2014年度4月定例会が、2014年4月9日(水)17時から東京ウィメンズプラザで行われました。今回は、パナソニック株式会社の山田由佳氏を講師に招き、「『できる』を『できた』に・・・その感動がやみつきに」というテーマでご講演いただきました。
「『できる』を『できた』に・・・その感動がやみつきに
そして今、究極のリサイクルを目指してチャレンジ中!」
パナソニック株式会社 R&D本部
先端技術研究所 工学博士
エコマテリアル研究グループ
グループマネージャー
山田由佳氏
(*肩書は講演当時のものです。)
私は現在グループマネージャーとして、環境エネルギー分野の先端研究に携わっています。実は10年前までは違う分野に取り組んでいました。今回は企業での研究開発とは何か、そして、組織の責任者として仕事にどう向き合っているのかについてお話したいと思います。
●夢の世界を現実のものに変える先端技術開発
小学校から高校と、理科の先生が担任だったこともあり、理科が好きでした。高校2年の時に物理のおもしろさに開眼。いわゆる「リケジョ」として理系一筋の人生を歩んできました。大学院への進学か、就職かを選ぶ時期に、実習で訪れた研究所のすばらしい環境に感動し、こんなところで研究がしたいとパナソニックへの就職を志望しました。
研究開発とは、新しい原理・原則を生み出し、理想を実現へと導いていくことだと思っています。未来や夢を思い描き、知恵と行動力で「できるかな?」「できるはず」というものを「できた」に変えるのが私たちの仕事です。日本人の想像力は世界でもトップレベル。私たち日本人こそが夢を描き、100年後の未来を変えていけるという自信を、今こそもつべきだと思っています。
先端研究においては、取り組んだ10のテーマのうち、成功して事業化されるのは1つ程度。研究段階では、それほど多くの失敗があるということです。研究職に向いているのは、前向きで楽観的、転んでもただでは起きない七転び八起きの精神力を持った人でしょう。また、失敗を恐れず、自分自身が楽しめるような目標値を設定して努力することは、どんな仕事においても大切なことだと思います。
●ナノ技術から、環境エネルギー分野への転向
私は1990年代からナノ技術の研究に取り組み始め、シリコンの超微粒子発光を世界で初めて成功させました。それまで光らないとされていたシリコンが、暗室でぼんやりと光を放った瞬間には、大きな興奮と感動を覚えました。その達成感は、一度味わったらやみつきで、今も私のモチベーション源になっています。
2000年代に入り、燃料電池が市場に出始めた頃。当社はお正月の新聞全面広告で真っ黒に燃え尽きようとしているマッチを地球にたとえ、環境エネルギーへの取り組みを重点項目とすることを宣言しました。その広告は私に大きな衝撃を与えました。これがきっかけのひとつになり、それまでのナノ技術からこれを生かした環境エネルギーへと研究テーマを転換し、2006年にはグループマネージャーとなりました。
そして現在、排熱回収と人工光合成の2つのテーマにチャレンジしています。燃料から取り出したエネルギーが実際に使われる過程で、実にその7割が主に排熱としてロスになります。一つ目の排熱回収は、特に大きな割合を占める200度以下の低温熱を回収し、電気に変えようというものです。二つ目は、われわれ電機メーカーが得意とする無機半導体材料を使い、CO2と水を、太陽エネルギーにより酸素と燃料(メタン)に変えるというものです。どちらも研究段階ですが、研究所内での原理検証が成功し、研究所内外での実証実験へと歩を進めたところです。
●プレゼンテーションと自己アピールの重要性
研究所のグループマネージャー(部長格)として、研究開発に携わりながらチームをまとめる立場になり、様々な上司、先輩からいただいた言葉を胸に日々奮闘しています。例えば「技術論を語り合う際に、上下関係はない」「本当に新しいことをやりたいなら多数決で決めるな」「お金を使わず何もしないより、お金を使って失敗したほうがいい」「井のなかの蛙になるな。外へ出て行き、発信せよ」などの教えです。
特に女性の皆さんにお伝えしたいのは、自分の気持ちを大切にし、それを周りに素直に伝え、うまくプレゼンテーションしていってほしいということです。女性の場合、幅広い働き方や生き方が選べる半面、様々なライフイベントに際して2度3度と壁にぶつかり、悩むことがあるものです。そのとき、自分自身は何をしたいのかをはっきりと持ち、周りにアピールできる人であってほしいと思います。待っているだけ、言わないままでは、相手に何も伝わりません。スキルアップやキャリアアップの機会を得るためにも、上手に自分の思いをプレゼンテーションしていきましょう。
また私は仕事において、女性であるからこそのメリットを多々享受してきたと思います。男性と同じことをしても名前を覚えてもらえやすい、場を和ませてコミュニケーションを円滑にできるといったメリットです。特に理系の女性は、覚悟を決めてその道を選んだ人が多いはず。女性だからと尻込みしたり、また、がむしゃらに無理をしたりする必要はありません。夢に向かって、気負わずに一歩ずつ進んでいってください。
【山田由佳氏プロフィール】
1987年に松下電器産業(現パナソニック)に入社。1996年に筑波大学で工学博士号を取得され、レーザープロセッシング、シリコン超微粒子発光の研究に携わる。その後、環境・エネルギー分野を担当し、2006年から現職に就任。世界最高性能を記録した人工光合成、低温の排熱で発電する熱発電チューブという注目技術開発を成功に導く。2013年、日経BP社『日経WOMAN』主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014」リーダー部門を受賞。