「Senior Leader への道 ~キャリアの壁を自信にかえる~」
佐々木順子J-Win副理事長
本日は私が考えるリーダーシップについてお話ししたいと思います。 執行役員、エグゼクティブとしての振る舞いや、グローバルリーダーに求められるものについても 触れていきますが、まず私の経歴からお話ししますと、私は昭和58年に日本IBMに入社しました。 男女雇用機会均等法の施行前です。
女性でも少人数の職場でなら活躍できるのではないかと考えて、就職活動では小さな会社ばかり受けていたのですが、 なかなか受かりませんでした。そんな私を見かねた父から、自分が勤めるIBM社を勧められ、 「女性のSEを紹介するから会ってみろ」と言われました。そしてお会いしたのが、誰あろう、 内永ゆか子現J-Win理事長でした。彼女は、私が生まれ初めて生で見たキャリアウーマン。彼女を見て、 IBMはたしかに女性が思い切り働ける会社なのだろうなと思いました。
IBMに入社してから、20代は体力の続く限りシステム開発に取り組み、30才で当時の私の夢だった プロジェクトチームマネージャーになりました。それは100人くらいのチームだったのですが、 プロジェクトマネージャーの仕事は想像していたのとは大いに異なり、私は自分の考えの甘さや、 至らなさを思い知りました。それでも35才の時、会社から管理職にならないかというオファーがあり、 20人の部下を持つことになりました。しかし、体を壊したり、会社に来なくなる部下が続出して、 結局私は1年も経たずにスタッフにもどりました。これは私の中にトラウマとして残り、 とにかく私の30代は、自分に何ができるのか悶々と悩むばかりの暗黒の時期でした。
そんな私に転機が訪れたのは40才目前の時です。もともと海外で働きたいという夢があり、 40才になる前に実現したいと考えた私は、アメリカ勤務の希望を出しました。実際には、 「ここで勉強して、まず海外の人と仕事をすることに慣れてみては」とアジア・パシフィック(AP)のヘッドクォーターに 異動が決まりました。APのヘッドクォーターは、今は上海にありますが、当時の所在地は六本木。 少数ですが外国人が勤務し、日本人同士も英語で会話をしている職場でした。
正直、最初は少々不満でしたが、 実際に働いてみると欧米IBMの女性エグゼクティブたちに接する、貴重な機会を得ることができたのです。 私は彼女たちとの会食に積極的に参加したのですが、そこでしばしば「What is your GOAL?」という質問を受けました。 それに対して、私は希望の役職やその時進めている仕事の目標を答えたものですが、 「That's not a GOAL!」と言われてしまう。 そんなやりとりを繰り返すうちに、彼女たちが言うGOALが「自分の中での働く意味・生きる意味」だということが 分かってきたのです。
自分自身の中で追求すべきことは、働く意味や生きる意味、そして誰でもない自分に日々 「今日もベストを尽くした」と言えるかであって、昇進や昇給はついてくるものに過ぎない。そしてもう1つ、 その女性エグゼクティブたちは本当に色々なタイプがいて、内永さんのようにならなくてはいけない、 ということはないのだと気付きました。 こういった気付きを得てから、不思議なほど仕事がうまく流れだし、昇進し始めました。 1年半から2年に1度のペースで昇格して、2004年に理事、2006年に執行役員になりました。
この執行役員というのは、アジアパシフィック・テクニカルセールスサポート、 つまりアジア全体の技術職員を束ねる仕事でした。この時の部下は日本人が700人、中国人の部下が200人、韓国人100人、 その他の国を合わせて、外国人の部下は合計で800人いました。2007年には中国に赴任し、中国から日本の顧客に向けての オフショア開発の仕事に携わり、中国人の部下2000人を統括しました。中国での最初の上司はアメリカ人で次はスイス人、 同僚はアメリカ人、オーストラリア人、韓国人、オーストリア人、オランダ人、中国人、ベトナム人、インド人、 シンガポール人と、グローバルな環境でした。
