7月度定例会が7月13日、田町にある女性就業支援センター(旧女性と仕事の未来館)4階ホールにて開催されました。
前半のメインプログラムは、NTT Com チェオ代表取締役社長の小林洋子氏のご講演。後半は、女性メンバーの所属分科会が
確定し本格的な活動開始にあたり、内永ゆか子理事長より分科会活動に期待するもの、心構えについてスピーチがあり、
後藤憲子幹事長から活動ガイダンスが行われました。早速、第一回目の分科会ディスカッションが行われ、
リーダーなど三役が選出され、活動方針などが話し合われました。
ここでは、小林洋子氏のご講演をダイジェストでご紹介します。
司会:児玉 美奈子 幹事 (日本電信電話株式会社) |
NTT Com チェオ株式会社 代表取締役社長 小林 洋子氏
「ガラスの天井」という言葉があります。これはアメリカの女性管理職がよく使う言葉で、向こうにあるトップの座は見えているのに、ガラスでできた天井があるから決して手が届かないということを表現しています。日本はどうでしょう。日本の女性の多くは「見えさえもしない」といいます。その理由は、その天井はガラスではなくオヤジでできているからです。「Women to the TOP!」を成し遂げるためには、この「オヤジの天井」を抜けなくてなりません。そのためには、オヤジたちの考えを理解し、智恵を学び、共通の価値観を持って、受け入れられ通してもらうしかないのです。いくら下から棒を振り回しても割れないのが、天井というものの特徴ですから。
私が学習した「オヤジの智恵」をお話しするにあたり、まず「私の履歴書」からお話ししましょう。昭和53年に電電公社に入り、最初に就いたのは「会議担当」でした。お茶くみ、コピーとり、イス運び、お弁当の手配といった雑用が仕事でしたが、同期の男性社員たちは通信会社らしい仕事に携わっており、下働きだけの仕事に厭気がさしていました。
会社を辞める決意を固める直前に大阪に転勤になるのですが、ずっと法律の仕事をするのが夢だったので、アフター5や土日などの時間、給料やボーナスなど持てるものをすべてつぎ込んで学校に通い勉強し、会社側にも粘り強く訴えた結果、近畿電気通信局(現在のNTT西日本本社)の訴訟担当になることができました。夢が叶ったと思うのもつかの間、サントリーに出向することが決まり、サントリーでは畑違いの宣伝部配属でした。でも、これが楽しくて、本当は宣伝が天職だったのだ!と思ったほど(笑)。
任期をまっとうして電電公社に帰って新しく与えられた仕事は、民営化に伴うCI(コーポレート・アイデンティティ)でした。昭和60年3月31日の夜から4月1日にかけて、電電公社のロゴマークをNTTのものに一斉に変える仕事に携わったのですが、当時1,330あった全国の電話局等が見知らぬ多くの人の力を借りて見事に変わった様子は、感動的でした。チームで働くことの素晴らしさを知りました。そこから広報の仕事に長く携わるのですが、突然、支店のシステム営業部長の辞令をいただきました。最初は営業など全く分からない状態で戸惑うことも多く、しかも管理職ですから気軽に質問することもできなくて。今度こそ辞めようと悩んだりもしましたが、すぐに営業が天職だったと気づきました。次の仕事は、インターネットがほとんどなかった時代、「OCN」を立ち上げるというミッションでした。技術系や研究系が多いチームで、専門用語の意味すら分らず苦しみましたが、やがて実はインターネットが私の天職であったのだと悟りました。
そして、OCNを№1プロバイダーにした功績でしょうか、NTTコミュニケーションズの取締役にしていただきました。現在は、「NTT Com チェオ」という子会社の代表取締役をしております。主要事業の1つに、全国2,000人の在宅スタッフでインターネットのテクニカルサポート等をする「バーチャルコールセンター」があり、この在宅スタッフは東日本大震災の時に、究極のBCPとして大きな力を発揮することとなりました。
33年間企業人として働いてきて、経験も自信もないどの仕事であっても、物おじせずに飛び込んでみさえすれば、やがてそれは自分の天職になるということがわかりました。女性は仕事をえり好みするとオヤジたちは思っているのですね。実際に、いわゆる「ドブ板営業」の仕事で業績を出すようになったころから、オヤジたちの私への態度が変わっていることに気付きました。現場に出て、苦労をし、人の嫌がる地道な仕事で成果を上げるというのが、オヤジにとっては大きな勲章なのです。広報という「きれいな職場」(実際にはそうではないのですが)を離れて、現場で泥にまみれたということで、彼らの共感を得、信頼されるようになったのだと実感しました。ここで「オヤジたちのルール」、「オヤジの智恵」に気付かされました。
日本型企業の「オヤジの智恵」とは、つまりは組織のためのものです。組織の結束をかため生産性を上げるために「オキテ(ルール)」がある。掟を守るものは組織に擁護され、破るものは排斥される。また、組織は、チームへの積極的な貢献も要求します。メンバーの納得感を得ることが重要だからです。それぞれが自分の期待されている役割を遂行し、リーダーを中心に結束をかためることで、強くなる。ときに組織は自己保全のために集団の中で犠牲になる人つまりスケープゴートを求めます。そのときには、やはり異分子が目をつけられます。女性はとくにこのことを知っておいたほうがいいでしょう。女性は好き嫌いが激しいと言われますが、じつは男性のほうがその傾向が何倍も強いことも。
自分が「女だから異分子」であると思われないためには、女性に不足しがちと思われる社会性が十分にあるのだということを分からせることが重要です。例えば、感覚的ではなく論理的に話すこと、謙虚になりすぎない、チームの中での立ち位置をはっきりさせること。きれいな仕事、すぐに結果がでる仕事ばかりしていてもオヤジの信頼は得られません。「チャラチャラしたおねえちゃん」として見られるだけです。また、ビジネスの常識をわきまえていないと、仕事ができても認めてもらえません。例えばどんなに成果を上げていても、遅刻やドタキャン癖のある人はそれだけでバツです。それから、結果だけでなくプロセスを重視するということが大切です。根回し、段取り、様式など。それぞれの役割の人がその役割を全うする、そのバランスに混乱が生じるようなことをしてもいけません。それは日常の上下関係も同じで、例えば上司が飲み会で多めにお金を払おうとしたとき、女性は「平等」が好きなのできれいに割り勘にしようとしますが、それは上司の居心地を悪くします。これも重要なオヤジのルールですから、むやみに侵してはいけません。
会食の席順やエレベーターやタクシーの上座下座なども知っておく必要があります。今振り返ってみますと、入社直後に携わった会議担当という下積みの仕事で細かいビジネスマナーを学んだことが、その後の大変な財産になりました。どのようなつまらない仕事でも「ムダな経験」は、何ひとつとしてないのですね。
こんな私でも、家を出ようとドアに手をかけるのに、どうしても力が入らない、心と体がバラバラになりそうな朝をいくつも乗り越えてきました。そういう辛い思いが自分を強くするのだと信じてください。人は苦しみの中にあるときにしか、大きく成長しないものです。そして、後進のことを考えるというのは、とくに女性にとって大切です。チャンスが来た時にそれを「謙虚」に「できません」と言ってしまうと、後輩にも二度とチャンスが訪れなくなります。そう考えてから発言してください。もちろん、個人プレーで突っ走ってもいけません。突っ走るのではなく、持ち前の勇気とオヤジに学んだ智恵を活かし、組織のルールを尊重して、そして、もう一歩前へ進んでいただきたいと思います。