グローバリゼーション、イノベーションの牽引役としての期待が女性にかかっている
日本アイ・ビー・エム株式会社 マーケティング&コミュニケーションズ担当
執行役員 鷺谷万里さん
大先輩の内永さんから話をしてほしいとのご指示があり、今日は営業会議を抜け出し、喜んで参りました。この盛況ぶりにびっくりしています。
お集まりのみなさんは、私が入社した世代よりはワンジェネレーションお若いと聞いています。そして私たちがJ-Winを始めたときは40代が中心でした。世代の話をしますと、私が高校生時代の有名なキャリアウーマンといえば、まず石原一子さん。高島屋の重役になられた方ですが、「男のように考えレディのようにふるまい犬のごとく働け」と言う本を翻訳されています。犬のように働くとはどのようなことだろうと思い、石原さんの出身大学を受験しました。それから紛争地帯に防弾チョッキで乗り込む緒方貞子さん、さらに直近では内永さん。みなさん伝説のロールモデルです。
その後の私たちの世代は、男女雇用機会均等法元年の世代です。86年に均等法ができ、総合職という言葉が流行り、紅一点男社会に入っていって試される、まさにそういう時代でした。この世代のサバイバル組が、任意団体だった創設期のJ-Winメンバーたちでした。夫々にそれなりの武勇伝があり、すぐに意気投合したことを覚えています。
そして、総合職が当たりまえになった今の世代を第3世代と名付けましょう。この世代の女性にはグローバリゼーション、イノベーションの牽引役としての期待がかかっています。さらに「自然体で、パワフルで、強烈で、そしてエレガント」などというわがままな期待も。これが皆さんに求められているものです。
日本経済、日本企業は元気がなくなったと言われても、まだまだ立派です。しかも女性の平均寿命は86歳、世界一女性が長生きするのが日本です。私たちはこれからまだ何十年も活躍できるということです。私たちが面白く生きないと、日本の国はこれからままなりません。そして孫に残す日本ということを考えなければなりません。
とはいえ、非常に厳しい状態ではあります。賃金水準の高い日本は高付加価値を提供するイノベーションを推進して、いかに世界で競争力をあげていくのか。そこへ私たちはバリューを提供しなければなりません。2008年のマネジメントで日本に必要なものは何かという調査では、「グローバル・マネジメント」という言葉が出てきました。そして2011年には、これがトップ・ランキングされています。グローバル・マネジメントを強化しないと、日本は沈むと考えられています。
202030というのはご存知ですね。2020年までにあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%程度にするという非常に大きな目標が国で議論されています。2006年、女性の部長相当職は3.7%だそうですが、あと14年で間に合うのでしょうか。さらに国別では、日本の管理的職業の女性比率は10.1%。日本より低いのは韓国だけで、その意味で日本は完全に世界の後進国です。
女性活用の必要性が企業内で認知されたとき
私が管理職になったのは10年前です。よく自分のキャリアロードマップを描き、ロールモデルを持てと言われますが、周りにいない場合は自分でロールモデルの姿を創ればよいと思います。私がIBMを選んだ理由は、当時からお給料が男性と同じで海外出張に行かせてくれる会社だったからです。運良く米国IBMに出張に行かせてもらった際、何人かの女性管理職に出会い、衝撃を受けました。自分よりシニアな部下たちをもち、良い雰囲気で仕事をしているのを見て、日本では女性の管理職も見たことがないが、こんな世界もあるのかと思いました。
それから仕事は営業だと思い、営業部に希望を出しました。当時のIBMは女性を営業職で採用していませんでした。それでもめげずに、男性と同じ7・3分け風の髪型にし、ビジネススーツを着て頑張りました。妊娠していることがわかってからも、しばらく隠して仕事を続けました。「だから女は」と言われるのが怖くて、しかも育児休暇もまだなかった時代だからです。初めていただいた契約は産休直前でした。周りの独身男性は制限なく働き、夜の11時から焼肉屋に行きました。この輪に入っていないと一緒に仕事してもらえないのではないか、白旗あげたらこの先営業の仕事を女性はやらせてもらえないかもしれないと思い、無理を続けました。そうやって頑張っていたところ、まわりもそこまでやっているのだから認めてやろうという気になったのではないかと思います。