さて、ここからリーダーシップについてお話をしていきたいと思うのですが、リーダーシップについて私が真剣に考え始めたのは、 2003年の12月、当時の日本IBM社副社長が退職する際のスピーチがきっかけでした。「自分はプロフェッショナルな経営者を目指してきた」 という言葉を聴いてプロの経営者という職業があるのだということを知り、ハッとしました。そして、自分はまだまだ経営者ではないけれど、 プロフェッショナルなリーダーになりたい、リーダーとしてマーケットバリューのある人間になりたいと思ったのです。
その日から、リーダーシップについて勉強を重ねてきたのですが、その中で分かってきたことは、 まず「リーダーは仕事ができる人である必要はない」ということ。リーダーの仕事は、チームのパフォーマンスをマックスにすることであって、 自分が仕事をすることではない。自分で仕事をしてしまっては、チームをリードし、部下を育成するという リーダーの仕事をしていないことになるのです。ちなみに私は、40代になって昇進しはじめたわけですが、チームの内部から 昇格したのではなく、いつも新しい部署に、パラシュート降下するように配属されました。そこでは、素晴らしく優秀なメンバーたちが、 当然ながら私よりもずっとそこでの仕事に慣れた状態で待ち構えています。そんな彼らに私ができること・すべきことは、 彼ら自身やその仕事に付加価値を与え、パフォーマンスを上げ、お客様との間にたってサービスのすりあわせをしたり、 ビジネスチャンスを広げる"橋渡し役"をすることです。
橋渡し役として彼らの価値を理解するために、どこへ行っても 最初の数週間はメンバーのキーとなる人物にインタビューをしました。多いときには1人3~4時間かけることもありました。 また、チームのパフォーマンスを上げるのはモチベーションですから、モチベーションアップのため 「マネージメント・バイ・エクスぺクテーション(私は貴方にこれを期待していると伝えること)」を徹底的に行いました。 期待を伝えるためには、相手を知り理解することが大切で、自分にない部分・チームに貢献できる部分を見つけて敬意を払い、 それをビジネスで活かすための方向性を期待として示し、達成できた場合は、チーム全体に見えるように声に出す、 あるいは文字に残して褒めました。
人を褒めるというのはなかなか難しいことです。人は他人の欠点には敏感ですが、長所に対してはそれほどではありません。 まずはそういう癖が自分にもあることを、リーダーは意識していなくていけません。そして、いつも上機嫌でいること。 気分にムラがあるボスと接するのはそれだけでストレスになります。そもそも自分のなかの期待が裏切られた時に人は 機嫌が悪くなります。また、怒りは異質感や不安が源となっていて、誰かを嫌いだと思うのは、自分自身で嫌悪している 部分が相手の中に見えたときに起こります。こういうことを自分で分析すると、感情をコントロールできるようになってきます。
さらにエグゼクティブになりますと、こちらが名前を知らないメンバーも、こちらのことは知っている、そして、 何を行うかだけではなく、何を行わないかを常に見られているということを覚えておいてください。エグゼクティブの振る舞いは、 それを大前提に考えていかなくてはなりません。そのうえで、エグゼクティブが行うべきことは、大きく分けて3つ。 1、変革すること。2、問題・例外処理をすること。3、カルチャーを作ること、です。
変化の激しいこの時代、どんなにうまくいっているチームでも、変革していかなくてビジネスパフォーマンスを 維持することはできません。変えないことは安定ではなく停滞・後退であり、変革しなければ前に進むことはできません。 変えていくことができるのはリーダーであり、そのためのビジョンを作って示し、戦略を決め、リスクをとって変革を 促すのがエグゼクティブです。このリスクというのがポイントで、つまりうまく行くことに自らが関わる必要はなく、 例外や問題に対応することがエグゼクティブの仕事です。
そう考えますと、問題が起きたときに、 それを部下からいち早く報告してもらえるようなリーダーであることは重要で、そのためにも先ほども言ったように いつも上機嫌であることが必要になります。そして言行一致。人が見ていても見ていなくても一貫したことをし、 自分のなかの正義を守るということです。また、何かを決断する際に、自分以外の人間が反対意見だった場合、 なぜそれを自分が選択し決断したのか、直接言葉を交わすことができない部下にもきちんと伝わるよう理由も 明確にして伝える、この透明性も重要です。
