J-Win 第7期High Potentialネットワーク・関西10月度定例会を、2017年10月24日(火)に大阪大学中之島センターで開催し、20名のメンバーが参加しました。

■「ビジョンを示す」リーダーの行動

10月の定例会は、9月につづき「リーダーに必要な要素理解」がテーマ。
メンバーが課題の一つとして考えている「ビジョンを掲げて方向性を示す」行動をリーダーがどのように実践しているか知ることを目的に、前半のワークでは、「ビジョンを示す」ことをイメージしたうえで、それが組織にとってなぜ必要なのかをディスカッションしました。
後半は、『正露丸』でおなじみの大幸薬品株式会社 代表取締役会長 柴田 仁氏にご講演いただき、トップとしての目線や、企業のビジョンの考え方・伝え方を知り、メンバーがキャリアアップへのマインドチェンジから一歩進み、「Women to the TOP!」へ向けリーダーマインドの醸成を図る機会としました。

以下に講演の様子をダイジェストでご紹介します。
（＊社名・肩書きは講演当時のものです）



● 海外進出のためには検証に基づいたエビデンスが必要

私は、大学卒業後、日本IBMを経て、1977年に祖父が創業した大幸薬品に入社、1987年には、当時社長だった父が亡くなり、36歳で社長に就任しました。
社長就任後は、まず研究所を設立し、『正露丸』を使った最新の木（もく）クレオソートの有効性や安全性の検証に取り組みました。それまでも、臨床試験によって、木クレオソートが下痢に効果があることはわかっていましたが、なぜ効くのか、そもそもなぜ下痢が起こるのかなどは判明されていなかったのです。しかし将来、海外に進出するためには、エビデンスを示すことが不可欠だと考えました。現在、『正露丸』『正露丸糖衣錠』を合わせると、わが国における止瀉薬市場でのシェアの約50％を占めています。

● 製品の販売開始と共に世界初の業界安全基準を制定

わが国のこれまでの健康市場においては、感染症対策は生活習慣病対策に比べるとかなり小規模でした。そこで大幸薬品では、感染症対策を新たな事業の柱とし、今まで培ってきたノウハウを活かし、二酸化塩素を利用して空気中に浮遊するウイルスや菌などを除去する『クレベリン』の開発を手がけました。二酸化塩素は、日本においては水道水の消毒や小麦の漂白などに利用されてきました。
しかし、高濃度の二酸化塩素は爆発のリスクを伴う物質です。当社の『クレベリン』は、二酸化塩素を使っていますが、低濃度かつ効果が高く、一般消費者でも容易に取り扱える製品となっています。発売後には、日本二酸化塩素工業会を設立、世界初の業界安全基準を制定することで、公共施設や病院など、業務用市場の開拓にも着手したのです。

● 企業として社会環境活動に取り組む

大幸薬品は、企業としての社会環境活動にも力を入れています。東日本大震災の際は、『正露丸』『クレベリン』を寄贈すると共に、宮城大学内に復興支援室を設置。2年間にわたり社員が常駐して避難所を回ったり、掃除をしたり、孤立家庭を訪問したりするなど、支援を続けました。ほかにも国内では、阪神淡路大震災や熊本地震、海外ではエボラ出血熱感染対策など、『正露丸』『クレベリン』の寄贈を中心とした支援を実施してきました。また、地域の方との交流を目的に、ドラゴンボートレースや花火大会、ビール祭り、キッズサッカーなど、さまざまなイベントも実施しています。

● 経営の重要な要素であるビジョンとは

私は、「ビジョンの構造」には4つの要素があると認識しています。まず価値観の共有。普遍的な理念は、時代や世の中が変化しても、変わることはありません。次に、会社がどの範囲で活動するかというフィールドを決めます。グローバルをめざすのか、ローカルに特化するのかなど、対象となる市場や地域を想定します。業種や活動分野を明確にし、専門能力やサービスを磨くことも重要です。そのうえで企業としてのゴール、つまり目標や存在理由を設定しましょう。
「大幸薬品は、自立、共生、創造を基本理念とし、世界のお客様に健康という大きな幸せを提供します」が当社の企業理念です。これをビジョンの構造に当てはめれば、「自立、共生、創造」が普遍的な価値、「世界のお客様」がフィールド、「健康」が活動分野、そして「大きな幸せを提供します」がゴールとなります。


● 企業が存続するために重要なイノベーションとは

産業というものは、時代や世の中の変化につれて自然淘汰も起こります。だからこそ、企業を存続させるためには、変化に適応しながら常にイノベーションを起こしていくことが重要になります。これまで、老舗と呼ばれる企業が存続してこられたのは、イノベーションを繰り返しながら次の世代にたすきを繋げてきたからに他なりません。
大幸薬品の場合は、衛生状態が悪く、医療制度が十分ではないような世界の地域に日本の伝統薬である『正露丸』を広げていくこと。地震や津波などの自然災害同様、人類の脅威となる未知の感染症の予防を目的に、『クレベリン』で世界的な閉鎖空間を安全にすること、この2つのミッションにおいてイノベーションを重ねています。
そして、「健康社会の『ないと困る』を追求する」というスローガンのとおり、これからも、「大幸薬品がなかったら困る」とお客様に言っていただけるような、製品やサービスを提供していきたいと考えております。


- 　自社のビジョンも構造的に理解することで、自分により腹落ちさせることができた。
- 　企業の伝統を守りながらもイノベーションを起こし、さらに躍進し続けるには、トップが社員に
　　繰り返し発信する、ビジョンを示していくことが非常に重要であることを理解できた
- 　講演をきっかけに、まずは自組織から意識改革を始め、アクションプランの浸透や自部門の
　　目標を常に意識し、周囲にも発信していきたい