NPO法人J-Win 12月度定例会が12月14日、東京・田町にある女性就業支援センター(旧女性と仕事の未来館)4階ホールにて開催されました。今回の講師は慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究家教授の石倉洋子氏。グローバルに活躍する日本女性のロールモデルであり、経営学者として活躍する石倉氏に登壇いただき、第1部では講演、第2部では代表質問者を立ててのワーキングセッションを行いました。
また、後半では技術系分科会メンバーが参加した「米国SWEでの海外研修」(10月11日~17日)の報告、49名のメンバーが参加した「オーストラリア海外研修」(11月5日~11日)についても報告がありました。
ここでは、石倉氏の講演内容をダイジェストでご紹介します。
※12月度定例会の実行委員メンバーは、神崎令子さん(KDDI)、清水志保さん(アステラス製薬)、瀬尾美和子さん(エヌ・ティ・ティ・コムウェア)、たき澤直子さん(三菱東京UFJ銀行)、川澄文子さん(日本政策金融公庫)、北本佳永子さん(新日本有限責任監査法人)、小竹淳子さん(双日)、片山京子さん(東京海上日動システムズ)、一木典子さん(東日本旅客鉄道)、小林 華子さん(日本電子計算)
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授
石倉 洋子氏
今、世界は恐ろしいほどの速さで変化しています。先のまったく見えない状態にあって、最近はEUの経済危機がメディアでも取り沙汰されていますが、危機はEUだけにとどまらず、アメリカや日本にも大きな影響を与えます。世界はオープン化し、国境にも、業界・業種というボーダーラインには意味がなくなってしまいました。
世界中の情報も商品もインターネットで入手できますし、チュニジアを起点とした「アラブの春」という運動は、国境を超えて、世界の若者を刺激し、中東だけでなく、米国やロシアにまで及んでいます。このような「見える化」はオープン化と同時に進んでいます。また、「ipad」という商品を例にとって考えてみると、カメラであり、パソコンであり、本であり、作品を作るための道具であり、と、商品カテゴリーの線引きができない物も増えています。
このように変化した世界は、もう元に戻るということはありません。残念ながら、激動の世界が今後落ち着くとは考えられません。世界の景気が脆いことは誰の目にも明らかですが、その対策、いえ原因さえ正しく指摘できる人はいません。
そして、世界がオープン化したことで、世界各地にいる同等の能力を持つ人との競争が起こりつつあり、同じようなスキルを持っているけれど、賃金の安い新興国の人たちの雇用機会が増えています。一方、この円高で私たち日本人の賃金は非常に高くなっていることを私たちは知らねばなりません。私たち日本人は、「今勢いがあるインドや中国で事業を展開したい、現地の人と仕事をしてみたい」と世界が思っている中で、競争している状態にあるのです。
競争というと緊張感がありますが、この競争は、「誰かが勝ったら誰かが負ける」というゼロ・サムの競争ではありません。ユニークさを持ち、そのユニークさを評価する市場や買い手があれば、「みんなが勝てる」──ポジティブ・サムの競争です。個の力がクローズアップされ、国籍や性別や年齢は関係なく、発言のユニークさや他の人にはできないスキルが最も重視されるということです。
今日では仕事上のやりとりの多くはメールで行われ、SNSによる議論などは特に、最初に目に入るのは発言であって、発言者のプロフィールはもう1クリックして得る情報です。つまり、余計な先入観を持たれずに意見交換ができる場が増えています。
チャンスはすべての人に広がっていますから、この時代は決して暗くて辛いものではないと、私は感じています。ただし、情報の広がりは早く、世界各地からすぐに何らかのリアクションがありますから、スピード感を意識しなくてはなりません。
このような世の中で、どのようにグローバル・キャリアをデザインすればいいのか。最初に確認しておきたいのは、グローバル・キャリアとは外国で仕事をするという意味ではなく、自分が作ってきたボーダーラインを超えて、「色々な分野に可能性を求める」ということです。ですから「海外勤務はしないから、グローバル・キャリアは関係がない」とは思わないでください。そして、「今までの成功パターンを守っていれば大丈夫」という発想では、今後の成功はありえないと思ってください。
