2014年9月度定例会が、2014年9月10日(水)17時からTKP市ヶ谷カンファレンスセンターで行われました。9月度定例会は、ゴールドマン・サックス証券株式会社のキャシー・松井氏をお招きし、「ウーマノミクス:今こそ実行の時」のテーマでご講演いただきました。
「ウーマノミクス:今こそ実行の時」
ゴールドマン・サックス証券株式会社
マネージング・ディレクター、チーフ日本株ストラテジスト
キャシー・ 松井氏
(※肩書は講演当時のものです)
●女性就業率引き上げで人口動態危機に対応
どの国でも、人口動態危機を打開するには3つの選択肢しかありません。1つ目は出生率の引き上げ、2つ目は外国人労働者の受け入れ拡大。日本の場合、これらは可能なものの時間がかかるかもしれません。そこで、3つ目の労働力率の引き上げはどうだろうと私は考えました。そしてウーマノミクス、すなわち、女性就業率を上げると日本の経済成長がどう変化するかについてレポートを書いたのです。GDPの成長にはその国の人材、資本、生産性が必要です。人材が縮小すれば、ほかの2つが同じままでも経済は縮小します。これは、平均的な国民の生活水準が下がることを意味します。
● ウーマノミクスで直面する4つの通説
私は、ウーマノミクスについて話し続けるうちに4つの通説を見つけました。
1つ目の通説は「多くの日本人女性がプル要因で仕事を辞める」というものです。育児や介護など仕事とは別の要求で職場から女性を引き離す要因を、英語では「プル要因」と呼びます。アメリカのNGOが行ったアンケート調査によると、多くの日本人女性が育児や介護のために仕事を辞めましたが、実はそれ以上の数のアメリカ人女性が育児を理由に辞めています。一方、仕事への不満や行き詰まり感などで職場から押し出される「プッシュ要因」が理由で辞めた人数は、日本人女性がアメリカ人女性を大きく上回りました。
つまり、日本政府が保育園や介護サービスなどを拡充しても、まだプッシュ要因が残るのです。これは企業内部の問題で、女性たちの手本となる女性管理職の比率の低さや男女の賃金格差なども含まれます。
2番目の通説は「日本人女性は野心的でない」です。先ほどの調査では、産後の職場復帰についてアメリカ人女性が89%、日本人女性も77%と、高い比率で「したい」と答えました。ところが実際に仕事を見つけられた人は、アメリカの73%に対し日本はたったの43%です。
私は、日本人女性全員が外で働くべきだと言っているのではありません。ただ、女性に野心があるなら平等に機会が与えられるべきだと言いたいのです。
3番目の通説は「ダイバーシティは企業業績と関係ない」です。ところが現実はその逆で、企業の収益性のためにはダイバーシティをぜひとも高めなければなりません。
2つの例をご紹介しましょう。1つ目の例は、アメリカのNPOの調査結果によると、フォーチューン誌上位500社のうち、女性役員のいない企業と3人以上いる企業を比べてみると、3人以上いる企業のほうが株主資本利益率、投下資本利益率ともに約50%上回っていました。そこで日本企業765社について分析してみると、ほぼ同様の結果が出たのです。ボードメンバーが同じような考え方の人ばかりだったら、新しいアイディアや創造性は生まれないでしょう。でも、そこに女性や少数派と言われる人々がいれば、違った視点が加わりイノベーションにつながります。これが収益性にもプラスに反映されるのだと思います。
2つ目の例は私共の分析結果です。GDPは人材、資本、生産性から成るので、人材のインプット、つまり女性の就業率を男性並みに上げてみました。すると、労働者数が約710万人も増加したのです。これが日本のGDPを12.5%へと押し上げます。多くの人の所得が増えれば消費が、そして企業の利益が増えるのです。利益が増えれば賃金が上がり、資本的支出も増えます。ウーマノミクスは、女性だけでなく社会全体の利益にもつながるのです。
最後4つ目の通説は「女性の社会進出で出生率がさらに下がる」です。国別に就業率と出生率を表すグラフを見ると、スウェーデン、デンマーク、英国などでは多くの女性が働き、出生率も高くなっています。日本国内47都道府県についても同様の結果が出ています。つまり女性就業率が上がると、人口成長率引き上げにつながるかもしれないのです。
私たちは、事実に基づいて何をすべきか話し合う必要があります。
● ウーマノミクスは政府、企業、社会の三位一体で
ウーマノミクス達成は政府だけに任せるのではなく、企業と社会の意識も変える必要があります。私たちは、これが女性のためによいからではなく、日本の将来にとって重要だからと考える必要があります。女性は少数派です。少数派だけで組織を変えるのは大変なので、多数派である男性リーダーたちも巻き込んでください。企業の成長と成功のためにウーマノミクスが重要であると納得させましょう。
【キャシー・松井氏プロフィール】
アメリカ合衆国カリフォルニア州生まれ。1986年ハーバード大学卒業、1990年ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了。日本輸出入銀行(現国際協力銀行)、バークレイズ証券会社を経て、1994年にゴールドマン・サックス証券会社に入社。マネージング・ディレクター、チーフ日本株ストラテジストを務める。 1999年、女性就業率のアップが日本経済に与える影響を分析し、ウーマノミクスとしてレポートを発表。2007年には、ウーマノミクスのテーマにて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の「10 Women to Watch in Asia」の一人に選ばれる。