自ら行動し、何が起きているのかを把握することが必要です。また、日ごろから現場をきちんと見ていれば、その要因は自ずと見えてきます。原因がわかれば、打つ手もわかる。「戦略は現場にあり」です。この時は環境変化に対応して、従来は大企業や団体を主要マーケットとしていたものを、思い切って個人マーケット重点にシフトしました。逆境のときこそ、克服するためのアイディアが必要です。そのためには外部を含め、みんなから情報やアイディアを集めればいいのです。そうした中からリーダーとして「決断」し、次なる目標を掲げ、それに向かって社員を団結させることです。各職場で話し合ったり、社員と直接対話を行うなど、みんなを巻き込んでいくことです。情報は基本的には公開し、コミュニケーションもできる限りとるようにします。「リーダーシップは社員を共通の目的のために団結させる能力であり、人々に確信をもたらす資質である」というバーナード・モントゴメリーの言葉そのものだと思います。
【松井秀文氏のPROFILE】
東京大学経済学部卒業後、川崎製鉄を経て、1973年よりアフラック日本社の設立に参画。1995年5代目社長、2003年 会長、2007年相談役に就任。2008年認定NPO法人 ゴールドリボン・ネットワークを立上げ、理事長として生涯にわたる小児がんとの闘いを継続中。