3番目に挙げたカルチャーを作るということは、何を大切にし何を良くないこととするかという価値観を作ることです。 そしてそのカルチャーが、自分自身がいなくなっても続けば、すばらしいリーダーと言えるのではないでしょうか。
さらにグローバルリーダーとなりますと、バックグラウンドの違う多くの人たちと仕事をすることになりますから、 「自分を理解したうえで自分を客観視すること、そして相手のちがいを理解し、いかに尊重し尊敬するか」 ということがより必要になります。すなわち、まさにダイバーシティ&インクリュージョンです。
具体的な行動としては、 説明責任。とくに昇給・昇進・解雇については説明責任が厳しく求められます。私は中国人の部下が多かったので特にそれを 実感しました。時間はかかりますが、誠意と根拠を示しながら理由を話すと、その後の仕事をしていくうえで、こちらのことを きちんと信頼してくれます。
彼らとのコミュニケーションをとるうえでのコツをもう1つ。英語ができれば大きな強みに なりますが、日本語でもいいので、論理的にコンパクトに話すことです。特に会議の場では多くの人が我先に話そうとする中で 発言をしなければなりません。そのための訓練としては、ミーティングに出席している際に、自分以外の人が指名されて話しているとき、 自分だったらこう話す、というのを1分や30秒と時間を区切って、頭の中で言ってみるというのが、おすすめです。
最後に現在女性リーダーである、あるいはこれからリーダーになるみなさんにアドバイスをしたいと思います。 ①「失敗は早いうちに積極的にすること」、 ②「自分は何者であるのか、つまり自分のブランド化・マーケットバリューのアップを図る」、 ③「信頼感を得るための技術の習得・実施を怠らない」、 ④「人の話を聞き切る」、 ⑤「指を自分に」の5点です。
③についてですが、落ち着いた大きな声で話し、服装・姿勢・メイクから職場に合わない印象を取り除くといったことも含まれます。 見た目の印象が悪いと信頼を得るのに時間がかかりますから、もったいないです。④に関しては、人は言いたいことを言い切らないと、 他人の話を聞こうとしないので、聞いてもらいたければまずは聞きましょう、ということです。 ⑤ですが、「なぜこの人はこうなの?」「なぜうまくことが運ばないの?」と思うとき、必ずこちらにも原因があるからです。 人は変えられませんが、自分は変えられます。そこに気付くとイライラしませんし、原因が分かれば次に同じことが起るのを予防できます。
グローバルな職場のほうが女性にとっては力を発揮しやすい、私自身そう実感しています。 それは女性の方が職場でマイノリティでいることに慣れているし、女性の方がコミュニケーション能力が高いから。 そして積み上げたことをきちんと評価してくれるからです。J-Win副理事長として、ひとりでも多くの方がグローバルな場に 飛び出して活躍されることを願っています。
【佐々木順子氏プロフィール】
1983年4月、日本IBM株式会社にシステム・エンジニアとして入社、銀行第三次オンラインシステムの開発を担当。
以来、システム開発、インフラ構築サービス、アウトソーシング、製品技術支援など、一貫してサービスビジネスに従事。
2007年10月より中国上海に赴任、日本のお客様向けのグローバルデリバリーを推進。
2010年、日本IBM株式会社退社。現、J-Win副理事長。株式会社WEIC エグゼクティブ・アドバイザー。
(学歴)
昭和58年慶應義塾大学経済学部卒業
(職歴)
昭和58年日本アイ・ビー・エム株式会社入社
平成11年IBMアジア・パシフィックラーニング・サービス・オペレーション・マネージャー
平成16年理事ジェネラル・ビジネス・ソリューション・センター担当
平成17年理事テクニカル・サービスインフラストラクチャー・ソリューション推進担当
平成18年執行役員アジア・パシフィック&ジャパンテクニカル・セールス・サポート担当
平成19年執行役員チャイナ・グローバル・デリバリージャパン・デリバリー・リーダー
平成22年日本アイ・ビー・エム株式会社退社