私が「色々な分野」という言葉を強調したのは、1つのことを深く知っていることが、もはや人の価値につながらなくなってしまったからです。なぜ価値がなくなりつつあるのか、それは高校生であっても、インターネットで検索すれば、専門知識を手に入れることが容易だからであって、その人のユニークさとはならないからです。今の時代のユニークさとは「組み合わせの妙」。あちらの分野のことを、こちらの分野で使ってみる、あるいはミックスしてみるということです。組み合わせを考えるためには、発想の柔軟性や構想力が必要で、誰でも簡単にできることではないからです。
組み合わせの考え方は、あなたのユニークさを知る上でも応用できます。あなたのユニークさはどのようなところでしょうか?この質問をネットでしてみた所、日本女性の半分くらいは「ありません」と答えました、学歴や経験、資格のことを指して「ありません」と答えていたのです。しかし、ユニークさとは、そのように客観的に示せるものだけとは限りません。例えば、同じ資格と経験を持っている人なら、感じがよくて「一緒に働きたい」と思わせる人が選ばれます。つまり、パーソナリティのような"ソフト"の要素も十分にユニークさに加えられるものなのです。ですから、自分のユニークさを見つけようと思ったら、ソフト面とハード面から考えてみてください。
もちろん、ユニークさだけではキャリアにはつながりません。そのユニークさが人に評価され、買ってくれる人が必要です。そして、自分のユニークさを買ってくれる市場や買い手を探すためにはいくつものマッチングを試みないと、なかなか見つかりません。自分自身をオープン化し、世界中の人とつながって行こうという姿勢が大切です。みんなが行きたがるところ、すでに成功しているところに加わっても、その成功はすでに過去のもので、必ずしも未来まで明るいとは限りません。ですから、誰かが良いといったところではなく、本当に自分の好むところ、自分の得意技をいかせるところを試してみることをお勧めします。
勇気がいりますが、新しい世界に飛び込んで景色を変えると、物の見方も自分自身のイメージも変わって見えます。失敗したり、やってみたらあまり得意ではなかったということがあるかもしれませんが、そこはもともとゴールではないのですから、新しい方向性をそこから模索してください。可能性は広がります。
21世紀に、グローバルビジネスの場でプロフェッショナルになるために必要なのは、「現場力」、「表現力」、「時間力」、「当事者力」、「直感力」です。インターネットで何でも探せる時代だからこそ、現場に行き現場を知っている、あるいはキーパーソンに直接会うという体験はとても有意義です。自分の意見を持ち、それを人にわかりやすく説明できること、時間に対する感覚──スピード感を持ち、すべきことの優先順位がきちんとつけられることが大切です。当事者力というのは聞きなれないと思いますが、批判家になってはいけないということです。人を批判しているだけでは前進はありませんから。代替案を持たないなら批判はしない、ということを私も意識しています。最後の直感力とは、物事の本質をパッとつかむ力です。
こういった力と、高い志を持って、思いついたことはすぐ積極的に始めてください。そして学び続けること。みなさんには、会社や仕事の内容ではなく、自分のテーマや生き方を、つまりユニークな自分自身の物語を、語れるようになってほしいと思います。未来とは予想するものではなく、自分で作るものだという意識を忘れないでください。
【石倉洋子氏のプロフィール】
1980年、バージニア大学大学院経営学修士(MBA)修了。85年、ハーバード大学大学院経営学博士(DBA)修了。85年、マッキンゼー社マネジャー。92年、青山学院大学国際政治経済学部教授。2000年、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。11年より現職。
その他、富士通、日清食品ホールディングス社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)のフェロー等。専門は経営戦略、グローバル競争におけるイノベーション戦略。『戦略シフト』(東洋経済新報社)、『戦略経営論』(訳、東洋経済新報社)、『世界級キャリアのつくり方』(共著、東洋経済新報社)、『グローバル・キャリア ユニークな自分のみつけ方』(東洋経済新報社)など著書多数。
石倉洋子ブログ:http://www.yokoishikura.com