J-Win12月度定例会議が、12月15日、日本アイ・ビー・エム株式会社 本社事業所 301会議室にて開催されました。今回は、2010年の総括として、内永理事長より「グローバルリーダーになるために」をテーマに講演をさせていただきました。
「グローバルリーダーの条件」
内永ゆか子 NPO法人J-Win理事長
本日は、グローバルビジネスの世界で成功するために必要なことを、改めてお話ししたいと思います。
トーマス・フリードマンの著書『ワールド・イズ・フラット』は、目まぐるしく進んでいる世界の変化を見事にレポートしている名著ですが、そのタイトルの通り、この世の中はフラット化が進み、「世界中で起こっていること=身近な出来事」となってきています。リーマン・ショックや鳥インフルエンザが、実際に仕事や生活に影響したという人も少なくなかったのではないでしょうか。
このことからも分かるのは、いつ・どこで・何が起こるのか、予想して備えるということは難しくなってきてきているということで、企業の成功は、起きてしまった現象に、どれだけ早くダイナミックに対応できるのかで明暗が分かれます。
一方、ITやネットワークの進化も加速していて、そのおかげで地球の裏側とも密に連絡をとりあうことができるようになりました。これは同時に、製造部門から始まり、物流や経理さえ、グローバルなアウトソーシング化を進める企業を増やしています。つまり、企業を含めた組織のスタイルもフラットなネットワーク型になりつつあるということです。
ただし、海外の企業や部門やテクノロジーを買収することはたやすくても、それを自社に統合してマネジメントするとなると、一筋縄ではいきません。またローカル(現地)スタッフのマネジメントも同様です。企業文化を理解した人でなくては、真の統合を進めることは、やはり不可能ですから、現地スタッフの中からいきなりリーダーを選ぶ企業はそう多くはありません。
そうしたとき、「われわれ日本人はリーダーとしてどうなのだろうか」ということを考えなくてはなりません。私が以前勤めていたIBM社では、商品開発のミッションは、各国の研究所が競い合い、勝者が請けおう形になっています。ですから、自分たちの強みと弱点を知らなければならないわけで、神奈川県大和にある研究所の所長時代、私は世界中の研究所と大和の研究所を比較・研究しました。
その結果見えてきたのは、日本人は、テクノロジーの実用化や活用する能力においては世界の標準を抜きん出ているということでした。仕事効率に関しても世界との差はありませんが、ただ、リーダーシップとコミュニケーション力だけは大きく劣っていたのです。これはきっと、日本の縮図なのだろうと思います。
そして、テクノロジーと言っても、誰かが生み出したアイデアをハイクオリティ・ハイパフォーマンスにするのは、得意でも、新しいアイデアやコンセプトが日本からは生まれていないということにも危機感を覚えました。
例えば自動車は、発明されてから100年もかかって世界中に普及しました。後から参入してもその企業はビジネスができました。ところが、最近の新商品、携帯電話がいい例だと思いますが、新しいタイプの機種が発売されても、すぐに類似商品が出てきて、コモディティ化(差別化特性の喪失)が進み、プライスダウンが始まります。これでは後発の企業には儲けはなく、先行者利益を得た者しか、ビジネスで成功したとは言えません。変化のスピードがものすごく早くなって、オリジナル1でなければならない時代になったのです。
今、私たち日本人は、これまで苦手としてきた新しいビジネスモデルや設計思想、コンセプトの発明に取り組んでいくことが最大の課題となっているのです。それにもかかわらず、今までのように同じ文化のなかで同じ方向を向いて、同じような考えで結束してきた人たちだけで取り組んでいて、新しい展開などあるのでしょうか? 国籍・人種・キャリアや考え方、あらゆるものが異なる人が集まったほうが新しい発想が生まれることは、明らかです。
実際に、多様なメンバーでビジネスを行うと、多様な意見を汲み取り、それをまとめ上げるのは難しいので、成功と同じだけの失敗もあります。しかし成功した時には、モノカルチャーなメンバーによるビジネスよりも大きな成功が得られる、という統計があります。
