J-Win11月度定例会が、2016年11月28日(月)に東京ウィメンズプラザホールで行われました。今回は、DIC株式会社相談役の杉江和男氏に「リーダーへの道」というテーマで、リーダーに必要な考え方や仕事の価値などについてお話しいただきました。
ここでは、講演の様子をダイジェストでご紹介します。
「リーダーへの道」
DIC株式会社
相談役
杉江和男氏
(肩書は講演当時のものです。)
●目標となる新のリーダーたち
みなさんは真のリーダーとは、どのような資質を持った人と思いますか。例えば、ノーベル平和賞を受賞した人を例に取って考えてみましょう。私はその中から、マーティン・ルーサー・キングJr、マザー・テレサ、ダライ・ラマ14世、アウンサンスーチー、マララ・ユスフザイの5人を挙げます。彼らに共通するのは、他人のために尽くし、強い倫理観と情熱、責任感を持ちながら、自らが困難に立ち向かって行動していることです。みなさんにも、そのような気持ちを持って、真のリーダーとして活躍していただきたいと願っています。
●「良い研究をして工場を建設したい」という夢を持ってDICへ
私は、北海道の十勝地方で生まれ、実家は農家でした。土壌改良など、さまざまな工夫を農業に取り入れていた父のもと、子どもの頃から身近なことについて「どうして汽車は走るの?」など、わからないことを質問攻めにする子供だったそうです。こうした気質は、社会に出てからも、「どうしてこのような仕事を要求されているのだろう」「どうしてあの人は怒っているのだろう」など、疑問から解決策を探ることが習慣となり、仕事をする上で大変役立ったように思います。中学、高校時代は、化学が得意で理系の道へ。大学院修了後は、「良い研究をして工場を作りたい」という夢を持って、大日本インキ化学工業(現DIC)へ入社しました。
●30年で9部署を異動し経験と人脈を構築
コミュニケーションが苦手という意識があったので、理系入社なら営業職になることもないだろうと思っていました。しかし実際には現場で多くの仲間とかかわりながら、徐々にリーダーシップの大切さを実感するようになりました。当時、製造現場では仕込み間違いや規格外れなどのトラブルが毎日のように発生し、休日でも呼び出されることが度々ありました。どうして間違いが起こるのか?ある製品試験の場合、現場のオペレーターは測定方法については教えられていますが、この試験が何の役に立っているのか、目的や意図を教えられていないことがわかりました。それではただの作業になり仕事に対するモチベーションや愛情を持ちにくい。そこで、彼らに製品の用途や規格の意味を教える勉強会を行ったところ、不良率が低下したのです。この経験を通し、管理に関わる人が仕事の目的を示すことの大切さを現場で学びました。入社から30年の間に、技術や生産管理、マーケティング、営業など、30年間で9部署を経験。ニューヨークやロサンゼルスにも駐在し、社内外の人に対応する中で人脈も広がりました。
●仕事とは課題を解決し、社会に価値を提供すること
チャールズ・ダーウィンは「社会の変化に適応する種のみが生き残る」、ピーター・ドラッカーは「仕事とは顧客(=社会)に価値を提供すること」と言っています。DICは、印刷インキの会社を数多く買収し、世界の印刷インキの30%と、第一位シェアを持っています。しかし、これだけのシェアを持っていても印刷需要が減っているので、安心はしていられません。印刷インキの役割は何でしょうか。情報を伝達することです。ただ、今や情報の伝達方法は、時代を経て紙からスマートフォン、テレビ、タブレットなどに変わってきています。そこで顔料メーカーである我々は、ディスプレイに使う顔料に着目し、色によっては圧倒的な世界シェアを獲得しました。今の時代の情報伝達に彩りを提供するという価値を追求しています。みなさんもぜひ、自分は仕事で会社や社会にどのような価値を与えられるのかという視点で仕事に取り組んでいただきたいと思います。
●人間力を磨いて信頼されるリーダーに
リーダーになる人は、上司、部下、顧客を含めて"フォロワー"になってもらうような存在を目指すことが大切です。また、別の局面では他の人に対して自分がフォロアーになって、相互に信頼関係を築いていただきたいです。リーダーは、自分の考えを持ちながらチャレンジし、うまくいかないときにはやり方を考え、周りの助言も聞くことで解決策を見出します。結果として上手くいかなくても、フォロワーである顧客はその仕事ぶりを見て、またこの人にお願いしようと思ってくれることもあるでしょう。そのような信頼関係を築くには、公平性や責任感、コミュニケーション能力、論理的思考といった人間性を磨くことも大切です。社会は常に変化して課題を抱えています。さまざまな課題を解決するためにリーダーシップ力を磨き、やりがいのある仕事に取り組んでいってください。
【杉江和男氏のPROFILE】
北海道大学大学院修了後、大日本インキ化学工業(現DIC)入社。技術、生産管理、新製品、新事業の企画、マーケティング、営業、経営企画など、30年間で9部署を経験。この間にニューヨークやロサンゼルスなど海外駐在も経験し、2009年に同社の社長に就任。「化学で色彩と快適を提案する」という経営ビジョンのもと、100年以上の歴史を持つインキ会社の改革を行った。現在、同社相談役、サッポロホールディングス監査役のほか、教育、人材育成にも携わっている。