2012年4月18日、東京・田町にある女性就業支援センター(旧女性と仕事の未来館)4階ホールにてNPO法人J-Win4月度定例会が開催されました。今回のメインプログラムは、シカゴ大学社会学教授 山口一男氏の講演「女性活躍の経済効果─その実証的根拠」。
山口氏は、女性の活躍推進を中心としたダイバーシティの推進について研究をされており、昨年度経済産業省主催の企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会では、座長を務められました。ご講演の後は質疑応答がおこなわれました。休憩をはさんで、幹事メンバーによる担当改編の報告と新年度活動にむけてのキックオフ、新幹事長・幡容子氏(KDDI)によるあいさつが行われました。
ここでは、山口氏のご講演内容のレジュメをご紹介します。
※4月度定例会の実行委員メンバー
実行委員長:後藤 憲子さん(ベネッセコーポレーション)
実行委員 :長島礼さん(日本アイ・ビー・エム)、熊田美紀さん(ベルリッツ・ジャパン)、松尾 三紀子(パナソニック)、亀山純代さん(フジタ)、渡辺友美子さん(バクスター)、近藤遥佳さん(日立ソリューションズ)、中島麻衣子さん(ベルシステム24)、中村沙織さん(PwC Japan)、岡村浩代さん(古河電気工業)の9名です。
シカゴ大学社会学教授 山口一男氏
① 日本経済の再活性化に必要な大きな要素の1つが労働生産性の向上であり、そのためには女性の活躍の推進は不可欠。
→ 「日本における男女平等な人材活用はGDPを16%上昇させる」(ヒラリー・クリントンがゴールドマン・サックス社の推計を引用して講演で発言)
→ ただし、この16%はただ単に女性の労働の量(雇用率)が男性並みに増加した場合の推計であり、女性の労働の質がその潜在能力に等しく発揮されれば、GDPはさらに上昇すると考えられる。
⇒ 女性の労働の質を高めるために必要なことは…
● 男女の経済不平等(賃金格差)の原因分析。(②へ)
● 女性人材活用が国や企業の経済的パフォーマンスに与える影響の計量分析。(③へ)
女性から労働へのモチベーションを奪っているのは企業であることを明らかにし、企業側が問題点を改善するべき。
② 同一企業内における男性に比べた女性の相対労働生産性は相対賃金とほぼ同等に低いという実情
→ 相対生産性は54%、相対賃金(時間当たりではなく一人当たり)は53%。これは生産性に賃金をマッチングさせた結果ではない。女性の賃金を低く抑えたため生産性も低めている(川口大司一橋大学准教授・浅野博勝亜細亜大学准教授による2007年共同研究より)。
→ 日本企業の人事担当者は女性活用の障害として「時間外労働・深夜労働をさせにくい(30%が回答)」「勤続年数が平均的に短い(40%以上が回答)」「家庭責任を考慮する必要がある(40%以上が回答)」を挙げている(厚生労働省の調査より)。
→ しかし、「家庭責任」については企業が伝統的男女の分業を前提としていることが問題。「勤続年数」は、育児後も勤務できる職場環境が整っていないこと、低賃金(図1参照)、キャリアの進展がないことが原因。「時間外・深夜労働」に関しては、諸外国には見られない正規雇用の長時間労働の慣行や、柔軟性に欠ける働き方(WLBに関する施策などの遅れ)など、女性に限らず問題にするべき。
図1:時間当たり賃金の年齢変化(平成17年) | 図2:男女共同参画度と国民総労働時間1時間あたりのGDPとの関係 |
③ 女性の活躍の推進が進んでいる企業ほど時間当たりの生産性・競争力が高い
→ WLB の取り組みが進んでおり、女性社員の能力発揮を男性と同様に重視する企業は時間当たりの生産性・競争力が大きい。ただしそのような企業は少ない。
→正社員の女性割合を一定とすると管理職の女性割合が大きい企業、つまり女性正社員の管理職昇進機会が大きい企業ほど、時間当たりの生産性・競争力は増加する傾向が見られる。
④ 女性にとって働きやすい環境、WLBの施策などを整えることは、企業の時間当たりの生産性・競争力を高めるのか?
→ 平均的には日本企業のWLBの取り組みの程度は低い(70%は「何もしない型」)。法を上回る育児・介護制度が敷かれた職場の生産性への影響の評価はマイナスがプラスを上回る(図3参照)。
→ 従業員300人以上の企業において「全般的なWLB支援型」企業と「育児介護支援成功型」企業は、「何もしない型」企業に対して粗利益の相対比が高い(図4参照)。
図3:WLB制度・取り組みの日英比較:カテゴリー別 | 図4:WLBの取り組みタイプ別企業の粗利益を比較 |
⑤ 生産性向上と女性の人材活用を結びつけるために企業がすべきこと
→ 企業トップが男女平等に機会を与える姿勢。
→ 男女の伝統的分業を前提とする制度や慣行の廃止。
→ 総合職・一般職など女性のキャリア向上のインセンティブを奪う制度の廃止。
→ ダイバーシティ推進本部を役員直属で作る。
→ 女性の管理職登用の積極策を図る。
→ 人事担当管理職の評価基準にダイバーシティ推進貢献度を加える。
→ 1日あたりではなく時間あたりの生産性を基準とする。
※詳しい内容に関しましてはこちらをご参照ください
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11j069.pdf
【山口一男氏のプロフィール】
1971年、東京大学理学部数学科卒業。71~78年、 総理府勤務。81年、シカゴ大学社会学博士取得、82年よりコロンビア大学公衆衛生大学院助教授、85年よりUCLA社会学助教授から准教授、91年よりシカゴ大学社会学教授。2008~11年、同大学社会学科長を務めた。01年、グッゲンハイムフェロー。03年、米国科学情報研究所(ISI)より社会科学一般の部で「1980~99年に学術論文が最も引用された250人の一人」に認定。専門は社会統計学、仕事と家族、合理的選択理論など。日本語での主な著書に『ダイバーシティ:生きる力を学ぶ物語』(東洋経済新報社)と『ワークライフバランス:実証と政策提言』(日本経済新聞出版社)がある。