2月度定例会が、2016年2月10日(水)に東京ウィメンズプラザホールで行われました。今回は、DIC株式会社 相談役 杉江和男氏による講演「多様な価値を活かすリーダーシップ力を」と、Next Stageメンバーによるパネルディスカッション「J-Win活動で得た果実とNext Stageでのチャレンジ~5期メンバー卒業に向けてのアドバイス~」が行われました。
ここでは、講演をダイジェストでご紹介します。
「多彩な価値を活かすリーダーシップ力を」
DIC株式会社 相談役
杉江和男氏
(*肩書は講演当時のものです)
●DICの経営改革
私は技術者として大日本インキ化学工業(現在のDIC)に入社し、多くの部署を経験しました。最初は技術職以外の業務に携わることに抵抗もありましたが、結果的には会社が多様な仕事をするチャンスを与えてくれたことで、リーダーシップ力が身についたと思っています。今日はその経験を踏まえてお話したいと思います。
DICは、さまざまな経営課題を抱えておりました。主要製品である印刷インキでは世界で圧倒的なシェアを誇ってきましたが、印刷物の需要は確実に減少しています。また、組織面では18事業部が部課別にPL、BSを作るほど独立した運営をしていました。製品の数量は少量で多品種、利益率も低い。財務面では80%が借入で投資の格付けも低いなど、小規模事業の集合体でした。私が社長に就任したのは2009年でしたが、その2年前から「化学技術を使って色彩と快適を提案する」を経営ビジョンとして定め、真のグローバル企業を目指して改革に着手しました。18事業部の"点"の仕事を"面"にすべく、事業部間のシナジーを生むように組織を組み換え、社内の意識改革のために、年間30回くらい各工場や営業所、子会社などをまわってタウンミーティングで若い人たちの話を聞きました。
●価値を提供できる会社に
ピータードラッカーは、「私たちの顧客が考える価値とは何か」と問いかけました。印刷インキは印刷物として情報を伝達するために必要ですが、消費者はより早く情報を知りえるテレビやパソコン、スマートフォンなどに手段が変わってきました。それを受けて、情報機器に使われる顔料、液晶化合物や合成樹脂などの開発に重点を移しました。DICは、液晶テレビ、スマホなどに使われている緑色の顔料では世界で圧倒的なシェアを持っています。インキに使う顔料ではディスプレイの性能を満たせません。顔料のような個体の粉粒子は凝集する性質がありますが、微細な粒子をマイクロカプセルのような方法で凝集しないようにする技術が認められ、世界で採用されています。
●人と社会がWin-Winの関係に
時代の変化の中で、企業や団体はイノベーションや新たなビジネスモデルを創出し、生産性を向上しなければなりません。新たな価値創造は、今までのような男社会や村社会、自分だけの力ではできない時代になってきています。ぜひ女性の皆さんには、リーダーシップを身につけていただきたいと思っています。
その中で大事なことは、人と人、人と社会がWin-Winの関係にならなければならないということです。仕事をしていると、いろいろなステークホルダー(利害関係者)があります。たとえば人事担当だとすると、上司や同僚、会社、社長、採用面で学校や先生、福利厚生面では政府など。社員に対してはできるだけやる気を出してもらいたい、大学などに対しては優秀な学生を回して欲しいなど、人事としてさまざまな要望があるでしょう。様々な相手とのWin-Winを考え、相手にどのような価値を与えられるのかを考えることが、組織への貢献にもつながっていくのです。
リーダーの役割は人を活かすことにつきると思っています。私自身も社長時代に全部自分の判断で行っていたわけではありません。リーダーになる人は与えられた課題でも自らの仕事に転換し、自分なりに調べ、まわりの意見を聞きながら進めていきます。もしその仕事がうまくいかない時、まわりの人は貴女を見て、新たなアイデアをくれるでしょう。まわりの人が助けてあげようという人脈ができることがリーダーになる道なのです。
私は毎日仕事の課題を解決する繰り返しの中で、できるだけまわりの人の知恵や力を借りながら会社組織に貢献できることを考えてきました。みなさんも人と社会のWin-Winを意識しながら仕事をしていくことで、その結果、リーダーシップ力が身についていくことでしょう。皆さんのこれからのご活躍を大いに期待しています。
【杉江和男氏プロフィール】
北海道大学大学院修了後、大日本インキ化学工業(現在のDIC)に入社し、技術、生産管理、新製品企画、マーケティング、営業、経営企画など、海外駐在を含め30年で9部署を経験。2009年に社長に就任。経営ビジョンである「化学で色彩と快適を提案する」のもと、老舗企業の経営改革を推進。現在は同社の相談役、サッポロホールディングス監査役の他、教育人材育成に携わっている。