2012年2月8日(水)17時~田町の女性就業支援センターにおいて、2月度定例会が開かれました。講師はコミサロフ&アソシエーツ代表、東京外国語大学非常勤講師のコミサロフ喜美氏。「ダイバーシティ環境における効果的なコミュニケーション」をテーマにご講演いただきました。第2部では、J-Win第3期女性メンバーの9分科会の活動について発表を行いました。
ここではコミサロフ喜美氏の講演内容をダイジェストでご紹介します。
※ 2月度定例会実行委員メンバーは、山崎由里子さん(アクセンチュア)、金尾あゆみさん(キャタピラージャパン)、福井弓子さん(みずほ証券)、市川裕佳子さん(花王)、瀬戸佳子さん(内田洋行)、安井真紀さん(日本政策金融公庫)、佐藤由美さん(大日本住友製薬)、小西明子さん(東レ)、山口祐喜子さん(日本アイ・ビー・エム)、滝沢桂子さん(明治安田生命保険)の10名です。
コミサロフ&アソシエーツ代表、東京外国語大学非常勤講師
コミサロフ喜美氏
ダイバーシティ環境で仕事をする時には、考え方や価値観が異なる人とコミュニケーションしていく事が必要となってきます。そこで今回はダイバーシティ環境でいかに効果的にコミュニケーションをとっていくかという事について異文化コミュニケーションの観点から考えていきたいと思います。異文化コミュニケーションといっても、相手は決して外国人に限られるわけではなく、考え方や価値観が異なる上司や部下も含まれます。
まず、自分と相手との間の「相違点」と「共通点」について考えてみます。実は共通点であってもミクロの視点で見ると相違点となり、相違点もマクロの視点で見れば共通点になることがわかります。もし全く主張が合わなくても、少し見方を変えれば「同じ方向には向かっているよね」という共通点を見つけることもできるのです。メーカーの社内で言えば、部署内で様々な意見が対立したとしても、「いい製品を世に送り出したい」という思いは共通点となることもあります。また、同じだと思い込んでいる意見であったとしても、細かく見ていくと実は違いがあることがあります。違いを感じる相手とコミュニケーションするには、この「視点の柔軟運動」が大切なのです。
では、違いを感じる相手と一体何がぶつかっているのでしょうか。会社が違うとか、性別とか、目に見える違いは認識されやすいのですが、見えない部分の違い──仕事や会議の進め方、価値観などが大きくぶつかり合ってうまくいかないことがあります。価値観が変わると、常識的な行動が相手から見ると非常識な行動に変わる、ということがいくらでも起こるのです。
同じ日本人の間でも、例えば「今日中にお返事ください」と言われた時、「定時まで」、「23時59分59秒まで」、「翌朝朝イチまで」と、「今日中」の定義が人によって、あるいは部署によってばらばらであることがあります。このようなごく日常的な事が常識化していることに気がつかずにいると、自分と違う常識に出会った時に無意識的に否定的な判断をしてしまいがちです。「この人は非常識」、「やる気がない」、「仕事ができない」という否定的なイメージを固定させないためには、まずは自分の常識を客観視することが重要です。つまりダイバーシティを進める第一歩とは、"自分の常識を知る"ということなのです。
相手を否定的に判断しがちであると気づいたら、否定的な判断をいったん横に置いて、相手を理解しようとしてみてください。まずは相手の話によく耳を傾け、そして先ほどふれた「視点の柔軟運動」を実践し、お互いの違いや共通点を見つけてみてください。ここで大切なのは、必ずしも相手の意見に同意する必要がないということです。「あなたはそう考えているのね」ということを理解することが重要です。同意する必要は無いので、反対意見も冷静に聴くことができるはずです。
実は、プレゼンテーションも「視点の柔軟運動」が成功の鍵となります。プレゼンターの視点と、聴き手の視点に橋を架けることができて、初めていいプレゼンができます。基本的に聴き手は聞きたい話しか聞きませんし、納得しません。伝えたいことの本質を変える必要はありませんが、相手が聞きたい話に加工していくことが、プレゼンターと聞き手の"視点に橋を架けること"につながります。
聴き手のニーズにあっているか、聴き手にとって内容が明確か、聴き手と双方向のコミュニケーションがとれているか、この3つの要素が満たされていることが大事になります。聴き手の立場に立った内容構成にするためには、「何を伝えたいのか」を一言でまとめられるくらい絞り込むこと。つぎに、「何故伝えたいのか」。「聴き手に●●してもらいたい。●●となってもらいたいから」ということを、文章にしてみるといいでしょう。次にやるべきことは、「聴き手の分析」です。聴き手は一体誰なのか、聴き手にとってのメリットと、それをどのように盛り込んでいくのか。そこを考えるためには、聴き手の専門知識のレベルとさらに興味レベルを考慮すべきです。もしも興味レベルがゼロのときは、こちらを向いてもらうためのコミュニケーションをとります。具体的には、「あなたにとって、このようなメリットになります」と、最初にはっきりと伝えることです。
こういったポイントから考えると、自分が話したいと思う膨大な内容のなかから、何を削ればいいか、何を残したらいいかということが分かります。言いたいことを妥協する必要はなく、ただ、聴き手の視点に立ってみて、その人に伝わるためにはどう工夫すればいいのかを考えると、有効なプレゼンの方法が分かってきます。
よく相談されることに、「あがってしまう」というのがありますが、その場合も、「視点の柔軟運動」が解決に導きます。そもそもあがってしまう理由は、自分が下手だと思われているのではといった「自分がどう見られているか」を心配するところにあります。そのような時は、何故プレゼンをしているか、ということを考え直してほしいのです。今日集まっている参加者たちに、「こうなってほしい」「これを理解してもらいたい」という始まりの部分に焦点を当て集中すると、案外あがらなくなります。
もう1つ、プレゼン後の質問や突っ込みを恐れる人も多いようですが、覚えておいていただきたいのは「大事なことであればあるほど、異論や反論は出る」ということです。大事なことだったり、時代の最先端にかかわることだったりすると、いろいろな視点があり、そのぶん異論や反論も当然出てきます。異論反論が出たら、それだけ自分が言っている事に意味があると認められたと考えてください。ダイバーシティとは、いろいろな価値観を尊重するということ。そうであれば、異論や反論はむしる「ウェルカム!」ではないでしょうか。
視点の柔軟さがあれば、異なる考え方の人ともコミュニケーションができます。「違い」は「間違い」ではないのです。違いをむしろ「力」にしていくことが重要なのです。違うからだめだとか、違うから無理というのではなくて、視点を変えれば様々なことが可能になります。これこそが、グローバルリーダーにとって必須のスキルです。みなさんは今、隣の席のわけの分からない新入社員や上司など、常識が違う人とのコミュニケーションに苦労されているかもしれませんが、その苦労はグローバルにつながっています。グローバルリーダーになるために必要な仕事なのだということを、忘れないでください。
【ミサロフ喜美氏のプロフィール】
同志社大学文学部英文学科卒業。レスリーカレッジ(米国マサチューセッツ州)にて異文化関係論修士号取得。国際コーチ連盟認定コーチトレーニングプログラム(CTP)修了。異文化コミュニケーション学会、国際コーチ連盟、日本コーチ協会会員。コミュニケーション専門の企業研修コンサルタントおよびコーチとして活躍。東京外国語大学非常勤講師として「異文化コミュニケーション」を担当。著書に『異文化ワークブック』(共著・三修社刊)がある。