「21世紀、世界に広がるキャリアをつくる──必要なのは戦略シフト」
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
石倉洋子先生
鋭くユーモラスな石倉先生のお話に、会員女性の多くが深くうなずきながら、ときに笑顔になりながら聞き入っていました。
21世紀は、これまでとは全く違った時代です。大きな特徴は、「変化こそが日常である」、そして「世界がオープン化されている」という2点です。情報通信技術の進化が原動力になって、今までにないスピードとダイナミックさで世の中が変化しています。
例えばリーマンショックですが、金融業界の話だと思っていたら、物作りの国である日本まであっという間に巻き込まれましたよね。アメリカの金融業界に発した変化があっという間に世界に波及するのです。業界や国境などはほとんど意味を持たなくなりつつあります。
変化が日常の世の中では、しっかり計画し、完璧なものを世の中に出そうと考えると出遅れてしまいます。それよりも、アイデアが浮かんだら、それをいかに早く形にしていくかが重要です。完璧ではなくても、市場に出してみてフィードバックをもらい、修正したりバージョンアップしていけばよいのです。大切なのは、新しくてユニーク、つまり他とは違ったアイデアでありコンセプトなのです。ユニークな組み合わせは、「ORをANDにする」という姿勢や考え方から生まれます。「OR をANDに」とは、今まではあれかこれかどちらか(OR)を選ばなくてはならないと考えられていたものを、新しい切り口(AND)で結ぶ、つなぐということです。
こうした状況を、恐いと感じている人もいれば、チャンスだととらえている人もいるでしょう。私はチャンスだと思っています。特に、ORをANDで結びユニークさで他と差別化することが必要な時代は、女性にとってチャンスだと私は思います。それは、女性の方が家事をしながら仕事をする、職場の空気を和やかにできるし業績もあがる、などマルチタスク、いわばORをANDにすることに慣れているし、強いからです。さらに、「情報のオープン化」によってそれまでは情報の「量」で優位にいた、いわゆる「権威」の崩壊も始まっています。性差も少なくなりつつあり、女性はますます有利になると思います。
私自身、堅い仕事に携わっていた時、お迎えの黒塗りの車に乗りながら、"これは絵になっていないな"と感じました。つまりその仕事は私むきではないと、感覚的に判断していたわけです
もちろん、キャリアアップする、世界に飛躍するためには、自分のユニークさを自身で発見する必要があります。そのためには、まず誰にでもある「自分の強み」を多様な新しい視点で見直してみてください。今いる会社や日本人という枠を超えて、世界・宇宙的な視点、より高いところから自分の強みや特色を見直してみるのです。
自分の強み、人と違う点に気付くためには、広い世界でたくさんの人とコミュニケーションすることが大切です。いつでも何にでも自分の意見・主張を持ち、人の意見との違いから背景を探る必要があります。会議にしてもセミナーにしても、"観る"のではなく"参加する"ことです。意見は途中で変わっても構いません。世界自体が刻々と変化していますし、情報がどんどん入ってきますから。
また、こうなりたいという自分をビジュアルにイメージすることも重要です。「これをやっている自分は絵になるか」と思い浮かべてみる。非常に感覚的です。そして、なりたい自分にむかって、今の自分から橋をかけるにはどうするか、を考えるのです。すると、具体的に必要なものがわかります。直観的、感覚的なビジョンとそこにいたるステップを分析的に考えるという組み合わせです。
毎日の生活では、常に「なぜこうなのか、これでよいのだろうか」と問題意識を持つことが大切です。そうすると、感度が鋭くなり、必要な情報や人、経験にアンテナが利くようになってきます。そして"ひらめき"が起きて、色々なことが自分の中で結びつき、新たな「組み合わせ」が作られていくのです。
みなさん1人1人がご自分のユニークさに気付き、自分こそが主人公である、感動的な出来事に満ちた人生を切り開いていっていただきたいと思います。
参考: 石倉洋子ブログ:http://www.yokoishikura.com
石倉洋子先生プロフィール
1980年バージニア大学大学院経営学修士(MBA)修了
1985年ハーバード大学大学院経営学博士(DBA)修了
1985年マッキンゼー社でマネジャー
1992年青山学院大学国際政治経済学部教授
2000年一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
その他、商船三井社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)のフェロー等。専門は経営戦略、グローバル競争におけるイノベーション戦略。『戦略シフト』(東洋経済新報社)、『日本の産業クラスター戦略』(共著、有斐閣)、『戦略経営論』(訳、東洋経済新報社)、『世界級キャリアのつくり方』(共著、東洋経済新報社)など著書多数。