それで本当にいいのだろうか? そのスタイルは、自分の目標を達成するためにはマストだと思ったのですが、育児も大事だと目覚め、営業からスタッフに移りました。アジアパシフィックで外人ボスの下で、モバイルワークもできるようになりました。海外ではすでにそういう仕事の仕方をやっていたのです。おかげで子どもと過ごす時間ができました。
ある日、突然社長からメールが来ました。それがIBMのウイメンズカウンシルのスタートでした。メンバー10人が集まり、入社5年後の定着率、課長職の割合などを調べたところ、男性と比べての低さに唖然とし、なぜ女性たちが離職するのか調べました。将来像が見えない、ワークライフバランスの困難、などが主な理由でした。そこから在宅勤務やeワーク制度など多様な働き方が認められるようになりました。
結果的に女性にとって働きやすい会社という意味でのIBMのブランド力があがり、優秀な女子学生が来るようになり、CSRの評価も高く、他の会社のトップの方も関心を持って下さいました。そうした動きの中で、このニーズは社内にとどまらず、どこの企業においても必要な時代になってきたことを感じました。内永さんを中心に、関心をお持ちのお客様を回り、50社お集まりいただきました。マスコミの後押しもあり、日本のトップ企業の協力を得てスタートしたのがJ-Winです。
じいちゃん達には任せてはおけなかった!
私は国内外の多くのリーダーと出会うたびに、「この人のリーダーシップはここが素晴らしい」というポイントを見つけるようにしています。それを自分なりに真似てみていると、いつのまにか蓄積され、自分らしいリーダーシップが形成されるのだと信じています。ですから自分はこんなリーダーになりたいと思って人を観察すると良いと思います。
それと、ビジネスですから、結果を出す女性になりたい。「クリエイティブで、少し突飛なことを言ってくれそうだから女性を登用したい」ではなくて、それがあり、しかも「結果を出すから女性はいいよ」ということが現実になって初めて、最初に申し上げたグローバリゼーション、イノベーションが可能になると思います。
「数値目標のある仕事をやらせてください」と、一度は言った方がいいと思います。それとコミュニケーション、これは女性の得意領域です。臆せず、大きい声で、自信を持って、ものを言いましょう。そのためには準備も必要ですし、素直な気持ちを説明することも大切です。格好つけるのはうまくいきません。また「成功はみんなのおかげ」です。たとえ自分がかなり貢献していても、チームが自分だと思うことです。
さらにリーダーは部下に対して均等距離が必要です。これを持たないと、彼女は僕が好きだとか、私を嫌いだとか勘違いされるかもしれません。公平であるためには多少孤独になっても均等距離をおくべきです。それからみんなと一緒に遊ぶことも大切。リーダーになっただけで、おのずと遠い存在になりますので、自らアプローチする努力をしましょう。
女性は86歳まで生きると言いましたが、恐れず、怠らず、冒険して、悔いのないキャリアだったと思えるよう、この先皆さんにはご活躍いただきたいと思います。
そして86歳で孫に言いましょう。「旧い体質の日本企業で、時代に先駆けて、思い切りやった。世界を見て歩いて、言葉の違う人たちと仕事をして、世界中に仲間を作って、おばちゃんたちは日本経済を立て直した。 じいちゃん達には任せておけなかった!」と。
日本経済が厳しい環境のなか、私たちが立て直す役目を果たさなければいけません。
これだけの優秀な方が集まるということは、それが可能なポピュレーションが形成されたということです。私たちが任意団体のときに、お客様を一軒一軒回って集まっていただいた時とは違います。たった数年で「違う」ということを今、強く感じています。