J-Win1月度定例会が、2014年1月15日(水)17時から田町の女性就業支援センターにて行われました。内永理事長の挨拶、3月に行われる拡大会議についての案内と12月度の定例会の報告に続いて、2つの講演が行われました。
1人目の講師は日産自動車株式会社 執行役員の星野朝子氏。「あなたならではのキャリアを築く自分マーケティング術」と題して、ご自身のキャリアヒストリーから、女性の意識についての問題、上司としての視点など幅広い内容を非常に具体的にお話いただきました。2人目の講師、立教大学経営学部国際経営学科 教授の尾崎俊哉氏からは「分科会を進めていく上でのマネジメント学 Part2」というテーマでご講演いただきました。戦力的マネジメントを分科会にどう生かすかというお話から、今後分科会活動を進めていく上でのヒントをいただきました。
ここでは星野氏と尾崎のご講演をダイジェストでご紹介します。
「あなたならではのキャリアを築く自分マーケティング術」
日産自動車株式会社 執行役員
コーポレート市場情報統括本部 本部長
星野朝子
私の大学卒業時は男女雇用機会均等法の施行前だったこともあり、新卒の雇用条件で男女の差をつける企業がほとんどでした。そんななかで日本債権信用銀行は、珍しく男女差がないということだったので、一生働くつもりで就職しました。しかし3年ほどたつと、周りの男性社員は皆MBAを取得し、海外も含め幅広いネットワークを構築していることに気がつきました。そこで、自分もロンドン支社に行かせてほしいと直属の上司に依頼したところ、人事から「前例がないから、ちょっと待て」と言われたのです。「前例がないから」という理由に、この会社を辞めようと思いました。
そこで大学のゼミの教授に相談したところ「マーケティングの勉強をしなさい。日本のマーケティングはサイエンスが欠如している。あなたが勉強をしたら第一人者になれる。」と言われ、アメリカでMBAを取得しました。
ところが、帰国してもなかなか希望する仕事につけませんでした。投資銀行やビジネスコンサルタントからのオファーはあったのですが、私はマーケティングサイエンスを勉強してきたので、リサーチ会社への就職を希望していました。ようやく決まったのが社会調査研究所(現・インテージ)で、契約社員からのスタートでした。そこで役員理事になった頃、日産のカルロス・ゴーンから声がかかりました。
ゴーンは「あなたを選んだ理由は、マーケティングの専門性、海外経験があること、そして女性だからです」と言いました。さらに、「会議に出ると同じような背広を着た男性ばかりで、似たような考え方しかできない。そんな人ばかりで意思決定している企業はソリッドだけれど、ひとつヒビが入るとポキッと折れてしまう。柔らかいけれど折れない、しなやかな組織のほうが危機に対応できる。あなたはその起爆剤になる」と説かれて入社を決意しました。
日本のみならずグローバルでも自動車業界で女性の執行役員は多くないので、取材を受けることもよくあります。そんななか海外では全く質問されず、日本のメディアだけが必ず聞いてくるのが「仕事と家事の両立」です。私は「それは家事は女性がやるという前提のご質問ですか」と切り返して、答えないことにしています。「仕事と家庭のどちらが大事か」と聞かれることも多いのですが、愚問です。もちろん家庭です。ただし私は、毎日の時間のプライオリティは完全に仕事においています。それを家庭においたら仕事はできません。もしそれができないのなら、いったんキャリアの第一線から退いたほうがいい。それもひとつのチョイスですし、もちろん男性にもその選択肢はあります。プライオリティを明確にしないから、迷うのです。自分の中の優先順位を明確にすれば、あとはプライオリティが低いほうをどうするかを考えればいいのです。例えば、私は掃除のプライオリティが低いのですが、我が家では「我慢できなくなった人が掃除をする」というルールで、私は結構我慢強いんです(笑)
