2012年5月16日(水)17時から、NPO法人J-Win5月度定例会がリクルート銀座8丁目ビル11Fホールで開かれました。
今回の講師は立教大学経営学部教授の日向野幹也氏、そして日向野氏の授業を受けた学生や卒業生10数名もサポーターとして参加してくださり、「権限のないリーダーシップ~経験から学ぶ新しいリーダーシップ像」と題してのワークショップが行われました。
ワークショップでは、チームをつくって推理ゲームを行いました。3~6人のチームである架空の殺人事件の犯人を推理するという共同作業を行います。メンバーには1人数枚ずつ容疑者に関する情報が書かれたカードが与えられ、お互いが持つ情報を公開し、整理しながら犯人を特定していきます。この作業を通じて全員がそれぞれのスタイルのリーダーシップを自然に発揮していく、その状況を経験するというものです。共同作業を行うことでメンバー同士がお互いにより深く知り合うことができたうえに、お互いの"良かったこと""もっと良くなるはずのこと"を指摘しあうフィードバックの時間も設けられており自己認識を深める機会にもなり、参加メンバーからは「楽しく有益な経験ができた」と好評を得ました。
ワークショップの後は、7月の海外研修と6月の定例会についてのお知らせが行われました。
ここでは、オープニングとクロージングで日向野氏からお話いただいた「これから必要とされる新しいリーダーシップ」について、その内容を要約してご紹介します。
※5月度定例会の実行委員メンバー
実行委員長:二葉 美智子(リクルート)
実行委員 :茜ヶ久保佳子さん(インテージ)、金坂友里子さん(リクルート)、山岸裕美さん(アサヒビール)、志賀 啓子さん(ソニー)、治田明子さん(東京海上日動火災保険)、秋元美樹さん(ソニー)、清水朗子さん(住友化学)、石井優子さん(三井住友銀行)、藤下ひろみさん(日本政策金融公庫)、藤原瑞穂さん(みずほ証券)
立教大学経営学部教授 日向野幹也氏
みなさんはリーダーというとどのような人を思い浮かべるでしょうか。「職位といった形で権限を与えられている人」や、「カリスマ性がある人」のことだと思っている人が多いことでしょう。しかし、権限に基づいたリーダーというのは上位になり権限が強くなるほど現場との距離があります。下から情報が上がってくるのを待っていては、この環境変化の早い現代社会ではその速度に追いついていくことができません。また、カリスマ性つまり人を惹きつける力のことですが、これを持っていたとしても実務能力に欠けている人では仕事を進めることはできませんから、実はリーダーに適しているとは限らないのです。
今、1つ1つのミッションを確実に成功させ、組織を成長させていくためには、「権限のない」「仲間同士の中での」「共有された」「自然発生的な」「習得可能なスキルとしての」リーダーシップが必要とされています。このようなリーダーシップを確立することができれば、ミッションが共有されている限り、仲間のなかで交代でリーダーシップを発揮することが可能になり、その結果1人にかかる負担は少なく、しかも組織内での衝突も起こりません。また、権限に頼らないということは、自分が得意とするスキルを提供するという形で、同僚だけでなく上司や顧客に対してもリーダーシップを発揮することができるので、それだけフレキシブルにミッションを遂行することができるのです。
さて、今回みなさんにチームを作って推理ゲームを行うワークショップに参加していただきましたが、犯人を捜し出せたチームと、答えがみつからなかったチームと半々くらいでした。これはゲームですから、正解できたかできなかったが大切なのではなく、なぜ正解できたのか、あるいはできなかったのか、また自分たちのチームの特徴や自分がそこでどのような役割をはたしたのかを見直して学ぶことが重要です。
答えがみつかったチームはある転換点を経験した、というチームが多かったようです。その転換点というのは、違う視点からもう一度全体を見直してみようという意見を言った人がいたということです。そのチームには、正解を導き出そうと積極的に発言した人、引き戻すような発言であってもグループにとって良かれと思う発言をする人、そしてグループの雰囲気をよくして人間関係を構築したり維持するのに役立つ発言をした人がいたと考えていいでしょう。これらはすべてリーダーシップの要素なのです。
とくに成果を出すための行動を「P(Performance)=目標達成力」、人間関係の構築を「M(Maintenance)=人間関係力」と分類しますと、とくに女性はMの要素を得意とする人が多い傾向にあります。そのチームにPがないとミッションは迷走するばかりですが、Mがないと協力しあおうという空気に欠けチームワークが長続きしません。ですからどちらも必要な要素であり、等しくリーダーシップの形なのです。この要素に注目して自分を分析してみると、自分らしいリーダーシップが見えてきます。
もちろん、自分の意図やセルフイメージと他人からの評価にはズレがあるものなので、ワークショップの後に、「それぞれの人がこのゲームの中で、どういう時にどのような行動をとったか、それが自分にどういう影響を与えたか」を、自分以外のメンバーひとりひとりについて書き出してもらい、そのカードをひとり分ずつ読み上げて本人に渡すフィードバックを行いました。「自分は意外にP指向なのか」といった発見があった人も多かったのではないでしょうか。このような発見を得て、自分の弱みを克服するという考え方もありますが、強味をより強くしていくということも、リーダーシップを高める方法です。また、PとMのバランスはその時その時で変化もしますから、できれば同じミッションを行う者同士で時々お互いを分析しフィードバックしあう機会を設けることをおすすめします。
さらに大切なことは、自分のリーダーシップの強みを活かせる場面を探すこと。権限がなくてもリーダーシップを発揮している人を見直して、その人の姿に習うことです。権限を持っている人が、「権限がなくてもリーダーシップを発揮できる人」なのか、観察してみることも大切です。そのような人には不満を提案に変えて積極的に巻き込むこと、これもリーダーシップの1つ。明日からさっそく、最強のチームを作る自分らしいリーダーシップを発揮していってください。
【日向野幹也氏のプロフィール】
1954年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業。1983年同大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京都立大学経済学部教授を経て、現在、立教大学経営学部教授、同BLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)主査、立教大学リーダーシップ研究所所長。専攻はリーダーシップ開発、金融論。