「J-Win Executiveネットワーク　７月度定例会」を、2018年7月11日（水）に港区赤坂のアークヒルズクラブで開催し、25名のメンバーが参加しました。

■国際情勢が変化する中で日本はどのような戦略をとるべきか

今回は、外務省で外交の前線に携わってきた、株式会社日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長、公益財団法人日本国際交流センター シニア・フェロー、元外務審議官の田中　均氏を講師に迎え、「国際情勢の読み方」というテーマで講演が行われました。
この30年の大きな変化やこれからの予測、日本の戦略などについてお話しいただきました。

以下に講演の様子をダイジェストでご紹介します。
(＊肩書き等は講演当時のものです。)


●先進民主主義国と新興国の力関係が30年で大きく変化

国際情勢を読む際には、底流に流れている変化を念頭に置いておくことが大切です。来年、平成から新しい元号に変わろうとしていますが、この30年間で、非常に大きな変化が起こりました。世界の流れには「先進民主主義国と新興国の間の力関係の均等化」「先進国でのポピュリズムの広がり」「アメリカのリーダーシップの後退」という、3つの大きな動きがあります。

80 年代の後半、先進7カ国(G7)の国内総生産(GDP)の合計は、世界の70%を超えていましたが、現在は50%以下まで低下しています。中国やインドなど、新興国が力を増し、国力のバランスが変わってきたというのが顕著な特色です。1989 年、世界のGDPに対するアメリカの割合は30%、日本は15%、中国は2％でした。それが2017 年の数字では、アメリカは25％、日本は6%と低下しているのに対して、中国は15％まで上昇しています。また、先進民主主義国の中では、国内の貧富の差に起因する不満を政治的な力につなげていこうという人たちがどんどん出てきて、ポピュリズムが強くなってきています。例えば、欧州連合からのイギリス脱退やドイツの連立などもポピュリズムの一種です。アメリカのトランプ現象も、収入格差や銃規制の問題など、アメリカ国内の分断が直接大統領選挙につながっていった結果ではないでしょうか。さらに、アメリカのリーダーシップも、この30年で低下しています。平時に兵力を張って訓練を行い戦争の抑止力を作る、世界で自由貿易主義を促進していく、アジェンダセッティングの能力、民主主義のモデルとしての力など、アメリカが持っていたリーダーシップ力は時代を追って影響力が低下。トランプの「アメリカファースト」という考え方がアメリカを内向きにさせ、国際社会でのリーダーシップの放棄につながっているという見方もあります。こうした世界の変化にどのように対処していくかというのが、日本の現状の課題です。

●国際関係の中で日々変化する各国の思惑を見極める

国際関係の中で、日本に対して最も影響が働いているのは、朝鮮半島や中国など東アジアの動きです。国際関係は、それぞれの国の思惑が何かということを見なければいけません。北朝鮮の思惑は何でしょうか。アメリカや中国、ロシアといった大国に対して、北朝鮮の核兵器が抑止力にはなり得ません。また、核を維持していくには膨大なコストがかかり、核を保有していることで制裁を受けるというリスクもあります。こうした中で、彼らの論理というのは、北朝鮮が非核化をするのと同じように、アメリカにも求めるという、朝鮮半島の非核化です。一方、アメリカは非核というよりも、北朝鮮政策がトランプ大統領のサバイバルに直結しています。今、トランプが勝負に出ているのは、中国との貿易戦争と北朝鮮問題。アメリカが描く非核化のロードマップ作りに、中国は協力するのかという点が焦点です。中国も他国との緩衝帯であった北朝鮮が核実験を始めたことで、真剣に核開発を阻止しなければいけないと動き出しました。しかし、最近の状況は少し違ってきています。今の中国にとって最も大事な事は対米関係であり、関係悪化によって自国の経済成長の道のりが険しくなることは避けたいはずです。対米関係を有利に進めるために、北朝鮮問題をカードとして使うという意識が見え始めています。一方、韓国には同一民族の融合という大きな目標があります。こうした、各国の思惑を見極めながら、戦略を立てることが重要です。

●中国・アメリカと戦略的な関係を

では、国際社会で戦っていくために、日本にはどのような戦略が必要なのでしょうか。戦略というのは、目的を設定して結果を得るための手だてです。十分な情報を持って分析し評価を行うこと、確信を持って取り組むこと、大きな絵を描いてさまざまな側面を見ること、他の力を活用すること。この4つが戦略を構成するために大切な要素です。

これからの日本に関わることで最も重要なのは、中国との関係ではないでしょうか。例えば、1989年の日本の貿易相手国を見ると、アメリカが30%、中国が6％という状況でした。これが現在ではアメリカ15％、中国25%と、逆転しています。今後の中国との関係は強まっていくと考えざるを得ません。また、これからのアメリカは、さらに内向きになっていく可能性もあります。こうした中で、中国とウィンウィンの関係を築きながら、アメリカとの安全保障関係を強化していくための戦略が、現在日本政府に突きつけられた最大の外交課題です。中国は、アメリカとの関係悪化を避けるために、日本との関係を調整しなくてはいけないという状況にもあり、日本にとってはある意味大きなチャンスです。そのために中国に対してどのような関係を作るか、ビジョンを持たなければいけません。

これからは、アジアとの関係を強化しながらアメリカを引き込み、健全な日米関係を確保するということが、日本にとって最も必要な戦略ではないかと思っております。そして、これからの時代に企業の核となっていく皆さんも、こうした時代の変化を念頭に置いて、ぜひ企業活動にも生かしていっていただきたいと思います。