2013年2月13日(水曜日)17時より、東京・田町の女性就業支援センターにてJ-Win2月度定例会議が行われました。この日のメインプログラムはリクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏によるご講演「自分のキャリアをイメージしよう~ところであなたの目指す"山"は大丈夫?」。専門性とリーダーシップを身につけるために必要なことが語られた後、「キャリア・マップ」を作るワーク・ショップが行われました。ワーク・ショップでは6名の女性メンバーが自分の描いたキャリア・マップを持って登壇。大久保氏から直接アドバイスを受けることができました。現在の社内での立ち位置、そして今後のキャリアをどう考えて行くかを確認できた、第3期メンバー最後の定例会議にふさわしい講演内容となりました。
ここでは大久保氏のご講演内容をダイジェストで紹介します。
「ご講演:自分のキャリアをイメージしよう~ところで、あなたの目指す"山"は大丈夫?」
株式会社リクルートホールディングス専門役員 リクルートワークス研究所所長
大久保幸夫氏
昨今は世の中の変化も早くその流れの中で、自分のことをゆっくり振り返る余裕はなかなかないとは思いますが、ご自身の「キャリアデザイン」についてじっくりと考えたことがありますか。キャリアをデザインすることは、自分が置かれている状況を確認して、自分の長所と短所、やりたいことは何なのかを点検し、将来はどのような人間になりうるのかを見極め、創造・管理していくことです。
もちろんそのキャリアには幸福感と納得感があることが重要ですが、初期形成期、つまり初めて社会に出てから10~15年間の「筏下り」時代は幸福感を得るのは難しいでしょう。筏下りとは、社会人としての基礎力を磨くべく、与えられた仕事に全力に取り組む時期で、「自分にはこれが向いている」と思っていても、実際に仕事にしてみるとそうではないと発見することのほうが多いはず。ですから、川の流れに身を任せるように、与えられるチャンス1つ1つに全力で取り組み、可能性の幅を広げながら、自分の適性ややりたいことを見つける時期と割り切ることも大切です。
ただし、ずっと筏下りをしていてはいけません。何ができて何ができないのかを見極めたら、自分の専門性という"山"を見つけて登っていく、「山登り」時代に転換していく必要があります。これが上手くいくと、その道のプロフェッショナルとして成長し、その結果、職業寿命が延び、50代60代になっても第一線で職を全うすることができます。
山登り型キャリアとは自らの強みにエネルギーを集中させ、能力を開花させる時期です。これはつまり、力を集中させるために、他の山を捨てなくていけないということです。かのピーター・F・ドラッガーも言っています。「不得意なことの改善に時間を使ってはならない。無能を並みの水準にするには、一流を超一流にするよりも、はるかに多くのエネルギーと努力を必要とする」と。強みだけでなく弱みを見つめることも必要だということです。
では、専門性の身につけ方について考えてみましょう。専門性とは、ある分野における公的な知識があり、それを常に一定以上の成果で再現できる力があること。つまり理論と実践がともなっているということです。当然、分野や領域をしぼり、自分の強みを活かしたアプローチの仕方を見つけると、プロフェッショナルとしての個性が際立ってきます。
ここで注意していただきたいのは、プロフェッショナルとスペシャリストの違いです。スペシャリストとは、ごく一部の細分化された内容に熟練している人で、正確さとスピードが求められます。一方プロフェショナルの要件とは、①高度な専門知識や技術を持つこと、②つねに一定以上の成果が挙げられること、③仕事について理論的に説明できる、④高度な職業意識(自分の仕事のやり方を自分で決め、自分で責任をとり、顧客の満足度を超えるほど質に徹底的にこだわる。職業倫理を守り、その分野の最先端の情報を学習し続ける)、といったことが挙げられます。そして、周囲の期待を引き出し、会社と自分がやりたいことの折り合いがつけられるようになれば本物です。
次にリーダーシップについて考えていきます。リーダーシップには、仕事の目的を達成する、あるいは問題を解決するために指揮をとる「タスク」のリーダーシップと、そのチームメンバーのモチベーションを高め力を引き出す「人」のリーダーシップの2つがあります。この両方の要素と、さらに専門性の掛け算がないと、高いパフォーマンスを生み出すことはできません。リーダーになるには、場数を踏み、経験を重ねることが必要で、早くからリーダーシップをとることに挑戦することも重要です。「ひと皮むけた経験」についてアンケート調査を行った結果から浮かびあがったリーダーシップ開発の方程式は、「人事異動」×「ロールモデル」×「厳しい仕事」とされています。
さらに、チーム内で信頼関係を築き、建設的な意見をすることでリーダーに貢献するフォロワーシップを発揮することも、リーダーシップ開発のステップです。こういったことは早い段階から意識して行うことが肝心です。適切な訓練を10年(1万時間)行うことで誰でもプロフェッショナルになれると言われています。ですから、自分が目指すのはどのようなプロフェッショナルなのか、どのようなリーダーへと成長したいのか、考えながら"山"を登ることが大切です。みなさんが望む姿は、「ビジネスリーダー(経営者)」なのか、「プロデューサー(複数の専門性を持つ創造的な人)」なのか、「エキスパート(ひとつの分野を極める人)」なのか。考えながらキャリアを磨くと、より自分の専門性にエッジがたち、更なる成長を遂げることができるでしょう。
3年先、5年先、自分がいきいきと働いている姿をイメージして、キャリア・マップ・シートに書き込んでみてください。「強みの背景にある経験・経歴」から「他者よりも強みと言えるもの」を分析し、「自分の専門性(知識領域・技術領域)」「現在、どのようなリーダーシップを発揮しているか」を考え、「どのようなプロになりたいか。それにキャッチフレーズをつける」、ここまで行ってみてください。きっと今すべきことが見えてくるはずです。
【大久保幸夫氏のPROFILE】
1983年、一橋大学経済学部卒業。同年4月、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、99年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010~12年、内閣府参与を兼任。11年、専門役員に就任。12年、人材サービス産業協議会理事に就任。専門は人材マネジメント、労働政策、キャリア論。『日本型キャリアデザインの方法 「筏下り」を経て「山登り」に至る14章』(日本経団連出版)、『成長する人が実践する30のルール』(日本経済新聞出版社)、『日本の雇用―ほんとうは何が問題なのか』 (講談社現代新書)『30歳から成長する!「基礎力」の磨き方』(PHPビジネス新書)など、著書多数。