多様なメンバーが集まるなかでリーダーシップをとることを、日本人は苦手としてきました。しかしその理由は、モノカルチャーのなかでしか過ごしてこなかったから、それだけだと私は考えます。ですから、これからのリーダーシップは、ローカルとグローバルのちがいにしっかり意識をむける必要があります。
グローバルリーダーは、ダイバーシティを理解していることが第一条件です。そしてダイバーシティのマネジメントの第一歩は、基本となる思想や目標・目的を明確に設定し、スタッフ全員に理解させることです。日本人同士の"あ・うん"の職場ではありませんから、この手間を省くことはできません。
背景の異なるグローバルなスタッフの理解を得るためには、リーダーには論理的な思考、分析力、本質を見極める力が必要です。これらができていなければ彼らを納得させることはできません。さらに、ゴールをしっかりと提示したうえで、ロードマップを共有し、その中間における仕事の実績の評価基準を明確にすることも必要です。
グローバルリーダーとなるためのスキルを纏めると、まずは「異文化に対する理解、許容度」と「論理的な分析力」。これらをベースにしてチームビルディングを行い、さらに「コミュニケーション力」──言葉だけでなくより抽象化するためのモデル化やビジョン化を行う能力も含め、これによって組織内に強力なイメージを作るのです。そのためにも、やはり英語によるコミュニケーション力は必要だと言わざるを得ません。
しかし、ここまでは管理職レベルのリーダーの条件にすぎません。真のグローバルリーダーになるために欠かせないものがあります。それは、自分自身のアイデンティティ。グローバルなメンバーが集まれば、必ず「あなたはどういう人ですか?」と問われます。これは主な行動原理がそこにあるからです。
アイデンティティの確立のためには自分のなかの哲学、倫理、宗教、歴史、文化をきちんと理解することです。今という時代は、ビジネスモデルを自分たちが作っていかなくてはならない時代で、ロールモデルはいません。厳しい決断を重ねていかなくてはならないのですから、自分で自分自身を納得させうるアイデンティティ、確信を得るためにも自分なりの哲学、価値基準を持たなくてなりません。それがなくては、ビジネスを続けるうえで、本当に苦しくなります。
それから、あわせて、信頼できる人脈を築いていくこと。できれば違う国、違う背景を持つ人であることが理想です。私がJ-Winを組織したのは、みなさんにそういう人脈を作る場を提供したいという思いがあってのことです。2期のみなさんの活動期間は残り少なくなってきましたが、このことを改めて意識して活動を充実させてほしいと願っています。
【内永ゆか子J-Win理事長のPROFILE】
株式会社ベネッセコーポレーション 取締役副会長
ベルリッツコーポレーション 代表取締役会長兼社長兼 CEO
(職歴)
昭和46年、東京大学理学部物理学科卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。16年4月、取締役専務執行役員、開発製造担当に就任。平成19年4月 NPO法人J-Win理事長就任。平成20年4月、株式会社ベネッセコーポレーションへ。現在、ベネッセホールディングス 取締役副社長 ベルリッツコーポレーション 代表取締役会長兼社長兼CEO。
(公職)
労働省中央労働基準審議会委員、厚生省厚生科学審議会委員、文部科学省中央教育審議会委員、内閣府男女共同参画会議議員などを歴任。平成22年、2010APEC女性リーダーズネットワーク会合実行委員長を務める。
(その他)
平成11年4月 米国 WITI(ウィメン・イン・テクノロジー・インターナショナル)殿堂入り。平成14年11月 ハーバード・ビジネス・スクール・クラブ・オブ・ジャパン ビジネス・ステーツウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。平成18年10月 米国の女性エンジニア協会SWE(ソサエティ・オブ・ウィメン・エンジニアズ) アップワード・モビリティ・アワード受賞
(著書)
『部下を好きになってください』 (勁草書房)