11月度定例会は11月17日、東京・駒場の株式会社NTTデータ・駒場研修センター内のイベントホールにて開催されました。今回は、前ナイキ アジア太平洋地域人事部門長 増田 弥生氏をお迎えし、著書『リーダーは自然体』の読後対話会が行われました。
『リーダーは自然体――無理せず、飾らず、ありのまま』読後対話会
増田 弥生氏 (前ナイキ アジア太平洋地域人事部門長)
今月の定例会議は、通常の講演会というスタイルとは異なる、増田弥生氏の著書『リーダーは自然体─無理せず、飾らず、ありのまま』(金井壽宏氏との共著・光文社新書)の読後対話会という形式で行われました。第2期J-Win女性メンバーそれぞれが参加する分科会活動も、まとめの時期を迎えているということもあり、まずは分科会ごとにディスカッションを行った後、増田氏をお迎えしてのQ&Aセッションが始まりました。
メンバーから挙がった質問は、以下のような内容でした。
これらの質問に対する増田氏の回答の一部をご紹介します。
質問2について回答は「ビジネスケースを具体的に見せることが重要。これは経営者に限らずですが、腹に落ちて日々の行動・決断に織り込められるようになるには、どんなに素晴らしく聞こえても単なるベキ論や理想論だけではダメです。私は何かを提案する際には数字で見ることのできる現状と変更後の状況を挙げ、それをマトリックス、図表・イラスト化などしてビジネスへのインパクトを分かりやすく見せるということをしていました。説得しようとするよりも、事実を見せて解釈の余地を残し、それを元に対話していくことが大切だと思います。」。
そして増田氏はこのように付け加えています。「日本の人事部門とアメリカ企業の大きな違いではないかと感じているのは、人事部門長の役割に、上司(社長)の成長を支援をすることが大きな割合を占めるということかもしれません。こういう意識を持つことは、日本企業においても有効なのではないでしょうか」。
質問3に関しては、「自分が受け入れられるかどうかよりも、彼らが受け入れられていると感じ、自分が活かせれている思う職場を作るということが使命であると、そこを意識して仕事をしてきました。その意識に従って行動していたことが伝わっていたからだろうと思いますが、私自身が受け入れられていないと感じたことはありません。自分があとから組織に入った場合(中途入社)には、その組織で上手くいっていることやその組織特有の思考や行動のパターンが何かを謙虚に観察するようにしていました。」
質問5には、「リビング・ドキュメント(恒常的に使用するもの)として目標設定後も常に参照し環境は状況に応じて見直し続けることが大切です。 私は年初に設定した目標そのものも中間評価での自分のコメントを記入したものもWebにアップしておいて、自部門の人間なら誰でも見られる状態にしていました。部門のメンバーもお互いのものが見えるようになっており、私以外のメンバーも全員、修正事項があれば、こまめに直していました」。目標設定を「きちんとやる」ということが大切なのではなく、業績をより良くするためにそういうツールを上手く使う日々の現場のマネジメントプロセスが組織を良くするのだと思っています。また質問6には「私は、日本企業の競争力が落ち込んでいるのは、目標設定の仕方/運用の質にあると思っています。日本では目標設定は数値で言われることが多いようですし、また「?をする」というアクションそのものが目標になっていることが多いようですが、まずは達成後にどういう状態になっていたら達成とみるかという設定をすること、また組織のマインドに着目した設定もが大切だと考えています。自分の組織をどんな状態にしたいのか、自社の存在によって社会にどんな貢献ができるのか、などワクワクすることが必要です。例えばナイキでしたら『わが社がなくなったら、世界のスポーツはどうなる』という気概のうえで目標を考えていました。このような意識をもつ企業、企業人が日本にも増えることが望ましいです」と回答されました。
そして、質問7への回答であり、総括と言うこともできる増田氏からのメッセージを紹介しましょう。
「男性女性に関係なく、専門性は大切ですが、そこにばかりこだわるより、もっと自分の包括的な人としてのユニークさを培っていってほしいと思います。それがより良いリーダーとして成長していく上で重要だと思います。 専門性という観点でお話するならば私はリーバイスの人事部門にヘッドハンティングという形で転職したわけですが、その頃の私には人事の経験はありませんでした。ただ、その前職として勤めていたリコーで、子会社を作る、つまり定款を作成した経験があり、また、事業全体をマネジメントしてきた経験がユニークだと認められたのです。
例えば、ソフトウェアの部門にいた人がハードウェア部門に異動になった、しかも管理職としてという場合に、"ハードウェアのことなんて分からない"と思うのか、"自分のなかのソフトウェアに関する知識と結びつけたハードウェアの開発ができないか"と考えるかで、自分の経歴を殺すことにも活かすことにもなるのです。
リーバイス時代には、いつの間にか私のファシリテーションが社内全体で好まれるようになり、自分が属していない部署の会議にもひっぱりだこになりました。ここにはファシリテーションという専門性を超えた、増田弥生という一個人の在り方が大きく関わっていたと思います。
包括的な組織における自分のユニークさを知るためには、周囲360度(上司、部下、同僚、顧客)からのフィードバックが必要です。もちろん、いい部分だけでなく、欠点や失敗を指摘するものも含まれます。そして、質のいいフィードバックを受け取るためには、まず自分から人にフィードバックをしていくこと。それも良質のものをたっぷりと発信しなくては、自分にはなかなか返ってきません。
これも部下や上司からのフィードバックなのですが、私がどのようなリーダーかと受け止められているかと言う例として、よく『オーセンティック』だと称されました。オーセンティックというのは、本質的とかブレないという意味があります。どこであっても誰に対しても私は態度や発言が変わらないという印象を持つ人が多い事からこう言われているのでしょう。
本のタイトルにもなった"自然体"は、どうやらここから付けられたようです。そもそも自然体とは武道の言葉で、下半身がしっかりと軸をとっていれば、上半身は自由自在、しなやかに動くという意味があるようです。これと同じことで、自分が大事にする価値観やこだわりを知り、それに基づいて行動するとブレなくなりますし、そうなれば自分と異なる人、物にも興味を持ち、好奇心を持って近づいていくことができるのです。
リーダーには確かにしなくてはならないことがありますが、日本人が陥りがちな『リーダーだから、こうあらねば』という考えには、できるだけ縛られないようにしたいものです。そして、その考えに縛られないためにも、その瞬間の自分の行動や思考が、自分のこだわりから生じているものか、役割のためにすぎないのか、きちんと自覚をもつことをお勧めします。そして、自分のルーツを大切にし、感謝すること。きっと、自分のユニークさを教えてくれるはずです。
【増田弥生氏のPROFILE】
専門は企業のグローバル戦略推進のための組織開発とリーダーシップ開発。
(株)リコー、Levi Strauss社(リーバイス)米国本社やアジア太平洋地域本社を経てナイキ米国本社へ。現在はフリー。自らもグローバルリーダーとして、アメリカをはじめ世界各地で企業価値の世界規模での浸透と向上に主眼をおいた組織作りや、グローバルリーダーの発掘と育成に長年携わっている。2010年6月に神戸大学の金井壽宏教授との共著「リーダーは自然体」(光文社新書)を出版。