またキャリアが人生で大切なパートの一つと考えるならば、自分をプロモートすることも必要です。私が入社した頃、日産にMI(Market Intelligence)はありませんでした。企業視点で消費者の声を分析する機関であるMIを立ち上げてそのリーダーになってから、私はあの手この手でその実績をアピールしました。たとえば商品がヒットして売り上げが伸びたら「最初は反対もありましたが、結局私たちがプッシュした方向でうまくいきましたね」と。「こんなに予想が当ったんですよ」と資料をつくって、役員に渡したこともあります。10年たった今では、あらゆる意思決定の場でMIの承認が必要なまでになりました。特に日本の女性は自分をプロモートするのが苦手なことが多いのですが、売り込むのは「自分」ではなく「自分たちの仕事」ですから、躊躇することはありません。部下も含めて努力したことを認めてもらうことは、リーダーの責任でもあるのです。
【星野朝子氏のプロフィール】
1983年慶応義塾大学経済学部(計量経済学専攻)卒業、日本債権信用銀行に入行。国際金融部に勤務。86年ノースウエスタン大学ケロッグ経営学大学院入学。マーケティング、マネージメント、ファイナンスを先行。88年ノースウエスタン大学ケロッグ経営学大学院修士課程修了。MBA取得。89年(株)社会調査研究所 主任研究員として契約。2001年インテージ(旧・社会調査研究所)役員理事。02年日産株式会社入社 VP市場情報室担当。06年同社執行役員 市場情報室担当 12年同社執行役員 コーポレート市場情報統括本部 本部長。
「分科会を進めていく上でのマネジメント学 Part2」
立教大学経営学部国際経営学科 教授
尾崎俊哉
分科会には多様なメンバーが集まっています。それを適材適所で上手に組織し新たな価値を作り出すのが分科会活動です。ただいろいろな人が集まって活動するだけでは、価値を生み出す事はできません。具体的な成果に結びつけるためには、戦略的マネジメントが必要です。
今までとは違う新しいことを創出するためには、中・長期的なロードマップを作らなければなりません。経営学では、このとき必要なバックボーンは3つあるとしています。1つはビジョンやミッションを持つこと。そもそもの使命や存在意義は何か、何を目指したいのか。具体的にフォーカスを絞ることも必要です。2つめは、その漠然としたビジョンやミッションを具体的な目標・ゴールに落とし込むこと。会社の場合ならば「5年後までに売上を2倍にする」など、具体的な数字目標を使いながら明確にする必要があります。目標を作るにあたっては、やりたいことを全部するのは無理ですから、優先順位をつけて、できないことは我慢する。そういったトレードオフを受け入れることも、非常に大切です。3つめは戦略構築と具体的なアクションプラン。限りある人材や資源の強みを生かし、弱みをカバーしながら、どのように目標を実現するか。また、多くの人を巻き込んで進んでいく中で迷いが出てくることもありますから、規律を作ることも必要です。
これを分科会活動に当てはめると、まずビジョンやミッションは、J-Winのビジョンとシンクロしなければならないと思います。そのうえで、それぞれの分科会の目標を決め、どのように実現するかという戦略・アクションを考えます。私の個人的な意見ですが、分科会活動の目標は「成果物としての価値」と「過程からの学び」の2つだと思っています。具体的な成果に結びつけることも大切ですが、そのプロセスで戦略的な思考を鍛え、リーダーシップを養っていくことにも大きな意味があります。
また経営学では、グループで価値を創造するときにSECIというプロセスを経るとしています。S(Socialization)は共同化。お互いの経験を話すことで暗黙知を共同化します。E(Externalization)は表出化。暗黙知を言葉で説明することで、漠然と考えていたことを仮説化し、形式知にします。C(Combination)は連結化。こうして形式知になったことを検証、分類することで、新しい提案を生み出します。I(Internalization)は内面化。こうした提案が腑に落ちて体得します。
皆さんが分科会活動を進めるにあたっては、まずビジョンや目標を持ち、言語化することが必要です。SECIモデルも使いながら進めていかれるといいかと思います。
【尾崎俊哉氏のプロフィール】
福岡県生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業後、オーストラリア国立大学大学院で学ぶ。帰国後、1985年IBMに入社。仕事をしながら、ジョン・ホプキンス大学大学院、ジョージ・ワシントン大学大学院で学ぶ。2005年、IBMを退職して立教大学経営学部教授に。NPO法人J-Win理事。